September 19 ,2000
健康のページ

増加している癌、前立腺癌

医学部泌尿器科学教室 助教授 冨田善彦



はじめに

 1980年を境に悪性腫瘍(=癌)が日本における死亡原因の第一位となりましたが、その比率は1999年には30%を越えて、ほぼ3人に1人は癌で死亡するようになってきました。このように全体的には増加している癌ですが,その中でも増えている癌と、減っている癌があります.前立腺癌は増えている癌の中でも最近,急激に増加しています。

1.前立腺とは何でしょうか

 腎臓で作られた尿は尿管という管を通って膀胱にたまります.前立腺はこの膀胱のすぐ下に位置し,男性だけにある臓器でだいたい胡桃くらいの大きさです.前立腺は精液の一部をつくったり、射精に重要な働きをしています。
Fig.1

2.前立腺肥大症と癌

Fig.2

 前立腺についてよく耳にする病気としては、前立腺肥大症がありますが、基本的に前立腺肥大症と前立腺癌は別の病気です。左図のように前立腺肥大症は尿の通り道である尿道のすぐそばの移行域から発生するのに対して、癌の多くは直腸に隣り合わせる辺縁域に発生します。ですから、おしっこが出づらいなどの症状は前立腺肥大症のほうがでやすいわけです。逆にいえば、前立腺癌は大きくならないとそういった症状が出ないのが普通です。


3.早期発見と早期治療

 癌の治療の原則は早期発見早期治療ですが、前立腺癌でも同じです。しかし、前に述べましたように早期の前立腺癌は症状がないのが普通です。このために、残念ながら前立腺癌と診断されたときにはすでに転移していることもまれではありません。
 前立腺の診断はおもに3つの方法で行われます。まず一番大切なのは血液検査による診断です。検査する項目は前立腺特異抗原と呼ばれるもので、この英語の頭文字からPSAといわれます。この、PSAの検査で,ほぼ80%の前立腺癌が見つけられます。第2の方法は、泌尿器科専門医による直腸指診です。前立腺は直腸の裏側にあって、癌のできやすい部分がちょうど直腸に面しているので肛門から指を入れて前立腺を触ることができます。これを直腸指診といいます.泌尿器科の専門医は前立腺癌のほかに前立腺肥大症や前立腺炎の時の感触がわかっています。ですから、この直腸指診だけでも40%位の前立腺癌を見つけられます。第3の方法は経直腸前立腺超音波検査です。これは指のかわりに探蝕子(プローベ)と呼ばれる細い棒を肛門より挿入し、前立腺の内部を超音波で見るものです。これによって、血液検査(PSA)や直腸指診で異常がなくとも前立腺癌が発見されることがあります。
 また、前立腺癌は年をとるにつれてできやすくなります。50才未満の場合には前立腺癌になることはまれです。ですから、早期発見のためには50才を過ぎたら1年に1回は、血液検査(PSA)をすることをおすすめします。また、血縁者(血のつながりのある親戚の方)に前立腺癌にかかられたことがある場合には40才くらいから血液検査をすることをおすすめします。おしっこが出にくいなどの症状がある場合には年齢に関係なく泌尿器科専門医を受診することをおすすめします.

4.確定診断

 確定診断というのは、血液検査や直腸指診、経直腸超音波で前立腺癌が疑われた場合に、確実に前立腺癌であると確かめることです。このための方法は、経直腸超音波ガイド下前立腺生検という方法です。少し長い言葉ですが、要するに、前に述べた経直腸超音波で前立腺を観察しながら、前立腺の一部を特殊な細い針を用いて採ってくることです。この前立腺の一部を特殊な処理をした後に顕微鏡検査で癌細胞があるかどうかをみるのです.これを病理組織診といいます。この検査(生検)の仕方もいろいろな方法がありますが、最も一般的であるのは直腸から針を刺して6-8個所から採ってくる方法です。
 我々、新潟大学のグループはこの検査の際にパワードップラー超音波という新しい機械を使用し、超音波造影剤も使用することで癌の見逃しを少なくするようにしています。

5.治療

 治療は大きく2つに分けられます。一つは前立腺そのものに対する療法と、前立腺以外に広がってしまった場合の治療のふたつです。
 前立腺そのものに対する治療としては、手術による治療である根治的前立腺摘除術と放射線治療があります。根治的前立腺摘除術はへその下の15cm位の長さの傷で行うことが一般的ですが、我々は内視鏡を使ってなるべく小さい傷で行うようにしています。 前立腺以外に広がってしまった場合にはホルモン療法が行われます。多くの場合に前立腺癌細胞は男性ホルモンに依存して増殖しているために、男性ホルモンを抑制すると癌細胞の増殖をおさえられるのです。男性ホルモンの抑制法としては、4週間に一度皮下注射をする方法や、飲み薬で行う方法、または、体内の男性ホルモンのほとんどを作っている精巣(睾丸)を手術で摘出する方法があります。
 これらの治療は、病気の広がりはもちろん、患者さんの年令、他の病気の有無などを考えて選択してくことになりますが、場合によって組み合わせて行うこともあります。

おわりに

 前立腺癌はほおっておけば命を奪う病気ですが、早期に発見すれば治癒可能な病気です。また、すでに転移をしていた場合でも適切な治療を行うことによって普通の社会生活を長くおくれることも少なくありません。繰り返しになりますが50才を過ぎたら年に1回はPSAを測定する様にしていただきと思います。