腹腔鏡手術後の創部ヘルニア( port site hernia)症例に関しての検討
教室検討会( 2004/6/3)
小幡宏昭、大木 泉、加嶋克則、八幡哲郎
1. 症例
Case 1. 39才、2妊2産、dermoid cyst、laparoscopic cystectomy後
身長 153cm体重55kg、BMI 23.5
既往歴、家族歴:特記すべきことなし
経過: 2000年1月(35才)、卵巣腫瘍精査目的紹介初診
右皮様嚢腫 6cm大の診断で 2000年3月手術施行。laparoscopic cystectomy(1時間35分、出血少量)
皮切:@ 臍下 2cm→ラパロファン、スコープ
A 右下腹部 1.5cm→2cmへ延長し体外法でcystectomy
B 左下腹部 1cm
縫合:@、A腹膜 3-0DEXON、筋膜0-DEXON、皮下3-0DEXON、皮膚 stapler。B皮膚 stapler
病理: mature teratoma
特に経過問題なく退院
以後外来経過観察(がん検診は他院で施行)
2004年5月(39才)受診時、右下腹部に腫瘤を触知。右下腹部創部ヘルニア指摘。外科へ紹介
→経過観察中
Case 2. 63才、2妊2産、CIS+AIS、LAVH+BSO後
S.35帝切の既往あり、他特記すべきことなし
150cm, 51kg, BMI 22.7
2001年7月(61才)、前医でスメア:X、頚部生検:CISのため紹介初診
MRI:病変指摘できず、コルポ:UCF、頚管curettage:malig.を否定できないdysplastic cells
→ CC Ta否定できず。hysterectomyの方針へ。閉経後、C/S既往からLAVH+BSOの方針となった。
2001年8月、手術施行。LAVH+BSO(2時間42分、出血84g)
皮切:@臍下 2cm→ラパロファン、スコープ
A右下腹部ラッププロテクター小
B左下腹部 2cm→ラッププロテクター小
縫合:@、A、B:腹膜 3-0DEXON、筋膜0-DEXON、皮下3-0DEXO
皮膚:stapler
病理: CIS+AIS
術後特に問題なく退院
2003年12月(63才)、定期検診時、右下腹部に2cm大ヘルニア触知。外科紹介
→経過観察の方針へ
※ 症例の総括
・ いずれも側下腹部に設定した 2cm程の切開創
ラッププロテクター使用例
体外法 cystectomy例
・ 腹膜、筋膜ともに縫合されている
・ 術後 3-4年でヘルニア発生
肥満、合併症等明らかなリスクなし
・ 腸管の嵌頓等はなく、経過を観察している
→ ヘルニアの原因として、筋膜の縫合が不完全であった可能性が考えられる
2. port site herniaについて
1)頻度:0.02〜6 %(正中部が多い)
開腹手術では 5〜 11 %とされている
2)原因:不完全な筋膜の縫合(閉鎖)
※ 一般的には 10 mmのport siteの筋膜は縫合し、5 mmのportのroutineな縫合は行われていない
Spigelian hernia(スピゲリウスヘルニア)
半月線を通って脱出した腹壁ヘルニア
(特に弓状線の部分は弱くヘルニアを起こしやすい)
弓状線から下部では筋膜が弱くこの areaのport siteではiatrogenic Spigelian herniaが生じやすい
3. 文献的考察
● Incisional herniaの発生に関する文献
Nezhat et al. J Laparoendosc Adv Surg Tech A. 1997
・ 5300例の腹腔鏡下手術後10例(0.2 %)に発症
・ 7例が大網、3例が小腸のヘルニア
・ 5例は5 mmのport siteのヘルニア
→ 10 mmのport挿入部は腹膜、筋膜を縫合するべき
5 mmのportについても腹膜や筋膜の切開が広がるような処置が行われた場合には縫合を行うべき
※ 他にも 5 mmのport site herniaの報告あり
Incisional hernia and fascial defect following laparoscopic surgery
Coda A, et al. Surg Laparosc Endosc Percutan Tech. 2000
・ ラパ胆 1287例中14例(約1%)で創部ヘルニア発生
・ 腹圧がかかる慢性気管支炎や体重増加例はハイリスク
・ 筋膜縫合がヘルニア防止に重要
Lateral laparoscopic port sites should all be closed
The incisional “ spigelian ” hernia
Morrison CP. et al. Surgical Endoscopy. 2002
・ 臍部創での発生例が多いが、側腹部での発生もある
・ 特に腹直筋鞘の外側は構造的に腱膜のみで弱い
・ 10 mm以上のport siteはすべて縫合するべきである
Laporoscopic port sites do not require fascial closure when nonbladed trocars are used
Liu D. et al. Am Surg. 2000
Nonbladed trocar:刃がないタイプのトロッカーであり、腹筋を切開せず分けながら進入するため腹壁の欠損がおこりにくい(腸管損傷に関してもbladed trocarと比較して安全性が高い)
・ Nonbladed trocar + port siteの筋膜を縫合しない方法の安全性を検討
70例の腹腔鏡手術後、平均11ヶ月間の観察でherniaの発症は一例もなし
nonbladed trocarは出血や筋繊維の断裂をきたすことなく挿入が可能で、その結果portの大きさもより小さくなるため、port siteの筋膜縫合は行わなくても安全である
Symptomatic port-site hernia associated with a non-bladed trocar after laparoscopic live-donor nephrectomy
Lowry et al. 2003. J Endourol.
non-bladed trocarを使用した10 mmのport部のヘルニアの報告
→ 成人では 10 mmのport部、小児では5 mmのport部は縫合を行うべき
preperitoneal herniaの症例報告
Preperitoneal herniation into a laparoscopic port site without a fascial defect
Cottam DR. et al. Obes Surg. 2002
BMI 55の超肥満症例のLaparoscopic Roux-en-Y
Port siteの筋膜の縫合は行ったが腹膜と筋膜の間に小腸がherniationし嵌頓した一例
→ 肥満症例では厚くなった preperitoneal spaceへのherniaが生じうるため腹膜の縫合も行うべきである
4. 他院での現状
@ スズキ病院、田中耕平先生
過去に port site herniaの経験なし
開腹手術では何例か肥満症例で腹壁ヘルニアは経験があり
筋膜の縫合は絹糸は使用せずすべてバイクリル 1か1-0で連続縫合
12mmのport siteのみ筋膜をバイクリル2-0でZ縫合
A 立川総合病院、七里和良先生
過去に port site herniaの経験なし
10 mm以上のport siteは腹膜は無縫合とし、筋膜を吸収糸で縫合、皮下をよせ、皮膚はステープラー
肥満等の症例では意識して筋膜をよせている
Herniaを予防するためのport siteの処置について (案)
nonbaladed trocarを使用する(特に10 mm以上のport)
10 mm以上のport siteは腹膜および筋膜を確実に縫合する
(吸収糸による Zもしくは連続縫合。可能なら腹壁筋群腱膜最深層と最浅層を縫合)
5 mmのport siteについては、3時間を超える長時間の手術やportからの処置をactiveに行った場合で、defectが拡大したと判断されるcaseでは縫合を行う(手技的に困難な場合は筋膜のみ、または専用鉗子(筋膜クローサー、ストレートスーチャーニードル等による全層縫合)
追記 :高度の肥満、慢性気管支炎合併等の通常より腹圧が高くかかるような
患者では特に注意して腹膜、筋膜の縫合を行う。
参考 : appendectomy時の縫合法(外科Dr. comment)
appendectomy時の筋膜縫合は腹膜縫合後、腹壁筋群の最深層の筋膜(内腹斜筋筋膜)と最前層の筋膜(外腹斜筋筋膜)を2層に分けてそれぞれ縫合する。縫合しにくい場合には二層の筋膜を一括して両方かけるように縫合しても良い。縫合糸は吸収糸を用いて連続縫合もしくは結節縫合(いずれでも可)を行っている。
全層縫合のための専用鉗子について
現在、 STORZ社製ストレートスーチャーニードル(reusable)が使用可能です
縫合糸
現在手術室にある 0 DEXONUは、針が大きく腹腔鏡時の筋膜縫合には適さないので、腹腔鏡時の筋膜縫合用の縫合糸として、強わん針付き0 Vicryl(Taper, UR-6)が試供品として使用可能ですので使用してください