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Achievements
当研究室の業績


2002年度

1.御挨拶

 

新潟大学大学院医歯学総合研究科薬理学  教授 樋口宗史

 

 平成14年(2002年)はWorld Cupの年として世界中が日本と韓国に注目した年でした。サッカーにおける決勝リーグに進んだ日本の国際的な活躍が目を引き、新潟でもビッグスワンでのすばらしい熱戦が行われた。

 

 一方、世の中と比べ、私たち日本の国立大学の状況はどうかというと、平成16年春の独立行政法人化への準備が、国立大学構造改革方針(遠山プラン)に従い、活力に富む、国際競争力のある大学作りが各大学で進んでいる。また、民間的発想による競争原理を導入した国公立トップ30(21世紀COEプログラム)構想による大学ランクづけも進んでいる。研究予算はそれに基づき各大学間で大きく差をつけられようとしている。その時、大学職員は非公務員となり、民間企業役員を兼務できる自由が認められるが、その分、国際競争に本当の意味で打ち勝っていくための研究者個人、研究グループの業績評価が厳しく求められるようになる。現在、新潟大学では中期目標、中期計画の作成が進行中であり、早晩文部省による大学の外部評価を厳正になされるようになるであろう。

 

 我々薬理学教室の各教室員も公務員というぬるま湯から出て、いよいよ民間的競争社会のなかで非公務員として成果を出していかなければいけなくなった。現在、薬理学教室は医学部基礎医学研究棟の改修工事を控えており、現在の研究活動以外に将来の研究を踏まえた研究室の施設整備や研究計画を考えねばならない。ポストゲノム時代に薬理学の研究・教育の重要性は益々高まると思われるが、現実には理想的な研究環境からどんどん遠ざかっているように感じる昨今である。しかし、一歩一歩地道に独創的な研究を成し遂げぬくという気持ちで教室員各自が頑張ってほしいと考えている。これまで以上に同窓会の諸先生のご指導ご鞭撻をお願い申し上げますとともに、自助努力の道を悔いなく、教室員の皆で歩んでいきたいと考えている。


2.人事異動

 

薬理学講座 現教室員(平成15年1月現在)

 

教授              樋口宗史

助手              山口 剛、岡田誠剛(医局長)、弦巻 立

技官              三富明夫

技術補(秘書)            荒川英子

技術補(実験助手) 長谷川歩未

大学院博士課程          許 波(D4)、朴 紅蘭(D1)

研究生            豊里 晃(歯学部加齢歯科・助手)

非常勤講師           長友孝文(新潟薬科大)、馬場明道(大阪大)

前山一隆(愛媛大)、渡辺康裕(防衛医大)

吉岡充弘(北海道大)、東田陽博(金沢大)

中村祐輔(東京大)、三木直正(阪大)

柳澤輝行(東北大)、中木敏夫(帝京大)

寒川賢治(国立循環器病センター)、川島博行(歯学部)青柳孝一(新潟県福祉保健部)

医学部学生基礎配属 竹内 卓、内藤夏子、武田 健

 

 

平成14年度教室内人事異動

       平成14年 3月  川内 務 研究生を退局

       平成14年 4月  弦巻 立 助手として採用

       平成14年 4月  朴 紅蘭 大学院入学

 


4.研究活動(研究成果)

 

T.神経遺伝子転写機構の分子レベルでの解明

 

A.NPY遺伝子プロモーターのLeptinによる活性化機構の解析

 食欲の中枢調節に関与するNPYは、末梢からのadipostat signalであるLeptinによってその発現が抑制される。これまでNPY遺伝子のLeptin転写調節機構を解析し、JAK-STAT系が関与していることが示された。NPY遺伝子プロモーター部位の決失ミュータントを用いた実験でレプチン反応性エレメント(221塩基対)を同定し、その中にSTAT結合部位を発見した。レプチンはレプチン受容体の活性化後にSTAT3を介してNPY遺伝子を転写活性化するがこのSTAT部位を使っていることが明らかになった。

 

B.NPY遺伝子発現のT3による調節

 NPY遺伝子は哺乳動物脳内では甲状腺ホルモンでその発現量が調節されていることを明らかにした。T3による大脳皮質でのNPY遺伝子発現は甲状腺機能亢進時の精神機能変化を示唆するが、これはNPY遺伝子の転写レベルでの調節であることを明らかにした。

 

U.NPY受容体を介したシグナル伝達の解析

 

A.NPYとその受容体の結合様式の解析

NPYの受容体は、5つのサブタイプが同定され、いずれも7回膜貫通領域をもつG蛋白質共役型である。生体内に近い状態で受容体の結合特性を解析するために細胞膜上のNPY受容体とNPYとの結合を生体分子間相互作用解析装置(IAsys)を使って解析する予定である。その準備段階として、ラットcDNAライブラリーのスクリーニングを行い、NPY-Y1受容体遺伝子を同定した。さらに遺伝子を培養細胞へ強制発現させ、NPY受容体遺伝子発現を確認している。

 

B.ラット血管α収縮反応に対するNPYの協調作用

種々のラット摘出血管を用いて、NPYとα1アゴニスト、NPYとセロトニンとの相乗作用を検討した。NPY存在下で大腿動脈、尾動脈はα1アゴニストの反応が大きくなるが、頸、上腕、大動脈、および静脈ではNPYの効果を認めなかった。また、セロトニンによる収縮はいずれの血管においてもNPYによる相乗作用を認めなかった。Y1アンタゴニストを用いた実験により、NPYの部位選択的α1収縮協調作用はY1レセプターを介していることが明らかになった。

C.ブタ冠動脈に収縮に対するセロトニンとNPYの協調作用

豚の心臓を用いて、その冠動脈における5-HT(serotonin)収縮とNeuropeptide Y (pNPY)との協調作用を調べた、病的状態を示す内皮障害血管において、5-HTとNPYの協調作用の減弱が見られた。

 

D.NPY受容体を介する電気生理学的反応

 未分化NG108-15細胞に発現する主要な電位依存性K+及びCa2+チャンネルが各々delayed rectifier K+チャンネルとT型Ca2+チャンネルであることを確かめた。Neuropeptide Yはdelayed rectifier K+電流に影響を与えなかったが、T型 Ca2+電流を10%増強した。Y5受容体アンタゴニストはこの増強に影響を与えなかったが、Y1受容体アンタゴニストは部分的に増強を抑制した。



5.科研費、助成金

 

1)    平成13年度中富研究科学振興財団研究助成金(新規)

「新規薬物感受性神経転写因子の加齢変化」

(代表 樋口宗史)

 

2)    新潟大学プロジェクト推進経費(若手研究者奨励研究)(新規)

「摂食行動を司るNPY及びNPY受容体の遺伝子発現変化とホルモン制御」

(代表 山口 剛)

 

3)    新潟大学プロジェクト推進経費(若手研究者奨励研究)(新規)

T型カルシウム電流を介したNeuropeptide Yによる神経細胞興奮性の制御」

(代表 岡田誠剛)

 

6.業績(英文原著)

 

1) Tsurumaki T, Muraoka O, Yamaguchi T, Higuchi H.

Neuropeptide Y-induced contraction and its desensitization through the neuropeptide Y receptor subtype in several rat vain.

Journal of Cardiovascular Pharmacology, 41(Suppl. 1), S23-S27, 2003

 

 

2) Muraoka O, Xu B, Tsurumaki T, Akira S, Yamaguchi T, Higuchi H.

Leptin transactivates NPY gene promoter by JAK1, 2 and STAT3 in the neural cell lines.

Neurochemistry International (in press)

 

 

7.業績(和文原著)

 

1)    樋口宗史、弦巻 立、岡田誠剛、渡辺資夫

「精神緊張ストレスとしてのカラーワードテストとβブロッカーの効果」

Japanese Journal of Clinical Pharmacology and Therapeutics, 33 (Suppl), 345S-346S, 2002.

 

 

2) 岡田誠剛、長谷川歩未、樋口宗史

T型カルシウム電流のNeuropeptide Yによる増強」 

神経化学(第45回大会抄録号)、41巻、339頁、2002年

 

3) 山口 剛、荒木一明、那波宏之、樋口宗史

The 5’variants of p270, an integral member of SWI-SNF complexes, in the rat brain

神経化学(第45回大会抄録号)、41巻、397頁、2002年

 

 

8.総説

 

1)    樋口宗史

「依存性薬物によって生じる薬物渇望行動と精神依存の分子機構」

分子精神医学、2巻、46-50頁、2002年

 

2)    樋口宗史

「第14回World Congress of Pharmacology見聞録」

日本薬理学雑誌、120巻、210-211頁、2002


9.国際学会

 

1) Higuchi H, Yamaguchi T, Mitomi A, Hasegawa A.

Effect of fasting on NPY receptor subclass gene expression

XIVth World Congress of Pharmacology, July 7-12, 2002, San Francisco, CA, USA

 

 

10.国内学会(研究会も含む)

 

1) 樋口宗史、長谷川歩未、三富明夫、山口 剛

甲状腺ホルモンによるNeuropeptide Yの遺伝子転写制御

75回日本薬理学会年会 2002年3月13-15日 熊本

 

2) 弦巻 立、村岡 修、山口 剛、樋口宗史

ラット摘出静脈でのNeuropeptide Yによる脱感作現象

75回日本薬理学会年会 2002年3月13-15日 熊本

 

3) 長谷川歩未、弦巻 立、三富明夫、山口 剛、樋口宗史

ラットLangendorff灌流心の心筋障害に対する選択的エンドセリン受容体阻害薬の保護効果

75回日本薬理学会年会 2002年3月13-15日 熊本

 

4) 山口 剛、長谷川歩未、三富明夫、樋口宗史

絶食マウス脳でのNeuropeptide Y受容体遺伝子発現の変化

75回日本薬理学会年会 2002年3月13-15日 熊本

 

5) 岡田誠剛、長谷川歩未、樋口宗史

NG108-15細胞におけるカルシウム及びカリウム電流の分化による変化

75回日本薬理学会年会 2002年3月13-15日 熊本

 

6) 山口 剛、荒木一明、那波宏之、樋口宗史

The 5’variants of p270, an integral member of SWI-SNF complexes, in the rat brain

45回日本神経化学学会大会 2002年7月17-19日 札幌

 

7) 岡田誠剛、長谷川歩未、樋口宗史

Augmentation of T-type Ca2+-current by Neuropeptide Y in NG108-15 cells

45回日本神経化学学会大会 2002年7月17-19日 札幌

 

8) 弦巻 立、朴 紅蘭、樋口宗史

ラット摘出血管におけるNeuropeptide Yとカテコールアミンの協調作用

53回日本薬理学会北部会 2002年9月19-20日 秋田

 

9) 長谷川歩未、山口 剛、樋口宗史

ジルチアゼムの急性心虚血に対する保護作用

――アムロジピン、ニトログリセリンとの比較――

53回日本薬理学会北部会 2002年9月19-20日 秋田

 

10) 岡田誠剛、長谷川歩未、樋口宗史

T型カルシウム電流はNeuropeptide Yによって増強される

53回日本薬理学会北部会 2002年9月19-20日 秋田

 

11) 弦巻 立、朴 紅蘭、樋口宗史

ラット摘出血管におけるNeuropeptide Y (NPY)とα1アゴニストの協調作用

24回カテコールアミンと循環器系研究会 2001年11月30日 東京

 

 


11、教室近況

 

 諸先生方におかれましては、益々ご活躍の事と慶び申し上げます。この1年間の教室の出来事についてご報告申し上げます。

 まず、私達を取り巻く環境の最大の変化は、研究棟の改修工事の開始です。改修に関する予算が承認され、平成14年度から3年間かけて、西研究棟が東側から漸次改修され、既に第1期工事が開始されていきます。それに伴い、我々薬理学教室は来年6月に仮移転先に引っ越し、再来年3月に改修後の西研究棟4Fに再度引っ越す予定となっています。そのため、現在は移転のための備品のチェック、新しい研究室の設計等のためあわただしい日々を送っています。

 教室内の人事異動としては、歯学部歯科麻酔科から派遣されて大学院生として、ずっとNPYの血管収縮に対する作用の研究を続けられてきた弦巻立君が、今年4月1日付けで薬理学教室の助手として採用され、現在も持ち前の器用さとこまめさを存分に活かして収縮の研究を継続されています。研究室の研究活動の中心テーマは今年も樋口宗史教授がずっと続けてこられたニューロペプチドYの仕事がメインであることに変わりはありません。今年4月から、大学院1年生になった朴紅蘭君は弦巻先生の指導の下にラット各種血管のヒスタミンによる収縮の実験を開始し、興味深い結果を見いだしています。大学院4年生の許 波君は、それまでの分子生物学実験から少し趣向を変えて、現在はブタ心の冠動脈のセロトニンによる収縮の研究に取り組んでいます。技術補佐員の長谷川歩未さんは、ラット心ランゲンドルフ標本を用いた心筋虚血保護作用薬の研究とNPYプロモーターアッセイという2つの仕事を見事に両立させ、三富明夫さんはNPYの循環動態に対する影響を主に動物個体を用いて観血的に検討しています。弦巻助手は前述の通りであり、岡田誠剛助手はNPYのカルシウム電流に対する作用を検討しています。山口剛助手は、NPY及びその受容体mRNAの絶食による発現変化、NPYプロモーターの解析、IAsysを用いた生体物質相互作用検討のための準備など非常に広範な研究を見事に遂行されています。これらの研究成果には、荒川英子さんの秘書としての献身的な努力があったことはいうまでもありません。教育活動としては通常の授業、実習の他に、学外の特別講師として、長友孝文教授(新潟薬科大)、馬場明道教授(大阪大)、前山一隆教授(愛媛大)、渡辺康裕教授(防衛医大)、吉岡充弘教授(北海道大)、東田陽博教授(金沢大)、中村祐輔教授(東京大)、三木直正教授(阪大)、柳澤輝行教授(東北大)、中木敏夫教授(帝京大)、青柳孝一先生(新潟県福祉保健部)の各教授をお招きし、学内では、川島博行教授(歯学部)に薬理学特別講義をお願い致しました。また大学院特別講義では、国立循環器病センターの寒川賢治先生にご講演をお願いしました。

 

 このように我々も、研究棟の改修工事、目前に迫った国立大学の独立行政法人化等の新たな変化に対応を迫られております。また、本来の仕事である研究に関しても益々努力を積み重ねる所存でございますので、今後とも当薬理学教室員への暖かいご支援をお願いするとともに、諸先生方のご健勝を心からお祈り申しあげまして、本稿を終わらせていただきます。(岡田記)

 



トップ30申請課題
「脳に発現する神経特異遺伝子の転写調節因子と神経精神機能」
薬理学教室 教授 樋口宗史

 ヒューマンゲノム計画で個々の構造蛋白質がゲノムシークエンスで決定され、次は遺伝子にコードされる前駆体からプロセッシングされた蛋白質の実際の構造・機能の解明が生物の生体機能を理解する上で益々重要になってきた。その内、遺伝子転写はその機構がまだまだ未知であり、非常に複雑にオーガナイズされた系で生体機能の調節メカニズムに極めて重要であることが解っている。
 薬理学教室での神経薬理学研究は、中枢神経に発現する神経伝達物質およびその受容体の遺伝子の転写制御がどのような新しい神経特異転写因子で調節されるのか分子レベルで同定することを目的にしている。特に脳の神経ペプチド伝達に関わる遺伝子群の転写因子がどのように中枢神経形成や感情、摂食、不安を含めた高次精神機能を調節し、精神障害を引き起こすのかを追求している。

I、神経遺伝子転写機構の分子レベルでの解明
 主に中枢性神経ペプチドNPY, Enkephalin遺伝子を中心に、培養神経細胞を用いて中枢神経伝達に関わる神経特異遺伝子発現機構を分子レベルで研究している。神経特異的転写因子を明らかにし、薬物制御点としての遺伝子転写機構を解明している。
 現在及び将来にわたり、以下のテーマを追及する。
1.交感神経を含む神経分化に関わる新しい転写因子群の同定と解析と
神経分化へのアプローチ
  2.神経特異シグナルによる転写調節―記憶・可塑性へのアプローチ
  3.神経栄養因子 (NGF等)の分子機構―脳老化へのアプローチ
 
 2、ゼブラフィッシュ胚を用いた神経形成遺伝子転写因子の研究
 脊椎動物の中枢神経系の発生・頭部形成にどのような遺伝子が関与しているかは不明のまま残されている。我々は、Zebrafishを用いて、胎生期神経外胚葉に発現するzinc-finger and homeodomainファミリーの新規転写因子Kheperをクローニングした。この因子の発現はオーガナイザー分子であるNogginとChordinの下流にあり、過剰発現により頭部中枢神経の増大が、dominant-negative Kheperによる機能抑制により頭部中枢神経の形成不全が惹起されることから、頭部神経系の形成に必須の遺伝子であることが明らかになった。このシステムでさらに新規の転写因子を機能クローニングし、神経形成機構の解析を行う。

 3、遺伝子改変マウスシステムを用いた摂食行動と循環動態の研究
 クローン化された新規遺伝子の個体レベルでの遺伝子機能を知るには遺伝子改変動物作成は必須の手段であり、ヒト疾患の疾病モデルの開発・治療法の発見、また遺伝子治療などに応用可能である。
 哺乳動物の摂食行動と循環系反射は新しい神経ペプチドで巧妙、精緻に調節されている。その中心的役割を担う神経ペプチドY(NPY)の研究を遺伝子のレベルからトランスジェニックマウス個体レベルの行動薬理実験まで行っている。摂食、血圧、不安におけるNPY遺伝子、その受容体の重要性は個体動物で明らかになった。トランスジェニックマウスのより良い薬理実験系の確立に努力している。
 これらtransgenic mouse・fishを用いて、抗痴呆薬、感情薬など、高次精神機能に対する薬物の開発に繋げたい。
 
 研究者育成
 新規方法論による新しいテーマの追求を通じて独創性のある若手研究者を育成できると考え、努力したい。



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