肝疾患トピックス


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*肝疾患トピックス

  1. SEN virusは非A-E型輸血後肝炎の原因ウイルスか?(August 20, 2001)

    ベンチャー企業であるDiaSorin社においてクローニングされたあらたな非A-E型肝炎ウイルス候補であるSEN virusが非A-E型輸血後肝炎の原因であるか否かについての検討がNIHのAlterの研究室で行われたので、その結果について紹介する。
    〔背景と目的〕SEN virus (SEN-V)は最近同定された一本鎖環状DNAウイルスである。非A-E型輸血後肝炎の原因としての役割を検討するため、二つのSEN-V variants (SENV-DとSENV-H)をPCR法で調べた。
    〔結果および結論〕輸血後のSEN-V感染の頻度は30%(86/286)で、非輸血例のコントロール群の3%(3/97)に比して、有意に(p<0.001)多かった。輸血後の感染リスクは輸血量が増えるほど増加(p<0.0001)し、sequence homologyの検討よりSEN-Vがドナーからレシピエントに移行していることが確認された。436名のvolunteer donorsにおけるSEN-V陽性率は1.8%であった。輸血後非A-E肝炎患者においては輸血により12例中11例(92%)においてSEN-Vが陽性となったのに対し、肝炎を起こさなかったレシピエントにおけるSEN-V陽性化率は225例中33例、24%であった(p<0.001)。併存するHCV感染をSEN-V感染が重症化させたり、持続させたりといった影響を及ぼすことはなかった。SEN-Vに感染した31名のレシピエントのうち、1年以上感染が持続したのは45%であり、12年まで感染の持続を確認した例が13%にみられた。SEN-V特異的RNA(おそらくは増殖中間体)は肝組織内に認められた。結局、SEN-V-Dと-Hは米国における供血者の2%に認められ、輸血のみにより伝播し、しばしば持続感染となる。SEN-Vと非A-E型輸血後肝炎とがコントロール群と比べて強い関連性を有していることはSEN-Vが輸血後肝炎の原因ウイルスであるかもしれないという可能性と提示しているが、確証となるものではない。なぜならSEN-V感染レシピエントの殆どは肝炎を発症していないからである。
    〔コメント〕SEN-VはTTVと同様一本鎖環状DNAウイルスであり、祖先が同じであることが報告されている。非A-E型輸血後肝炎におけるTTVの意義はあまり無いというのが現時点における趨勢であるが、SEN-Vはどうだろうか?今後の検討によりじきに明らかにされることになると思われる。

    文献

    1. Umemura T, Yeo AE, Sottini A, Moratto D, Tanaka Y, Wang RY, Shih JW, Donahue P, Primi D, Alter HJ. SEN virus infection and its relationship to transfusion-associated hepatitis. Hepatology 2001; 33: 1303-11.

    (文責 新潟大学医学部第3内科 高橋 達)


  2. HBsAg特異的Th1によって引き起こされる肝障害のeffector phaseにおけるTNF-αとIFN-γの重要な役割について(July 10, 2001)。

    HBsAgとHBsAg特異的Th1により引き起こされた重症肝炎のモデルが報告されているので紹介する。
    〔背景と目的〕肝炎の病態におけるTh1の免疫機構はLPSやConAなど非特異的免疫活性物質による実験的肝障害モデルにおいて明らかになりつつあるが、HBsAgによるものは報告されていなかった。ここではHBsAg特異的なTh1による肝障害について報告する。 〔方法〕可溶性のHBsAgタンパクはマウスに静脈注射されることにより肝特異的な集積を示す。このHBsAgの独特な性質を用い、HBsAgタンパクを注射したマウスにHBsAg特異的Th1を移入することによって肝に炎症が起こるか否か検討した。
    〔結果と考察〕上記の結果、肝組織上広範な壊死炎症を見ることが出来た。Th1の関与する肝障害の分子機構を明らかにするために、種々のknockoutマウスをrecipient やdonorとして、wildより得たHBsAg特異的Th1を用いて同様の実験を行った。その結果Fas-deficientであるlprマウスに移入した場合、wildと同程度の肝障害を認めた。またperfolin knockoutマウスから得られたHBsAg特異的Th1はrecipientであるwildとlprマウスの両方において重症肝炎を引き起こした。このことより、このモデルの肝障害においてFas ligandやperfolinはTh1の傷害機能に関与しないことが判った。更に、抗TNF-α抗体を予め注射したマウスでは重症肝炎は起こらないが、TNF-α knockoutマウスでは重症肝炎が起こり、またIFN-γ receptor deficientマウスはTh1の関与する肝障害においては抵抗性であったことより、effector phaseにおいてHBsAg特異的Th1によって産生されたTNF-αとIFN-γが劇症肝炎の病態において重要であると考えられた。
    〔コメント〕ウイルス性肝炎においては肝炎ウイルスそのものには細胞傷害性がなく、免疫学的機序によりウイルス感染細胞の障害が生じるものと考えられている。今回の実験においてHBsAg特異的Th1に関与するサイトカインの役割を調べることによりウイルス性肝炎の機序の一部を解明することが出来たと考えられるが、他の免疫細胞との関与も含め今後更なる研究が期待される。

    文献

    1. Ohta A, Sekimoto M, Sato M, Koda T, Nishimura S, Iwakura Y, Sekikawa K, Nishimura T. Indispensable role for TNF-α and IFN-γ at the effector phase of liver injury mediated by Th1 cells specific to Hepatitis B Virus surface antigen. J Immunol 2000; 165: 956-961.

    (文責 新潟大学医学部第3内科 塚田知香)


  3. B型肝炎ウイルス感染による非代償性肝硬変患者に対するラミブジン治療(February 27, 2001)

    ラミブジンは、エイズ治療薬として開発された逆転写酵素阻害活性を持つヌクレオシドアナログであるが、B型肝炎においてもウイルスの増殖と壊死性肝炎の活動性抑制に大いに有用である。その一方で、B型肝炎ウイルス感染に対するラミブジンの適応基準や使用方法は、臨床的にはいまだ十分に確立されていないのが現状である。J of hepatology (2000 Aug)に2つの施設から同時に非代償性肝硬変患者に対するラミブジン治療の成績が報告されたので紹介する。
    文献1)YaoらはHBV-DNA陽性でChilds-Pugh-Turcotte score(CPTスコア)が10点以上のB型肝炎ウイルス感染による肝硬変患者13例に150mg/日のラミブジンの投与をおこなった。9/13例(60%)で3点以上のCPTスコアの改善を認めた。HBV-DNA は投与後全例で陰性化し、1例を除いて再陽性化はみられなかった。HBe抗原は陽性者7例中3例でHBe抗原は陰性化したがHbe抗体の出現によるseroconversionは見られなかった。
    文献2)KapoorらはHBV感染による非代償性肝硬変患者に、ラミブジンの長期投与が有用かどうかについて検討した。対象18例のうち全例がHBV-DNA陽性で、10/18例でHBe抗原が陽性であった。これらの対象に平均17.9ヶ月のラミブジン150mgを投与した。3/10例(30%)でseroconversionを認め、うち1例ではHBs抗原の消失を認めた。AST、ALT,CPTスコアは有意に低下し、HBV-DNAは全例で8週以内に検出不能となったが、3例では再陽性となった。YMDD変異は1/18例(6%)で認められた。
    結論)いずれの報告でもラミブジン投与により、非代償性肝硬変患者のHBV-DNAが速やかに陰性化し、臨床的なstatus、検査成績ともに改善されることを示している。
    コメント)ラミブジンはB型肝炎ウイルスの増殖と肝炎の活動を抑制することはよく知られているが、肝硬変患者においても有効であるとする報告はきわめて意義深い。上記のいずれの報告でも変異株の出現による重大な結果はもたらされていないが、更なる長期投与を行った場合、変異株出現時の対処法や投与の適応基準など検討すべき問題はまだまだ多い。しかし、ラミブジンが臨床的に極めて有用であることは間違いなく、今後も注意深く見守ると同時に、われわれ臨床医は慎重に用いていく必要がある。

    文献

    1. Kapoor D, Guptan RC, Wakil SM, Kazim SN, Kaul R, Agarwal SR, Raisuddin S, Hasnain SE, Sarin SK. Lamivudine treatment in patients with severely decompensated cirrhosis due to replicating hepatitis B infection. J Hepatology 2000; 33: 308-312.
    2. Yao FY, Bass NM. Benefical effects of lamivudine in hepatitis B virus-related decompensated cirrhosis. J Hepatology 2000; 33: 301-307.

    (文責 新潟大学医学部第3内科 杉谷想一)


  4. テロメレース遺伝子導入による遺伝子治療によってマウスの肝硬変を治療する(February 27, 2001)

    加速的なテロメア長の短縮は肝硬変のような細胞回転の亢進した慢性炎症を終末期の臓器不全に導く因子と考えられている。この仮説を検証するためにテロメレース欠損マウス(telomerase RNA遺伝子の欠損マウス)に対して、遺伝子変化(自然肝障害を起こすトランスジェニックマウスとの交配)、肝切除、四塩化炭素のよる肝障害を負荷し、肝障害の重症度を検討したところ、テロメア長が短縮すればするほど、肝硬変への進展は早まり、肝再生も障害されていた。このマウスに対してAdenovirus Vectorを用いtelomerase RNA遺伝子を導入するとテロメレース活性を回復させることができたのみならず、肝硬変の病理組織像を改善し、肝機能も改善させた。この研究はテロメアの機能不全が継続的な細胞死、再生を繰り返す慢性疾患の病態に関与し、さらには”テロメラーゼ治療”への期待感を抱かせるものである。

    文献

    Rudolph KL, Chang S, Millard M, Schreiber-Agus N, DePinho RA. Inhibition of experimental liver cirrhosis in mice by telomerase gene delivery. Science 2000; 287: 1253-58.

    (文責 新潟大学医学部第3内科 大越章吾)


  5. 骨髄の血液幹細胞(hematopoietic stem cell)中には肝細胞へと分化する細胞が含まれている.(February 21, 2001)

    肝細胞が肝障害による増殖刺激を受けて増殖しようとしても、その増殖が妨げられるような場合、oval cellが増殖をはじめる.そのoval cellなるものはHeringのcanal近傍に存在するか、胆管細胞の近くに存在するblastlike cellかと思われている.肝細胞の増殖を抑制する物質としては2-acetylaminofluorene(2-AAF)が知られており、一方、実験に用いられる肝障害刺激としては四塩化炭素や、肝部分切除などがある.oval cellの細胞マーカーはCD34, Thy-1, c-kit, flt-3 mRNAなどであり、これらすべてがhematopoietic stem cell(HSC)の細胞マーカーでもある.
    Petersenら1)はoval cellや他の肝細胞が骨髄由来ではないかという仮説を検証するために、以下に述べる3つの方法を使った.
    1)致死量の放射線照射をしたfemale ratへのmale ratの骨髄移植
    この場合、donor由来の細胞マーカーとしてY染色体のsry領域を使用する.
    2)dipeptidyl peptidase IV(DPPIV)陽性のmale ratから陰性のfemale ratへの骨髄移植
    3)recipientとしてLewis rat(L21-6抗原陽性)、donorとしてBrown-Norway rat(L21-6抗原陰性)を用いた全肝移植(L21-6抗原陽性細胞が肝に広がれば、その肝細胞はrecipient由来であることがわかる).
    上記3つの系に、肝細胞の増殖を抑制し、oval cellの増殖を刺激する系として2-AAFと四塩化炭素肝障害を使用した.in situ hybridization, PCR, 免疫組織化学を用いて、donor由来とrecipient由来の細胞を区別した.
    まず第1の系である骨髄移植後、四塩化炭素肝障害を惹起させた場合、
    非実質細胞のThy-1+とThy-1-の群の両者に肝障害後9日目と13日目にY染色体sryがPCRで陽性となった(donorの骨髄由来の細胞が肝に陽性となったことの証明).
    Thy-1-のポピュレーションはdonor由来の非実質細胞からのシグナル(当然出るであろうシグナル)である.さらに9日目には出ないが13日目の肝細胞分画にY染色体sryが陽性であった.この時期はoval cellがちょうど肝細胞に分化する時期と重なる.もしすべてのoval cellが肝に由来する細胞であるのならば、Y染色体マーカーは出ないはずである.このことはY染色体陽性の肝細胞がdonorの骨髄細胞由来であることが考えられる.また9日目のThy-1+のポピュレーションにおけるY染色体陽性細胞はdonor由来のoval cellであり、13日目に肝細胞へと分化したと考えることもできる.このPCRの結果をconfirmするためにin situ hybridizationをさらに行った.その結果、
    1. male ratの肝細胞内にはY染色体sryが陽性となる(ポジコン).
    2. 雄性ラットから雌性ラットへの骨髄移植9日目のrecipientの肝臓内ではoval cellにY染色体陽性所見あり.
    3. 同様に骨髄移植13日目の肝細胞に陽性所見あり.
    4. female ratの肝細胞内には陰性.(ネガコン)
    かかる検討ではおよそ0.14%の肝細胞がY染色体陽性であり、このことから肝障害の13日後には9.9 x 10の5乗個の肝細胞が移植された骨髄由来であることがわかる.さらにYマーカーを有するThy+のoval cellは0.1%に存在していた.
    こんどはDPPIV+のF-344雄性ラットの骨髄細胞を致死量の放射線照射をしたDPPIV-のF-344雌性ラットに移植し、その後2-AAFと四塩化炭素プロトコールを用いた.このプロトコールのいいところはdonor由来の細胞をDPPIVの組織化学を用いて証明できることである.
    この結果、recipientの肝細胞に移植後11日から13日の間に、部分的に陽性所見が得られる事がわかった. oval cellにも陽性所見が得られるが、骨髄移植後2-AAFと四塩化炭素を投与しなかったrecipient ratの肝臓にはDPPIVの陽性所見は認められなかった.
    3番目の実験としてMHCクラスIIのL21-6陽性のLewisラットが同マーカー陰性のBrown-Norwayラットの肝臓のrecipientとなった場合を作成してみた.
    肝外から由来するoval cellはL21-6陽性、移植された肝臓から由来するoval cellはL21-6陰性であることで両者を区別できるわけである.
    Lewisラットに移植されたBrown-Norwayラット肝では2-AAFと四塩化炭素障害後、移植されたBrown-Norwayラットの肝内で広範なL21-6陽性細胞の存在を示す.これはLewisラット由来の免疫細胞がBrown-Norwayラット肝に反応していることを表している.活発に増殖しているoval cellによくみられるductal structuresにL21-6陽性所見が認められた.すなわち、oval cellのある部分は肝外に由来し、他のoval cellは移植された肝に由来するということがわかる.
    以上のことから、次のことがいえる.
    ある特殊なphysio-pathologicな条件下で、oval cellは2種の上皮細胞に分化する.すなわち肝細胞と胆管細胞である.oval cellは化学発ガンにも関与するが、急性肝不全の時にも活性化される.oval cellの前駆細胞はHeringのcanalか、胆管細胞近傍とされていた.胆管上皮がoval cellの増殖には必要とされ、それは何らかの支持作用、あるいは誘導作用を有しているからと考えられている.oval cellは骨髄の幹細胞と同様の表現型を有している.肝臓はたくさんの血液前駆細胞を含んでいるのだから、今回の実験結果も決して突飛なことをいっているのではないと著者らは述べている.
    次にTheise2)らは、急性の肝障害を欠いた系でも、骨髄移植により骨髄細胞由来の成熟肝細胞が肝内に見つかるということを証明(最大で2.2%)した.彼らはB6D2F1ラットを用い、雄から雌への同様の骨髄移植を実施し、Y染色体は蛍光プローブを用いたFISHにて証明している.200個のCD34+細胞のみを移植した系でも検討し、その際、20,000個の雌由来の骨髄細胞も支持用として同時に移植し、同様の結果を得ている.
    ヒトにおける最初の証明は同じくTheiseら3)によってなされた.この際、4例の男性から女性へのヒトの骨髄移植患者のautopsy標本と、2例の女性から男性への肝移植症例を対象として用いている.
    サイトケラチン8,18,19を特異的に染色する抗体であるCAM5.2 monoclonal抗体を用いた免疫組織化学は肝細胞と胆管細胞のみを特異的に染色し、非実質細胞の除外に役立つ.これにXとY染色体のFISHを同時に施行した.この結果、肝移植レシピエント肝のC型fibrosing cholestatic hepatitis症例がもっとも多くのdonor由来の肝細胞の存在を示し、肝細胞40%、胆管細胞38%にY染色体陽性を認めた.レンジは肝細胞4−40%、胆管細胞4−38%であった.以上より、彼らは肝細胞が骨髄細胞由来であることをヒトにおいても証明できた.こういうtransdifferentiationが肝再生時にヒトでも重要であろうと結論している.
    Lagasseら4)は骨髄細胞をtyrosinemia type 1の動物モデルであるFAH-/-マウスに静注すると、死ぬべきマウスが救命され、肝の生化学的機能が回復するということを報告している.さらに骨髄の中でも厳密に精製されたhematopoietic stem cellのみが血液系と肝臓のドナー由来の再生を起こすことをみた.これはhematopoietic stem cellがpluripotentな幹細胞であり、transdifferentiateし得るのか、あるいはより原始的な幹細胞であるという可能性を示している.彼らは以下に述べる3つの実験を通して、hematopoietic stem cell(HSC)のみが肝細胞へとtransdifferentiationする事をみた.
    “骨髄細胞が代謝性肝疾患を治癒に導く”
    彼らはfetal hereditary tyrosinemia type 1の動物モデルであるfumarylacetoacetate hydrolase (FAH)欠損マウスへの骨髄移植を実験モデルとして用いた.
    このmutant mouseはNTBC{2-(2-nitro-4-trifluoro-methylbenzyol)-1,3-cyclohemanedione}を投与し続けなければ、進行性の肝不全を生じ、腎尿細管障害を来す.
    第1の実験では雌のFAH mutantに致死量の放射線照射を行い、雄のFAH wild typeおよびlacZ遺伝子のトランスジェニックマウスの、あるいはROSA26/1295vマウスの精製されていない骨髄細胞を百万個移植した.移植3週目にNTBCの投与を中止し、肝に再配分される細胞のセレクションを行わせた.9匹中4匹が生存し、生存ラットは臨床的には病的ではなかった.7ヶ月後に屠殺して検討対象とした.4匹全部でβ-galactosidase染色を行うと、30-50%の肝細胞が陽性で、ドナー由来を示した.肝には50-200個の0.5-4mm径のdistinct noduleが観察された.臨床生化学的データ上、骨髄移植を受けたFAH mutantラットは受けていないラットに比べて有意に改善がみられている.組織学的にもFAH酵素陽性のドナー由来の大型肝細胞の存在が確認された.グルタミン合成酵素の分布は正常であることから、小葉構造は保存されていることがわかる.
    “血液幹細胞が肝細胞へと分化する”
    厳密に精製されたhematopoietic stem cell (HSC)が肝細胞に分化するかどうかを検討した.BAマウスにおいて、13個の細胞表面マーカーを用いて全骨髄細胞の0.01-0.05%に当たるHSCをFACSにて精製した.この細胞を致死量の放射線照射を行ったマウスに移植した.こうした細胞は結局数千倍に増えた.これらの細胞の性質は、
    c-kit(high)Thy(low)Lin(-)Sca-1(+)(Lin+はCD2, CD3, CD4, CD5, CD8, NK1.1, B220, Ter119, GR-1, Mac-1のいずれかが陽性であることを示す)である.すべてのHSCはCD45陽性であった.この細胞10個、50個、100個、1,000個を、2 x 10の5乗個のFAH陰性の雌の骨髄細胞(支持細胞として用いる)と共に静注した.最初の2ヶ月だけ、NTBCを飲料水に入れて飲ませた.そうすると、入れたHSCの数に応じて有核血球細胞が存在していた.その後の4ヶ月間にNTBCを2回止めて、肝への移植された細胞の動員をはかった.MHCの少し異なるマウス間での移植も行って検討した.
    肝臓の中におけるドナー由来の細胞はベータガラクトシダーゼ染色と、FAHの免疫組織化学を行って調べた.また、Y染色体のFISHも併用した.50-1,000個のHSCを移植した肝にベータガラクトシダーゼ活性陽性結節を認めた.結節の大きさは50個の肝細胞から成るものから、100万個の肝細胞からなるものまで様々であった.連続切片による検討では、ベータガラクトシダーゼ活性とFAH活性が同一の肝細胞に陽性であった。同時にこれらの肝細胞はY染色体も核内に陽性であった。これらの肝から初代培養肝細胞を樹立し、embryonic fibroblast feeder layer上で培養すると、ベータガラクトシダーゼとアルブミン両者陽性の肝細胞が確認できた. ベータガラクトシダーゼとDPPIV(CD26),それにアルブミンの同一肝細胞での発現を確認できたことから、ドナー由来の細胞は肝細胞であると証明された。E-カドヘリンと、hematopoietic lineage cocktail抗体による検討から、ドナー由来の細胞は成熟肝細胞であると確認された.すべてのドナー由来肝細胞がE-カドヘリン陽性でなかったのは、そのうちの一部がまだ増殖性の細胞であるからだと考えられた.病的な肝実質を置き換えるようにドナー由来の肝細胞がクラスターを作って一ヶ所に固まって存在することは、こうした細胞が機能を営んでいることを示しており、治療に応用できる可能性を示していると考えられる.
    ”HSCが肝細胞に分化できる唯一の骨髄細胞である”
    このことを証明するために、骨髄細胞をFACSを用いて、c-kit陽性と陰性、Lin陽性と陰性、Sca-1陽性と陰性に分けた.もしhepatic progenytorが単一の表現系を有するのであれば、一方の移植ではドナー由来の肝細胞が少なく、一方の移植では多くなるはずである.その結果、c-kit(-),Lin(+),Sca-1(-)細胞(骨髄細胞の99.9%を占める)では肝細胞に分化しないことがわかった.
    Discussionとして、肝にもともと存在するHSCはごくわずかであり、これは肝のホメオスタシスの維持に関係している.骨髄細胞中のHSCだけが肝細胞に分化する能力を有すると考えられる.骨髄細胞は筋細胞や、アストロサイト、原始間葉系細胞に分化することがすでに示されている.Rodentにおける研究では脳細胞が血液に、骨格筋が血液細胞に分化する細胞を含んでいることがすでに示されている.
    胎生期には原腸から膵と肝の原基が出来るとされている.本当にそうなのだろうか。Mesoderm,endoderm,ectodermと単一に分けられるものなのだろうか.こうした構造はもっとheterogeneousな細胞集団からなっているのではないだろうか.germ layer 起源であると同時に、もっとtissue specificなstem cellが分けられるのではないだろうか、と著者らは問いを発している.本研究はHSCのみが肝細胞に分化する能力を有していることを示しており、ヒトの肝疾患の治療に応用する際に、このことは大変重要である.
    また、骨髄(HSC)と肝の同時移植はrejectionの頻度や程度を減らし、免疫抑制剤の使用頻度を減らせるかもしれない.最近の骨髄移植の進歩であるminitransplantや、hematopoietic chimerism、donor specific tolerance without irradiationといった方法が他の臓器の治療にも生かせるかもしれないと著者らは結んでいる.

    文献

    1. Petersen BE, Bowen WC, Patrene KD, Mars WM, Sullivan AK, Murase N, Boggs SS, Greenberger JS, Goff JP. Bone marrow as a potential source of hepatic oval cells. Science 1999; 284: 1168-1170.
    2. Theise ND, Badve S, Saxena R, Hnegariu O, Sell S, Crawford JM, Krause DS. Derivation of hepatocytes from bone marrow cells in mice after radiation-induced myeloablation. Hepatology 2000; 31: 235-240.
    3. Theise ND, Nimmakayalu M, Gardner R, Illei PB, Morgan G, Tepperman L, Henegariu O, Krause DS. Liver from bone marrow in humans. Hepatology 2000; 32: 11-16.
    4. Lagasse E, Connors H, Al-Dhalimy M, Reitsma M, Dohse M, Osborne L, Wang X, Finegold M, Weissman IL, Grompe M. Purified hematopoietic stem cells can differentiate into hepatocytes in vivo. Nature Medicine 2000; 6: 1229-1234.

      (文責 新潟大学医学部第3内科 高橋 達)


  6. 新たに発見されたホスホマンノースイソメラーゼ欠損によるNグリコシド結合の異常(先天性肝線維症は糖鎖欠損糖蛋白症候群か?)(February 2, 2001)

    要約:反復性の嘔吐と先天性肝線維症に罹患している3人兄弟を対象とした.血清トランスフェリンの等電点電気泳動では,糖鎖欠損糖蛋白症候群I型でみられるアシアロ-およびジシアロトランスフェリンが増加していた.糖鎖欠損糖蛋白症候群I型の多くの患者で欠損しているホスホマンノムターゼは3人とも正常であった.血清トランスフェリンの構造解析では,無糖鎖,低糖鎖,正常糖鎖のトランスフェリンを認めた.これらの結果は,初期段階での糖鎖結合の欠損を示唆している.白血球,線維芽細胞,肝組織において,ホスホマンノースイソメラーゼ(PMI)の欠損が認められた.PMI欠損症は新たに発見された糖鎖結合異常であり,生化学的には糖鎖欠損糖蛋白症候群I型と区別がつかない.しかしながら臨床症状は全く異なっている.
    コメント:糖鎖欠損糖蛋白症候群は,糖蛋白の糖鎖の減少による遺伝性全身性疾患である.現在,トランスフェリンの糖鎖結合の状態により大きく4型に分類されているが,新たにIb型としてPMI欠損症が発見された.それぞれ糖鎖合成に関わる酵素欠損がその原因として報告されている.JaekenらはPMI欠損症患者の線維芽細胞からPMIのcDNAを採取しDNA配列を解析した.片アレルに2ヶ所の変異があり,アミノ酸置換されていた.もう一方のアレルには変異を認めなかったが,何らかの機序により発現が低下していることが推定され,PMI酵素活性の低下の原因になっていると考えられた.またPMI欠損ではグルコースを基にしてマンノース6リン酸に変換する系は障害されているものの,マンノースからマンノース6リン酸に変換する系には関与しておらず保たれている.マンノースは通常の食物中や細胞内で変性した糖蛋白からの再利用などでも供給されるが,生体内の糖鎖合成には量的に不十分である.そこでNiehuesらはPMI欠損症患者にマンノースを過剰に経口摂取させたところ,数週間で嘔吐や下痢が消失し,トランスフェリンの電気泳動パターンも改善したことを報告しており,マンノースによる治療効果が確認されている.PMI欠損と先天性肝線維症との因果関係は不明であるが,これまで報告されている先天性肝線維症の中にもPMI欠損が潜在している可能性があり,注目すべき疾患と思われた.

    文献

    1. de Koning TJ, Dorland L, van Diggelen OP, et al. A novel disorder of N-glycosylation due to phosphomannose isomerase deficiency. Biochem Biophys Res Commun 1998;245:38-42.
    2. Jaeken J, Matthijs G, Saudubray JM, et al. Phosphomannose isomerase deficiency: A carbohydrate-deficient glycoprotein syndrome with hepatic-intestinal presentation. Am J Hum Genet 1998;62:1535-1539.
    3. Niehues R, Hasilik M, Alton G, et al. Carbohydrate-deficient glycoprotein syndrome type Ib: Phosphomannose isomerase deficiency and mannose therapy. J Clin Invest 1998;101:1414-1420.


    (文責 新潟大学医学部第3内科 川合弘一)


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