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November 19 ,2001


ウイルス性肝細胞癌は予防、早期発見、再発防止で生命予後が改善できる

医学部附属病院第三内科講師

市田 隆文


−目次−
−ポイント−

(A)はじめに

 肝細胞癌と診断される機会が増えて来ています。これは肝細胞癌の実数が増えてきているのか、通常診療で診断できるようになってきたのか、それとも早期治療が容易になり生命予後が改善したのか、どれでしょう?

 2001年国民衛生の動向を見ると、年齢調整死亡率では男性の悪性新生物は右肩上がりですが、女性の悪性腫瘍も男女合わせた肝疾患も上昇傾向にありません。一方、死亡数を見ると、男性の肝臓の悪性腫瘍は5年ごとに4,000人から5,000人づつ増加していた上昇曲線がやや緩慢になり、この5年間での増加は260人程度になってきています。すなわち肝細胞癌を代表とする肝臓の悪性腫瘍での死亡数は頭打ちになったと判断できます。この要因として、早期発見システムの確立と、質の高い局所制御が可能な早期治療による生存率の増加が考えられます。

 そこで、この肝細胞癌の実数が増加するのを予防できれば、もっと肝細胞癌の死亡数が減るのは当たり前と考えられるでしょう。ちなみに肝疾患での死亡者数が16,586人で、肝臓の悪性腫瘍は悪性腫瘍の分類内で処理されているようで、一年間に総計5万人程度の方々が肝臓病でお亡くなりになることになります(表1)。


年間約5万人の肝疾患死亡者の約三分の二が肝細胞癌で、残りの大半が肝硬変である

表1 1999年日本人の死亡率
死亡数死亡率(人口10万対)割合
全死因982,031人782.9100%
悪性腫瘍290,556人231.629.6%
肝疾患16,586人13.21.7%
肝臓の悪性腫瘍33,816人
男性23,492人
女性10,324人
2001年国民衛生の動向より

 予防医学には一次予防から三次予防までがあります。

 肝細胞癌を中心に考えれば、一次予防ではB型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)に罹患しないようにすることがまず重要です。そのためのHBVに対するワクチン予防やHBIG等による感染防御が重要です。さらに、HBVあるいはHCVに罹患してしまった後に、慢性肝炎や肝硬変から肝細胞癌へ進展しないようにするための、インターフェロン治療などの抗ウイルス療法、抗炎症療法もその中核になると思われます。

 二次予防では、肝細胞癌の早期発見と早期治療によって生命予後を改善することになります。定期的な腫瘍マーカーによる血清学的検索と、3ヶ月から6ヶ月毎の超音波検査による早期発見がこれに相当します。そして、各種治療方法でもって早期に局所治療することが重要な予防方法になります。

 三次予防には、肝細胞癌の治療後、如何に効率よく肝細胞癌の再発を早期に発見して再治療するか、あるいは抗炎症、抗ウイルス療法を施して再発リスクを下げることが挙げられます。

(B)一次予防

(1)HBV、HCV感染をを防ぐ手だてはあるのか?そしてHBV、HCVに図らずも感染した場合の防御法は?

I HBV(B型肝炎ウイルス)

 HBVの母児感染は、保険診療の枠組みにはいったことより、まずブロックできるようになりました。それでもHBVキャリアーが存在するのは幼少時の感染が原因と考えられています。まだ、免疫寛容状態の時期に感染して、HBVを獲得すると考えられています。

 したがって、母親がHBV陽性であれば生まれたBabyにHBIGとHBVワクチンを投与することが重要です。父親が陽性の場合はどうするか。こんな国際的な話があります。

 台湾はHBV侵淫地区で、肝疾患患者の多くがHBV陽性です。勿論母児感染阻止のためにワクチンが国策として採られましたが、それでも数パーセントのHBVキャリアーの発生を見たようです。そこで台湾はすべての産まれた子供にHBVのワクチンを使用することにより、完璧にHBVの感染伝搬を防ぐことが出来ました。現在15歳以下は全くHBV陽性者はいないようです。

 このことから、父親がHBV陽性であれば子供に感染する可能性があるので産まれた子供にHBVワクチンを接種しておくべきと考えます。勿論、奥さんと結婚する前には奥さんにHBVワクチンを接種することも重要なことです。

 母児感染や、幼少時の感染は理解されたと思いますが、成人からのHBV感染ではどうでしょうか。成人での感染経路は輸血、針刺し事故、薬物中毒者の静脈内注入、移植患者と性交渉です。

 ちなみにわが国の劇症肝不全の半分近くはHBVの性感染者です。多くの感染者は重症化しますが、治癒したあとはキャリアー化しないので、肝硬変や肝細胞癌への進展は極めて稀と思われています。

図1 B型肝炎ウイルスの感染経路

B型肝炎ウイルスの感染経路

 それでも感染した場合には48時間以内のHBIGによる中和療法が最も現実的であります。


成人のHBV感染の半数以上は性交渉で、重症化、劇症化のリスクが高い

表2 劇症肝炎の臨床病型と成因別救命率
(1997年度/1998年度/1999年度厚生省班会議劇症肝炎全国調査集計結果)
急性型亜急性型全体の救命率
199719981999199719981999199719981999
A型1/24/414/160/10/01/133%100%88%
B型10/2613/2810/250/72/124/1430%38%36%
非A非B3/94/911/131/196/238/2514%31%50%
薬剤性1/12/31/21/102/70/118%40%33%
その他2/50/11/37/241/10/331%50%17%
17/4323/4537/599/6111/4313/4425%42%49%
救命率40%51%63%14.8%25%30%

II HCV(C型肝炎ウイルス)

 アメリカでは1990年前の輸血、コカインのストローによる吸引者、多人数相手の性交渉者、ピアス交換ホモセクシィアルなどの経験者は、無自覚無症状でもHCVの検査を受けるように警告を出しています。

 すなわちHCVは、HBVと異なり母児感染は少なく、多くは成人からの感染で、しかも感染しても重症化や劇症化は少なく、無症状に慢性肝炎に移行するようです。あるいは40歳以上の方々は一度でいいからHCVの検査を受けておいた方がよいでしょう。何故ならば、HCV陽性慢性肝炎は勿論、肝硬変でも無症状な場合が多いものですから。何故40歳以上のひと検査をが受けた方がいいのでしょうか。こんなstoryがあります。

 第二次世界大戦中、特攻隊もしくは工場に召集された多くの人々がある意味ではハイな気分で、ある意味では単純作業の能率向上のためにヒロポンが使用されたとの記載がある。そして、戦後ヒロポン中毒者が200万人にも及んだとの論説もある。これが事実ならば、これら薬物中毒者を中心に肝炎ウイルスが蔓延しても何ら不思議ではない。そして、そのころは使い捨ての注射器でなかった。日本人は比較的注射が好きな人種でもあった。そして、献血でなく売血制度がある期間続いた。この売血時代には黄色い血事件があり、売血を用いた血液の輸血で多くの人が輸血後肝炎を起こし、黄疸になった。このことを報道陣は黄色い血と言った。取りも直さずHCV感染である。勿論、予防接種も同じことでデスポーザブル(使い捨て注射器)でなかった。私も覚えている、左の二の腕に10人くらい順番に一つの器具で接種されたことを。
 象徴的な事件が起きた。ライシャワー駐日大使が暴漢に大腿部を刺された。大量出血で輸血が必要となった。このとき、横須賀などの米軍病院からアメリカ人の血液の提供があった。ライシャワー氏は奥さんが日本人であること、日本を心から愛していたことなどより日本人の血液を貰うこととした。その崇高な気持ちを裏切るように、その血液は売血液で、すぐさま輸血後肝炎を引き起こした。そして、アメリカからの強い抗議で売血制度は閣議決定ですぐさま中止され、献血に変わった。それまでなかなか医師会、学会が要請しても献血制度に移行できなかったが、一つの事件であっと言う間に変更された。その後、ライシャワー氏は肝硬変へ移行し、吐血後アメリカへ転院されたが肝硬変でお亡くなりになった。

 これでお分かりの通り、その時代、売血、使い捨てでない注射器、使い捨てでない予防接種、取り巻く環境を考えると幼少期にHCVの不顕性感染(症状が現れない感染)があっても不思議でありません。さらに日本民間古代の血をすう吸引療法や入れ墨など、考え出すときりがありません。

 それでは今どうすればHCV感染から自分の身を守れるのでしょうか。HBVの様なワクチンや中和抗体がないことをよく知っていて欲しいのです。ということはHCV陽性血液が自分の体内に入らないようにすることしかありません。Self defenceです。


無症状、無自覚でも1990年以前の輸血歴、コカイン吸入、多人数性交渉、ピアス交換ホモセクシャル、刺青歴に該当する人はHCVの検査を受けること

 それでもHCVに感染したら、HBV感染のような中和抗体は今のところ存在しないので、感染後専門医で一ヶ月に一回HCV抗体と肝機能検査を行って、6ヶ月間で何もなければ問題ありませんが、肝機能異常などHCV急性感染が見られたら、すぐさまインターフェロン治療を行うことをお勧めします。最近でも医師、看護婦さんと立て続けに針刺し事故後のインターフェロン治療で完治させています。針刺し事故は急ぎませんが、是非とも相談に来てください。

 配偶者がHCV陽性の場合はどうするのか。HCVは肝外病変といって口腔内、皮膚にも扁平苔癬など引き起こし、そこからの感染性も疑われています。中和抗体、ワクチンがないので定期的な肝機能検査の実施が必要と思います。

(2)感染が成立してしまった慢性肝炎の治療は何を目的に?

I HBV

 無症候性HBVキャリアーという病態があります。この場合肝機能検査値は全く正常ですが、HBs抗原が陽性で、そのウイルス量は極めて大量です。HBVと肝臓が仲良く共存していると考えて下さい。この場合はそーっとしておいた方が良く、年とともにウイルス量が減り天寿を全うします。しかし、トランスアミナーゼ値(肝機能検査の一種)が動揺する慢性肝炎では肝硬変への移行が考えられ、もちろん肝細胞癌への進展も憂慮されます。

 そこで考えることは2点あります。一つは抗ウイルス療法といってHBVを無くせなくても減らすことを目標とする。そしてもう一つは肝臓の炎症を抑えるということです。炎症を抑えると肝硬変への進展が抑えられます。

 こんな風に考えてみて下さい。鉄棒を握ると手のひらは赤く腫れ上がる。すなわち炎症です。炎症は発赤、腫脹、疼痛、発熱です。この場合、しばらくすると自己修復能力が働き自然に手の腫れは引いていきます。しかし、翌日もその翌日も鉄棒を握るとどうなりますか。炎症が修復するまもなく炎症が引き起こされ、結局手のひらは厚くなるでしょう。たこになる部分も出来るでしょう。それが線維化です。

 単なる線維化なら堅くなるだけですが、肝臓では門脈域を中心に線維化が起こり、中心静脈に繊維が延びて肝臓の単位である小葉が分断されます。ところが、プロメテウスの神話のなかで鷲に何回肝臓をつばまれても翌日はもとに戻っていたといわれるように、肝臓は再生するので、分断された肝臓の部分は再生膨張し再生結節になります。

 すなわち、筋子のようになり、繊維部分が線維化や結合織部分と見なすとイクラが再生結節そのものになります。だから、炎症を抑えるようにするのです。勿論、肝硬変になると10年間で50%以上の確率で肝細胞癌が出現します。

図2 HBVの自然経過

HBVの自然経過

 したがって、HBV陽性慢性肝炎に対してはウイルスを排除するまでに至りませんが、ウイルス量を減らし、HBVの活動性を減じることにより炎症反応が減弱して線維化の進展が抑えられ、肝硬変への進展や肝細胞癌の発現を抑制することになります。


HBV陽性慢性肝炎は抗ウイルス剤でウイルスが排除される可能性は極めて低い。しかし、ウイルス量をさげ、炎症をコントロールすると肝硬変や肝細胞癌への移行が先送りになる

 抗ウイルス剤のインターフェロンとラミブジンの使い方は是非とも専門家にご相談下さい。適切な使い方で満足のいく結果が得られると思います。


HBVに対する経口剤ラミブジンはコンプライアンスに優れた抗ウイルス剤である

II HCV

 このウィルスによる慢性肝炎は、HBVと異なり、治療効果がかなり期待できます。すなわち、僕たちにはインターフェロンという、ウイルスを排除して肝硬変、肝細胞癌を防ぐ武器があり、上手に使用するとHCVは排除されます。排除がままならないと、肝硬変や肝細胞癌へ進展しますが、それでも肝機能検査値が正常化すると肝硬変や肝細胞癌への移行が先送りとなります。

 今、40歳で年率1-2%の肝細胞癌リスクのある慢性肝炎であればそれほど気になりませんよね。しかし、年率7-9%の発癌リスクの高い肝硬変へ進展するのはいやでしょう。もし、ウイルスが排除できれば、おおよそ100%肝細胞癌のリスクが消え去り、HCVが排除されなくても肝機能正常化に成功すれば肝硬変への進展が無くなり、肝細胞癌のリスクは慢性肝炎で1-2%以下、肝硬変で7-9%になるでしょう。

 全くリスクは消えませんが、肝細胞癌の発現が50年先、75年先ならHCVと仲良く付き合ってやろうかという気になりませんか。それでいいのです。


HCV陽性慢性肝炎、肝硬変患者は95%無症状で、肝細胞癌発生率は慢性肝炎で年率1-2%、肝硬変で年率7-9%でありHCVはSilent Killerと呼称されている

 それではどんなevidenceがあるかと言いますと、われわれの施設でHCV陽性肝疾患患者をretrospectiveに検討した結果、インターフェロン治療した人(1.2人/年)と治療を受けていない人(10.4人/年)とでは、明らかにその発癌率が異なっておりました。

 そこで県内の多施設関連病院でC型慢性肝炎に対してインターフェロン治療を行った600例以上の患者さんの治療後のウイルス排除、肝機能正常化、発癌率を調べたところウイルスが完全に排除できた(CR:complete remission)のは30.8%、ウイルス排除は出来なかったが肝機能が正常化した(BR;biochemical responder)のは14.6%でした。

 そして、それぞれの年率発癌率はCRで 0.285%、BR 0.75% に比して全く効果がなかった症例では 2.30% でした。

 したがって、C型慢性肝炎にインターフェロン治療を行うことにより半数近くの方々が肝細胞癌への進展が抑止されたと考えられました。この結果は全国的にも差異はありません。

図3 インターフェロン療法への反応による肝細胞癌の発症率の違い

インターフェロン療法への反応による肝細胞癌の発症率の違い

 最近ではもっと効果的にウイルスを排除出来る薬剤が展開しております。一週間に一回の筋肉注射で済むPEGインターフェロンと経口剤リバビリンです。この併用が現時点で一番効果的でしょう。細かい条件などは専門家と相談して是非とも一度治療を試みることを推奨しております。


現時点での世界最強タッグチームはPEGインターフェロンとリバビリン

(C) 二次予防

(1)肝細胞癌になりやすい患者を囲い込むことにより早期発見が可能か?

 表3を見て頂ければお分かりと思いますが、原発性肝癌の95%が肝細胞癌でそのうちの56.8%が肝硬変を合併しており、さらに29.9%が慢性肝炎であります。そして、肝炎ウイルスを見るとHBs抗原陽性は16.5%、HCV抗体陽性は74.8%となっております。すなわち、ほとんどの肝細胞癌は肝硬変もしくは慢性肝炎から発症します。そしてほとんどの肝細胞癌はHBV陽性かHCV陽性です。

 従いまして、HBV陽性とHCV陽性の慢性肝炎や肝硬変の患者さんが肝細胞癌の高リスク群となるわけであります。この人たちを病院、診療所で囲い込んで、肝細胞癌発現を見逃さないように注意しながら診療していれば、必ずや早期発見が可能となります。

 1000グラム以上の重さのある肝臓に直径1-2cmの肝細胞癌が出現しても全く症状は出ません。血液検査でのAFP(エーエフピー)とPIVKA II(ピブカツー)を定期的に測定していれば、その上昇カーブが診断の助けとなります。

 そして、体積増加の時間的観点から、慢性肝炎では6ヶ月に一回、肝硬変では3ヶ月に一回超音波検査で肝臓の結節を検索しておくことが重要です。何故超音波検査かというと、簡便で、患者さんもつらくない検査ですから。勿論時折CT、MRI検査も盛り込みます。これは診察医の判断です。

 もしも、HBV、HCV陽性慢性肝炎や肝硬変で、主治医がこれら検査をするのを忘れていたら、患者さんの方からそろそろ超音波検査ではありませんかと尋ねることも必要かも知れません。大阪の方で、ウイルス肝炎陽性の肝硬変の患者さんに適切な定期的検査を怠り、気が付いたときには進行性の肝細胞癌で亡くなった例で、裁判所は医師の賠償責任を認めたと聞き及んでおります。医師も当然ですが、自分の身を守るつもりで一緒に診療していきたいと思っております。


活動性の慢性肝炎、肝硬変では定期的にAFPやPIVKA IIの血液検査と超音波検査など画像診断が不可欠である

表3 肝細胞癌の背景
日本肝癌研究会:第14回全国原発性肝癌追跡調査報告 (1996-1997)
(1)原発性肝癌17,534肝細胞癌16,666(95.05%)
胆管細胞癌627(3.585)
その他241(1.36%)
(2)併発肝疾患
慢性肝炎1,168/4,032(29.9%)
肝硬変2,289/4,032(56.8%)
肝線維症262/4,032(6.5%)
(3)肝炎ウイルス
HBs抗原陽性2,607/15,840(16.5%)
HCV抗体12,034/16,081(74.8%)

(2) これだけの努力をしても肝細胞癌が見出された場合の初期治療は?

 基本的には、肝炎ウイルスが排除できずに慢性肝炎や肝硬変へ進展して肝細胞癌が出現したことを考えると、一度できた肝細胞癌を治療しても必ず他の部位に肝細胞癌結節が出現すると考えて下さい。すなわち、胃癌や乳癌などのように癌が見られたら、その臓器ごとすべてを取り出すことが出来ません。非癌部を残して癌部を治療するわけです。このような発癌形式は異時性多中心性発癌様式と呼ばれています。

 したがって、治療の根本は肝臓全体に治療の影響、後遺症を残さないように癌部を綺麗に取り除き、局所再発が起こらないようにすることです。昔、肝細胞癌の治療は小さく見つけて大きく取りきると言われていましたが、今は小さく見つけて小さく再発のないように治療するに変わっております。

 何故このようなことを言うかと言いますと、慢性肝炎や肝硬変から出現した場合、一度綺麗に治療しても、その部位ではなくほかの部位から雨後の竹の子のようにどんどん出てくるのです。ですから、なるべく治療の影響を少なくして局所治療するわけです。


肝細胞癌の治療の基本は局所再発をなくす局所治療である

(3) どの治療法を選択すべきか?

 肝細胞癌に対する治療は、他臓器癌のそれに比して数多くの異なった治療方法があります。すなわち、外科的治療から始まり、内科的局所治療、さらにはIVR(Interventional radiology)治療などがその選択肢として挙げられてます(表4)。

 いずれの治療法にも理論的根拠がありますが、一つの施設ですべての治療法に精通することははなはだ困難で、臨床的には治療実施施設の一番得意な治療法で患者の治療に対しているのが現状であります。このことは不思議なことでなく、肝細胞癌研究センター附属病院でも存在すれば別ですが、各施設がアピールする治療法に紹介患者が集結するのも納得がいくでしょう。しかし、なかには明らかに治療成績が劣っているにもかかわらず、その治療法に固執する場合もあり、技術的に劣るがために、成績が劣化することもあります。

 そこで、われわれ臨床医が肝細胞癌の治療を志す上で考えなくてはいけないことは、少なくとも各種治療法の適応基準と成績、特に生存率と局所再発、他部位再発を理解し、適切な治療法の選択肢を決定し、Informed Consentを得ることです。そのためには明確に治療成績が報告されている治療法を選択すべきであって、経験や雰囲気などで決定されるものでないことを理解すべきと考えます。これが臨床家としての根本的な考え方であります。

 すなわち、各施設の肝細胞癌の治療成績は公表されるべきです。肝細胞癌に対する治療法の選択を我流、経験で決定され、その成績の悪さを医師の裁量権でごまかされるようなことがあれば、患者さんもたまったものではありません。日本胃癌学会が各施設の胃癌の切除成績を公表したことは喝采を浴びております。われわれも肝細胞癌の治療成績を公表することは容易であります。ただ、この肝細胞癌の治療はどんどん進歩しているため、また一つの治療法で押し通すことはほとんどないために、一つの治療法の単独成績がはなはだ評価困難なために生存率でものが言えないのであります。

 われわれ臨床家が目指す肝細胞癌治療の基本的目標は、担癌患者から肝細胞癌をすべて除き去り、患者をcancer freeの状態にすることであります。しかしながら胃癌、乳癌、子宮癌などのように担癌臓器をすべて取り除くことが出来ない肝細胞癌の場合、局所治療が基本的な考え方になるのはお分かり頂けるでしょう。さらに、他臓器癌と根本的に異なることは、残存肝臓が再生して、元の機能を早期に取り戻す点であります。ある一定の限界はありますが、比較的広範に切除もしくは壊死を来しても肝機能に及ぼす影響は少ないと考えていいようです。

すなわち肝細胞癌の治療では肝細胞癌結節の局所制御が最大の目標となります。そして局所再発は勿論、肝内転移を来さず、肝予備能に影響を与えない治療が目標であり、それに沿った治療法の選択が重要と考えます。したがって、肝炎ウイルス陽性の高癌化状態などの背景肝病変がある場合には、肝細胞癌の治療後の再発は必発ですので、肝細胞癌治療に"終わりはない、完全緩解CR(Complete remission)がない"ともいえます。また、肝細胞癌治療において十分に注意を払わなければならないのが担癌患者への影響、すなわち肝機能への配慮であります。肝細胞癌の局所制御が十分に行えても、治療後に肝不全に陥ってはなんのための治療か分からなくなるからであります。さらに、肝外転移を有する肝細胞癌や局所制御が困難な多発性、びまん性肝細胞癌は肝予備力を考慮しながら全身化学療法を施行することとなります。

 以上の観点から、担癌背景因子、担癌予備力、肝細胞癌の進行程度と肉眼分類を考慮し、肝細胞癌の各治療法(表4)の適応基準に沿った肝細胞癌に対する初期治療の合理的な治療法の選択が臨床家に課せられた使命であると考えます。その際重要なのは各治療法での成績であります。これらを加味して選択するわけであります。

表4 肝細胞癌の治療法
担癌母体を視野においた治療法
化学療法(経口投与、静注療法)
免疫療法(BRM、LAK、CTL、TIL)
癌部を含む肝臓に対する治療法
放射線物質を用いた照射療法
放射線療法
重粒子線治療
陽子線治療
温熱療法
担癌肝臓の癌部に対する局所療法
外科的手術療法
部分切除から肝葉切除
超音波検査を用いた局所療法
PEIT (Percutaneus ethanol injection therapy)
PMCT (Percutaneus microwave coagulation therapy)
RFA (Radio frequency ablation)
血管造影の手法を用いた (IVR: Interventional Radiology) 局所療法
TAE (Transcatheter arterial embolization) 療法
制癌剤動注療法 (TAI: Transcatheter arterial infusion) 療法
BOLUS ONE SHOT
持続動注療法 (RESERVIOR)
Chemolipiodolization
担癌肝臓を正常肝へ置換する
肝移植
新しい治療法
ベクターを用いた遺伝子治療


肝細胞癌治療に終わりはない、CR(完全緩解)はない

 表5に日本肝癌研究会の全国調査結果を示します。勿論、肝細胞癌の治療は歴史的にも外科的切除術から始まったものですから、肝切除が多く見られます。その10年生存率は23.3%と最新の報告では述べております。注目することは最近内科的治療法が進歩した点です。肝細胞癌の結節に超音波で狙いを定めて細い針でエタノールを注入して癌細胞を殺す方法や電子レンジと同じマイクロ波を針の先端で生じさせ癌部を焼却する方法などが採られております。最近ではもっと簡便なラジオ波を用いた焼却療法もあります。これらはまだ緒に付いたばかりですが少数例ですが5年生存率では外科手術と遜色ありません。小さな肝細胞癌は最早内科的治療で十分と思われます。勿論、外科的手術の良さもあります。今後は肝細胞癌が見出されたら、主治医とゆっくり相談して、治療方法の選択、それぞれの長所と欠点、その後の再発、治療の影響を相談して治療法を選択して下さい。私は、外科的であれ内科的であれ例えば2cmの肝細胞癌が余裕を持ってそれより一回り大きく切れる、焼ける、注入出来るなら一番治療の侵襲の少ない治療法を選択します。

表5 肝細胞癌の治療
日本肝癌研究会:第14回全国原発性肝癌追跡調査報告 (1996-1997)
生存率患者数5年生存率7年生存率10年生存率
肝切除(n=21,025)64.9%34.8%23.3%
(1978-1997)
エタノール局注(n=3,751)45.3%31.7%-
(1988-1997)
TAE 療法(n=13,401)19.3%9.8%-
(1988-1997)
マイクロ波焼却(n=391)69.9%--
(1992-1997)

(D)三次予防

(1)再発率と再発の早期発見は如何にするのか。再発を防ぐことは出来ないのか、ただ指をくわえて。

 特にC型肝硬変の場合は年率25%の確率で他の部位に肝細胞癌が新しく出現するようです。一方、B型肝細胞癌の場合は比較的無再発率が高く、年余に亘って再発を認めない症例を多く経験いたします。これらの再発をただ指をくわえて待ち、早期再発発見だけで臨床家は満足できるのであろうか。今行われている再発率抑止の方法は(1)炎症反応を抑制することで再発を防ぐとして強力ネオミノファーゲンC継続静注する方法、(2)抗ウイルス剤による治療でウイルス排除、トランスアミナーゼ値正常化が多中心性発癌を送らせる、(3)インターフェロンと制癌剤で目に見えない肝内転移を治療する。などが取られているがいずれも最近の方法でデーターの集積を待たないと評価できません。われわれのところでは肝細胞癌治療後のインターフェロン治療を行い5年間で明らかに再発率の低下をすでに報告しております。


肝細胞癌の多くは再発するpotentialを有している

(2)究極の治療法として肝移植は如何なるものか?

 肝炎ウイルス陽性肝細胞癌の肝移植適応は如何なものでしょうか。従来から肝細胞癌に対する肝移植の適応基準は@単結節、A被膜を有する腫瘍、B脈管浸潤がない腫瘍、C最大径3-5cm以下、D高分化型腫瘍とされてきました。これらは経験的に肝移植後の腫瘍再発による死亡率の高さからこの様な規定が考えられてきました。しかし、この基準の肝細胞癌はわが国では外科的あるいは内科的治療法で十分に局所治療可能な種類の肝細胞癌であります。そこで、私が考えているのは、例えばC型肝硬変合併肝細胞癌の場合、第1治療選択は上述の選択基準に従い局所制御が可能となります。しかし、肝細胞癌の異時性多中心性発癌機構は作動し再発がみられ、その再発頻度は年率25%と考えられるので、二度、三度目の肝細胞癌に対する局所制御を施行しても約5年後には生存率は50%前後になるわけであります。そして肝切除はもとよりIVR、PEITも施されなくなり肝細胞癌多発結節が肝内を占め癌死することが経験的に多く遭遇するのです。すなわち、肝細胞癌の治療は5年を目途に考えるが、局所制御しても肝細胞癌の発生は抑止できず、いわゆる高癌化状態のまま進行します。したがって、肝細胞癌に対する局所治療は外科的、内科的治療で行い、ある時期を見計らって高癌化状態の肝硬変を肝移植で治療し、肝細胞癌は元より高癌化状態から患者を救うという考え方が成り立つと確信しています。現実では再発例で多発性肝細胞癌結節を有し、Child-PughスコアーBおよびCが肝移植の適応と考えていますが、勿論、肝外転移例は適応外であることは言うまでもないことです。
 折角ですので1999年3月から始めた新潟大学肝移植チームでの生体肝移植の成績を供覧いたします。参考になれば幸いです。(表6,7)


再発が予防できればウイルス性肝細胞癌に対する肝移植が現状で肝細胞癌の根治的治療になる

表6 成人生体肝移植の成績(新潟大学肝移植チーム)
2001年9月5日現在
病名症例数転帰
原発性胆汁性肝硬変5例1例死亡(脳出血)
肝細胞癌3例1例死亡(再発)
劇症肝不全2例
HCV肝硬変2例1例死亡(感染症)
HBV肝硬変1例
アルコール性肝硬変1例
原発性肝Amyloidosis1例1例死亡(心疾患)
Citrullinemia1例
Wilson病1例
Budd-Chiari症候群1例
生存14例/死亡4例

表7 新潟大学肝移植チームでの肝移植症例とその依頼病院、実施例と未実施例の理由
(2001年9月13日現在)
依頼病院先紹介数実施数未実施理由
会津若松竹田総合病院消化器内科431;待機中死亡
新潟市民病院消化器内科431;内科的治療に反応
新潟大学医学部第三内科321;他疾患の合併
長岡中央病院消化器内科22
県立吉田病院消化器内科211;IC不十分にて延期
信楽園病院消化器内科11
上越総合病院内科11
水原郷病院内科11
下越病院内科11
新潟県立中央病院11
長岡赤十字病院神経内科11
済生会新潟第二病院内科11
木戸病院内科101;不十分なIC、経過中
新潟こばり病院消化器内科101;待機中死亡
厚生連村上総合病院101;実施中合併症で中止
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