新潟大学大学院医師学総合研究科循環器内科学

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研究について
老化制御研究グループ

加齢に伴って、糖尿病や動脈硬化、高血圧などの生活習慣病の罹患率が増加し、その結果、虚血性心疾患や脳卒中の発症の基盤病態となっています。加齢に伴って様々な組織に慢性的な炎症が惹起されることが、これらの生活習慣病の発症・進展の原因の一つとなっていると示唆されていますが、その機序は不明でした。慢性炎症を含めたこれらの病態は、多くの高齢者において共通に認められることから、老化の形質の一部として捉えることができます。すなわち、次世代の生活習慣病の治療法の開発に向けた究極的な研究ターゲットは、老化や寿命を調節する仕組みそのものであると考えられるわけです。しかし、これまで加齢に伴って個々の病態がどのように変化するかという観点からの研究は行われてきましたが、老化・寿命という側面からみた包括的な研究は行われていませんでした。

通常ヒト正常体細胞は、ある一定回数の分裂増殖後、細胞老化とよばれる分裂停止状態となります。その寿命は培養細胞のドナーの年齢に相関すること、また、早老症候群患者より得られた細胞の寿命は有意に短いことも報告されています。

そこで我々は、老化研究を「細胞レベルの老化が個体老化の一部の形質、特に病的な形質を担う」という仮説に基づいて始めることにしました。

血管老化

血管組織における老化細胞

これまで血管細胞老化が血管の老化、動脈硬化に関与しているかどうかについては明らかでなかったのに対し、我々はsenescence-associated (SA)β -gal assayという方法を用いて、ヒト動脈硬化巣に老化した血管細胞が認められることをはじめて報告しました(図)(Circulation 2002)。これらの老化血管細胞は炎症性のサイトカインの発現亢進など血管機能障害の形質を示していたことから、血管細胞老化が動脈硬化病態生理の新たなメカニズムの一つであると考えられました。細胞老化のメカニズムとして重要な仮説がテロメア仮説です。テロメアは細胞分裂に伴って短縮し、p53依存性に細胞老化を誘導します。これに対し、テロメアを付加する酵素がテロメレースです。我々は血管細胞におけるテロメレースの活性調節機構を明らかにするとともに(Circ Res 2001)、その導入によって細胞老化を抑制し血管の慢性炎症を改善できること(Mol Cell Biol 2001)、逆にテロメアの機能不全を導入すると、ただちに血管細胞が老化するとともに、慢性炎症亢進などの機能障害がもたらされることを明らかにしてきました(Circulation 2002)。

さらに我々は、アンジオテンシン/Ras/ERK経路、インスリン/Akt経路、酸化ストレス経路などによるテロメア非依存性のp53依存性の細胞老化シグナルも慢性炎症を惹起することによって動脈硬化発症に関与すること、それらの慢性炎症は細胞老化シグナルを抑制することによって改善することなどを報告しています(Circulation 2003, Circulation 2006, EMBO J 2004, Circ Res 2008)。

加齢に伴い日内周期が障害され、日内周期の乱れは老化を促進することが示唆されています。我々も、血管細胞老化が日内周期を司る時計遺伝子の発現を障害することによって、高齢者に認められるノンディッパー型高血圧にも関与することを示唆しました(Circ Res 2006, Circ Res 2008)。

また最近、我々は血管と骨髄老化を介して心不全の病態が増悪することを明らかにしました。マウスに左室圧負荷モデルを作成すると、心臓血管内皮細胞のp53と骨髄細胞のp53が上昇することがわかりました。血管内皮細胞のp53や骨髄細胞のp53を抑制すると心臓炎症が改善し、心機能低下が改善することもわかりました。詳細な分子機序を検討した結果、血管内皮細胞において交感神経刺激-活性酸素-p53-ICAM1シグナル、骨髄細胞において交感神経刺激-活性酸素-p53-インテグリンシグナルを介して細胞接着因子が増強することで心臓への炎症性細胞浸潤が生じ、心臓リモデリングが増悪することが明らかになりました。ICAM1やIntegrinに対する中和抗体により心臓炎症と心不全が改善することから、血管内皮細胞や骨髄細胞の細胞老化を制御することは心不全において重要な治療概念と考えられます(J Mol Cell Cardiol 2015)。

糖尿病と老化

脂肪の老化はインスリン抵抗性を惹起する

糖尿病は加齢に伴い発症頻度は増加しますが、その機序は明らかではありませんでした。一方、糖尿病患者ではテロメアの短縮が亢進していることが報告されており、細胞老化シグナルと糖尿病の発症の関連性が示唆されていました。そこで我々は、テロメアの短縮しているテロメレースノックアウトマウスを用いてp53依存性の細胞老化シグナルと糖尿病の関係について調べることにしました。その結果、このマウスでは、脂肪が老化するとともに慢性炎症が亢進し、悪玉アディポカインの産生が増加することによって、糖尿病発症に至っていることがわかりました(Nat Med 2009)。2型糖尿病モデルマウスの脂肪においてもp53依存性の老化シグナルが活性化しており、慢性炎症の亢進や炎症性アディポカインの産生増加などを認めました。脂肪組織のみでp53を欠失させることによって脂肪の老化を阻害してみると、テロメレースノックアウトマウスや2型糖尿病モデルマウスの脂肪組織における慢性炎症は抑制され、インスリン抵抗性は改善したことから、脂肪の老化シグナルが慢性炎症(悪玉アディポカインの産生増加)を介して全身のインスリン抵抗性に関与していると考えられました(図)。脂肪の老化形質は、ヒト糖尿病患者の内臓脂肪でも認められたことから、その改善は、ヒト2型糖尿病の治療標的となりうると考えられました。

セマフォリンは脂肪の老化と炎症を結ぶ鍵因子

以上のように、脂肪老化に伴う慢性炎症が糖尿病の発症・進展に関与していることがわかってきました。そこで次に我々は、脂肪の老化と炎症を結ぶ鍵分子の同定を試みました。その結果、分泌タンパク質として知られるセマフォリン3Eが、肥満時の脂肪炎症と全身のインスリン抵抗性の獲得に不可欠な分子であることを見いだしました(Cell Metab 2013)。セマフォリンおよびその受容体であるプレキシンは胎生期において神経・血管ネットワークの構築に不可欠な分子であり、免疫応答を制御することも知られていましたが、肥満や糖尿病における意義は明らかではありませんでした。我々は肥満モデルマウスにおいて、内臓脂肪のp53発現レベルが上昇するとともに、セマフォリン3Eとその受容体であるプレキシンD1の発現が著明に亢進することを発見しました。詳細な解析の結果、セマフォリン3EはプレキシンD1受容体を発現する炎症性マクロファージの遊走因子としての生理活性をもつこと、p53が直接セマフォリン3Eの遺伝子発現を正に調整していることなどが明らかとなり、セマフォリン3Eが脂肪の老化と炎症を結ぶ鍵因子であることがわかりました(図)。糖尿病患者においても、循環血液中のセマフォリン3Eが上昇しており、セマフォリン3E-プレキシンD1受容体を介したシグナルの抑制が、糖尿病や肥満に対する新規の治療標的となる可能性が高いと考えられます。

高カロリー食摂取

また我々の研究によって、血管老化と糖尿病が密接に関連していることも明らかとなっています(Cell Reports 2014)。まずマウスに高カロリー食を与えて肥満モデルを作製すると、血管内皮細胞のp53シグナルが増強することがわかりました。次に血管老化抑制マウス(血管内皮特異的p53欠失マウス)を作製し、血管老化と肥満・糖尿病の関係を調べてみると、血管老化を抑制したマウスでは高カロリー食を与えても太りにくいことがわかりました。詳細な解析の結果、血管老化を抑制したマウスでは筋肉におけるミトコンドリアの生合成が増加することによって、エネルギー消費が増強され、肥満や糖代謝異常の改善に繋がっていることが明らかとなりました。つまり、糖尿病の状態では血管老化が促進しており、骨格筋でのエネルギー消費が低下するために、太りやすい状態となっていることが予想されます(図)。今後、血管老化を抑制することによって、このような悪循環を断ち切ることが、新たな肥満・糖尿病治療のストラテジーとなることが予想されます。

心老化

持続的な圧負荷はp53を活性化して心不全を発症する 心不全は脂肪のp53を活性化してインスリン抵抗性を促進する

加齢に伴い心不全の発症率は増加することが知られています。また、加齢に伴って心筋のテロメアの機能異常やDNA損傷の集積によりp53依存性老化シグナルの増強がみられることが示唆されています。加齢に伴う高血圧に対しては、初期には適応反応としての心肥大(Cardiac hypertrophy)が生じ、長期の圧負荷後には心不全(Heart failure)となることが知られていますが、そのメカニズムは明らかでなく、循環器学研究分野における大きな謎の一つでした。そこで、我々は心肥大から心不全への移行メカニズムについて、マウス圧負荷モデルを用いて検討することにしました。その結果、加齢や心圧負荷に伴って、心臓におけるp53依存性老化シグナルが活性化され、心不全の発症を促進していることを明らかにしました(Nature 2007, J Exp Med 2009, Circ Res 2010, Circulation 2010)(図)。また、心臓におけるp53依存性老化シグナルの活性化は、交感神経系を介して脂肪におけるp53の活性化をもたらすことによって、慢性炎症を惹起し、炎症性アディポカインの産生増加させることによってインスリン抵抗性を促進すること、さらに、インスリン抵抗性が心不全を悪化させるという悪循環が存在することなどを明らかにしました(J Clin Invest 2010, Cell Metab 2012)(図)。

老化シグナルによる新しい治療法の開発

加齢関連疾患

以上のように、加齢や過食による生活習慣病の発症には、何らかの神経・液性因子による臓器間シグナルネットワークと、それによって制御される組織のp53依存性老化シグナル活性化に伴う慢性炎症が重要な役割を果たしていることが明らかとなってきました。

一方、我々は、複数の長寿マウスにおいて、加齢に伴うp53依存性老化シグナルの活性化とそれに伴う慢性炎症が抑制されていることを観察しています。したがって、p53依存性老化シグナルの上流や下流には、これらの長寿マウスに共通する分子基盤が存在することが予想されるわけです。p53を直接の標的とするのはがん化促進などの点において好ましくありませんが、慢性炎症を惹起する過剰なp53依存性老化シグナルの上流あるいは下流に存在する分子基盤を探索することによって、生活習慣病における慢性炎症を制御できる可能性があります。そこで本研究グループでは、長寿・老化モデルを用いて、その分子基盤を解明し、生活習慣病に対する新しい治療のストラテジーの開発に挑みたいと考えています。

また、DNA損傷に伴うp53シグナルの活性化が、糖尿病や心不全、動脈硬化などの様々な加齢関連疾患の病態に関与することも明らかとなってきました(図)。そのメカニズムとして、慢性炎症に加えて、組織再生機能の低下や内分泌機能異常、細胞内代謝の変容などが関わっていることが予想されており、今後これらを標的とした治療の開発も期待されています。

関連資料
  1. 老化シグナルと心臓・脂肪連関(pdf:3.4Mb)
  2. 老化分子としてのp53と生活習慣病(pdf:1.8Mb)
  3. メタボリックシンドロームにおける血管老化の分子メカニズム(pdf:1.7Mb)
  4. 高インスリン血症と老化(pdf:479kb)
  5. Non-dipperと血管老化(pdf:1.8Mb)
  6. BIBLIOGRAPHY(pdf:145kb)