肝疾患トピックス(1997 - 1999)


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*肝疾患トピックス(December 16, 1997 - October 15, 1999)

  1. 成人の初感染としてのB型急性肝炎後のウイルス血症の持続(October 15, 1999)

    B型急性肝炎は成人の初感染としての急性肝炎と、母児感染に由来するHBVキャリアの急性発症としての急性肝炎の2種類あり、後者の一部は慢性肝炎へと移行し肝硬変、肝細胞癌のハイリスクグループとしての位置づけがなされているが、前者は免疫不全状態などがない場合、一過性(self-limited)で、劇症化する場合を除いて治癒するものとされてきた。一方、血清学的にHBVの既往の感染パターンを示す肝移植ドナーからHBV感染マーカー陰性のレシピエントへの肝移植において移植後高率にHBVの感染が成立することが指摘されるようになった。成人の初感染としてのB型急性肝炎後、ウイルス血症が持続し続けるとの報告がなされているので紹介する。
    B型急性肝炎の経過中におけるウイルス血症の期間を特定するために、免疫不全のないB型急性肝炎患者の血清中におけるHBV DNAレベルをPCR-サザンブロッティングを用いて調べた.11例中10例の血清において、ウイルス蛋白に包まれていると考えられるHBV DNAが回復期から長期にわたって検出され、それは病初期から6−19ヶ月にもわたり、最終観察期にも認められた.血清中に存在するHBVの存在様式を決定するために、抗ヒトIgGを添加して、免疫複合体を免疫沈降し、ペレットと上清中のHBV DNAレベルをそれぞれ別に調べた.B型肝炎の急性期には上清とペレットにそれぞれ同程度の高レベルのHBV DNAが存在した.回復期以降になると、上清中のHBV DNAのレベルはペレットにおけるそれのレベルと比較すると、減少していた.注目すべきことに多くの症例ではHBsAgからanti-HBsへのセロコンバージョン以降もHBVは免疫複合体の形で血清中に存在していた.これらの結果から、HBVの増殖はB型急性肝炎の回復期以降も長期間にわたり幾つかの臓器、最も可能性が高いのは肝と末梢血球細胞において続く.そして血清学的には既往の感染マーカーを示すに過ぎない臓器移植ドナーからのHBVの伝播が起こりうることを示している.
    以上の結果は最近報告されたものであるが、さかのぼってみると1994年、Scripps研究所のChisariらのグループはすでに同様の報告をしており、成人の初感染としてのB型急性肝炎後最長5年以上にもわたって血中HBV DNAが陽性であることを報告している(文献2)。そしてそれは完全なHBVビリオンとしてHBs抗体と免疫複合体を形成して存在し、末梢血単核球においてHBV RNAが4例中2例に検出されたことから、HBVが肝のみならず末梢血単核球においても増殖している可能性を指摘している。最近C型肝炎、肝硬変からの肝細胞癌の増加が社会的問題となっているが、こうした集団においてもB型肝炎ウイルスの既往の感染パターンを示す症例が多いことから、かかる例においてはHCVのみならずHBVも重感染していることが今回の結果から推測され、、肝細胞癌の発症に及ぼすHBV持続感染の影響も今後検討されなければならないだろう。

    文献

    1. Yotsuyanagi H, et al. Persistent viremia after recovery from self-limited acute hepatitis B. Hepatology 27:1377-1382, 1998.
    2. Michalak TI, et al. Hepatitis B virus persistence after recovery from acute viral hepatitis. J Clin Invest 93:230-239, 1994.


    (文責 新潟大学医学部第3内科 高橋 達)

  2. サイモシンα1のB型慢性肝炎に対する治療効果(March 26, 1999)

    サイモシンα1がB型慢性肝炎の治療として有効であるとの報告がなされているので紹介する。
    目的 サイモシンα1は免疫調整剤でB型慢性肝炎に有効であるとされているがそれらを 確認すること
    方法 臨床病理学的にB型慢性肝炎と確認された98人を3つのグループに分け臨床病理学的に比較検討した。
    グループA:サイモシンα1を1.6mg皮下注、週2回、計26週継続投与
    グループB:サイモシンα1を1.6mg皮下注、週2回、計52週継続投与
    グループC:コントロールとして無治療
    結果 それぞれの治療終了時とコントロールとの比較ではHBV-DNAおよびHBe抗原が消失する著効率は各グループ間で差がないのに対し、治療開始後18ヶ月(72週)の段階での著効率はグループAで40.6%、B、Cではそれぞれ26.5%、9.4%とグループAで高かった(A vs C p=0.004 , B vs C p=0.068 , log rank test)。HBs抗原の消失した例は認めなかった。サイモシン治療は投与終了後より時間とともに著効率がしだいに増加していく傾向にあることがわかった。又、治療した患者では有意に組織学的にも改善が認められており、特に線維化以外の小葉の炎症に関して顕著であった。治療を受けた症例に関しては重大な副作用は全く認めなかった。
    結論 26週間のサイモシン投与はB型慢性肝炎患者に対し安全で効果のある治療法と考えられた。
    サイモシン投与によるB型慢性肝炎の治療は副作用もなくIFNやラミブジンよりも効果的であったとする報告が認められるが有効率40%は満足すべきものではない。さらなる効果を期待するためにIFNやラミブジン等とのcombination療法などが期待される。

    文献

    Chien RN, et al. Efficacy of thymosin alpha-1 in patients with chronic hepatitis B: A randomized controlled trial. Hepatology 27:1383-1387, 1998.

    (文責 新潟大学医学部第3内科 上原一浩)

  3. 原発性胆汁性肝硬変におけるヒト胆管上皮細胞膜抗原がpyruvate dehydrogenase Xである可能性について(January 5, 1999)

    原発性胆汁性肝硬変症(PBC)の小葉間胆管上皮に、PBC患者血清中の抗PDH抗体に反応する抗原が存在することが指摘されてきたが、この抗原がPDH complexのcomponent Xではないかという報告がなされているので、紹介する.
    「背景と目的」PBC患者が有する自己抗体はミトコンドリアに存在するmultienzyme complexのコンポーネントと反応することが知られている.ミトコンドリアと結合する以外に、患者の自己抗体、すなわちPDC(PDH) E2抗体は特にPBCの胆管上皮細胞膜と反応することが知られている.本研究の目的は胆管上皮細胞膜に存在する対応抗原が何かを明らかにすることである.
    「方法」PBCとコントロールの肝臓から得られた胆管上皮細胞の細胞質画分ならびに細胞膜画分から調整された抗原を抗PDC抗体で免疫ブロットすることにより、検討した.
    「結果」細胞質画分においては抗PDC抗体はウエスタンブロットで、ヒト心臓から抽出したPDCのE2ならびにXコンポーネントに対応する分子量の胆管上皮細胞由来蛋白分画と反応した.PBC肝とコントロール肝から得られた胆管上皮細胞のPDC-E2の間には反応性に違いがみられなかった.しかしながら、PBC肝においてはコントロール肝と異なり、50キロダルトン抗原が細胞膜画分に存在していた.この抗原は純化したヒト心臓PDCのコンポーネントXと同じ位置に泳動された.さらにこの抗原はPDC-Xに特異的な抗体によって認識された.
    「結論」これらの結果から、PDC-Xか、もしくはこれと交差反応する50キロダルトンの抗原がPBCの患者の自己抗体で認識される胆管上皮細胞膜抗原である可能性がある.さらに、PDC-E2ではなくこの抗原が、PBCにおける主要なB-cell targetとなっている可能性がある.

    文献

    Joplin RE, Wallace LL, Lindsay JG, Palmer JM, Yeaman SJ, Neuberger JM. The human biliary epithelial cell plasma membrane antigen in primary biliary cirrhosis: pyruvate dehydrogenase X? Gastroenterology 113:1727-1733, 1997

    (文責 新潟大学医学部第3内科 高橋 達)

  4. グルタチオン Sートランスフェラーゼジーンファミリーメンバーが自己免疫性肝炎の対応抗原である.(January 5, 1999)

    肝可溶性抗原(Soluble Liver Antigen; SLA)に対する自己抗体を有する、いわゆる自己免疫性肝炎type IIIの対応抗原がグルタチオン Sートランスフェラーゼジーンファミリーメンバーであるとの報告がなされているので、紹介する.
    [背景と目的]慢性肝障害の一形態である自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis, AIH)は循環自己抗体の特異性に基づいて、ふたつの亜型に分類される.Type I AIHは抗核抗体(ANA; antinuclear antibody)and/or抗平滑筋抗体(ASMA; anti-smooth muscle antibody)に対する抗体を有することにより定義され、type II AIHはcytochromeP450IID6に対する自己抗体を有することにより定義される.さらにもう一つのタイプのAIHがあることが知られ、これはサイトゾルの肝可溶性抗原(SLA)に対する抗体を有することにより特徴づけられる.このタイプはANAやASMAも共に陽性の場合と、そうでない場合とがある.本研究の目的は、100を越える極端に可溶性の蛋白からなるサイトゾル分画であるSLAに含まれる対応抗原を同定することである.
    [方法]SLAと反応する自己抗体を有する31名のAIH患者、ならびに30名の疾患コントロール患者から得られた血清でスタディーを組んだ.対応抗原を免疫沈降法(immunoprecipitation)、一次元及び二次元ポリアクリルアミド電気泳動後の免疫ブロット法(immunoblotting)にて検討した.対応抗原はそれに相当する蛋白スポットをマイクロシークエンシングすることにより同定した.
    [結果]31例の抗SLA抗体陽性血清中25例(80.7%)がグルタチオン S−トランスフェラーゼの3つのサブユニットであるYa、Yb1、Ycと同定される25から27キロダルトンに分布する一群の蛋白と反応した.
    [結論]グルタチオン S−トランスフェラーゼサブユニット蛋白がSLA抗体陽性の自己免疫性肝炎の主要な対応抗原であると結論される.この新知見はルーチンの病型診断における標準的イムノアッセイ法の確立に役立つであろう.

    SLAの対応抗原として、サイトケラチン8と18がその候補として今まで挙げられてきていたが、報告者たちは比較的綿密なimmunoassayの結果、グルタチオン Sートランスフェラーゼファミリーメンバーがその対応抗原であることを明らかにした.今後、多数の臨床検体について、本抗体の挙動やその意義が明らかにされていくことが期待される.

    文献

    WESIERSKA-Gadek J, Grimm R, Hitchman E, Penner E. Members of the glutathione S-transferase gene family are antigens in autoimmune hepatitis. Gastroenterology 114:329-335, 1998

    (文責 新潟大学医学部第3内科 高橋 達)


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  5. HCVのコア蛋白を導入したトランスジェニックマウスにおける肝細胞癌の発生、(November 6, 1998)
    C型肝炎の遺伝子導入マウスで初めての発癌モデルが得られたという報告がなされたので紹介する。このデータは1998年秋に金沢市で開催された第2回日本肝臓学会大会のシンポジウムにおいても発表され、話題になったものである.
    表題ーHCVのコア蛋白はトランスジェニックマウスにおいてHCCを誘導する。
    本文ーHCVは世界的に慢性肝炎の主な原因である。慢性肝炎は最終的には肝細胞癌(HCC)を発生する。しかし、慢性C型肝炎の発癌のメカニズムには未だ不明な点が多い。HCVのコア蛋白には遺伝子の転写や細胞増殖、細胞死を調整する能力があり、そのことがHCCの病因と関わり合いがある可能性がある。
     ここに私たちはHCVコア遺伝子をもつ2つのラインのトランスジェニックマウスにHCCができ、その初期像はC型肝炎に特徴的な脂肪変性であったことを報告する。  16月齢では、まず両方のラインのマウスには細胞質に脂肪滴を伴ったadenomaとして腫瘍が発生する。そしてadenomaの中からnodule in noduleの形態をとって脂肪滴を伴わなわず、より分化度の低い腫瘍(HCC) が発生する。この脂肪化に引き続いてHCCが発生するという現象は、C型慢性肝炎の患者に発生するHCCの初期の病理組織像とよく似ている。
    結論ーHCVのコア蛋白はHCC発生に重要な役割を持っている。これらのトランスジェニックマウスはHCV感染下で癌が発生するときの分子変化を探る良いモデルである。
     C型肝炎ウイルスはヒトとチンパンジー以外に感染を起こさないため、in vivoの感染実験モデルとしてトランスジェニックマウスによる実験系が期待されてきた。 しかし、HCVのトランスジェニックマウスはなかなかその導入遺伝子による蛋白の発現が難しいといわれ、実際、HCVコア遺伝子のトランスジェニックマウスは1997年にも複数の報告がなされたが、組織学的に肝炎やHCCの発生を証明した報告はみられなかった。今回の報告は世界初のHCVによる発癌マウスモデルの報告である。このマウスでは、肝炎や肝硬変を経ずにHCCが発生しており、ヒトにおける発癌の完全なモデルとは言えないが、発癌のメカニズムを解明するための手がかりとなることは間違いない。

    文献

    Moriya R, Fujie H, Shintani Y, Yotsuyanagi H, Tsutsumi T, Ishibashi K, Matsuura Y, Kimura S, Miyamura T, Koike K. The core protein of hepatitis C virus induces hepatocellular carcinoma in transgenic mice. Nature Medicine 4(9):1065, 1998

    (文責 新潟大学医学部第3内科 武田 康男)

  6. オクトレオチドによる肝細胞癌の治療。(July 15, 1998)
     オクトレオチドの投与が肝細胞癌に有効であるとの報告がなされているので紹介する。
    背景−切除不能肝細胞癌に対して満足できる治療法は確立されていない.ソマトスタチンは多種の非内分泌系腫瘍の増殖抑制効果が示されている.
    目的−ヒト肝臓におけるソマトスタチン受容体の存在の評価,進行肝細胞癌に対するソマトスタチンのアナログ製剤,オクトレオチドによる治療.
    方法−急性肝炎,慢性肝炎,肝硬変,肝細胞癌の症例より採取した肝組織のホモジネート中のソマトスタチン受容体を測定した.58例の進行肝細胞癌症例を,オクトレオチド250μgを1日2回皮下注射する治療群と,無治療の2群に無作為に分けた.各群の年齢,性別,Okuda分類,肝硬変の有無,肝生化学検査,肝炎ウイルスを比較した.
    結果−肝細胞癌を含む全症例の肝組織において,ソマトスタチン受容体が様々な量で存在することが確認された.治療群の中央生存期間が延長し(13ヶ月 vs 4ヶ月, p=0.002, log rank test),6ヶ月および1年生存率も増加した(75% vs 37%, 56% vs 13%).オクトレオチドの投与により,治療6ヶ月後のαフェトプロテインは有意に低下した.Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析では,生存率の増加に寄与する因子は,オクトレオチド治療,非肝硬変,血中アルブミン高値,小腫瘍径であった.治療を受けた症例は,多変量解析で明らかに低いハザード比(0.383)であった.
    結論−オクトレオチドの投与は有意に生存率を向上させ,切除不能肝細胞癌に対する有用な治療法の一つである.
     これまで動物実験において,乳癌,胃癌,大腸癌,膵癌などの腺癌の肝転移巣に対し,オクトレオチドに抗腫瘍効果があったという報告や,肝細胞癌の培養細胞に増殖抑制効果があったとする報告はみられていたが,本論文は実際にヒト肝細胞癌症例にオクトレオチドを投与した初めての報告だと思われる.外科的切除や血管造影による治療が不可能な高度に進行した肝細胞癌に対して,現在満足できる治療法はない.本報告によれば,オクトレオチドは非常に副作用が少なく,抗腫瘍効果により生存率を向上させる.まだ対象症例が少なく,作用機序も不明のため,実際臨床応用するには今後更に検討が必要であるが,進行肝細胞癌に対して期待できる治療薬といえよう.

    文献

    1. Kouroumalis E, Skordilis P, Thermos K, et al. Treatment of hepatocellular carcinoma with octreotide: a randomised controlled syudy. Gut 1998; 42: 442-447

    (文責 新潟大学医学部第三内科 川合弘一)

  7. インターフェロンの長期投与療法はB型肝硬変における発癌を抑制する。(July 9, 1998)
     B型肝硬変患者においてインターフェロンの長期投与がHCCの発生に与える影響を明らかにするため、313人の肝硬変患者を分析した結果が、症例が多いことで知られる虎ノ門病院のグループより報告されている(1)。313人のうち、94人は6ヶ月を越える長期のインターフェロン間歇投与を受け、残る219人はインターフェロン療法や他の抗ウイルス療法を受けなかった。  累積発癌率は治療群と非治療群では3年目の時点でそれぞれ4.5%と13.3%、5年目の時点で7.0%と19.6%、10年目の時点で17.0%と30.8%であり、治療群の発癌率は非治療群に比して有意に低かった。コックスのハザードモデルでもインターフェロン療法は独立した癌予防因子として判定された。ウイルス学的検討では、HBV DNAが10Meq/ml 以上の症例で特に発癌予防効果が明らかであった。従って、インターフェロン療法はB型肝硬変患者の、特に血清HBV DNA量が多い症例で発癌率を有意に低下させる。もしインターフェロン療法が対象を選んで投与されれば、たとえ肝硬変の患者においても発癌を効果的に予防することができるとしている。  当科においてはB型慢性肝炎のインターフェロン療法について、28日の短期投与は長期予後の改善に寄与していないという報告が第一回日本肝臓学会大会でなされている。今回の報告は、6ヶ月以上という長期投与を行うことにより、B型肝硬変であっても予後を改善しうるという結果で、今後の投与法、対象を選択する上で意義深い報告である。

    文献

    1. Ikeda K, Saitoh S, Suzuki Y, Kobayashi M, Tsubota A, Fukuda M, Koida I, Arase Y, Chayama K, Murashima N, Kumada H. Interferon Decreases Hepatocellular Carcinogenesis in Patient with Cirrhosis Caused by the Hepatitis B Virus. Cancer 82:827-35, 1998.


    (文責 新潟大学医学部第三内科 武田康男)


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  8. HBc抗体陽性ドナーからの肝移植によるB型肝炎の感染(April 10, 1998)
    血中HBs抗原陰性、HBc抗体陽性ドナーからの肝移植によるHBV感染についての臨床的研究の結果が報告された。1989年から1994年までの4カ所の移植センターにおいて674例のHBV感染の有無についての検討が可能であった。その結果、HBc抗体陽性のドナーから移植されたレシピエント23例中18例(78%)にB型肝炎が発症したのに対し、HBc抗体陰性のドナー肝を移植された651例中3例のみ(0.5%)にB型肝炎が発症した(p<0.0001)。ドナー肝から発症したレシピエントのB型肝炎においてはHBs抗原が全例で持続陽性となった。肝の組織学的検討では移植1年後に13例中2例に、また1.6年から4.5年後に8例中5例に中等度の活動性を示す慢性肝炎がみられた。HBc抗体陽性ドナーからの肝移植では4年生存率が陰性例からの移植に比べで有意に(p<0.005)低値を示した。これらの結果から、HBs抗原がたとえ陰性であっても、HBc抗体が陽性のドナーからの肝移植では移植後B型肝炎の発症が高率であるといえる。また移植によってかかるB型肝炎が感染することは、たとえ血清マーカーが既往の感染を示すものであっても、ウイルスがドナーの肝臓に存在している可能性を示すものである。欧米に比してB型肝炎の既往の感染頻度が高い我が国の肝移植においては、たとえドナーの血中HBs抗原が陰性であってもHBc抗体が低力価陽性の場合、レシピエントにB型肝炎が高率に発症する危険性を常に考えて、移植後の発症予防prophylaxisを強力に行う必要性があると指摘した点で、意義ある報告といえる。また、血中HBVマーカーが全て陰性のドナー肝の移植においても、B型肝炎の発症が0.5%にみられたことは興味深い。

    文献

    Dickson RC, Everhart JE, Lake JR, Wei Y, Seaberg EC, Wiesner RH, Zetterman RK, Pruett TL, Ishitani MB, Hoofnagle JH and The National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases Liver Transplantation Database. Transmission of Hepatitis B by transplantation of livers from donors positive for antibody to hepatitis B core antigen. Gastroenterology 113:1668-1674, 1997

    (文責 新潟大学医学部第三内科 高橋 達)

  9. TTVについて(February 26, 1998)
    日本の自治医大真弓グループのNishizawaらは非A-E型、非GBV-C/HGV型慢性肝疾患患者から新たな肝炎ウイルス候補をrepresentational difference analysis法によりクローニングし、TTウイルス(TTV)と名付け、BBRCに報告した(1)。その報告によればTTの名前はこのウイルスの遺伝子断片が血清中に見出された原因不明の輸血後肝炎の患者さんのイニシャルに由来している。500塩基対からなるこの遺伝子断片はN22と名付けられた。N22は既知のウイルス遺伝子配列とはホモロジーを有しない。N22はショ糖密度勾配遠心密度1.26g/cm3の分画に存在することから、ウイルス粒子に由来すると考えられた。TTVはDNase I感受性であることから、DNAウイルスであると考えられる。TTV DNAは非A-G輸血後肝炎の5例中3例の血清から検出された(イニシャルがTTの最初の症例を含む)。この3例においてはTTV DNAのタイターがトランスアミナーゼの変動と密接に相関していた。これらのことから、TTVは輸血後非A-G肝炎を惹起しうる新たなDNAウイルスであることが示された。
    同グループは1998年のHepatology Research1月号にさらにTTVの詳細を報告している(2)。TTV遺伝子のうち3,739塩基対の配列が決定された。TTVはTween80処理による変化はみられず、DNase Iのみならず、Mung Bean Nucleaseにも感受性であることから、TTVはエンベロープを有しない、一本鎖DNAウイルスであろうと考えられた。異なる読み枠の2つのopen reading frameが認められ、それぞれ770と202アミノ酸をコードしている。献血者と肝炎患者の78例から単離されたTTVの356塩基対からなる部分的配列を比較した結果、30%までの塩基配列多様性を認めることが出来た。血清と生検肝組織からPCR法によりTTV DNAを検出するために2つの良く保存された領域からオリゴヌクレオチドプライマーが作成された。このプライマーを用いたPCR法により、原因不明の劇症肝炎患者19例中9例(47%)、慢性肝疾患90例中41例(46%)、血友病患者28例中19例(68%)、静脈性薬物乱用者35例中14例(40%)、血液透析患者57例中26例(46%)、一般献血者290例中34例(12%)の血清からTTV DNAが検出された。TTV DNAは血清中におけると同等か、もしくは10-100倍の高力価で対応する肝組織5例全例から検出された。これらのことから、TTVは原因不明の急性および慢性肝疾患の一部の原因となっている可能性がある。これまでTTVに関して判ったことで注目すべきは非A-E型、非GBV-C/G型肝疾患の約半数の原因となっている可能性があること、一般献血者における陽性頻度がこれまで報告されてきたどの肝炎ウイルスよりも高頻度(12%)であることである。今後、TTVのさらなる臨床的意義について、一斉に各施設により検討が開始されることと思われる。また、ウイルス全長に亘る詳細な検討も開始されよう。

    文献

    1. Nishizawa T, Okamoto H, Konishi K, Yoshizawa H, Miyakawa Y, Mayumi M. A novel DNA virus (TTV) associated with elevated transaminase levels in posttransfusion hepatitis of unknown etiology. Biochem Biophys Res Commun 1997; 241: 92-97.
    2. Okamoto H, Nishizawa T, Kato N, Ukita M, Ikeda H, Iizuka H, Miyakawa Y, Mayumi M. Molecular cloning and characterization of a novel DNA virus (TTV) associated with posttransfusion hepatitis of unknown etiology. Hepatology Research 1998; 10: 1-16.


    (文責 新潟大学医学部第三内科 高橋 達)


  10. ALDH2遺伝子の欠損型と消化器癌の発生について(December 16, 1997)
     アルコール飲料として体内に摂取されたエタノールは胃と上部小腸で吸収され、門脈を経て肝に運ばれて代謝される。肝におけるアルコール代謝の主要な系はアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase: ADH)であり、生じたアセトアルデヒドはさらにアセトアルデヒド脱水素酵素(acetoaldehyde dehydrogenase:ALDH)により酢酸へ代謝される。血中のエタノール濃度が高い場合や常習飲酒の際にはMEOS(microsomal ethanol oxidizing system:MEOS)の系が誘導されてエタノールをアセトアルデヒドに代謝するが、MEOSを構成する主な酵素にcytochromeP4502E1がある。  ALDHには少なくとも4つのisozymeが存在し、ALDH1は肝細胞の細胞質に、ALDH2はミトコンドリアに存在し、活性は後者の方が高いため、肝でのアセトアルデヒド代謝の主役を演じている。ALDH2の正常型はALDH2*1であるが、日本人を含む東洋人の約50%にはALDH2活性欠損を示すmutant typeとよばれるALDH2*2を認め、これは第12染色体上に存在するALDH2 locusの第12exon上のG/CがA/Tに変異しているため、487番目のアミノ酸がGluからLysに置換されたものである。飲酒によりすぐに顔面紅潮を来し、気分不快に陥る人はALDH2*2のホモ(homozygote)、あるいはヘテロ(heterozygote)であり、oriental flusherと呼ばれる。したがって遺伝子型は正常型(正常/正常:ALDH2*1/ALDH2*1)、ヘテロの欠損型(正常/欠損:ALDH2*1/ALDH2*2)、ホモの欠損型(欠損/欠損:ALDH2*2/ALDH2*2)の3種がある。  ヘテロとホモの欠損者では飲酒後のアセトアルデヒドの最大血中濃度がそれぞれ正常者の6倍、19倍になるため、少量の飲酒で顔面紅潮、眠気や動悸などの気分不快を生じ、飲酒家にはなりにくい。しかし、ヘテロのALDH2欠損者では習慣的に飲酒して訓練すると数年でアセトアルデヒドに体が慣れてしまい、顔面紅潮も生じなくなり、常習飲酒家になりうる。アルコール依存症者でも10人に1人はヘテロの欠損者であるといわれる。  国立久里浜病院の横山らは1,000例の40歳以上のアルコール依存症男性患者に食道ヨード染色を併用した上部消化管内視鏡検診を実施した結果、3.6%(36/1,000)に食道癌を発見した。口腔咽喉癌と胃癌を含めると癌は5.3%(53/1,000)にみつかった。一般集検の食道癌発見率はX線検査による消化器集検全国集計では0.007%、内視鏡検診では0.03%、55歳以上の男性や酒・たばこを多飲する人のヨード染色検診では0.4-0.7%であるので、これらの報告と比べてアルコール依存症男性での発見率は著しく高いことを見出した。  そこで彼らは1987年1月より1997年3月の間に久里浜病院へ入院した40歳以上のアルコール依存症者男性4,057例について、入院後に癌と診断された152例とアルコール依存症の発症が先行する癌の治療歴を有した68例の計220例を対象とし、これらの癌のうち特に消化器癌の発症とALDH2の遺伝子型との関連についての検討を行った。癌の原発臓器は口腔咽喉32例、食道81例、胃57例、大腸42例、肝臓17例、その他13例であった。19例は重複癌であり、食道癌と重複した口腔咽喉癌または胃癌の組み合わせが14例と多かった、対照群は1996年1月から1996年10月に同院に入院した40才以上のアルコール依存症男性357例から抽出し、種々の検査で癌と診断されたか、癌の治療歴があった45例を除外した312例を癌のない対照群とした。前述した癌症例と、対照群のALDH2遺伝子型をPCR-RFLP法により判定すると、ALDH2*2を持った患者の遺伝子型は全て部分欠損(ヘテロ)であり、その頻度は口腔咽喉癌 50.0%、食道癌 51.9%、胃癌 21.1%、大腸癌 21.4%であり、癌のない対照群 8.7%より有意に高かった。重複癌では63.2%であり、特に食道癌と重複した口腔咽喉癌または胃癌では78.6%と著しく高頻度であった。肝臓癌とその他の癌ではこの傾向は認められなかった。年齢、飲酒量、喫煙量で補正したALDH2欠損者のオッズ比は口腔咽喉癌 9.95倍、食道癌 13.24倍、胃癌 3.49倍、大腸癌 3.38倍、重複癌 26.71倍、食道癌と重複した口腔咽喉癌または胃癌 66.51倍であった。肝臓癌とその他の癌では有意なオッズ比の上昇は認められなかった。  これらの結果から、横山らは膨大な疫学研究によりすでに確立されている口腔咽喉癌、食道癌と飲酒との関連をALDH2の部分欠損という面から再確認したことに加え、胃癌、大腸癌にも飲酒関連癌がある可能性を示すことが出来たとしている(第32回日本アルコール・薬物医学会総会抄録 p278-279, 1997)。  ちなみに横山らはALDH2部分欠損者を臨床の場で簡易に推測する方法を提案している。これは「ビールコップ1杯程度の少量の飲酒ですぐ顔が真っ赤になりますか?」と質問すると、飲酒経験の少ない若年の欠損者ではハイと答えることによりわかる。しかし常習飲酒家や飲酒経験の長い高齢者では欠損者でも時々しか顔が赤くならなかったり、全く顔に出ない人も少なくないので、「飲酒を始めた頃の1-2年間はビールコップ1杯程度の少量飲酒ですぐ顔が真っ赤になりましたか?」と質問することでほぼ正確にALDH2欠損の有無を判定でき、エタノールパッチテストよりも優れていたという。  以上の検討から横山らはALDH2欠損の大酒家は節酒したり、消化管癌検診を定期的に受けた方がよいとしている。

    文献

    1. Takahashi T, et al:Induction of Cytochrome P-4502E1 in the human liver by ethanol is caused by a corresponding increase in encoding messenger RNA. Hepatology 1993;17:236-245.
    2. 横山 顕ほか:アルコールと発癌 臨床外科 1997;52:1261-1265.
    3. Yokoyama A, et al; Esophageal cancer and aldehyde dehydrogenase-2 genotypes in Japanese males. Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention 1996;5:99-102.
    4. Yokoyama A, et al: Cancer screening of upper aerodigestive tract in Japanese alcoholics with reference to drinking and smoking habits and aldehyde dehydrogenase-2 genotype. Int J Cancer 1996;68:313-316.
    5. Yokoyama A, et al: Multiple primary esophageal and concurrent upper aerodigestive tract cancer and the aldehyde dehydrogenase-2 genotype of Japanese alcoholics. Cancer 1996;77:1986-1990.


    (文責 新潟大学医学部第3内科 高橋 達、新潟県医師会報1997年12月号、Q&A欄より抜粋)
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