新潟大学医学部医学科

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平成29年10月13日

No_65 新規の神経幹細胞制御因子としてQuaking5の機能を解明 −幅広い精神・神経疾患、癌の病態解明や新薬開発に期待−

このたび、新潟大学大学院医歯学総合研究科神経生物・解剖学分野の矢野真人准教授、矢野佳芳研究員(日本学術振興会特別研究員RPD)と慶應義塾大学医学部の岡野栄之教授の研究グループは、武田薬品工業(株)湘南インキュベーションラボとの共同研究により、新たな神経幹細胞制御因子として、RNA結合タンパク質(注2)であるQuaking5(Qki5,注3)を同定しました。包括的RNAマッピング技術(HITS-CLIP法)(注1)を用い、Qki5が、標的RNAとの結合部位により神経幹細胞を制御する新しい分子メカニズムを解明しました。
中枢神経系は、神経細胞及びグリア細胞(アストロサイトやオリゴデンドロサイト)を中心に構成されています。大脳皮質の形成過程においては、神経幹細胞(注4)が順序立てて多様な神経細胞やグリア細胞を生み出すことが知られており、それが破綻すると多様な精神・神経疾患や癌に繋がると言われています。今回、矢野准教授らの研究グループが新たな神経幹細胞制御因子として同定したQki5は、RNA(リボ核酸)に結合するRNA結合タンパク質の一種であり、神経幹細胞において細胞間接着に関わる分子群のRNAの多様性の制御を介して、胎生期大脳皮質の神経幹細胞の機能保持および神経細胞の産生に重要な役割を果たすことを解明しました。
この成果は、幅広い精神・神経疾患や癌などの病態解明や新薬開発につながることが期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・新規の神経幹細胞制御因子としてRNA結合タンパク質Quaking5(Qki5)を同定した。
・括的RNAマッピング技術を用いてQki5 のRNA結合部位、制御の法則性を解明した。
・Qki5はRNA制御を介して、神経幹細胞の細胞接着を調節し、幹細胞の機能保持および適切な神経細胞の産生に寄与している。
・本研究成果は幅広い精神・神経疾患や癌の病態解明、新規治療法の開発へと波及する。
 
Ⅰ.研究の背景
2017年は、イントロンとスプライシングの発見から40年の節目の年にあたります。mRNAスプライシング(注5)は、多様なタンパク質を生み出す駆動力として、分子メカニズムの基礎研究、様々な疾患の病態解明、さらには難病における新規の治療法開発まで、世界中で研究が発展しています。この分子機構を司るのがRNA結合タンパク質です。
中枢神経系は、神経細胞及びグリア細胞を中心に構成されています。脳の形成過程においては、適切な時期に適切な場所で、順序立ててニューロンやグリア細胞が産み出される必要があります。そのために、自己複製能(幹細胞を維持する能力)と多分化能(様々な種類の細胞に分化能力)を有する神経幹細胞が非常に重要な役割を担っており、胎生期における脳の形成過程の異常は様々な精神・神経疾患や癌などの病気に直結します。
これまでの研究で、神経系の発生過程においてもRNAに結合するタンパク質が重要な働きをしていることが当研究グループらによって明らかにされています。先行研究において、矢野准教授らのグループは、包括的RNAマッピング技術(HITS-CLIP法)を用いて、RNA結合タンパク質Nova2のRNA結合部位を同定しました。そして、多くの結合するmRNAの中でも、Dab1と呼ばれる分子の選択的スプライシング(注5)を制御することにより、神経前駆細胞の移動を正常に保っていることを明らかにし、世界に先駆けて大脳新皮質の形成にRNAの制御が重要であることを明らかにしました。
 
Ⅱ.研究の概要と成果
本研究では、RNA結合タンパク質Qkiが神経幹細胞における機能を調べるため、マウス神経幹細胞を培養し、特定の遺伝子の転写量を減少させるノックダウン法を用いてQkiの発現の抑制を試みました。この状況のもと、mRNA-seq(注6)解析を用いて、神経幹細胞における転写産物を包括的に解析したところ、①Qkiが神経幹細胞の維持に重要な機能を持っていること、さらに②mRNAの選択的スプライシングに働いていることが示唆されました。Qkiファミリーの中でもQki5は、核移行シグナルを持ち、核内イベントであるスプライシングに大きく寄与していることが考えられるため、Qki5に絞り研究をさらに進めました。
胎生期マウスの脳においてQki5の制御機能を明らかにするため、包括的RNAマッピング(HITS-CLIP法)を行い、一塩基解像度で全転写産物における結合部位を突き止め、892個の標的RNAを同定しました。Qki5は標的RNAのタンパク質をコードしていないイントロンと呼ばれる領域に結合し、近傍に存在するたんぱく質をコードしているエクソンの選択性(選択的スプライシングと呼ばれる機構)を制御すること及び選択的スプラシングを制御する法則性を明らかにしました(図1)。

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さらに、892個の直接的な標的RNAを介してどのような生物学的に意義のある細胞機能を調節しているのかを解明するために、ゲノム解読に利用されるバイオインフォマティクス解析を行いました。その結果、Qki5は標的RNAを介して、細胞間接着に関するシグナル経路に収束されることを見出しました。そこで、生体内でQki5が胎生期神経幹細胞で細胞間接着を制御しているかを確認するために、神経系で特異的にQkiを欠損させたマウスの脳を調べました。マウス脳の組織解析の結果、Qkiを欠損したマウスの神経幹細胞ではN-カドヘリンや・-カテニンなど細胞間接着に必須のタンパク質の発現の低下及び局在の変化が見られ、脳室帯に存在する神経幹細胞の細胞間接着に、異常があることが明らかになりました。Qkiを欠損したマウスに比して、正常マウスでは脳室帯に存在するPax6陽性の神経幹細胞が、脳室の管腔側から逸脱、脳室下帯にまで分散し、その周辺領域では異所性の神経細胞の産生が見られました(図2)。

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Qkiを欠損したマウスの神経幹細胞では、どの細胞間接着に関わる標的RNAのスプラシングに変化があるのか、分子群の増幅量を解析するqRT-PCR法で調べたところ、神経幹細胞性の維持に重要な経路の分子群であるTncやPtprz1、さらに癌細胞の糖代謝にも関連するPkmのスプライシング異常が見られ、その結果、神経幹細胞の細胞接着に異常を来たしていることが明らかになりました(図3)。

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以上の結果から、Qki5が胎生期神経幹細胞においてRNAを制御し、細胞間接着を調節することで神経幹細胞の適切な機能の保持に働いていることが、世界に先駆けて明らかとなりました。
本研究は、主に武田薬品工業株式会社湘南インキュベーションラボラトリー(SIL)及び文部科学省(MEXT)/日本学術振興会(JSPS) 新学術領域「ノンコーディングRNAネオタクソノミ」などの助成を受けて実施されました。
 
【用語説明】
(注1)HITS-CLIP(high-throughput sequencing UV cross-linking and immunoprecipitation)
包括的RNA-タンパク質相互作用部位マッピング技術。ゲノムから転写された全転写産物のどこにRNA結合タンパク質が結合しているかを生体内において捉え、一塩基レベルの解像度で結合配列を明らかにすることができる方法。
 
(注2)RNA結合タンパク質
RNA(リボ核酸)に結合するタンパク質群の総称。ヒトでは1542種存在することが知られている。
 
(注3)Quaking
KHタイプのRNA結合タンパク質。選択的スプライシングによりQki5、QKi6、Qki7の異なるアイソフォーム(同一遺伝子より産生され、一部の構造、機能が異なると推測されるタンパク質)が存在する。RNAに結合することでmRNAの選択的スプライシング(成熟したmRNAが作られる機構)、安定化、翻訳制御、miRNA、ciRNAの生合成を制御している。これまでに、神経系ではグリア細胞の一つであるオリゴデンドロサイトの細胞系譜における機能が詳しく解析されてきた。
 
(注4)神経幹細胞
神経系の組織幹細胞。自己複製能(幹細胞を維持する能力)と多分化能(様々な種類の細胞に分化する能力)を有する。順序立てて多様な神経系の細胞を産み出し、神経系の構築および維持に重要な役割を持つ。
 
(注5)スプライシング
ゲノムDNAの遺伝子には、たんぱく質をコードしているエクソンと呼ばれる領域がたんぱく質をコードしていないイントロンと呼ばれるに領域によって分断されている構造が存在する。ゲノムDNAからRNAに転写されたのちに、不要なイントロンが除去され成熟したmRNAが作られる機構をスプライシングと呼ぶ。エクソンは常に選択されてたんぱく質に翻訳される恒常的エクソンとスプライシングを行う部位や組み合わせが変化する選択的エクソンが存在する。その選択的エクソンを制御する機構が選択的スプラシングであり、機能的たんぱく質の多様性に寄与している。
 
(注6)RNA-seq(RNAシークエンス)
次世代シークエンス法を用いて全転写産物の配列情報をバイアスなく読み込み、発現量を定量する方法。
 
Ⅲ.今後の展開
本研究成果はQki5が新規の神経幹細胞の制御因子であり、神経幹細胞の機能にかかわることを明らかにしたことから、幅広い神経疾患や癌の病態解明や新規治療法の開発へと波及することが考えられます。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、本研究成果は平成29年10月12日4時(日本時間)に、米国コールド・スプリング・ハーバー研究所が出版する生物学に関する学術雑誌「Genes & Development」誌のAdvanced online版に掲載されました。
論文タイトル:An RNA-binding protein Qki5 regulates embryonic neural stem cells through pre-mRNA processing in cell adhesion signaling
(邦訳:RNA結合蛋白質Qki5は、細胞接着シグナルに関わるmRNAスプライシングを担うことにより、胎生期神経幹細胞を制御している)
著者:矢野(早川)佳芳*、陶山智史*、野上真宏、湯上真人、古家育子、周麗、阿部学、崎村健司、竹林浩秀、中西淳、岡野栄之**、矢野真人**(*共同筆頭著者 **共同責任著者)
doi:http://www.genesdev.org/cgi/doi/10.1101/gad.300822.117.
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
神経生物・解剖学分野
准教授 矢野 真人(やの まさと)
E-mail:myano@med.niigata-u.ac.jp

慶應義塾大学医学部生理学教室
教授 岡野 栄之(おかの ひでゆき)
E-mail:hidokano@a2.keio.jp

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平成29年10月04日

No_64 コンドロイチンが大脳の柔軟性を制御する−脳内コンドロイチンによる神経回路の成長促進−

新潟大学の研究グループは、脳内のコンドロイチン硫酸(CS)の量に応じて神経回路の成長期が制御されることを、世界で初めて発見しました。軟骨の成分としても知られるコンドロイチン硫酸は一般に「コンドロイチン」と呼ばれる物質とほぼ同様の物質で、脳内にも豊富に含まれています。大人の脳に含まれる多量のコンドロイチン硫酸は、神経の成長を抑制的に調節することが知られています。コンドロイチン硫酸は子どもの脳にも少量含まれていますが、その作用は不明でした。今回、脳内コンドロイチン硫酸が異常に減少するマウスを解析することにより、少量のコンドロイチン硫酸には抑制性神経細胞(注1)の働きを活発にさせ、子どもの脳の成長期を促す作用があることを明らかにしました。医歯学総合研究科 神経発達学分野 杉山清佳准教授、侯旭濱特任助教、分子細胞機能学分野 五十嵐道弘教授らによる研究成果です。
 
【本研究成果のポイント】
・少量のコンドロイチン硫酸は体験・経験を介した脳の成長期「臨界期」の誘導に必要である
・大脳のコンドロイチン硫酸の生成にはCSgalnacT1遺伝子が働く
・大脳の抑制性神経細胞異常を原因とする病気の新治療法開発に有益
 
Ⅰ.研究の背景
一般的に子供の頃に音楽やスポーツ、外国語などを習い始めると、大人になってから始める場合と比べ上達・習得が早いことを、私たちは経験則として知っています。子ども脳には、個々の体験・経験に依存して、神経回路を活発に作る成長期(=「臨界期」)があります。
子どもの視力が発達する際にも、臨界期は重要な役割を果たします。両目で見た情報は大脳の視覚野に送られます。臨界期に片目をふさいで見る経験を遮断すると、ふさいだ目からの情報よりも、開いた目からの情報を多く受け取るように、視覚野の神経回路が作り変えられます。その結果、ふさいだ目の視力は著しく弱くなり(弱視)、臨界期を過ぎた大人になってから治療しても回復しないことが知られています。逆にふさいだ目の視力を回復するためには、神経回路が作り変えられる臨界期のうちに治療を施す必要があります。しかしながら、どのような仕組みで子ども脳にのみ臨界期が現れ、またなぜ大人の脳には臨界期がないのか、いまだに分からない点が多くあります。
 
Ⅱ.研究の内容
これまでに研究グループは、大脳の抑制性神経細胞の成熟とともに、臨界期が現れることを明らかにしています。車がブレーキとアクセルの適切な組み合わせで安全に運転できるのと同じように、抑制性神経細胞(ブレーキ)が的確に興奮性神経細胞(アクセル)を制御してこそ、脳の神経回路は機能的に作られます。それでは、抑制性神経細胞は、どのような仕組みで成熟するのでしょうか?
大脳のPV細胞(抑制性神経細胞の1つ、注2)の周囲には、細胞の成熟とともにコンドロイチン硫酸を豊富に含む網目構造が構築されます(図1)。この網目構造は、大人の脳において神経回路の形成を抑制することが報告されています。一方、臨界期の子ども脳においても、コンドロイチン硫酸はPV細胞の周囲に少量ながら存在しています。研究グループは、脳内コンドロイチン硫酸を減少させたマウス(CSgalnacT1遺伝子欠損マウス、注3)の解析により、少量のコンドロイチン硫酸が臨界期の誘導に必要不可欠であることを明らかにしました(図2)。これまで、臨界期の回路形成の誘導と抑制には、それぞれ異なった分子メカニズムが働くと推測されていましたが、今回の研究により、同じ分子であるコンドロイチン硫酸の量により制御されることが示されました。さらに、2光子顕微鏡を用いて、目に光を当てた際の視覚野のPV細胞の応答(ブレーキ機能)を計測すると、コンドロイチン硫酸の異常な減少により応答が減弱することが分りました(図3)。そのため、このマウスにPV細胞の機能を高める薬(ジアゼパム)を投与すると、1回目の投与により臨界期の始まりを、2回目の投与により臨界期の終わりを、それぞれ正常に導くことができました(図4)。
コンドロイチン硫酸はタンパク質に付加してプロテオグリカンという構造として体内に存在しており、脳内ではアグリカンというタンパク質と多く結合しています。本研究では、コンドロイチン硫酸-アグリカンがPV細胞を成熟させる作用を持つOtx2タンパク質(注4)と結合し、Otx2をPV細胞に蓄積させることが分りました(図4)。また逆に、Otx2は、PV細胞においてアグリカンの量を増加させる作用を持つことが示唆されました。臨界期は生涯に一度だけの特別な脳の成長期であり、一度誘導されると、一定期間の後に抑制されます。今回の発表により、Otx2を介した脳内コンドロイチン硫酸の量の調節が臨界期の始まりと終わりのタイミングを決める、タイマーの役割を果たすことが明らかになりました。
 
Ⅲ.社会的意義・今後の展開
臨界期は、神経回路が個々の経験を元に集中的に作られる、脳の成長期と考えられ、近年の早期教育を促す根拠の1つになっています。一方で、臨界期が現れる仕組みには分らないところが多く、臨界期を制御する遺伝子を解明することが重要です。臨界期を制御する遺伝子の全容が明らかになれば、弱視の治療を含め、大人の脳に臨界期を安全に誘導することで、疾患からの脳機能の再建など、新しい治療法の開発に役立つことが期待されます。本研究では、コンドロイチン硫酸の量を増減させることにより、臨界期をコントロールすることができました。
近年、臨界期やPV細胞の機能異常が、精神疾患(自閉症、統合失調症など)の一因となることが示唆されています。さらに、精神疾患の誘因とPV細胞の周囲に蓄積するコンドロイチン硫酸との関連が報告されつつあるため、将来的には、コンドロイチン硫酸によるPV細胞の機能の改善が、精神疾患の症状の軽減に繋がることも期待されます。

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用語解説
注1:抑制性神経細胞
GABA(あるいはグリシン)作動性神経細胞。興奮性神経細胞がシナプス結合を介して次の神経細胞に興奮を伝播するのに対して、興奮を抑制し、伝播を遮断する役割を持つ。大脳や記憶を司る海馬では、このような抑制性神経細胞は十種類以上存在することが知られている。
 
注2:PV細胞
カルシウム結合タンパク質である Parvalbumin(PV)を含有する抑制性神経細胞。大脳視覚野では抑制性神経細胞の約5割を占める。非常に早い頻度でGABAを放出する特性を持ち、興奮の伝播を抑えるために、強い抑制能を持つことが知られる。
 
注3:CSgalnacT1遺伝子
コンドロイチン硫酸は鎖のようにつながって、特定のタンパク質に結合してプロテオグリカンを形成する。コンドロイチン硫酸を合成する過程で必要な酵素は十数種類存在しており、CSgalnacT1遺伝子は、酵素の中でも重要なCSGalNAcT1転移酵素をコードする。実際に、この遺伝子を欠くマウスではコンドロイチン硫酸が著しく減少するため、生体内におけるコンドロイチン硫酸の生成・維持に寄与すると考えられる。
 
注4:Otx2タンパク質
DNA結合領域(ホメオボックス)を持つホメオタンパク質ファミリーの1つで、遺伝子発現の調節を司る転写因子に属する。Otx2ホメオタンパク質は、胎児の脳の形成に必要不可欠な分子として知られているが、筆者らは、生後の脳の成長にも必須であることを示した(http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2008/20080808_1/20080808_1.pdf)。特に、大脳においてPV細胞の機能を正常に発達させ、コンドロイチン硫酸と協調して、臨界期の誘導と抑制に作用する。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成29年10月3日午後6時(日本時間)のScientific Reports誌に掲載されました。
論文タイトル:Chondroitin Sulfate Is Required for Onset and Offset of Critical Period Plasticity in Visual Cortex
著者:Hou X, Yoshioka N, Tsukano H, Sakai A, Miyata S, Watanabe Y, Yanagawa Y, Sakimura K, Takeuchi K, Kitagawa H, Hensch TK, Shibuki K, Igarashi M and Sugiyama S
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
神経発達学分野 杉山清佳 准教授
E-mail:sugiyama@med.niigata-u.ac.jp
 
新潟大学大学院医歯学総合研究科
分子細胞機能学分野 五十嵐道弘 教授
E-mail:tarokaja@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年09月20日

No_63 共用試験臨床実習後OSCEが実施されました

平成29年9月9日(土)13:00〜17:35まで臨床技能教育センターの3階と4階において6年生127名に対する診療参加型臨床実習後OSCEが実施されました。
 
試験課題に共用試験実施評価機構から提供されたトライアル課題が含まれていました。試験課題はむつかしいものでしたが、6年生全員が真剣に取り組んでいました。
 
平成32年(2020年)からは全国82医学部において医師国家試験OSCEに準じた試験として共用試験診療参加型臨床実習後OSCEが実施されることになっています。今回の試験はその準備を兼ねて実施されました。
 

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平成29年08月10日

No_62 「薬」の振る舞いと効きめを体内で測る新技術 針状“ダイヤモンド電極センサー”を使って開発 −さまざまな病気の治療法や創薬に期待−

【本研究成果のポイント】
・薬は体に入ると、脳など全身の臓器に運ばれます。各臓器は、役目の異なった細胞の“小さな”かたまりが多数集まってできています。薬の濃度は、それぞれのかたまりの中で刻々と移り変わっていきます。この薬の振る舞いと細胞の働きの変化は、薬の効能に深く関わりますが、今まで測ることができませんでした。
・本研究では、これらの同時計測に、針状に加工した「ダイヤモンド電極センサー」を使った新開発の薬物モニターシステムにより、実験動物で成功しました。世界初です。
・この技術は、副作用を抑えて効果を最大にする投薬法や、安心・安全・有効な創薬を発展させます。
 
新潟大学大学院医歯学総合研究科・超域学術院の日比野浩教授および緒方元気助教らと慶應義塾大学理工学部の栄長泰明教授らの合同研究チームは、針状の「ダイヤモンド電極センサー」(図1)を用いた薬物モニターシステムを開発しました。そして、東京大学大学院薬学系研究科の楠原洋之教授、同工学系研究科の高井まどか教授のチームと共に、生きた動物の脳や内耳において、極めて狭い空間(1ミリ以下)でのさまざまな「薬」の振る舞いとその作用を、リアルタイム計測することに世界で初めて成功しました。この成果は、8月10日に科学雑誌 Nature Biomedical Engineering(2017年1月創刊:採択率6%以下)のオンライン版に掲載されます。
 
Ⅰ.研究の背景
口や注射により体内に入った薬は、脳や心臓をはじめとしたあらゆる臓器に行き渡ります。どの臓器も、性質や役割が異なった細胞の“小さな”かたまりがいくつも集まってできていますが、病気の多くはその一部が悪くなることで起こります。薬が標的とする細胞のかたまりに届いているかどうか、そして、薬が届いた場合、その“濃度”と“細胞の働き”が時間とともにどのように移り変わっていくか、を知ることは、薬の効果や副作用を調べるうえで非常に重要です。しかし、意外にも、極めて狭い空間では、これらの指標を今までの方法で測ることができませんでした。
 
Ⅱ.研究の成果
以上の困難な測定を動物実験レベルで世界で初めて実現したのが、ホウ素を含んだ特殊な「ダイヤモンド」を用いた本研究の新技術です。この最先端素材により創った電極は、優れた特性を示し、さまざまな物質に対する次世代センサーとして期待できることを、栄長教授は以前より報告してきていました。
細胞のかたまりは、1ミリに満たないものも多くあります。日比野教授らが中心となり新たに開発した薬物モニターシステムは、二つのセンサーから成ります。一つは、先のサイズが1ミリの25分の1(40 μm)である「針状ダイヤモンド電極センサー」(図1)であり、これで薬の濃度を敏感に測ります。ダイヤモンドの使用には大きな理由があり、後述します。もう一つの「微小ガラス電極センサー」(図2)は、先が1ミリの1000分の1(1 μm)で、細胞の電気信号を直接観察することができます。病院や薬局で処方される薬の約15%は、この電気信号を特定の臓器で強めたり弱めたりします。
これら二つのセンサーを細胞のかたまりの近くに入れることにより、日比野教授は刻々と変わる薬の振る舞いと細胞の働きを、“同時にリアルタイムで”モニターすることに成功しました。
図3は、抗てんかん薬ラモトリギンをラットに静脈注射した際の“脳”での反応です。右パネルが実験結果です。ラモトリギンの濃度(紫)が上がりはじめると同時に、神経細胞の電気活動(赤)が強く抑えられています。その後、薬はゆっくり推移し、投与後15分ほどで減少に転じていくこともわかります。
図4は、高血圧の治療に使われる利尿薬ブメタニドをモルモットに与えた際の“内耳”での反応です。内耳は鼓膜(こまく)の奥にあり、音を電気信号へ変えて脳へと運ぶカタツムリ型の臓器です(図4左)。ブメタニドは、時に内耳の電気活動を悪くして難聴を起こします。右パネルが測定結果です。ブメタニドを静脈注射すると、この薬の濃度(緑)が急に上がり、投与後1分余りですぐに下がっていくのがわかります。同時に測った内耳細胞の電気活動(赤)は、ブメタニドの濃度がピークになったころから低下していきます。また、薬の変化の様子は、図3と図4で明らかに違います。
抗がん剤ドキソルビシンの振る舞いも、モルモットの体内で測ることができました。さらに、この薬物モニターシステムは、さまざまな抗がん剤、抗うつ薬、抗生剤の計測にも使える可能性があることもわかりました。工夫をすれば、心臓や腎臓などでも測定できると考えています。したがって、汎用性の高い技術です。
本研究で極めて重要な点の一つは、薬のセンサーに「ダイヤモンド」を使ったことです。一般に、電極センサーで水に溶けた物質を測る場合には、それぞれの物質にとって理想的な電圧条件を探します。時に、物質の反応(酸化還元反応)に加えて、水の反応(水の電気分解)が起こってしまいます。必要な成分は、物質の反応です。予備実験で、通常の材料であるカーボン(炭素)をセンサーに用いてみると、水の反応が大きすぎて、薬の反応がかなり隠れてしまい、よくわかりませんでした。白金や金などの素材も、それらの性質から、同じ問題が考えられました。しかし、ダイヤモンドを利用すると、水の反応が起こりにくく、薬の濃度に比例した電極センサーの反応がきれいに観察できたのです。また、電極センサー自身が持つノイズを比べても、ダイヤモンドの場合は非常に低い特徴があります。したがって、複雑な脳や内耳でも、少ない量の薬を鋭敏に測れることがわかりました。ダイヤモンドは、細胞の原料となる炭素が変化したものなので、体にやさしい素材です。また、特殊な分子構造を持つため、汚れがつきにくく安定した反応がえられます。これらの性質により、体内での計測に、近い将来、欠かせないものになると期待されてきましたが、今回、医・工・薬の異分野融合研究により薬の計測への応用が示されました。
 
本研究では、日比野教授らが、自身が得意とする「微小ガラス電極センサー」を、栄長教授が開発・工夫した「針状ダイヤモンド電極センサー」と組み合わせたことで、薬の振る舞いと効きめを体内で計測する革新的システムが誕生しました。“コロンブスの卵”的な発想です。

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Ⅲ.今後の展開
本研究で開発した技術を活用・応用すれば、以下のような波及効果が見込まれます。
(1)安心・安全・有効な創薬の発展。
(2)副作用をできるだけ抑え、薬効を最大にする薬の投与法の考案。
(3)ドラックリポジショニング(註1)の推進。
 (註1)特定の病気に効く既存薬から、別の病気に効く薬を見つけだすこと。
(4)オーダーメイド治療法の展開。
これらの展望は、針状ダイヤモンド電極センサーの性能を上げ、細胞の信号を観測するさまざまなセンサーと組み合わせていくことで、ますます現実的になっていきます。
 
論文タイトル:A microsensing system for the in vivo real-time detection of local drug kinetics
著者:Genki Ogata, Yuya Ishii, Kai Asai, Yamato Sano, Fumiaki Nin, Takamasa Yoshida, Taiga Higuchi, Seishiro Sawamura, Takeru Ota, Karin Hori, Kazuya Maeda, Shizuo Komune, Katsumi Doi, Madoka Takai, Ian Findlay, Hiroyuki Kusuhara, Yasuaki Einaga*, and Hiroshi Hibino*(*共同責任著者)
Nature Biomedical Engineering
DOI: 10.1038/s41551-017-0118-5
■図1, 3, 4は、上記論文から転載
 
なお、薬物モニターシステムの開発は、公益財団法人 中谷医工計測振興財団 技術開発研究助成【特別研究】の研究課題「ダイヤモンド微小電極を駆使した内耳薬物動態の計測基盤の開発(研究代表者:日比野浩(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 教授))」の支援により行われました。また、ダイヤモンド電極センサーの研究開発は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 ACCELの研究開発課題「ダイヤモンド電極の物質科学と応用展開(研究代表者:栄長 泰明(慶應義塾大学 理工学部 教授)、プログラムマネージャー:塚原 信彦(JST))」の一環として行われました。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科(医学部)
教授 日比野浩
E-mail:hibinoh@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年07月31日

No_61 日本初となる、肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤の治験を開始します

本学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の寺井崇二教授とロート製薬株式会社は、新しい治療方法の開発が望まれている肝硬変を対象とした再生医療研究開発を進めてきました。
 
この度、日本初の肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤 ADR-001 の治験を、治験責任医師の寺井教授と本学医歯学総合病院にて開始いたします。
 
詳しくはこちら(新潟大学ホームページ)をご覧ください。

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平成29年07月12日

No_60 「損傷した肝細胞を排除する仕組みを発見」−肝臓を構成する細胞の品質管理による恒常性維持機構−

消化器内科学分野の寺井崇二教授が東京医科歯科大学 仁科博史教授らと行った共同研究により、損傷した肝細胞を排除する仕組みが発見されました。
この研究成果は、国際科学誌 Nature Communications に、2017年7月6日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されました。
 
Miyamura N, Hata S, Itoh T, Tanaka M, Nishio M, Itoh M, Ogawa Y, Terai S, Sakaida I, Suzuki A, Miyajima A, Nishina H. YAP determines the cell fate of injured mouse hepatocytes in vivo. Nat Commun. 2017 Jul 6;8:16017.
doi: 10.1038/ncomms16017. PubMed PMID: 28681838.
掲載URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28681838
 
東京医科歯科大学のプレスリリース
http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20170706_2.pdf

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平成29年06月23日

No_59 脳卒中後に出現する第2の貪食(どんしょく)細胞「貪食性アストロサイト」の発見 −脳卒中の予後・治療に期待−

概要
山梨大学医学部薬理学講座 小泉修一教授及び森澤陽介研究員(研究当時、現東北大学助教)らの研究グループは、生理学研究所 鍋倉淳一教授、大野伸彦准教授(現自治医科大学)、慶應義塾大学医学部 岡野栄之教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科 竹林浩秀教授、群馬大学生体調節研究所 佐藤幸市准教授とのチームと共同で、マウスを使った実験によって、脳卒中(脳梗塞)による傷害後期に、これまでおとなしい神経組織の支持細胞と考えられてきた「グリア細胞¹」の一種、アストロサイト²が貪食能³を獲得し(貪食性アストロサイト)、死細胞断片などの不要物質を貪食する(食べる)ことにより脳内から除去すること、およびその分子メカニズムの一端を明らかにしました。これらの働きは主に、神経機能の回復に重要と考えられている時期および場所(梗塞辺縁部(ペナンブラ)⁴)で観察されたことから、脳梗塞後の組織の修復及び再構築と大きく関与し、脳梗塞の予後に影響している可能性が示唆されました。
本研究成果は、Nature Communications誌に掲載されました(日本時間平成29年6月22日午後6時 オンライン版掲載)。
 
背景
脳卒中は脳梗塞、脳出血及びくも膜下出血等からなる脳血管障害で、国内の患者数、約120万人の重篤な疾患です。我が国死亡原因の第4位を占め、また一命をとりとめたのちも、重篤な後遺症(片麻痺、運動・意識障害、失語、疼痛)に悩まされる患者さんは多く、その予防、治療、さらにより良好な予後を確保する戦略が医学的にも社会的にも重要な課題になっています。脳血管障害で、最も割合の多い疾患が脳梗塞です。脳梗塞は、脳血管が詰まって脳血流が滞ることで(虚血)、酸素・栄養が神経細胞に届かなくなるために、脳が傷害され、やがて死に至る疾患です。素早く血流を確保することが最も重要ですが、血流を再開させた後に脳機能がうまく回復しなかったり、脳の機能障害が徐々に進行する等、未解決の問題が多く、またこれらに対する有効な治療法は非常に乏しいのが現状です。脳梗塞により引き起こされる脳内の分子病態を正確に理解し、新たな治療戦略・治療法の開発を確立することが急務であると言えます。
脳梗塞による傷害を免れた脳部位を、上手に保護し回復させるためには、血流の確保に加えて、脳梗塞により惹起された種々のダメージを取り除き、脳内環境を整える必要があります。これまで、このような役割を担う細胞は、ミクログリア⁵と呼ばれる脳内免疫担当細胞であると考えられていました。ミクログリアは、非常に応答性が早い細胞で、様々な脳の疾患、外傷、さらに感染により異物が脳内に侵入した場合は、素早く当該部位へ集まり、死細胞及び死細胞から流出する有害物質、異物などを食べて除去します。ミクログリアは、完全に死んでしまった神経細胞等を取り除くためには重要な細胞ですが、脳梗塞後のペナンブラ領域(梗塞の辺縁部)等、今後の回復が期待される脳部位での、細胞修復や環境整備に関係しているかどうかはよく分かっていませんでした。今回、アストロサイトと呼ばれる別のグリア細胞が、このペナンブラ領域で、貪食性を獲得し、「貪食性アストロサイト」に変化することが明らかになりました。アストロサイトは、神経細胞や血管周囲に豊富に存在し、神経細胞を物理的に支持したり、血管からの栄養を神経細胞に伝える重要な役割を担っている細胞です。今回このアストロサイトが、脳梗塞後に貪食能を獲得することで、第2の貪食細胞として、ペナンブラ領域の環境整備、脳の修復に関与している可能性が明らかになりました。
 
研究成果
今回、研究チームは、マウスの脳卒中モデルである、一過性脳梗塞モデル⁶を用いて、これまでおとなしい神経組織の支持細胞と考えられてきたアストロサイトが、脳梗塞後に「貪食性アストロサイト」に変身し、傷害された神経細胞やその突起、さらにシナプス⁷等を貪食により除去していることを発見しました。これまで、死細胞を貪食により除去すると考えられていたのはミクログリアですが、ミクログリアは、脳梗塞後直ぐに梗塞巣の中心部位(コア)⁴へと集積して多数の死細胞を貪食により取り込みます。一方、貪食性アストロサイトは傷害から1週頃をピークにゆっくりと主に梗塞巣周辺部位に集積し、脳梗塞により傷ついた神経細胞、シナプスを貪食することがわかりました。アストロサイトとミクログリアは、脳梗塞後に、異なる時期、傷害程度が異なる部位で、それぞれ貪食作用を示していること、また3次元電子顕微鏡⁸による詳細な観察から、貪食により取り込む細胞断片の量は、両細胞で同程度であることが明らかになりました。つまり、アストロサイトも十分な量の貪食を行う貪食細胞に変身することができ、ミクログリアとは異なる時期・空間で、その貪食作用を発揮していることが明らかになりました。
また、アストロサイトが貪食能を獲得する分子メカニズムとして、ABCA1⁹という分子の発現が亢進することを見出しました。脳梗塞後にアストロサイトはABCA1を強く発現し、ABCA1依存的に貪食します。アストロサイト特異的にABCA1を欠損させたマウスでは、脳梗塞後の貪食が著しく低下し、梗塞巣の周辺部位により多くの死細胞の断片が蓄積する傾向があることも明らかになりました。脳梗塞後の細胞断片の残存は、組織・神経回路の再構築・修復の障害になることから、アストロサイトが貪食性を獲得し、脳内微小環境を整備している可能性が予想されます。
 
本研究は、日本学術振興会 新学術領域研究「グリアアセンブリの動作原理の解明」(研究代表者:小泉修一教授)、挑戦的萌芽研究、基盤研究(B)、若手研究(B)、 特別研究奨励費、及び日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「脳神経回路の形成・動作原理の解明と制御技術の創出」(研究代表者:鍋倉淳一教授、研究分担者:小泉修一教授)、山梨大学最先端脳科学研究による支援を受けて行われました。なお、AMED-CRESTにおける本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されたものです。
 
今後の展開
本研究によって、脳梗塞後に、アストロサイトが貪食性を獲得すること、及びその分子メカニズムが明らかになりました。また、貪食性アストロサイトの活動が、脳梗塞の予後に大きく影響する可能性が示唆されました。今後は、アストロサイトの貪食が、梗塞辺縁領域の修復・再構築に与える影響を精査し、そのコントロールを可能とする薬物等を見出すことにより、アストロサイトの視点から脳卒中の予後及びリハビリ等に役立つ戦略開発に結びつけたいと考えています。
 
用語説明
1. グリア細胞:
脳を構成する神経細胞以外の細胞群。グリア細胞は、神経細胞のように電気的な興奮性を示さない一方で、カルシウムイオン等の細胞内イオン濃度変化を利用して情報を授受していると考えられている。グリア細胞にはアストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトなどが含まれる。
 
2. アストロサイト:
グリア細胞の一種で、神経細胞の周囲に豊富に存在し、神経細胞の物理的支持、栄養供給などを行う。近年、アストロサイトも伝達物質を放出し、神経伝達、ひいては脳機能に影響を及ぼすことが明らかになり、注目を集めている。一方、脳外傷、脳梗塞などの急性傷害だけでなく、慢性神経変性疾患など、ほぼ全ての脳病態時に活性化型と呼ばれる状態へと遷移し、その形態・性質を激変させることも知られる。
 
3. 貪食:
死細胞やその断片などの不要異物を細胞内へと取り込み、除去する作用。
 
4. 梗塞巣(コア)と傷害辺縁部(ペナンブラ):
脳梗塞によって生じる傷害は、修復不可能なダメージを受けた不可逆的な梗塞部位(梗塞巣)と血流の低下は伴うが細胞死を免れ、血管の再開通などによって救出可能な梗塞巣周囲の傷害辺縁部(ペナンブラ)に分けられる。
 
5. ミクログリア:
グリア細胞の1種で、脳内における免疫担当細胞。正常時には、細かな突起を周囲に伸ばして周辺環境を監視し、病態時には、環境の変化を察知し、その性質を変化させる。炎症応答や脳内不要物質の除去だけでなく、神経細胞の保護などその機能は多岐に渡る。
 
6. 一過性脳梗塞モデル:
本研究では中大脳動脈閉塞モデルを用いた。塞栓糸を頚動脈から中大脳動脈まで挿入、留置することで脳虚血を誘導した。一定時間後、塞栓糸を引き抜き、閉塞を解除(再灌流)し、一過性の脳梗塞を起こした。
 
7. シナプス:
神経細胞同士の接続部分で、神経細胞間の信号伝達部位。神経回路網の最小ユニット。シナプスが新たに形成・消去することで神経回路が再構築され、学習や記憶といった脳機能が実現されると考えられる。シナプスの再構築は病態時にもよく観察され、脳梗塞後は特にペナンブラ領域で頻繁に起こるとされる。
 
8. 3次元電子顕微鏡:
電子顕微鏡では光の代わりに電子線を利用し、光学顕微鏡では検出限界以下の超微細構造を可視化することができる。ミクロトーム組み込み式走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)を用いて、連続断面画像を取得し、得られたデータをコンピュータ上で3次元再構築することで、超微細構造を3次元立体的に観察した。
 
9. ABCA1:
ABCトランスポーターの一種で、線虫で発見された貪食必須遺伝子ced-7の哺乳類相同遺伝子。マウスにおいても発達期のマクロファージによる貪食に重要であることが報告されている。MEGF10、GULP1といった分子と共役して貪食に重要な役割を果たすことが知られる。
 

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論文情報
「論文タイトル・著者情報」
Reactive astrocytes function as phagocytes after brain ischemia via ABCA1-mediated pathway
Yosuke M Morizawa, Yuri Hirayama, Noubuhiko Ohno, Shinsuke Shibata, Eiji Shigetomi, Yang Sui, Junichi Nabekura, Koichi Sato, Fumikazu Okajima, Hirohide Takebayashi, Hideyuki Okano, and *Schuichi Koizumi *責任著者
 
Nature Communications
掲載URL:http://www.nature.com/ncomms
 

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平成29年04月19日

No_58 神経生化学分野 五十嵐道弘教授の発表論文が、Cell Pressの「超解像度顕微鏡を用いた研究」の解説記事に紹介されました

3月9日掲載の神経生化学分野のプレスリリース記事に関する論文(Nozumi, Nakatsu, Katoh, Igarashi: Cell Rep 18:2203-16 [2017])について、Cell Press(http://www.cell.com/)のHPで、Cross talk欄(2017年4月)に”Changing how biologists see with superresolution microscopy”(http://crosstalk.cell.com/blog/changing-how-biologists-see-with-superresolution-microscopy)という超解像度顕微鏡の最近の進歩に関する解説記事がS. Buttery 博士によって書かれ、その中で標記の論文が引用・紹介されています。

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平成29年04月14日

No_57 神経生化学分野 五十嵐道弘教授の論文発表が Journal of Neuroscience の表紙に採用されました

医学科HPに3月23日付掲載のプレスリリース論文(Honda A et al.: Journal of Neuroscience 37(15): 4046-4064)が、掲載号(2017年4月12日号)の表紙に採用されました。
 
当該の写真(下図)は、医学科共通機器の超解像度顕微鏡(SIM)を用いて撮影されたものです。
 
詳しい説明はhttp://www.jneurosci.org/を参照願います。
 

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連絡先
神経生化学(生化学第二)
五十嵐道弘 教授
e-mail:tarokaja@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年03月23日

No_56 神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見 −うつ病やアルツハイマー病,BSE,HIV脳症などの研究に貢献−

本学医歯学総合研究科 五十嵐道弘教授、本多敦子特任助教、伊藤泰行助教らの研究グループは、神経細胞表面においてGPM6aタンパク質がトランスデューサー(シグナル変換器)*¹として作用し、細胞外から細胞内へのシグナル伝達*¹を、脂質ラフト*²を介して制御する機構を世界で初めて発見しました。
 
この発見は、細胞外基質*³のシグナルに応じた神経細胞極性*⁴の決定制御機構を明らかにしただけでなく、うつ病、アルツハイマー病、BSE、HIV脳症などGPM6a発現低下が関係する疾患の研究への貢献が期待されます。本研究成果は、本学大学院医歯学総合研究科と愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所、愛知医科大学との共同研究によるもので、The Journal of Neuroscience(インパクトファクター 6.780)に2017年3月8日(水)(米国時間)オンライン速報版に掲載されました。
 
【本研究成果のポイント】
・神経の脂質ラフトにあるGPM6aタンパク質の局在化が、脂質ラフトと神経極性決定に関与する細胞内シグナル分子の集積を誘導し、脂質ラフトにおけるシグナル伝達を制御することを発見。
・GPM6aタンパク質が、細胞外基質ラミニンの刺激に応じて細胞表面でのシグナル変換器(トランスデューサー)として作用し、ラフトを介してシグナル伝達の増強することで、素早い神経極性決定を誘導することを明らかにした。
・GPM6タンパク質発現の抑制は、脳内での神経発生に重要な神経極性決定を停滞させたことから、GPM6aの発現量の低下が、ストレスやウイルス感染に伴う神経疾患の発症機序に関係していると考えられる。
 
Ⅰ.研究の背景
脂質ラフト(ラフト)は、主に糖脂質とコレステロールから構成される細胞膜上の微小膜領域で、シグナル分子が集積するシグナル伝達の場として大事な役割を持ちます。またラフトは、疾患や細菌・ウイルス感染などにも深く関係し、様々な細胞においてその重要性が示されていますが、脳の神経細胞ではラフトの具体的な役割は殆ど分かっていません。一方、神経細胞はこれらの脂質が他の細胞に比べて圧倒的に大量に存在するため、ラフトの重要性も非常に高いものと考えられます。
 
神経細胞は、脳における精密な回路形成や情報の伝達のため、軸索とよばれる一本の長い突起と樹状突起とよばれる短い多数の突起を形成します(図1)。この神経極性決定も、細胞表面における細胞外からのシグナル伝達により制御されるはずですが、未解明のままでした。
 

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Ⅱ.研究の概要
神経細胞の細胞表面におけるシグナル伝達の制御メカニズムを明らかにするため、本研究チームは、以前、成長円錐(軸索形成に重要な先端部)で最も多く発現する膜タンパク質の1つとして同定したGPM6aに注目しました(Nozumi, Honda, Igarashi ら, PNAS, 2009)。
 
GPM6aは細胞膜で、ラフトに局在することを発見しました。GPM6aのラフトにおける局在と、ラフト自体の位置関係を調べたところ、正常なGPM6aは、自身が局在化する神経突起の先端にラフトを密集させましたが、ラフトに局在化できない変異型のGPM6aは、その集合を引起こさず、GPM6a局在が細胞表面のラフトの集合を作り出すことがわかりました。
 
また細胞外基質タンパク質の1つであるラミニンのシグナルが、GPM6aの偏った局在を作ることが分かりました。GPM6aが局在化した神経細胞では、ラフトがGPM6aと同様の、偏った分布を示していました。一方で、GPM6aが欠損した神経細胞では、ラミニンのシグナルがあっても、ラフトの局在化ができず、細胞外のラミニンシグナルにより、GPM6aは細胞表面で偏って局在化し、ラフトの集積を引起こすことを証明できました(図2)。
 

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次に、GPM6aが細胞内で相互作用する分子を調べたところ、神経極性決定に関与するシグナル分子と複合体を形成することを見出しました。ラミニンシグナルによりGPM6aが局在化する際の、ラフトとシグナル分子群の分布を比較すると、両者がGPM6aと同様にラフトに集合しており、GPM6aの欠損した神経細胞では、ラフトもシグナル分子もそれぞれ細胞表面にバラバラに分布してしまうことが分かりました(図2)。
 
ラミニンのシグナルは、神経極性決定までの時間過程を著しく短縮し、GPM6aの欠損した神経細胞ではその作用が生じないことから、GPM6aがラフトと細胞内の神経極性決定シグナル分子の集積を引起こした結果、シグナル伝達の増強が生じて、速い神経極性の決定が誘導されることが明らかになりました。この結果は、マウス胎仔の脳内におけるGPM6aの発現の抑制が、脳神経細胞の神経極性決定を遅延させた結果(図3)と一致していました。
 

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Ⅲ.研究の成果
今回の結果は、GPM6aという分子による、神経細胞外から細胞内へのラフトを介した新たなシグナル伝達制御機構を明らかにしました。
 
本研究において、GPM6aは細胞表面上のトランスデューサーとして、細胞外のラミニンシグナルに応じて、ラフトを介して神経極性決定のシグナル伝達を制御し、非常にスピーディーな神経極性決定を誘導しました。
 
本研究での、マウス脳におけるGPM6aの発現阻害による神経極性決定の遅延の知見は、GPM6aによるシグナル伝達制御が脳形成において重要な役割を持つことを示すと共に、慢性ストレスやウイルス感染などによるGPM6aの発現抑制が、精神疾患や神経疾患を誘発する可能性を明らかにしました。
 
Ⅳ.今後の展開
今回発見した、GPM6aをトランスデューサーとした脂質ラフトを介したシグナル伝達の制御機構は、神経極性決定過程だけでなく、他のシグナル伝達過程にも多様に機能している可能性が高いため、ラフトを介した脳のシグナル伝達の制御機構解明の鍵となります。
 
GPM6a発現の抑制は、うつ病やアルツハイマー病、BSEやHIV脳症などの、精神疾患や神経疾患を発症した患者ではGPM6aの発現量が顕著に低下しています。従って、臨床医療においてGPM6a発現量の測定が、これら疾患の発症診断の指標(バイオマーカー)として活用できることが期待されるだけなく、これらの疾患でのGPM6aによるシグナル伝達を明らかにすることで、疾患の発症原因の解明や、治療法の開発に大きく寄与できます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2017年3月8日(米国時間)のThe Journal of Neuroscience誌(IMPACT FACTOR 6.780)オンライン速報版に掲載されました。
http://www.jneurosci.org/content/early/2017/03/08/JNEUROSCI.3319-16.2017
 
論文タイトル:Extracellular Signals induce Glycoprotein M6a Clustering of Lipid-rafts and associated Signaling Molecules
著者:Atsuko Honda¹,², Yasuyuki Ito¹, Kazuko Takahashi-Niki¹, Natsuki Matsushita³, Motohiro Nozumi¹, Hidenori Tabata⁴, Kosei Takeuchi¹,³ and Michihiro Igarashi¹,²
1) Department of Neurochemistry and Molecular Cell Biology, Graduate School of Medical and Dental Sciences
2) Transdiciplinary Research Programs, Niigata University, Niigata 951-8510, Japan
3) Department of Medical Biology, Aichi Medical University, Nagakute, Aichi 480-1195, Japan
4) Department of Molecular Neurobiology, Institute for Developmental Research, Aichi Human Service Center, Aichi 480-0392, Japan
DOI:https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3319-16.2017
 
用語説明
1. シグナル伝達・トランスデューサー:
細胞は、外部の環境・状況に対応するために、その情報(シグナル)を、シグナル分子とよばれる因子から因子へ次々に化学的に伝達しあうことで、自らの挙動を決定する。シグナル伝達の経路は大きく分けて、細胞表面において細胞外から細胞内へシグナルを伝達する過程と、細胞内でのシグナルの伝達過程の2つに分けられる。前者では、細胞外の物理的・化学的シグナルが、細胞表面のトランスデューサーにより、細胞内シグナル分子によるシグナルに変換されて伝達される。
 
2. 脂質ラフト:
マイクロドメインとも呼ばれる細胞の膜上の、流動性(流れ)の低い微小な領域のこと。細胞の膜は主に流動性が高い脂質から成っているが、この部分はコレステロールと糖脂質に富み、流動性が低い(流れが遅い)。ここにシグナル分子などの、膜のタンパク質が集積し、細胞表面でのシグナル伝達をはじめ、細胞接着や細胞極性[用語解説4神経極性参照]、細菌・ウイルス感染などにおいて重要な場として機能すると考えられている。膜全体を水面に例えた場合、そこに浮かぶ筏(ラフト)のイメージから、脂質ラフトと呼ばれる。
 
3. 細胞外基質:
生体内で細胞と細胞の間を埋める構造体で、細胞の機能や分化を制御する細胞外の微小環境である。実際には細胞外基質は単なる隙間ではなく、シグナル伝達分子やその受容に関する分子群が多数存在している場所である。細胞外基質のシグナルは、シグナル伝達により細胞外から細胞内に伝えられる。
 
4. 神経(細胞)極性:
細胞極性とは、細胞の持つ空間的な極性(偏り)の総称で、神経細胞は、精巧な脳神経回路の形成や情報の伝達をおこなうため、高度に発達した細胞極性を形成している。神経極性により、通常、神経細胞は1つの細胞体から一本の長い軸索と複数の樹状突起を形成し、樹状突起で他の神経細胞から情報を受取り、細胞体で情報を統合、軸索により次の細胞へと情報を出力することができる。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
分子細胞機能学分野 五十嵐道弘 教授
e-mail:tarokaja@med.niigata-u.ac.jp

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