新潟大学大学院医歯学総合研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野

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研究のご紹介

研究概要

聴覚、平衡領域、側頭骨外科領域を中心に専門性の高い研究を行っている。基礎医学教室とのタイアップも盛んであり、共同して研究を行っている。

研究グループ

以下の3つのグループにわかれて、基礎研究から臨床研究まで幅広く行っている。

難聴めまいグループ

1.心因性めまいの国際分類作成と病態解明

堀井教授は世界最大のめまい国際学会であるBarany学会の心因性めまい国際診断基準作成委員を務めている。現在草案が出来上がり、今後同学会のホームページでパブリックコメントを求め、診断基準として提案する予定である。
この中でめまい患者に合併する精神疾患は不安症とうつが主体であり、精神疾患がめまいを引き起こす例と器質的前庭疾患に精神疾患を合併する例があることを示した。今回の答申では新たにPersistent Postural Perceptual Dizziness (PPPD、持続性自覚性姿勢誘発ふらつき)という疾患概念を提唱した。6か月以上の慢性ふらつきを呈し、体動や視覚刺激で誘発され立位で症状が悪化するという特徴を持つ。めまい患者の約15%を占める「めまい症」の多くがこの疾患に当てはまると考えられる。
当教室では教授が上記診断基準作成委員を務めている関係上、PPPDの病態解明と治療法の開発を責務として臨床研究を行い、また心因性めまいの動物モデルで得られた知見を臨床へ応用する研究を施行中である。

2.抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎性中耳炎の病態解明

ANCA関連血管炎は、上気道、下気道(肺)、腎を系統的に侵す疾患であり、多発血管炎性肉芽腫症(Wegener肉芽腫症)が代表疾患である。以前より、上気道疾患として、中耳炎や副鼻腔炎が起こることは知られているが、近年、難治性中耳炎で発症し、多臓器障害がすぐには出現せず、診断、治療に苦慮する例が増加している。日本耳科学会ではANCA関連血管炎性中耳炎ワーキンググループを立ち上げ、病態解明のため、症例集積を行っている。当科森田医師はワーキンググループの一員として、症例集積に貢献し、適切な治療、経過観察の方法について研究している。

3.中耳真珠腫進展度分類2015案による中耳真珠腫全国登録研究

中耳真珠腫は病態が多彩かつ腫瘍ではないにもかかわらず進行性、破壊性の性質をもつ治療が困難な疾患である。その治療方法を論ずるにあたり、近年まで汎用される病態の進展度分類は存在しなかった。2010年に日本耳科学会より中耳真珠腫進展度分類案2010が示され、国内で広く使用されるようになった。当科森田医師は日本耳科学会用語委員会の一員として、この分類案作成のために症例集積に協力してきた。2015年には改訂案が提出され、さらに利用が広まると想定される。これらのデータベースを元に、本分類案の妥当性を検証し、さらには適切な治療法を推奨していくことを目指した研究を行っている。

4.聴覚フィルタ測定による難聴者の多角的な聴覚機能評価

当科では、フラビン蛍光蛋白法によるマウス聴覚野の研究、電気生理学的手法によるネコ聴覚野の研究、ファンクショナルMRIを用いたヒト聴覚野の研究など、中枢聴覚機能の研究を行ってきた。中枢性聴覚障害では、時間分解能や雑音下聴取能など、純音聴力閾値では評価できない多彩な聴覚機能障害を呈する。
われわれはその中で、周波数選択性という機能に注目した。周波数選択性とは、必要な周波数の音を抽出する能力であり、純音聴力検査の結果が同じでも周波数選択性が低いと雑音下での聴取能力が低下するなどの症状を示す。当科では現在、聴覚フィルタ測定装置を用いた中枢性聴覚障害症例の周波数選択性評価を進めている(図1)。
今後本手法を用いて、重度難聴者における人工内耳の適応判断や、急性低音障害型感音難聴など現状では評価が難しい低音域の内耳機能評価などへの応用を検討する予定である。

図1 聴覚フィルタ測定結果
5.音源の距離と耳鳴マスキング効果の相違

加齢や耳疾患による耳鳴には多くの人が悩まされている。近年では補聴器による治療や耳鳴治療器(TCI)を用いたTRT療法(耳鳴順応療法)が広く行われているが、治療効果が乏しい場合や機械の装用そのものに不快感がある場合など、治療には限界もある。普段耳鳴がある人でも、川のせせらぎや虫の音が聴こえるような、環境音がたくさんあるところでは耳鳴が意識されにくい。このような現象の背景にある、意識と耳鳴知覚レベルの関連を研究している。
現在行っているのは、耳鳴をマスキングするための音源とその呈示距離の関係の検討である。耳鳴は耳か頭内で鳴っているように知覚されることがほとんどである。従来の補聴器型の機械のような耳に近接する音源と、耳から距離が離れたところから発する音源で疑似的な耳鳴をマスキングするために必要な音圧を測定し、距離の離れた音源の方が有意に小さい音圧で耳鳴をマスキングできることがわかった。今後さらに音源の種類や移動、視覚情報の組み合わせなども行い実臨床へのフィードバックを目指している。

鼻咽喉グループ

1.咽喉頭異常感における胃食道逆流と不安障害の関連について

咽喉頭異常感は「患者が咽喉に異常感を訴えるが通常の耳鼻咽喉科診察で訴えに見合うような器質的病変を認めないもの」と定義されている。異常感の患者は、外来患者の5~10%を占め、年々増加傾向にある難治性の疾患である。酸逆流が一因とされているがPPI抵抗例やうつ・不安障害合併例も多く、機能性疾患と鑑別が困難なケースも多い。
本研究では咽喉頭異常感、胃食道逆流スコア、うつ・不安障害スコアを用い、かつ消化器内科と共同で上部内視鏡検査、24時間pHモニター、食道内圧検査による客観的データと、精神疾患および咽喉頭酸逆流の相互の役割を明らかにし、テーラーメイド治療を行う上での基礎データを蓄積している。

2.アルツハイマー型認知症における嗅覚障害と内側側頭葉萎縮の関連性

本邦では2013年に65歳以上の高齢者人口が初めて総人口の4分の1を超え、老年期認知症の有病率は10%を超える頻度と推定されている。病型別ではアルツハイマー病(AD)が認知症全体の40~60%を占め最も頻度が高い。ADは不可逆性、進行性の認知症であり、早期の治療介入が重要とされ、早期診断方法の開発が期待されている。
AD初期の脳萎縮は一次嗅覚野を含む内側側頭葉(MTL)から始まるとされており、初期症状の一つに嗅覚障害がある。また、MTL萎縮には左右差があるため、嗅覚障害も左右差がある可能性がある。本研究ではAD初期における嗅覚障害とMTL萎縮の左右差の関連を解明し、嗅覚検査がAD早期診断における新たなバイオマーカーとなり得るか検討する。

3.嚥下リハビリテーションによる放射線治療誘発呼吸器合併症の予防効果

下咽頭癌に対する治療は、機能温存を目的とした化学放射線同時併用療法(CRT)が主流となっている一方で、治療後に嚥下障害をきたすことが指摘されている。また10年生存率では他病死が増加しており、誤嚥性肺炎の増加も推測される。われわれは治療前より間接的な嚥下訓練を指導し、リハビリテーションを施行した群と施行しなかった群(ランダム化比較試験)を対象に、嚥下障害に対する早期嚥下リハビリテーションの有用性について検証を行っている。評価方法は、嚥下内視鏡検査やMASA-C、M.D.Anderson DysphagiaInventory等を用いて長期的に評価している。

4.嗅神経細胞の再生メカニズムの研究

嗅神経細胞の再生メカニズムの研究を、免疫組織化学および電子顕微鏡を用いて実験を行っている。嗅球除去術、薬剤による嗅上皮障害を施した後に、嗅上皮の微細形態を経時的に解析し、術後嗅神経細胞の変性および分化成熟についての三次元的微細構造変化と軸索伸長に着目して研究している。

腫瘍グループ

腫瘍グループでは頭頸部癌治療における臨床試験を当教室が主幹として県内多施設共同で行っており、内容としては高用量シスプラチン併用化学放射線療法の完遂率の検討や嚥下機能評価などがある。一方で基礎研究として分子細胞病理学講座や消化器内科、病理部と共同で研究を行っている。

1.分子細胞病理学講座には大学院生を派遣し、頭頸部癌に関する基礎研究を行っている。

研究テーマとしてがんの微小環境に着目し、新しいがん関連因子の発見と、それに対する低侵襲な標的治療の開発を目指している。これまでに、微小環境における低酸素応答に関与するとされている水酸化酵素の中で、癌細胞において高度に発現しているいくつかの分子を同定し、それらと癌の増殖動態との関連について解析を進めている。

2.消化器内科、病理部とは咽喉頭表在癌に関する共同研究を行っている。

表在癌とは上皮または上皮下層にとどまっている初期の癌であり手術治療による予後は良好ではあるが、5%程度の症例では頸部リンパ節転移をきたし予後不良となることもある。内視鏡所見による深達度と病理所見による浸潤傾向および臨床経過を比較検討することで転移リスクを解明し、早期発見早期治療による低侵襲治療確立への貢献を目的としている。

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