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Achievements
当研究室の業績


2013年度

1.御挨拶


新潟大学大学院医歯学総合研究科・分子細胞医学・薬理学教室
樋口宗史

西洋薬の漢方薬的使用法の勧め
 1953年出版の東北大学薬学部小澤光名誉教授の本を読んでいるとアスピリンとフェナセチンが風邪に使われると書いてある。私が卒業した1977年時点では、アスピリンはアンチピリン系の薬物が消化器系の副作用を起こすことを考慮すると風邪の薬として最も良く、フェナセチンを含めた総合感冒解熱薬としてPCA (Caffeine入り)処方が使われていた。30分位から1時間で発汗して熱が下がり、葛根湯と同様であると考えられていた。アスピリンは1899年から使用される歴史的NSAIDsである。しかし、いつの間にかアスピリン使用は小児の水痘、インフルエンザなどの発熱性ウイルス感染症ではライ症候群を併発すると恐れられ、子供には投与されずにフェナセチンの主要代謝産物アセトアミノフェンに採って代わられた。フェナセチンも鎮痛薬性腎症の原因として使用禁止となった。現在、小児の感冒にアセトアミノフェン、カフェイン、サリチルアミド、抗ヒスタミン薬が使われている。また、インフルエンザウイルスにはアセトアミノフェン(パラセタモール)は脳のプロマタグランディン合成は阻害するが、末梢性のPG合成作用(胃の耐性、血小板阻害)にはほとんど影響なく、12才未満の小児にも有効と言われる。このように西洋薬の有効成分はある状態での副作用が見つかるとその毎に有効な薬でも使用禁となることが多い。新しいもっと有効な薬物がどんどん開発される必要があるが、純粋な新規薬物は合成も薬理作用の検定も、さらに多くの困難さを伴う。
 一方、漢方薬、葛根湯は2000年以上前から実証の風邪の初期に使われ続けてきただけでなく、その適応範囲が肩凝り、神経痛や更年期女性の尿漏れにまで広がっている。これは薬理作用として生薬麻黄成分のエフェドリンなどが複合的に効いていると説明されている。また、配合された大棗、桂枝、甘草などが麻黄の副作用を打消し合って、複合的に良い感冒抑制作用を出している。漢方処方は頻用処方が200以上もあるが、これは使用される生薬数に限りがあるので協調的に複合成分を用い、いろいろな証に特有の薬理効果を出し、副作用は打消し合うように処方が考案されている。漢方薬は新しい生薬を探すよりも(物理的に生薬数が限界があるため)、200余りの既知の方剤の新しい臨床処方の発見に多くの興味が注がれている。このような臨床面での複合生薬処方の拡大が漢方医学の特徴である。
 創薬、つまり単一化合物の西洋薬の新しい作成に多大な努力が払われている。これは大変重要なことであるが、多くの労力・時間・資金が必要である。
 これに加えて、今後は西洋薬の創薬の他に、より良い薬物療法の開発のために、漢方薬と同様のアプローチでの治療法開発も、医療経済的な観点から求められている。

平成26年1月1日


2.人事異動


薬理学講座 現教室員(平成26年1月1日現在)

教授
樋口宗史
准教授
村瀬真一
助教
椎谷友博
梅原隼人
技術補(秘書)
荒川英子
大学院課程
坂井一明(D2 休学中)
廣井 真(M2)
医学部基礎配属
宇井雅博
佐々木健太

非常勤講師
新井 信(東海大学)、山田光男(新潟県福祉保健部)
平 英一(岩手医科大学)、中木敏夫(帝京大学)
服部裕一(富山大学)、東田陽博(金沢大学)
平山篤志(日本大学)、堀尾嘉幸(札幌医科大学)
前山一隆(愛媛大学)、山田充彦(信州大学)
渡邊康裕(防衛医科大学校)、三輪聡一(北海道大学)
山形要人(東京都医学総合研究所)、吉田進昭(東京大学)


平成25年度教室内人事異動
平成25年 6月 梅原隼人  入局
平成26年 3月 廣井 真  大学院修士課程修了
平成26年 3月 坂井一明  大学院博士課程転籍(衛生学分野へ)


3.教育活動(平成25年4月〜平成26年3月)


  • 平成25年度講義(1年次)

  •  1月21日 医学序説I (脳に働く薬と毒) 樋口宗史

  • 平成25年度基礎薬理学講義(3年次)

  •  4月 8日 総論(1)(2)歴史、学問領域、概念、作用機序 樋口宗史
     4月15日 総論(3)(4)受容体の概念、シグナル伝達 樋口宗史
     4月22日 総論(5)(6)シグナル伝達、神経化学伝達総論 樋口宗史
     4月30日 特別講義-神経化学伝達の特異性 渡邊康裕
     5月13日 中枢神経薬理(1)(2) 樋口宗史
     5月20日 総論(7)(8)薬物動態、薬物代謝、ADME 村瀬真一
     5月27日 筋弛緩薬、局所麻酔薬 村瀬真一
     6月 3日 中枢神経薬理(3)(4) 樋口宗史
     6月 5日 自律神経(1)副交感神経作用薬 村瀬真一
     6月10日 循環器薬理学(1)(2) 樋口宗史
     6月11日 特別講義-接着因子と薬理学 平 英一
     6月12日 自律神経(2)交感神経作用薬 村瀬真一
     6月17日 循環器薬理学(3)(4) 樋口宗史
     6月18日 特別講義-老化の薬理学 堀尾嘉幸
     6月19日 化学療法薬(1)(2) 村瀬真一
     6月26日 抗ウイルス薬、抗真菌薬 村瀬真一
     6月26日 特別講義-麻薬法規 山田光男
     7月 3日 抗炎症薬、ステロイド 村瀬真一
     7月16日 特別講義-高血圧の薬理学 三輪聡一
     7月22日 特別講義-一酸化窒素、パーキンソン病の薬理学 中木敏夫

  • 平成25年度臨床医学入門ユニット講義(3年次)

  •  7月16日 臨床薬理学 樋口宗史 他

  • 平成25年度病態薬理学I講義(3年次)

  • 10月 1日 特別講義-高脂血症薬 服部裕一
    10月29日 特別講義-抗不整脈薬 山田充彦
    11月19日 特別講義-社会行動・自閉症の薬理学 東田陽博
    12月 3日 呼吸器系薬理学 村瀬真一
    12月17日 向精神薬(1)(2) 樋口宗史
     1月14日 向精神薬(3) 樋口宗史
     1月21日 内分泌薬理(1)(2) 下垂体、性腺、副腎 村瀬真一
     1月28日 内分泌薬理(3)(4) 糖尿病・肥満の薬理学 樋口宗史
     2月 4日 特別講義-ヒスタミンの薬理学 前山一隆

  • 平成25年度病態薬理学II講義(4年次)

  •  4月16日 皮膚・形成の薬理学 樋口宗史
     4月30日 泌尿器系薬理学 村瀬真一
     5月28日 消化器系薬理学 樋口宗史
     6月27日 生殖発達系薬理学 村瀬真一
     7月 2日 視覚器系薬理学 樋口宗史
     7月30日 麻酔・救急蘇生の薬理学 村瀬真一

  • 平成25年度臨床医学講義(6年次)

  •  7月26日 特別講義-医学生のための漢方医学入門 新井 信

  • 平成25年度薬理学実習(3年次)

  •  6月24日 薬理学実習(1)(2) 樋口宗史 他
     6月25日 薬理学実習(3)(4) 樋口宗史 他
     7月 1日 薬理学実習(5)(6) 樋口宗史 他
     7月 2日 薬理学実習(7)(8) 樋口宗史 他
     7月 8日 薬理学実習(9)(10) 樋口宗史 他
     7月 9日 薬理学実習(11)(12) 樋口宗史 他

  • 3年次実習項目

  • エタノールの中枢作用
    カフェインの中枢作用
    平滑筋I、II
    自律神経薬と血圧
    薬物の精神ストレス(カラーワードテスト)に対する作用

  • 大学院修士課程講義

  •  5月 2日 神経細胞の移動・分化と脳の発達薬理学 村瀬真一
     5月30日 神経薬理学 樋口宗史

  • 大学院特別講義

  •  7月 5日 神経活動依存的に発現する分子によるスパイン形態制御 山形要人
     9月 6日 遺伝子改変マウスを用いた多機能な遺伝子の機能解析 吉田進昭
     2月12日 循環器領域における画像診断の進歩と治療戦略の変遷 平山篤志

  • 留学生特別講義 日本事情自然系B

  • 10月 9日 肥満研究 神経ペプチドYによる摂食調節 椎谷友博

  • 出張講義

  • 富山大学医学部(非常勤講師) 樋口宗史
    岩手医科大学医学部(非常勤講師) 樋口宗史
    愛媛大学医学部(非常勤講師) 樋口宗史


    4. 研究活動


    T.中枢性神経ペプチドによる摂食調節機構の研究
    A. proopiomelanocortin(POMC) mRNAノックダウンによる摂食抑制機構の解明
     POMCは主に視床下部弓状核(ARC)及び脳幹の孤束核(NTS)において産生される。POMC遺伝子の転写産物は中枢神経系においてprohormone convertases(PCs)によりプロセッシングを受け、活性代謝産物であるα-melanocyte stimulating hormone(α-MSH)がmelanocortin 3/4 receptors(MC3/4)を介して摂食抑制作用を示すと考えられている。しかし、α-MSHによる摂食抑制が、どのようなメカニズムで制御されているのかは不明である。そこで、本研究ではまずARCとNTSのPOMC遺伝子発現を部位特異的にノックダウンし、摂食行動に対するα-MSH系の影響を調べる目的で、POMC遺伝子発現を抑制するsiRNA発現ベクター作成を開始した。

    B. ニューロペプチドY受容体Y1ノックアウトマウスの代償機構
     ニューロペプチドY受容体はげっ歯類ではY1, Y2, Y4, Y5, y6の五種類が同定されている。その中でもY1とY5が摂食亢進に重要であると考えられており、Y1やY5アンタゴニストを脳内へ投与すると摂食量が抑制される。しかし、Y1やY5受容体ノックアウトマウスでは、WTマウスに比べて摂食亢進し体重が増加する。このため、Y1やY5ノックアウトマウスでは、代償機構が働いている可能性が示唆されるが詳しいメカニズムは不明である。そこで、RT-PCRによりニューロペプチドY受容体の発現を検討した結果、Y1ノックアウトマウスでは、視床下部のY5 mRNA発現が増加していた。さらにin situハイブリダイゼーションにより、どの神経核での遺伝子発現が増加しているか検討した結果、Y1ノックアウトマウスの室傍核、腹内側核、弓状核でY5 mRNAが増加していた。


    II. 循環調節に関わる生理活性物質と受容体・シグナル伝達の研究

    A. ヒスタミンによるラット静脈の弛緩反応におけるヒスタミンH3 受容体の関与の解明
     ヒスタミン受容体にはヒスタミンH1-H4受容体(H1R-H4R)の四つのサブタイプが知られている。ヒスタミンによるラット静脈(総頸静脈、上腕静脈、腹部下大静脈、大腿静脈)の弛緩反応には、H1Rではなく主にH2Rが関与することを明らかにしてきた。本研究では、さらにH3RやH4Rの関与についても調べた。H3Rの特異的antagonistであるJNJ5207852(10 nM-100 nM) を用いた実験と、特異的H3R agonistであるmethimepip(0.1 nM-10 μM)を用いた実験とから、ヒスタミンによる各種静脈の弛緩反応にはH3Rの関与は小さいと考えられた。また、thioperamide (H3/ H4R antagonist、inverse agonist) を用いた予備実験でもヒスタミンによる静脈の弛緩反応は有意に抑制されなかったので、H3R、H4Rの関与は小さいと考えられた。


    B. ニューロペプチドY受容体の分布様式の検討
     ニューロペプチドY受容体の一つであるY5蛋白質の局在に関する情報はマウスでは少ないため、Y5蛋白質のマウス脳における発現様式を間脳より尾側領域で検討した。抗Y5抗体をあらかじめY5KO脳切片で吸収して、この吸収抗体で野生型マウスにおけるY5蛋白質の局在を検討した。視交叉上核、視索上核、外側視床下部、室傍核、背内側核、腹内側核、弓状核、手綱、結合核、黒質、脚間核、腹側被蓋、上丘、下丘、内側膝状体核、外側膝状体核、赤核、小脳、舌下神経核にY5局在が観察された。Y5発現は、従来考えられているよりも広範な脳部位にわたって確認された。


    5.業績(和文原著・和文総説)


    1) 樋口 宗史
      日薬理誌、141, 1-2, 2013
      「人の働ける時間は短い。若い人は最も重要なことにチャレンジしなければいけない」

    2) 樋口 宗史
      日薬理誌、 141, 188, 2013
      第63回日本薬理学会北部会 市民公開講座
      「がんペプチドワクチン療法;現状と課題」を開催

    3) 村瀬 真一
      日薬理誌、141, 2, 2013
      「第63回日本薬理学会北部会」 

    4) 村瀬 真一
      日薬理誌、141, 2, 2013
      「研究室訪問」 

    6.国内学会(研究会も含む)



    1) 村瀬真一、樋口宗史
    嗅球ニューロブラストの移動・分化におけるインテグリンα5鎖とフィブロネクチンの相互作用可能性を示す共発現
    第86回日本薬理学会年会 2013年 3月21−23日 福岡

    2) 村瀬真一、椎谷友博、樋口宗史
    マウス中枢神経系(間脳より尾側領域)におけるニューロペプチドY Y5受容体の発現様式の検討
    第 64 回日本薬理学会北部会 2013年 9月 13日 旭川

    3) 梅原隼人、Beatrice Passani、Gustavo Provensi、Patrizio Blandina、樋口宗史
    Oleoylethanolamide (OEA) による摂食抑制における中枢ヒスタミン神経系の関与
    第 64 回日本薬理学会北部会 2013年 9月 13日 旭川


    7.教室近況



    諸先生方におかれましては、益々御活躍のことと御慶び申し上げます。
    平成25年(2013年)1月から12月における薬理学教室の一年間を御報告させて頂きます。
     人事面では6月に梅原隼人博士がイタリアのフィレンツェ大学から助教として赴任しました。 従って現在の教室員は、樋口宗史教授、村瀬真一准教授、椎谷友博助教、梅原助教、荒川英子技術補(秘書)、大学院生の坂井一明、廣井 真の六名となります。
     教育面では4月から7月までは基礎薬理学および病態薬理学IIの講義、6月から7月にかけて薬理学実習、9月からは病態薬理学Iの講義を当教室スタッフが行ないました。学部の特別講義では、例年学外の先生をお招きして最先端の薬理学研究をふまえた講義をして頂くことになっています。渡邊康裕教授(防衛医科大学校)の「神経化学伝達の特異性」、平 英一教授(岩手医科大学)の「接着因子と薬理学」、堀尾嘉幸教授(札幌医科大学大学院)の「老化の薬理学」、三輪聡一教授(北海道大学医学部)の「高血圧症の薬理学」、中木敏夫教授(帝京大学医学部)の「一酸化窒素、パーキンソン病の薬理学」、服部裕一教授(富山大学医学系大学院)の「高脂血症薬」、山田充彦教授(信州大学医学系大学院)の「抗不整脈薬」、東田陽博教授(金沢大学大学院医学研究科)の「社会行動・自閉症の薬理学」、前山一隆教授(愛媛大学大学院)の「ヒスタミンの薬理学」、新井 信准教授(東海大学医学部)の「漢方医学」の講義をそれぞれ充実した内容で行なって頂きました。「麻薬法規」の特別講義は、山田光男係長(新潟県福祉保健部医務薬事課)により、大学院特別講義は、山形要人部長(東京都医学総合研究所)の「神経活動依存的に発現する分子によるスパイン形態制御」、吉田進昭教授(東京大学医科学研究科 システム疾患モデル研究センター)の「遺伝子改変マウスを用いた多機能な遺伝子の機能解析」が行われました。8月には、ハルビン医科大学の博士課程大学院生一名(劉 学さん)を、10−11月には医学研究実習として医学科四年生の2名(宇井雅博君、佐々木健太君)を受け入れて、当教室スタッフがマンツーマンでの指導を行いました。
     研究活動ですが、循環器薬理学領域では「血管平滑筋を用いてのヒスタミン誘導性弛緩反応のメカニズム(梅原、廣井)」および「高濃度炭酸泉による血管の弛緩メカニズムの解明(坂井)」の2つのテーマが追求されています。神経薬理学領域では、「摂食関連神経ペプチドとその受容体分子が摂食におよぼす機能的役割と分子メカニズム」に対して分子生物学的手法と実験動物を用いた薬理学的行動解析により検討しています(椎谷、梅原)。神経新生・移動・分化のメカニズムの研究も行われています(村瀬)。 その他、「あさひ漢方薬理研究会(全6回)」を隔月開催により行いました。以上の教育・研究面をはじめ薬理学教室の諸活動は、荒川英子秘書の多くの貢献に支えられていることは言うまでもありません。研究以外にも教室行事として4月に白山公園の花見、12月には月岡温泉での忘年会が企画されました。
     昨今 教育、研究の両面において内外から厳しく評価される状況ですが、教室員一同一層の努力を積み重ねてそれらの評価や期待に応えていきたいと考えております。今後とも薬理学教室への暖かい御支援をお願いするとともに、諸先輩、先生方の御健勝を心からお祈り申し上げまして、本稿を終わらせて頂きます。
    (文責 村瀬真一)



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