研究の動向

A. 腎臓病を引き起こす「入り口」分子メガリンを標的としたトランスレーショナルリサーチ

 近年、糖尿病やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病の患者数が増加するとともに、それに伴って慢性腎臓病(CKD)を有する患者や、 最終的に腎不全に陥って透析療法に導入される患者が増加し、医療経済上においても重大な問題になっています。私たちは特に、近位尿細管上皮細胞のエンドサイトーシス機構 (蛋白質や薬剤を細胞に取り込み代謝する働き)に関わる機能分子の解析を基盤として、糖尿病・メタボリックシンドロームなどの代謝疾患に関連するCKD、および急性腎障害(AKI)の 新しい診断・予防・治療法の開発を目指しています。2016-2018年度は日本医療研究開発機構(AMED)の腎疾患実用化研究事業に採択されました(「メガリンを標的とした腎機能温存・再生療法の開発」)。

 I.メガリンとは

 メガリンは1回膜貫通型の巨大タンパク質で、low-density lipoprotein (LDL)受容体ファミリーに属し、特に腎近位尿細管の管腔側膜に高発現して、糸球体を濾過するタンパク質や薬剤などの再吸収・代謝を司るエンドサイトーシス受容体として機能しています(1)(図)。

 II. 尿中メガリン測定

 私たちは、メガリンが、細胞外領域の切断により、あるいは全長型として、近位尿細管上皮細胞から逸脱し、尿中に排出されることを明らかにしました(2)(図)。前者をアミノ末端側の、後者をカルボキシル末端側のサンドイッチELISAを用いて測定することから、それぞれA-メガリン、C-メガリンと命名しました(2)。C-メガリンは残存機能ネフロンの近位尿細管におけるリソソーム障害(タンパク質代謝負荷)に伴うエクソサイトーシスの亢進によって排出が増加することを明らかにしました(3)。A-メガリンはメガリンの機能負荷に伴うリサイクリングの亢進と細胞膜における切断酵素反応によって、尿中排出が増加することが示唆されています。

 2型糖尿病患者における横断的解析において、尿中C-メガリンは正常アルブミン尿期から病期の進行に応じて増加します(2, 3)が、縦断的解析においても、尿中A-メガリンおよびC-メガリンには糖尿病性腎症の進展予測能が示唆されています。また尿中C-メガリンは、IgA腎症の重症度(4)や小児の尿路感染症に伴う腎瘢痕の診断にも有用であるとともに、尿中A-メガリンにはシスプラチン腎症の発症予測能も示唆されています。

 III. 糖尿病性腎症とメガリン

 私たちは肥満・メタボリックシンドローム型糖尿病モデルであるマウス高脂肪食負荷モデルにおいて、メガリンを「入り口」として脂肪酸高含有タンパク質などの病的物質が近位尿細管上皮細胞に取り込まれることが起点となって、尿細管から糸球体障害に至る腎障害が引き起こされることを明らかにしました(5)。したがってそのような病態の予防や治療においては、メガリン機能を適切に抑制する手段が有効であることが示唆されます(図)。たとえばNrf2(NF-E2-related factor 2)活性化薬バルドキソロンメチルは2型糖尿病患者において腎機能改善効果をもたらす(国内第II相臨床試験)が、カニクイザルを用いた実験で、腎臓のメガリン発現低下作用を有することが報告されています(6)。

 IV. 薬剤性腎障害とメガリン

 メガリンはアミノ配糖体、バンコマイシン、コリスチン、シスプラチンなどの腎毒性薬剤と結合し、それらを近位尿細管上皮細胞に取り込むことによって急性腎障害の発症に関わることがわかってきました。私たちは、シラスタチン(腎ジヒドロペプチダーゼⅠ阻害薬として、抗菌薬イミペネムの分解を抑制するため、合剤として長年臨床に使用されてきた)が上記の腎毒性薬剤とメガリンの結合に拮抗することにより、腎毒性を軽減することを明らかにしました(「メガリン拮抗剤」として特許出願済)(7)(図)。

 V. まとめと今後の展望

 糖尿病性腎症などの慢性腎臓病や薬剤性腎障害などの急性腎障害において、メガリンが腎障害を引き起こす「入り口」を司る分子であることを明らかにしました。今後、尿中メガリンの動態を診断・モニタリングに用いながら、病態に応じてメガリン拮抗(阻害)薬あるいはメガリン抑制薬を腎臓病の予防・治療に活かす道を開拓したいと考えています。

 文献

 1) De S, Kuwahara S, Saito A: The endocytic receptor megalin and its associated proteins in proximal tubule epithelial cells. Membranes, 4: 333-355, 2014.

 2) Ogasawara S, Hosojima M, Kaseda R, Kabasawa H, Yamamoto-Kabasawa K, Kurosawa H, Sato H, Iino N, Takeda T, Suzuki Y, Narita I, Yamagata K, Tomino Y, Gejyo F, Hirayama Y, Sekine S, Saito A: Significance of urinary full-length and ectodomain forms of megalin in patients with type 2 diabetes. Diabetes Care, 35: 1112-1118, 2012.

 3) De S, Kuwahara S, Hosojima M, Ishikawa T, Kaseda R, Sarkar P, Yoshioka Y, Kabasawa H, Iida T, Goto S, Toba K, Higuchi Y, Suzuki Y, Hara M, Kurosawa H, Narita I, Hirayama Y, Ochiya T, Saito A: Exocytosis-Mediated Urinary Full-Length Megalin Excretion Is Linked With the Pathogenesis of Diabetic Nephropathy. Diabetes, 66: 1391-1404, 2017.

 4) Seki T, Asanuma K, Asao R, Nonaka K, Sasaki Y, Oliva Trejo JA, Kurosawa H, Hirayama Y, Horikoshi S, Tomino Y, Saito A: Significance of urinary full-length megalin in patients with IgA nephropathy. PLoS ONE, 9(12): e114400, 2014.

 5) Kuwahara S, Hosojima M,Kaneko R,Aoki H,Nakano D,Sasagawa T,Kabasawa H,Kaseda R,Yasukawa R,Ishikawa T,Suzuki A,Sato H,Kageyama S,Tanaka T,Kitamura N,Narita I,Komatsu M,Nishiyama A,Saito A: Megalin-Mediated Tubuloglomerular Alterations in High-Fat Diet-Induced Kidney Disease. J Am Soc Nephrol, 27: 1996-2008, 2016.

 6) Reisman SA, Chertow GM, Hebbar S, Vaziri ND, Ward KW, Meyer CJ: Bardoxolone methyl decreases megalin and activates nrf2 in the kidney. J Am Soc Nephrol, 23: 1663-1673, 2012.

 7) Hori Y, Aoki N, Kuwahara S, Hosojima M, Kaseda R, Goto S, Iida T, De S, Kabasawa H, Kaneko R, Aoki H, Tanabe Y, Kagamu H, Narita I, Kikuchi T, Saito A: Megalin Blockade with Cilastatin Suppresses Drug-Induced Nephrotoxicity. J Am Soc Nephrol, 28: 1783-1791, 2017.

B.臨床研究プロジェクト

新潟大学医歯学総合研究科腎研究センター病態栄養学講座、腎・膠原病内科と連携して、様々な臨床研究にも従事しています。

C. その他の活動

さらに、「食と健康」のテーマにおいて、様々なプロジェクトを推進しています。

農学部や亀田製菓(株)との共同研究において、JST重点地域研究開発推進プログラム(育成研究)「米・米糠タンパク質の新規機能性の解明と食品開発」(平成20-23年度)、および農林水産技術会議委託プロジェクト研究「米タンパク質の新規生体機能調節の先導的開発と機構解析」(平成23-25年度)の採択に貢献しました。亀田製菓(株)との共同研究は、新潟大学医歯学総合研究科腎研究センター病態栄養学講座(寄附講座)の設置につながり、以後、同講座とタイアップして、同社との共同研究を続けています。

 「米どころ新潟」の地域性や歴史・文化的背景をふまえたうえで、広く「食」と「健康」について考え、討論するためのフォーラム(市民公開講座 新潟「食と健康」フォーラム)を、2007年度より毎年開催しています。