新潟大学医学部医学科

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平成30年01月09日

No_74 階層的なカテゴリー認知のもととなる脳マップの仕組みを解明

・脳の側頭葉には入力信号と出力信号による様々なレベルのカテゴリーマップが存在する
・大きなカテゴリーの脳内マップほど色分けが明瞭で、時間的にも安定である
・親カテゴリーのマップは子カテゴリーのマップの単純な和としては説明できない
 
Ⅰ.研究の背景
ヒトは、『ブルドック』は『犬』という大きなカテゴリーの一部だと知っています。このようなカテゴリーの階層関係に関する知識は、脳の中にどのように表されているのでしょうか?
本研究では、大脳の側頭葉と呼ばれる部位の入力信号と出力信号によって定義されるカテゴリーマップを脳の深部と表面からの電気記録に基づいて一度に可視化する技術を開発し、上位のカテゴリーと下位のカテゴリーの脳マップの関係と、入出力レベルのマップの時間的安定性を検証しました。
 
Ⅱ.研究成果の概要
側頭葉において、顔に選択的に反応する神経活動は空間的にも時間的にも均質で明瞭な「顔領域」を形成し、入力と出力レベルのマップが似通っていました。これに対して顔の下位カテゴリー(例:『ヒトの顔』、『サルの顔』)の脳マップは色分けが不明瞭で、入力マップと出力マップの違いが大きく、出力マップでは一段と不明瞭さが増していました。さらに、顔領域の中のみならず外にも、顔の下位カテゴリーを識別するための信号が分布していることも突き止めました。
これらの結果から、カテゴリーレベルに応じてそれを表す脳のマップの安定性が異なること、また親カテゴリーを表す脳活動は子カテゴリーを表す脳活動の単なる和ではないことが明らかになりました。
今回の成果は、カテゴリーの階層的認知という高次の脳機能のメカニズムを明らかにした点、および、脳の信号から人が頭に思い描いていることを解読してコミュニケーションの支援に役立てようとする新しい医療技術の開発につながる点に、学術的価値と臨床応用上の意義が認められます。
 
Ⅲ.公表について
本研究は、新潟大学医学部・超域学術院の宮川直久元特任助教(現量子技術研究開発機構主任研究員)、長谷川功教授らの研究チームが、科学研究費補助金(日本学術振興会、文部科学省)、脳科学研究戦略推進プログラム(文部科学省)、武田科学振興財団、等の助成を受けて実施されました。
発表雑誌名:「Cerebral Cortex」(IMPACT FACTOR 6.559)
doi:10.1093/cercor/bhx342
発表日時:2018年1月5日23時(日本時間)
論文タイトル:
Heterogeneous redistribution of facial subcategory information within and outside the face-selective domain in primate inferior temporal cortex
著者:
Naohisa Miyakawa*, Kei Majima, Hirohito Sawahata, Keisuke Kawasaki, Takeshi Matsuo, Naoki Kotake, Takafumi Suzuki, Yukiyasu Kamitani, Isao Hasegawa* *: corresponding author
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医学部神経生理学分野
教授 長谷川 功
E-mail:isaohasegawa@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年01月09日

No_73 副作用の少ない新規脳梗塞予防薬の作用メカニズムが明らかに

JSPS(日本学術振興会)基盤研究の一環として、本学大学院医歯学総合研究科の和泉大輔 助教、南野徹 教授らは、作用時間が短いはずの新規経口抗凝固薬(注1)が、作用時間の長い既存の脳梗塞予防薬ワルファリン(注2)と同等かそれ以上に脳梗塞の予防効果が高いことを裏付ける作用メカニズムについて明らかにしました。さらに、既存の脳梗塞予防薬ワルファリンでは、血管が損傷された時の正常な止血反応が障害されているのに対して、新規経口抗凝固薬では、血管損傷時の止血反応が正常に保たれていることを世界で初めて明らかにしました。本研究は、これまで不明であった新規脳梗塞予防薬の作用メカニズムを明らかにしただけではなく、今後のより優れた脳梗塞予防治療の開発に繋がる重要な研究と考えられます。
 
【本研究成果のポイント】
血液を固まりにくくする新しい脳梗塞予防薬(新規経口抗凝固薬(注1))は既存の脳梗塞予防薬ワルファリン(注2)に比べて、その予防効果が高い上に、出血などの副作用が少ないことが知られていますが、その作用メカニズムについては明らかではありませんでした。本研究ではその謎を世界で初めて明らかにしました。
 
Ⅰ.研究の背景
心房細動と呼ばれる不整脈が原因で起こる脳梗塞は脳梗塞全体の約30%を占め、他の脳梗塞に比べ重症化し、寝たきりなどの原因となっています。近年、その予防のために血液を固まりにくくする複数の新たな薬剤(新規経口抗凝固薬)が開発されました。これまでの臨床試験において新規経口抗凝固薬は、既存の脳梗塞予防薬であるワルファリンと比べて、同等かそれ以上の脳梗塞予防効果を持ち、重篤な出血性副作用を減少させることが示されています。新規経口抗凝固薬はいずれもワルファリンに比べて、効果が消退するまでの時間が短い(12時間程度)ことを特徴としています。新規経口抗凝固薬は通常1日に一回、あるいは二回内服されます。そのため、薬効が大幅に減弱する時間帯が存在することとなりますが、その時に脳梗塞が起きやすくなるかどうかは不明でした。また、新規経口抗凝固薬が、既存治療に比べ脳出血などの重篤な副作用を減少させるメカニズムも不明でした。
 
Ⅱ.研究の概要
新潟大学の和泉大輔 助教、南野徹 教授らは、種々の脳梗塞予防薬治療における血管損傷時の生体反応と新規経口抗凝固薬の血中濃度低下時の脳梗塞予防効果の有無を明らかにするため臨床研究を遂行しました。臨床試験は、新潟大学医歯学総合病院においてカテーテルアブレーション治療(注3)が行われた症例のうち、新規経口抗凝固薬のダビガトラン(注1)、リバーロキサバン(注1)、アピキサバン(注1)内服患者、ワルファリン内服患者、脳梗塞予防薬を内服していない患者(対照群)の間で行われました。
 
Ⅲ.研究の成果
本研究の重要な発見は、「ワルファリンに比べて新規経口抗凝固薬服用例では、血管損傷時に正常な止血反応が保たれていること(図1、2)」、「新規経口抗凝固薬を定期的に内服した場合、その血中濃度に関わらず血液が固まる反応(凝固反応)が同等に抑制され、その作用はワルファリンに比べて中等度の抑制であること(図3)」を突き止めたことです。この結果は、これまで不明であった新規経口抗凝固薬の出血性副作用を減らすメカニズムと考えられる新たな発見です。さらに、血管損傷時の止血反応の程度は、新規経口抗凝固薬のひとつである直接型トロンビン阻害薬(ダビガトラン)服用例で、他の新規経口抗凝固薬(直接型Xa因子阻害薬治療)やワルファリンより大きいことが明らかにされました(図1)。これは、新規経口抗凝固薬の種類により血管損傷後の出血の程度に違いがあることを示唆する新たな発見です。
ワルファリンは、凝固反応を妨げる作用の他に、生理的凝固阻止因子(注4)と呼ばれる過剰な血液凝固を予防する酵素であるプロテインC(注5)、プロテインS(注6)を抑制することで、逆に脳梗塞の発症を増やす可能性があることが知られていました。本研究では、新規経口抗凝固薬は生理的凝固阻止因子を維持または増加させることで、脳梗塞の予防に関与している可能性があることも明らかとなりました(図4)。ダビガトランには、プロテインCとプロテインSを増加させる作用があることが突き止められました。また、アピキサバンには、生理的凝固阻止因子のアンチトロンビン(注7)を増加させる作用がある可能性が見出されました(図5)。加えて、新規経口抗凝固薬治療では、血管損傷時の凝固反応が起こった際に、これらの生理的凝固阻止因子が作用し、過剰な凝固が抑制されている可能性が見出されました(図4)。
 
Ⅳ.今後の展開
本研究は、より安全な脳梗塞予防治療を状況に応じて選択する際に、適切な方策を与える重要な研究と考えられます。さらに、本研究で明らかにされた新規経口抗凝固薬の血液凝固を抑える作用が比較的弱いという結果は、新規経口抗凝固薬に血液凝固を抑制する以外の血栓症予防効果がある可能性を示すものです。これは、新たな研究目標であり、この点について明らかになると血栓症予防のみでなく動脈硬化などの他の病気についての新たな治療法の開発に役立つものと考えれます。
 
<参考図>
 

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血管損傷のなどの際に血液が固まり止血される反応(凝固)は外因系凝固反応と、内因系凝固反応に大別される。両経路とも、第]因子が活性化される反応を経て凝固が起こる。活性化第]因子はプロトロンビンをトロンビンに変化させる。トロンビン濃度が上昇した状態は凝固準備状態と考えられる。トロンビンはフィブリノーゲンをフィブリンモノマー、フィブリンモノマー複合体などを経てフィブリンに変化させることで血液凝固を引き起こす。これらの反応が一旦惹起されると反応は加速的に促進される。生理的凝固阻止因子の一つであるプロテインCはプロテインSの存在下で活性化第[因子と活性化第X因子の作用を抑えることで、過剰な凝固反応を抑制している。また、生理的凝固阻止因子の一つであるアンチトロンビンはトロンビンのほか、活性化第]因子などのいくつかの凝固因子を不活化し、凝固反応を制御している。

<用語解説>

注1)新規経口抗凝固薬
近年、血液が固まることに関わる凝固因子のトロンビンを抑制するダビガトラン、凝固因子の第]a因子を抑制するリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンが開発された。(図6.凝固反応の模式図参照)これらの薬剤は、心房細動という不整脈疾患が原因となり心臓の中に血栓が形成され脳梗塞をきたす病態(心原性脳塞栓症)の予防や、静脈血栓症の予防に用いられる。いずれの薬剤も内服後の薬剤血中濃度の上昇と減少が速いにもかかわらず、既存治療のワルファリンに比べ、同等かそれ以上の脳梗塞予防効果を示し、さらに脳出血などの重篤な出血性副作用は減少することが示されているが、その有効性や副作用減少の理由は明らかでなかった。

注2)ワルファリン
ワルファリンはビタミンKに依存して生成される凝固因子のプロトロンビン、第Z因子、第\因子、第]因子を抑制することで血液凝固を抑制する。また同様にビタミンKに依存して生成されるプロテインCおよびプロテインSも抑制する(凝固反応の模式図参照)。

注3)カテーテルアブレーション治療
足の付け根の動脈・静脈や首の静脈を針で穿刺しカテーテルと呼ばれる細い管を心臓に進め、不整脈の原因領域を高周波通電などで焼灼し不整脈を治す治療法。

注4)生理的凝固阻止因子
過剰な凝固反応を抑制し病的な血栓を抑制する酵素群(凝固反応の模式図参照)。

注5)プロテインC、注6)プロテインS
プロテインCは、トロンビンにより活性化されプロテインSと複合体を形成し、活性型第X因子、活性型第]因子を分解・失活させることで凝固反応を抑制する。生理的凝固阻止因子の一つ(凝固反応の模式図参照)。

注7)アンチトロンビン
アンチトロンビンは、トロンビン、活性化第]因子と結合して、凝固反応を抑制する。生理的凝固阻止因子の一つ(凝固反応の模式図参照)。

注8)プロトロンビンフラグメント1+2
プロトロンビンからトロンビンに変化する際に遊離する物質で、血液中でトロンビンが産生されたことを示す鋭敏な指標(凝固反応の模式図参照)。

注9)トロンビン
血液の凝固の中核を担う酵素のひとつでフィブリノーゲンをフィブリンに変化させ血液を凝固させる(凝固反応の模式図参照)。

注10)可溶性フィブリンモノマー複合体
トロンビンの作用でフィブリンがフィブリノーゲンに変化する際に形成される物質で、凝固亢進状態の際に高値を示す(凝固反応の模式図参照)。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年1月2日4時(日本時間)のJournal of the American College of Cardiology誌(IMPACT FACTOR 19.896)に掲載されました。
論文タイトル:Effects of direct oral anticoagulants at the peak phase, the trough phase, and after vascular injury
著者:大槻 総、和泉大輔、須田将吉、佐藤光希、長谷川祐紀、八木原伸江、飯嶋賢一、池主雅臣、布施一郎、南野 徹
doi: https://doi.org/10.1016/j.jacc.2017.10.076
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 循環器内科学
南野 徹 教授
E-mail:tminamino@med.niigata-u.ac.jp
和泉大輔 助教
E-mail:dizumi@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年12月22日

No_72 米(胚乳)タンパク質が透析患者さんの有効な補給タンパク質になることを明らかにしました −透析患者さんにおける低栄養の問題に光明−

本学大学院医歯学総合研究科の斎藤亮彦特任教授らの研究グループは、透析患者における低栄養が死亡率を増加させることなどについて、米(胚乳)タンパク質が有効で安全な補給タンパク質になることを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・透析患者さんにおける低栄養がその死亡率を増加させるなど、大きな問題となっている。
・一方で、タンパク質摂取量を増やすとリンの摂取量も増加し、動脈硬化・骨病変を引き起こすため、栄養学的なジレンマがある。
・米由来のタンパク質は日本人が最も多く摂取している植物性タンパク質であるが、米(胚乳)タンパク質はリンやカリウムの含有量が少ないことが明らかになっている。
・本試験により、米(胚乳)タンパク質は透析患者さんにおける有効で安全な補給タンパク質になることが示された。
・今後、長期試験による栄養・代謝改善効果をさらに検討し、米(胚乳)タンパク質の実用化を目指している。
 
Ⅰ.研究の背景
慢性腎臓病(CKD)の患者さんの数は本邦において約1,330万人に達するとされています。そのうち約32万人が透析療法を行っていますが、その数は年々増加しています。透析患者さんは生活の質(QOL)が低下し、心血管病の合併率や死亡率が増加することが報告されています。保存期CKD患者さんではタンパク質摂取制限が推奨されていますが(たとえばCKDステージG5では0.6-0.8g/kg体重/日)、透析導入後はむしろタンパク異化傾向にあるため、維持血液透析患者さんでは1.0-1.2g/kg体重/日の摂取が推奨されています。しかし、多くの維持血液透析患者さんでタンパク質摂取量(指標:nPCR)の推奨量が満たされておらず、栄養障害をきたしており、それが前述の心血管病の合併率や死亡率の増加につながっていると考えられています(図1)。
一方で、維持血液透析患者さんで蓄積をきたさない1日経口リン摂取量は、標準体重50kgあたり約600mgとされていますが、これはタンパク質摂取量を減らさなければ実際上は達成困難であり、タンパク質摂取に伴って増大するリンの摂取が、動脈硬化・骨病変を引き起こす原因として大きな問題となっています(図2)。さらに過剰なカリウム摂取は透析患者さんの不整脈の原因にもなり、注意が必要です。そこで、リン・カリウム含有量の少ないタンパク質源を開発することは、維持血液透析患者にとって重要な栄養学的課題となっています。
米由来のタンパク質は日本人が最も多く摂取している植物性タンパク質ですが、これまでにその機能性に関する検討はほとんど行われてきませんでした。新潟大学医歯学総合研究科腎研究センター機能分子医学講座の斎藤亮彦特任教授を中心とする研究グループは、亀田製菓株式会社、新潟大学農学部、新潟県立大学との共同研究において、精製された米(胚乳)タンパク質のリン・カリウム含有量が、大豆タンパク質、カゼインタンパク質に比較して、極めて少ないことを見出しました(図3)。
そこで今回、全身状態が安定しているが、タンパク質摂取量が推奨量を満たさず、低栄養傾向のある成人の維持血液透析患者さんにおいて、米(胚乳)タンパク質の摂取の有効性について前向きに調査を行うこととしました。

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Ⅱ.研究の概要
新潟大学医歯学総合研究科 腎研究センター 機能分子医学講座の斎藤亮彦特任教授を中心とする研究グループは信楽園病院との共同研究にて、上記の成人の維持血液透析患者さんを対象に(50名)、12週間のクロスオーバー比較試験を行いました(図4)。対象となった患者さんには4週間、介入食(米タンパク質5 g含有試験食あるいは非含有対照食)を摂取後、4週間のウォッシュアウト期間を経て、再び4週間、介入食を入れ替えて摂取して頂きました。 介入食は、食味を調整するためフレーバーをつけたゼリー(レトルト式)であり、亀田製菓株式会社で作製され、カドミウム含有量の低減化と無菌性などの安全性を確認後、2週間毎に患者さんに配布し、冷蔵あるいは室温保存して、1日1食ずつ摂取して頂きました。

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Ⅲ.研究の成果
50名中49名の患者さんが試験を完遂しました。本試験の主要評価項目であるnPCR(実際のタンパク質摂取量を表す指標)は、米タンパク質含有試験食摂取期間の前後比較において、有意な増加を認めました。一方で、非含有対照試験食摂取期間の前後比較においては増加を認めませんでした。さらに、それぞれの試験期間のΔnPCR(タンパク質摂取の変化量)の比較においても、米タンパク質含有試験食摂取期間の方が非含有対照試験食摂取期間より有意に増加が認められ、この増加がプラセボ効果とは独立したものであることが確認されました(図5)。血清リンおよびカリウム値については、各試験期間の前後比較で有意な変化を認めませんでした(図6、7)。試験期間中に米タンパク質含有試験食もしくは非含有対照試験食によると考えられる明らかな有害事象は認めませんでした。
以上より、米(胚乳)タンパク質は透析患者さんにおける有効で安全な補給タンパク質になることが示されました。

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Ⅳ.今後の展開
今後、長期試験による栄養・代謝改善効果をさらに検討し、実用化を目指していきます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、Nature Publishing Groupが発行するScientific Reports誌(インパクトファクター: 4.847)のオンライン版に2017年12月21日19時(日本時間)に掲載されました。
 
論文タイトル:A Randomized, Double-Blind, Crossover Pilot Trial of Rice Endosperm Protein Supplementation in Maintenance Hemodialysis Patients
著者:Michihiro Hosojima, Hisaki Shimada, Yoshitsugu Obi, Shoji Kuwahara, Ryohei Kaseda, Hideyuki Kabasawa, Hazuki Kondo, Mikio Fujii, Reiko Watanabe, Yoshiki Suzuki, Motoni Kadowaki, Shigeru Miyazaki, Akihiko Saito
 
doi: https://doi.org/10.1038/s41598-017-18340-8
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
腎研究センター 機能分子医学講座
斎藤亮彦 特任教授
E-mail:akisaito@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年12月21日

No_71 平成29年度白衣式が執り行われました!

平成29年12月18日に大講義室において白衣式が執り行われました。共用試験CBTと共用試験OSCEの両方に合格して、平成30年1月からの臨床実習T開始を許可された医学科4年生に対して白衣が授与されました。牛木辰男医学部長から門出を祝うご挨拶があり、出席した4年生は医学科教授から大学のネームのはいった白衣をプレゼントされました。瀧宮龍一君から4年生を代表して挨拶が述べられました。4年生は病院実習を開始するにあたり、誓約書を記載し、臨床実習を開始する決意を固めていました。最後に鈴木榮一医歯学総合病院長からお祝いの言葉をいただき閉会しました。

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平成29年12月20日

No_70 3Dイメージングの新技術開発により左右非対称性の基盤となる細胞の運動を発見 −キラリティが脳の左右差を生み出す機構の解明へ−

本学大学院医歯学総合研究科の玉田篤史研究員と五十嵐道弘教授の研究グループは、細胞の3D構造をライブで可視化する新規の顕微鏡観察法を開発し、細胞の形と動きを自動解析する技術を確立しました。これを用いて、神経細胞および細胞性粘菌が、キラル(注1)な旋回・らせん運動(注2)を示すことを発見しました。本研究成果は、バイオイメージングと画像解析において革新的な基盤技術を提供すると同時に、細胞のキラリティから脳や臓器などの左右非対称な器官形成に至るメカニズムの解明に貢献すると期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・光に対して弱い細胞の3D高速ライブイメージング顕微鏡観察法を開発した。
・細胞の形と動きを自動解析する技術を確立した。
・神経細胞および細胞性粘菌がキラルな旋回・らせん運動を示すことを発見した。
・本技術を駆使することで、キラリティが脳や内臓の左右非対称性に変換される機構が解明されると期待される。
 
Ⅰ.研究の背景
私たちの体の器官の多くはほぼ左右対称な配置をとっていますが、内臓の一部(肝臓、心臓など)にみられるように左右非対称な器官も存在します。脳においても、ヒトで言語中枢が左大脳半球優位であるなど、機能的な左右差があることが知られています(発見者の1人であるスペリー博士は1981年ノーベル賞受賞)。しかし、脳の左右差がどうして生じるのか?という問いにはまだ誰も答えられていません。私たちは「左右差の起源が分子構造のキラリティにある」との仮説を立てて研究を進めてきました。キラリティとは、鏡像が元の像と重ならない幾何学的性質であり、DNAの右巻き二重らせん構造、タンパク質の右巻きαへリックス構造など、ほとんどの生体高分子でみられる性質です。一方、私たちの以前の研究(Tamada et al.,J Cell BIol.,188, 429, 2010)を契機として、分子だけでなく細胞でのキラリティの報告が近年世界中で相次いでおり、細胞のキラリティが、分子のキラリティと生体の左右非対称性をつなぐ中間に位置し、左右非対称性の形成メカニズムを解き明かす鍵として、注目を集めています。
キラリティと非対称性形成のメカニズムを解明するためには、キラル現象の正確な情報が必要になります。キラリティは3次元(3D)的な概念であり、現象の詳細な記述には3D、時間軸を含めれば4Dの膨大なデータ計測と解析が必要不可欠です。ところが、1)細胞を3Dライブイメージングにより精密に計測し可視化する技術、2)高次元の画像データから形と動きを自動解析する技術、はこれまで存在しませんでした。
 
Ⅱ.研究の概要
そこで、本研究では、まず3Dイメージング技術の開発を行いました。細胞のライブイメージングには蛍光顕微鏡を使用するのが一般的ですが、この方法で高頻度3D撮影すると、通常の生細胞では、励起光に起因する光毒性により構造が簡単に壊れてしまいます。一方、古くからよく使われている微分干渉顕微鏡(注3)を使用すれば、無染色・低毒性で高解像度撮影が可能ですが、陰影の付いた画像しか得られず、そのままでは3D可視化・解析に使えません。私たちは、リース変換(注4)と呼ばれる特殊な数学的操作を施すことで、微分干渉像に含まれる陰影付きの位相情報を輝度情報に変換する方法を考案し、「リース変換微分干渉顕微鏡法(RT-DIC)」と名付けました(図1)。本手法を使うことで、蛍光像とほぼ等価な、明るく光る輝度画像を得て、脆弱な細胞をライブで3D可視化することに成功しました。

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次に、多次元画像データから細胞の形と動きを自動解析する手法の開発を行いました。コンピュータービジョンの技術を取り入れ、画素ごとの形状と運動の物理量を数値的に推定する手法を確立しました。形については、輝度勾配の3D空間的広がりを表す構造テンソル(注5)を計算し、そこから画素ごとの基礎形状(面・線・球の各構造の確からしさ)と線維の方向を推定しました(図2)。動きに関しては、各画素について、フレーム間の3D変位ベクトルをオプティカルフロー(注6)として計算し、速度・加速度・躍度などの並進物理量および角速度・曲率・捩率などの回転物理量を推定することに成功しました(図3)。さらに、画素ごとの形状情報と運動情報を時空間的に統合することにより、粒子・細胞・線維の走行経路・運動軌跡を追跡することに成功しました。
 
今回開発したイメージング技術と画像解析技術を、伸びていく神経の先端構造で伸びる方向の制御に重要な、神経成長円錐(注7)のキラリティ解析に応用しました。RT-DICの結果、神経成長円錐の3D形態と動きをとらえることに世界で初めて成功し、そのフィロポディア(運動性を支配する動的構造;注7参照)が激しく動きまわる様子を観察できました(図4)。さらに画像解析により、それらの形と動きを数値化することに成功し、フィロポディアが右ねじ回転と後退運動を伴う左らせん運動をするという、神経成長円錐の運動様式を明らかにすることができました(図4)。以前の研究では、神経突起が2D基質上で右回り(時計回り)に旋回しながら伸びることを手作業のトレースと角度計測による煩雑な解析により定量しましたが、今回開発した手法により、同一の現象をさらに簡便かつ自動的に定量できました。
 
私たちは今回の技術を別の細胞にも応用し、細胞の分化、移動、形態形成のモデルとしてよく実験で使われる生物である細胞性粘菌(注8)の運動を観察しました。単細胞期でアメーバ状の粘菌細胞を解析すると、2D基質上では細胞が右回り(時計回り)に旋回しながら移動、3D環境だとフィロポディア様の突起が右ねじ回転していることがわかりました。

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Ⅲ.研究の成果
本研究により得られた細胞のキラリティに関する成果をまとめると図5のようになります。本研究では、神経成長円錐(哺乳類のマウスの脳で実験)および細胞性粘菌に関して、3D空間での形と動きを詳細に可視化し定量することに世界で初めて成功しました。成長円錐については、フィロポディアが右ねじ回転と後退運動の合成により左らせん運動することを発見しました。細胞性粘菌では、フィロポディア様の突起構造が成長円錐同様に右ねじ回転することを明らかにしました。2D基質上では、神経細胞が右旋回するのは既知の現象ですが、今回新たに、細胞性粘菌も同程度の回転速度で同じく右方向に旋回しながら移動することがわかりました。哺乳類(マウス)と細胞性粘菌は系統学的には全く離れていますが、似通ったキラルな運動様式を示すことがわかり、細胞レベルのメカニズムに関して共通性も示唆されます。
 
また本研究は、バイオイメージングや画像解析分野において高い有用性と汎用性を持つ技術の開発に成功しました。特に、本研究のRT-DIC法は低毒性であり、蛍光顕微鏡で扱うことが困難であった、生細胞の3D構造のイメージングを可能にします。本手法については、オープンソースソフトウェアとしてImageJプラグインとMATLABコードを誌上で公開しています。RT-DIC法は蛍光顕微鏡の短所をカバーできる新たな手法として幅広く顕微鏡技術と医学生物学研究への利用が期待できます。

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Ⅳ.今後の展開
生命現象で基本的な性質である左右非対称性が生ずる原理は、キラリティに基づくと考えられます。本研究成果により、これまで扱いの難しかったキラリティをシステマティックな手法で定量的に解析することが可能になり、細胞のキラル現象を正確に記述し特性を明らかにできます。本研究を含めた国内外の研究から、キラルな分子であるアクチン細胞骨格とミオシンモーターの相互作用が細胞のキラリティ形成に重要、との結果が示されています。近いうちに、本研究の成果を応用して、左右非対称性形成のしくみが解明されるものと期待されます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究は、本学超域プロジェクト「成長円錐の分子基盤に基く神経回路の形成と修復の総合的研究」、JSTさきがけ研究「脳情報の解読と制御」、文部科学省科学研究費新学術領域研究「共鳴誘導で革新するバイオイメージング」等により実施されました。研究成果は、Nature Communications誌(IMPACT FACTOR 12.124; Natureの姉妹誌で、多分野の重要な論文を速報するオープンアクセスジャーナルであり、同様の性格を有する国際誌の中で最もインパクトファクターが高い)に平成29年12月19日午後7時(日本時間)に掲載されました。
 
論文タイトル:Revealing chiral cell motility by 3D Riesz transform-differential interference contrast microscopy and computational kinematic analysis
著者:Atsushi Tamada¹,²,³,* and Michihiro Igarashi¹,²
1 Center for Transdisciplinary Research, Institute for Research Promotion, Niigata University, Niigata 951-8510, Japan.
2 Department of Neurochemistry and Molecular Cell Biology, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University, Niigata 951-8510, Japan.
3 Decoding and Controlling Brain Information, Precursory Research for Embryonic Science and Technology, Japan Science and Technology Agency, Kawaguchi, Saitama 332-0012, Japan.
* corresponding author
 
玉田篤史¹,²,³,*、五十嵐道弘¹,²
1 新潟大学研究推進機構超域学術院
2 新潟大学医歯学総合研究科神経生化学分野
3 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「脳情報の解読と制御」
*責任著者
doi: https://doi.org/10.1038/s41467-017-02193-w
 
 
用語説明
注1:キラリティ・キラル
キラリティとは「3Dで物体や現象がその鏡像と重ね合わせられない幾何学的性質」のこと。キラリティがある状態をキラルという。キラルな例としては、手(右手の掌と左手の甲を向かい合わせたときに重なり合わない)、らせん(右らせんと左らせんは重ならない)などがあげられる。
 
注2:旋回・らせん
回転とは、物体などがある点や軸を中心として回ることを指し、幅広い意味を持つ。旋回とは、同一平面上での回転を指す。2D平面での運動の場合、回転運動は旋回成分のみとなり、回転の程度は曲率(回転半径の逆数)で表される。3D空間での運動の場合、回転運動は旋回成分(曲率)と捩れ成分(捩率、れいりつ)の2つで表される。旋回のみの場合は平面的なカーブ、捩れのみの場合はスピン運動になる。らせんとは3D曲線の一種であり、平面的な円運動とそれに直交する直線運動を組み合わせたものである。ねじの山、コイルなどが例として挙げられる。生体高分子の多くもらせん構造をとる。らせんはキラルであり、右巻きと左巻きの2種類がある。
 
注3:微分干渉顕微鏡
光学顕微鏡の一種であり、プリズムで分割した2つの偏光を標本に照射し、透過した光を再び合成するときに生じる干渉により、標本の厚みの差を高感度で検出する。無染色で高コントラスト、高解像度でハロー(光のにじみ)のない画像が得られるなど利点が多い。しかし、プリズムの方向に陰影が付くという欠点を持ち、像の明暗情報の解釈が難しい。たとえば、物体の中心は、プリズムの方向に沿って明暗の変化が最も大きく、それに直交する方向に沿って最も暗い点ということになる。また3D表示にも不適である。
 
注4:リース(Riesz)変換
画像などの多次元信号の位相を90度ずらす操作である。電波・音波などの一次元信号の位相を90度ずらす操作はヒルベルト変換としてよく使われるが、リース変換はこの多次元版に相当する。2次元画像の場合、直交する2つの成分より構成される。実際の操作は、フーリエ変換、リース変換フィルターによる乗算、逆フーリエ変換の3つの単純なステップで済む。今回のリース変換微分干渉法では、陰影方向に1回(90度シフト)、直交方向に2回(180度位相反転)の複合フィルターを用いてリース変換を行うことで陰影を除去している。
 
注5:構造テンソル
輝度勾配テンソルとも呼ばれ、画像の輝度を微分した輝度勾配ベクトルを掛け算してテンソル化して平滑化したものであり、3Dの場合3x3行列で表される。輝度勾配の空間的な広がりを表し、画素毎の形状の指標として用いられる。
 
注6:オプティカルフロー
コンピュータービジョンの基礎技術で、2つのフレームの画像から画素毎の変位ベクトルを推定する手法である。時間差のあるフレーム間であれば、速度ベクトルが求められ、点の動きを推定することができる。画像の相関を利用する相関法、輝度勾配を利用する勾配法などの手法がある。本研究では、代表的な勾配法であるHorn-Schunck法を3D画像に適用し、さらに大きな変位にも対応できるようにマルチスケール化した方法を用いている。
 
注7:(神経)成長円錐
神経細胞が伸ばす神経突起の先端に存在する微細な構造体。成長円錐はフィロポディア(糸状仮足)と呼ばれる針状の細い突起を動かしながら周囲の環境を探知し、神経の伸長とその方向を制御することで、脳の回路の形成に重要な役割を果たしている。
 
注8:細胞性粘菌
学名Dictyostelium discoideum(和名キイロタマホコリカビ)。土壌に広く分布する微生物で、餌がある状態では単細胞のアメーバとして行動・増殖するが、飢餓状態になると多く細胞が集まり、ナメクジ状の移動体を形成し、最終的に移動を停止して胞子を含んだ子実体を形成する。細胞の分化や移動・形態形成などの研究で、モデル生物として汎用される。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科分子細胞機能学、及び医歯学系神経生化学分野
(医学部生化学第二)
玉田篤史 研究員
E-mail:tamada@med.niigata-u.ac.jp
五十嵐道弘 教授
E-mail:tarokaja@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年12月15日

No_69 分子生理学分野 任 書晃 准教授と日比野 浩 教授の“内耳イオン動態のシミュレーション”の論文が、Natureasiaウエブサイトの「おすすめのコンテンツ」に紹介されました。

任 書晃 准教授と日比野浩 教授(分子生理学分野)の内耳イオン動態のシミュレーションの論文の内容〔npj (nature partner journal) Systems Biology and Applications 3: 24, 2017〕が、Natureasia日本語ウエブサイトの「おすすめのコンテンツ」に紹介されました。
https://www.natureasia.com/ja-jp/npjsba
このサイトは、Springer Nature東京オフィスが注目度の高い論文を選んで簡単に解説するものです。
本論文では、内耳の中を定常的に流れるイオン電流を、独自のコンピュータモデルによりシミュレーションしました。そして、聴覚に不可欠な特殊電位環境の維持メカニズムの一端を明らかにしました。これは、長年不明であった疑問に一つの答えを与えるものです。

 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科(医学部)
教授 日比野浩
E-mail:hibinoh@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年12月04日

No_68 分子生理学分野 日比野浩 教授と緒方元気 助教の“薬物モニターシステム開発”の論文が、Natureasiaウエブサイトの「おすすめのコンテンツ」に紹介されました

平成29年8月10日付けで本HPに掲載された、日比野浩 教授と緒方元気 助教(分子生理学分野)の薬物モニターシステム開発の論文の内容〔Nature Biomedical Engineering 1: 654-666, 2017〕が、Natureasia日本語ウエブサイトの「おすすめのコンテンツ」に紹介されました。
https://www.natureasia.com/ja-jp/natbiomedeng/ このサイトは、Springer Nature東京オフィスが注目度の高い論文を選んで簡単に解説するものです。

 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科(医学部)
教授 日比野浩
E-mail:hibinoh@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年11月09日

No_67 神経発達学分野 杉山清佳 准教授と神経生化学分野 五十嵐道弘 教授の共同研究論文が11月6日付の新潟日報で紹介されました

平成29年10月4日付けで本HPに掲載された、杉山清佳准教授(神経発達学分野)と五十嵐道弘教授(神経生化学分野)による共同研究論文の内容(Scientific reports 7(1):12646)について、『「コンドロイチン硫酸」の量 脳神経回路発達と関連』と題して、平成29年11月6日付け新潟日報紙で記事掲載されました。

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平成29年10月30日

No_66 腎臓のタコ足細胞を培養で再現することに成功 −糸球体濾過調節の研究に新たな道を拓く−

新潟大学大学院医歯学総合研究科腎研究センター腎構造病理学分野の研究グループは、腎糸球体上皮細胞(タコ足細胞)の特異的形態・形質を培養で再現することに世界で初めて成功しました。
 
【本研究成果のポイント】
・タコ足細胞の特異的形態・遺伝子発現を誘導する培養条件を確立した。
・タコ足細胞の特異的形質の誘導には、生体内と同じ細胞密度、細胞外基質(ラミニン)が必要であることを示した。
・糸球体濾過に関わる細胞間結合の著明な増加を誘導できた。
 
Ⅰ.研究の背景
タコ足細胞は、腎臓の糸球体を覆うユニークな形をした細胞ですが(図1走査型電子顕微鏡写真)、その役割は、大量の糸球体濾過を可能にすることです。糸球体濾過が大量に行われることによって、初めて腎臓は機能することができます。タコ足細胞の形は糸球体濾過の増大に合わせて進化を遂げてきました。核を中心にして数本の突起をのばし、その突起は枝分かれを繰り返し、最終的には足突起と呼ばれる細かい突起になります(図1丸印)。糸球体濾過液は、足突起と足突起の間の細胞間結合部を通って出てきます。数多くの足突起があり、その突起の間に非常に長い細胞間結合部が形成されて、大量の糸球体濾過が可能となります。
タコ足細胞が糸球体濾過を最終的に調節する細胞であることに加え、神経細胞のように細胞分裂を行わず、その傷害が不可逆的糸球体病変の原因になることから、多くの研究者の関心を惹き、さまざまなアプローチから研究が行われてきました。培養もその一つです。糸球体を単離する手技が確立するとすぐにタコ足細胞培養の試みが1970年代から始まり、非常に多くの論文が出されました。しかし、タコ足細胞の特徴的な形は、培養直後から急速に失われ、その再現は今日まで成功していませんでした。例えるならば、神経突起がない培養細胞を神経培養細胞として研究に用いてきたような状態が続いていました。

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Ⅱ.研究の概要と成果
単離した糸球体からタコ足細胞を確実に培養できる方法を確立し、過去の論文を参考に特異的遺伝子の発現を増加させる条件を検討しました。また、突起形成は細胞密度の高い条件で起きにくいとされてきましたが、敢えて生体内に近い細胞密度の高い状態で細胞突起ができる条件を探しました。その結果、ヘパリンが単独で特異的遺伝子の発現を著明に亢進させること、ビタミンA誘導体(ATRA)と細胞外基質のラミニンが細胞の運動性と突起形成を促進することを見つけました。これらを組み合わせたところ、突起を盛んに出す状態を作り出すことができました(図2位相差顕微鏡写真、図3走査型電子顕微鏡写真)。従来の方法で培養した場合(図2A、図3A)と比べると、本研究で確立した培養(図2B、図3B)では、枝分かれする突起が四方に伸びだしていることが分かります。
透過型電子顕微鏡(図4)で培養細胞の垂直断面を観察すると、タコ足細胞でよくみられる、細胞の下への二重三重の突起の侵入、終末突起の間の隙間、それを橋渡しする細胞間結合装置(スリット膜)の構造物(矢頭)が認められました。

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さらに、細胞間結合部を示すポドシンの分布(図5)をみると、従来の培養(図5A)では単純な形をした細胞境界ですが、この培養(図5B)ではくねくねと曲がった迷路状になり、細胞間結合部が著明に増えていることが分かりました。
タコ足細胞特異的遺伝子、タンパク質も増加し、単離糸球体での量に匹敵するまでになっていました。
上記のことは、生体内のタコ足細胞に近い状態を再現できたことを示しています。また、同時にタコ足細胞が、ラミニン、コラゲン、ファイブロネクチンなどの細胞外基質の違いを認識し違った挙動をとること、細胞密度が低くなると分化した形質を示さなくなること、突起をのばした細胞は細胞分裂のマーカーを失うことも分かってきました。

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Ⅲ.今後の展開
タコ足細胞には、多くの謎が残されています。糸球体濾過を最終的に決めている細胞間結合部の長さ広がりはどのように調節されているのかをはじめ、核分裂は起きても細胞分裂が起きないのはなぜか、様々な受容体が見つかっていますがその機能がわかっていません。本研究の成果は、こうした疑問に答えるための新たな手段を与えるものです。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成29年9月7日のKidney International誌(IMPACT FACTOR 8.395)に掲載されました。
論文タイトル:Induction of interdigitating cell processes in podocyte culture.
著者:Yaoita E, Yoshida Y, Nameta M, Takimoto H, Fujinaka H.
doi: 10.1016/j.kint.2017.06.031.
http://dx.doi.org/10.1016/
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
腎研究センター腎構造病理学分野
准教授 矢尾板永信
E-mail:eyaoita@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年10月13日

No_65 新規の神経幹細胞制御因子としてQuaking5の機能を解明 −幅広い精神・神経疾患、癌の病態解明や新薬開発に期待−

このたび、新潟大学大学院医歯学総合研究科神経生物・解剖学分野の矢野真人准教授、矢野佳芳研究員(日本学術振興会特別研究員RPD)と慶應義塾大学医学部の岡野栄之教授の研究グループは、武田薬品工業(株)湘南インキュベーションラボとの共同研究により、新たな神経幹細胞制御因子として、RNA結合タンパク質(注2)であるQuaking5(Qki5,注3)を同定しました。包括的RNAマッピング技術(HITS-CLIP法)(注1)を用い、Qki5が、標的RNAとの結合部位により神経幹細胞を制御する新しい分子メカニズムを解明しました。
中枢神経系は、神経細胞及びグリア細胞(アストロサイトやオリゴデンドロサイト)を中心に構成されています。大脳皮質の形成過程においては、神経幹細胞(注4)が順序立てて多様な神経細胞やグリア細胞を生み出すことが知られており、それが破綻すると多様な精神・神経疾患や癌に繋がると言われています。今回、矢野准教授らの研究グループが新たな神経幹細胞制御因子として同定したQki5は、RNA(リボ核酸)に結合するRNA結合タンパク質の一種であり、神経幹細胞において細胞間接着に関わる分子群のRNAの多様性の制御を介して、胎生期大脳皮質の神経幹細胞の機能保持および神経細胞の産生に重要な役割を果たすことを解明しました。
この成果は、幅広い精神・神経疾患や癌などの病態解明や新薬開発につながることが期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・新規の神経幹細胞制御因子としてRNA結合タンパク質Quaking5(Qki5)を同定した。
・括的RNAマッピング技術を用いてQki5 のRNA結合部位、制御の法則性を解明した。
・Qki5はRNA制御を介して、神経幹細胞の細胞接着を調節し、幹細胞の機能保持および適切な神経細胞の産生に寄与している。
・本研究成果は幅広い精神・神経疾患や癌の病態解明、新規治療法の開発へと波及する。
 
Ⅰ.研究の背景
2017年は、イントロンとスプライシングの発見から40年の節目の年にあたります。mRNAスプライシング(注5)は、多様なタンパク質を生み出す駆動力として、分子メカニズムの基礎研究、様々な疾患の病態解明、さらには難病における新規の治療法開発まで、世界中で研究が発展しています。この分子機構を司るのがRNA結合タンパク質です。
中枢神経系は、神経細胞及びグリア細胞を中心に構成されています。脳の形成過程においては、適切な時期に適切な場所で、順序立ててニューロンやグリア細胞が産み出される必要があります。そのために、自己複製能(幹細胞を維持する能力)と多分化能(様々な種類の細胞に分化能力)を有する神経幹細胞が非常に重要な役割を担っており、胎生期における脳の形成過程の異常は様々な精神・神経疾患や癌などの病気に直結します。
これまでの研究で、神経系の発生過程においてもRNAに結合するタンパク質が重要な働きをしていることが当研究グループらによって明らかにされています。先行研究において、矢野准教授らのグループは、包括的RNAマッピング技術(HITS-CLIP法)を用いて、RNA結合タンパク質Nova2のRNA結合部位を同定しました。そして、多くの結合するmRNAの中でも、Dab1と呼ばれる分子の選択的スプライシング(注5)を制御することにより、神経前駆細胞の移動を正常に保っていることを明らかにし、世界に先駆けて大脳新皮質の形成にRNAの制御が重要であることを明らかにしました。
 
Ⅱ.研究の概要と成果
本研究では、RNA結合タンパク質Qkiが神経幹細胞における機能を調べるため、マウス神経幹細胞を培養し、特定の遺伝子の転写量を減少させるノックダウン法を用いてQkiの発現の抑制を試みました。この状況のもと、mRNA-seq(注6)解析を用いて、神経幹細胞における転写産物を包括的に解析したところ、①Qkiが神経幹細胞の維持に重要な機能を持っていること、さらに②mRNAの選択的スプライシングに働いていることが示唆されました。Qkiファミリーの中でもQki5は、核移行シグナルを持ち、核内イベントであるスプライシングに大きく寄与していることが考えられるため、Qki5に絞り研究をさらに進めました。
胎生期マウスの脳においてQki5の制御機能を明らかにするため、包括的RNAマッピング(HITS-CLIP法)を行い、一塩基解像度で全転写産物における結合部位を突き止め、892個の標的RNAを同定しました。Qki5は標的RNAのタンパク質をコードしていないイントロンと呼ばれる領域に結合し、近傍に存在するたんぱく質をコードしているエクソンの選択性(選択的スプライシングと呼ばれる機構)を制御すること及び選択的スプラシングを制御する法則性を明らかにしました(図1)。

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さらに、892個の直接的な標的RNAを介してどのような生物学的に意義のある細胞機能を調節しているのかを解明するために、ゲノム解読に利用されるバイオインフォマティクス解析を行いました。その結果、Qki5は標的RNAを介して、細胞間接着に関するシグナル経路に収束されることを見出しました。そこで、生体内でQki5が胎生期神経幹細胞で細胞間接着を制御しているかを確認するために、神経系で特異的にQkiを欠損させたマウスの脳を調べました。マウス脳の組織解析の結果、Qkiを欠損したマウスの神経幹細胞ではN-カドヘリンや・-カテニンなど細胞間接着に必須のタンパク質の発現の低下及び局在の変化が見られ、脳室帯に存在する神経幹細胞の細胞間接着に、異常があることが明らかになりました。Qkiを欠損したマウスに比して、正常マウスでは脳室帯に存在するPax6陽性の神経幹細胞が、脳室の管腔側から逸脱、脳室下帯にまで分散し、その周辺領域では異所性の神経細胞の産生が見られました(図2)。

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Qkiを欠損したマウスの神経幹細胞では、どの細胞間接着に関わる標的RNAのスプラシングに変化があるのか、分子群の増幅量を解析するqRT-PCR法で調べたところ、神経幹細胞性の維持に重要な経路の分子群であるTncやPtprz1、さらに癌細胞の糖代謝にも関連するPkmのスプライシング異常が見られ、その結果、神経幹細胞の細胞接着に異常を来たしていることが明らかになりました(図3)。

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以上の結果から、Qki5が胎生期神経幹細胞においてRNAを制御し、細胞間接着を調節することで神経幹細胞の適切な機能の保持に働いていることが、世界に先駆けて明らかとなりました。
本研究は、主に武田薬品工業株式会社湘南インキュベーションラボラトリー(SIL)及び文部科学省(MEXT)/日本学術振興会(JSPS) 新学術領域「ノンコーディングRNAネオタクソノミ」などの助成を受けて実施されました。
 
【用語説明】
(注1)HITS-CLIP(high-throughput sequencing UV cross-linking and immunoprecipitation)
包括的RNA-タンパク質相互作用部位マッピング技術。ゲノムから転写された全転写産物のどこにRNA結合タンパク質が結合しているかを生体内において捉え、一塩基レベルの解像度で結合配列を明らかにすることができる方法。
 
(注2)RNA結合タンパク質
RNA(リボ核酸)に結合するタンパク質群の総称。ヒトでは1542種存在することが知られている。
 
(注3)Quaking
KHタイプのRNA結合タンパク質。選択的スプライシングによりQki5、QKi6、Qki7の異なるアイソフォーム(同一遺伝子より産生され、一部の構造、機能が異なると推測されるタンパク質)が存在する。RNAに結合することでmRNAの選択的スプライシング(成熟したmRNAが作られる機構)、安定化、翻訳制御、miRNA、ciRNAの生合成を制御している。これまでに、神経系ではグリア細胞の一つであるオリゴデンドロサイトの細胞系譜における機能が詳しく解析されてきた。
 
(注4)神経幹細胞
神経系の組織幹細胞。自己複製能(幹細胞を維持する能力)と多分化能(様々な種類の細胞に分化する能力)を有する。順序立てて多様な神経系の細胞を産み出し、神経系の構築および維持に重要な役割を持つ。
 
(注5)スプライシング
ゲノムDNAの遺伝子には、たんぱく質をコードしているエクソンと呼ばれる領域がたんぱく質をコードしていないイントロンと呼ばれるに領域によって分断されている構造が存在する。ゲノムDNAからRNAに転写されたのちに、不要なイントロンが除去され成熟したmRNAが作られる機構をスプライシングと呼ぶ。エクソンは常に選択されてたんぱく質に翻訳される恒常的エクソンとスプライシングを行う部位や組み合わせが変化する選択的エクソンが存在する。その選択的エクソンを制御する機構が選択的スプラシングであり、機能的たんぱく質の多様性に寄与している。
 
(注6)RNA-seq(RNAシークエンス)
次世代シークエンス法を用いて全転写産物の配列情報をバイアスなく読み込み、発現量を定量する方法。
 
Ⅲ.今後の展開
本研究成果はQki5が新規の神経幹細胞の制御因子であり、神経幹細胞の機能にかかわることを明らかにしたことから、幅広い神経疾患や癌の病態解明や新規治療法の開発へと波及することが考えられます。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、本研究成果は平成29年10月12日4時(日本時間)に、米国コールド・スプリング・ハーバー研究所が出版する生物学に関する学術雑誌「Genes & Development」誌のAdvanced online版に掲載されました。
論文タイトル:An RNA-binding protein Qki5 regulates embryonic neural stem cells through pre-mRNA processing in cell adhesion signaling
(邦訳:RNA結合蛋白質Qki5は、細胞接着シグナルに関わるmRNAスプライシングを担うことにより、胎生期神経幹細胞を制御している)
著者:矢野(早川)佳芳*、陶山智史*、野上真宏、湯上真人、古家育子、周麗、阿部学、崎村健司、竹林浩秀、中西淳、岡野栄之**、矢野真人**(*共同筆頭著者 **共同責任著者)
doi:http://www.genesdev.org/cgi/doi/10.1101/gad.300822.117.
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
神経生物・解剖学分野
准教授 矢野 真人(やの まさと)
E-mail:myano@med.niigata-u.ac.jp

慶應義塾大学医学部生理学教室
教授 岡野 栄之(おかの ひでゆき)
E-mail:hidokano@a2.keio.jp

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