疾患と治療について

小児外科の治療

小児外科で治療する病気の中で、一般の方にもよく知られているものとして、鼠径ヘルニアや虫垂炎、腸重積などがあります。しかし、一般の方には知られていない病気もたくさんあります。小児といっても生まれたばかりの新生児から学童、思春期に渡る子どもが対象となり、子どもの年齢によって症状や治療は異なり、高度の専門的知識と臨床修練が必要なります。そのために、小児外科という分野ができました。
生まれたばかりの新生児期に手術を要するお子さんは増えており、500出生数に1.5人の割合で手術を必要としている状況です。しかし、多くの病気は適切に治療をして、元気に大人になっていきます。

対象年齢

原則として16歳未満の小児を対象としております。
小児外科で一度治療を受けられた方で、疾患の特殊性から成人期に移行しても小児外科で治療を継続する場合もあります。

小児期の年齢区分

胎児期 生まれるまで、お母さんのお腹にいる時期
新生児期 出生後28日まで
乳児期 新生児期以降から1歳まで
幼児期 1歳から6歳まで
学童期、思春期 7歳から15歳まで

対象疾患

胎児期、新生児期の疾患

  • 先天性食道閉鎖症、先天性十二指腸閉鎖症、先天性小腸閉鎖症
  • 直腸肛門奇形
  • 胃破裂、壊死性腸炎
  • ヒルシュスプルング病、ヒルシュスプルング病類縁疾患
  • 先天性横隔膜ヘルニア、横隔膜弛緩症
  • 臍帯ヘルニア、腹壁破裂
  • 胆道閉鎖症、先天性胆道拡張症
  • 肺の先天的奇形(CCAM、肺分画症、気管支原性嚢胞)
  • 血管腫、リンパ管腫、脂肪腫
  • 卵巣嚢腫
  • 水腎水尿管症

乳児期の疾患

  • 肥厚性幽門狭窄症
  • 胆道閉鎖症、先天性胆道拡張症
  • 悪性固形腫瘍(神経芽腫、腎芽腫、肝芽腫、横紋筋肉腫、胚細胞腫瘍)
  • 血管腫、リンパ管腫、脂肪腫
  • 腸重積症
  • 胃食道逆流症
  • 慢性便秘症
  • 鼠径ヘルニア、陰嚢水腫、臍ヘルニア
  • 停留精巣、包茎

幼児期の疾患

  • 先天性胆道拡張症
  • 腸閉塞
  • 悪性固形腫瘍(神経芽腫、腎芽腫、肝芽腫、横紋筋肉腫、胚細胞腫瘍)
  • 胃食道逆流症
  • 慢性便秘症
  • 鼠径ヘルニア、陰嚢水腫、臍ヘルニア
  • 停留精巣、包茎
  • 水腎水尿管症、膀胱尿管逆流症
  • 漏斗胸
  • 外傷

学童期、思春期の疾患

  • 急性虫垂炎
  • 腸閉塞
  • 慢性便秘症
  • 先天性胆道拡張症
  • 悪性固形腫瘍(神経芽腫、腎芽腫、肝芽腫、横紋筋肉腫)
  • 漏斗胸
  • 外傷

主な対象疾患とその治療

鼠径ヘルニア

主に乳幼児期にソケイ部(股の付け根のあたり)や男の子だと陰嚢(精巣の入った袋)が膨隆することで発見されます。運動後、排便後、涕泣時、入浴時などの腹圧が上昇するときに出現しやすく、安静時は膨隆しないことが多いです。お腹の中と交通があるために、腸管などが脱出すため、膨隆します。脱出している腸管が締め付けられて、血流障害をきたす(嵌頓:かんとん)と痛みを出現し、そのままにすると脱出した腸管が腐ってしまうため、緊急での処置や手術が必要になります。乳幼児期に出現することが多いですが、小学生以降に初めて診断されることもあります。

診断がついた時点で、早期の治療を勧めています。嵌頓の可能性があるため、基本的には全身麻酔下での手術が必要です。当院では、鼠径部切開による鼠径ルニア根治術と腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術をお子さんに応じて適切に選択しています。いずれも2泊3日の短期入院となります。

急性虫垂炎

急性虫垂炎は、盲腸ともいわれることも多い病気です。小学生以降に発症することが多いですが、まれに乳幼児期から発症する場合もあります。小児では、上手に痛みを訴えられず、右下腹部痛がはっきりしないこと、胃腸炎との鑑別が難しいこと、炎症の進行が早いこともあり、症状が進行してしまってから診断され、重症化してしまう子も少なくありません。

当院では腹腔鏡手術を第1選択にしています。病態により、緊急手術を行う場合と抗生剤治療で炎症を抑えてから数か月後に行う待機的手術を行う場合があります。

腸重積症

主に2歳までの乳幼児に発症することが多く、血便や繰り返す腹痛といった症状で発見されることが多いです。口側の腸管が肛門側の腸管に入り込むことによって腸が閉塞状態となる病気です。原因としては、腸に分布しているリンパ組織が腫れて大きくなり、この部分から大腸に入っていくと考えられておりますが、時には腸にできものがあることやメッケル憩室という生まれつき腸管の一部が袋状に残った場合にはこれらの部分から腸重積が生じます。リンパ組織が大きくなる原因としては風邪などのウイルス感染が指摘されております。3歳以上の年長児で発症した場合は、腸管ポリープなどの原因があることが多いため内視鏡検査、CT画像検査、血液検査などの精査を行います。

発見が遅れると腸管の血流障害を生じますので、緊急での処置が必要になります。肛門から造影剤を腸管内に注入していき、圧をかけて元に戻す処置を行います(高圧浣腸)。それでも戻らない場合は、緊急手術を要します。

胆道閉鎖症

胆道閉鎖症は、胆汁排泄が不良で、出生後の便色が薄くなり、また、黄疸がひかないことで気付く病気です。母子手帳にも便色調カラーカードが記載されており、これを参考にして発見されることもあります。しかし、病気に気付かないと、脂溶性ビタミン(とくにビタミンK)が不足することによる頭蓋内出血から本疾患の診断に至ることがあります。

早期に治療を開始することが治療成績を良好にすることがわかっており、生後60日までに根治手術を受けることが推奨されています。まず、胆道閉鎖が疑われた場合は、入院して画像検査、血液検査などの検査を行います。胆道閉鎖症が否定できない場合、最終的に手術による術中胆道造影検査を行います。根治術としては、肝門部空腸吻合術という根治術を行います。術後の胆汁排泄が不十分だと、肝硬変が進み、食道静脈瘤の合併や、肝不全のため肝移植の適応となることもあります。

便色カラーカード

先天性横隔膜ヘルニア

先天性横隔膜ヘルニアは、生まれつき横隔膜が欠損している部位が生じ、欠損部から腹腔内臓器が胸腔内に脱出して肺の成長を妨げ、呼吸不全、循環不全を合併する新生児外科疾患です。出生前に診断されることが多く、出生前から治療戦略を多診療科と検討していきます。

新生児かと協力し、出生後に人工呼吸器を用いて呼吸管理を行い、呼吸循環が安定するのを待ってから、根治術を行います。最重症例では、膜型人工肺(ECMO)を装着することもあります。欠損した横隔膜のサイズにより、自身の横隔膜組織を直接縫合閉鎖するか、人工膜を用いて閉鎖するかを判断します。

リンパ管腫(リンパ管奇形)

リンパ管腫(リンパ管奇形)は、胎生期のリンパ管の発生・分化異常により生じる、大小様々なリンパ嚢胞の集まりを主体とした病変をもった病気のことです。頚部や顔面、腋窩、体幹などの体表のほか、縦隔(左肺と右肺の間)などの深部に発生することもあります。その内部の構造から、嚢胞性(大きな袋状の構造)、海綿状(スポンジ状の構造)に大きく分けられます。

超音波、CT、MRIなどの画像検査により、評価を行います。リンパ管腫による圧排で呼吸などに問題を生じる場合には、出生後早期からの治療が必要となります。治療方針は、リンパ管腫の種類・部位により異なります。穿刺が可能で周囲に危険な器官のない嚢胞性のリンパ管腫では、硬化療法が適応となります。硬化剤(ピシバニール)と呼ばれる薬剤を内部に注入すると数週間を経て縮小します。また、漢方療法といった治療も積極的に行っています。漢方内服をすることでリンパ管腫の縮小を得られることがあります。海綿状や深部のリンパ管腫では、全身麻酔下での切除術が適応となる場合があります。しかし、正常な組織内に浸潤性に(分け入るようにして)広がっていることが多く、切除に際しては神経などの正常な重要組織を損傷しないような注意が必要です。また、完全な切除は困難な場合が多くあります。

神経芽腫

神経芽腫は、小児に発生するがんの中で、白血病、脳腫瘍に次いで多く、腎臓の頭側にある副腎という臓器や背骨の脇にある交感神経幹などから発生します。神経芽腫には、強力な治療を行っても治癒がむずかしいものから治療をしなくても自然に腫瘍が治ってしまうものまで、さまざまなタイプがあることが分かっています。そのため、最初にどのタイプの神経芽腫であるかを正しく診断、分類した上で、必要最小限の適切な治療を行うことが重要です。

低リスク群では、手術で腫瘍をすべて摘出できた場合、その後は経過観察を行います。手術で腫瘍をすべて摘出できない場合には、化学療法が行われます。1歳未満で発症した患者さんでは自然に腫瘍が小さくなっていくこともあるため、無治療経過観察が選択される場合もあります。中間リスク群では、生検にて組織を診断した後に化学療法を行って、腫瘍を摘出するための手術を行う治療法が一般的です。高リスク群では、化学療法を先行し、周囲の臓器をできるだけ温存した手術と放射線治療、大量化学療法と自家造血幹細胞移植の治療を組み合わせて行っていきます。

横紋筋肉腫

いろんな部位の横紋筋といった組織から発生する腫瘍で、症状は発生部位により様々です。体表にできると腫れたりしこりを触れたり痛みがあったりします。前立腺や膀胱にできるとおしっこが出にくくなったり、おしっこに血が混じったりします。女の子で腟や子宮にできると、おりものに血が混じったり、ブドウのような肉のしこりが出てきたりします。

治療は、小さなものであれば最初に手術による切除を行います。術後に化学療法や放射線療法を組み合わせた治療を行います。しかし、大きいあるいは手術での切除が難しい場所にある場合は、化学療法と放射線療法を先行して腫瘍が小さくなってから、手術による摘出を行います。腫瘍の組織型によって治療をいろいろ組み合わせて行っていきます。

当科の特徴

  • 小児科・放射線科・整形外科・脳外科・病理などの関連科と連携し悪性腫瘍専門科チームNiigata Tumor Boardを立ち上げ40年となります。新潟県全体で統一した治療を行い、小児固形悪性腫瘍に対する高度な集学的治療を実践することで良好な治療成績を得ています。
  • 小児の稀少泌尿生殖器疾患に対しても院内の小児科、産婦人科、泌尿器科、整形外科、形成外科、放射線科、看護師などと連携をして、治療にあたっております。難しい稀少疾患に対して、多診療科に渡る集学的な治療が可能となっております。
  • 適応に応じた胸腔鏡や腹腔鏡などの鏡視下手術を積極的に行っております。より安全な手術を目指したナビゲーション手術も行っております。
  • 女児の鼠径ヘルニアには腹腔鏡手術(LPEC法)を導入し、最小限の創で根治術を行っています。男児でも、希望された場合にはLPEC法を適用しています。片側の鼠径ヘルニア手術の際、腹腔鏡にて対側の検索も行い、後に鼠径ヘルニアが発症しそうなケースでは対側も手術するようにしています。
  • 臍を利用した手術を取り入れ、創の整容性にも配慮した手術を行っております。
  • 漢方治療を積極的に取り入れ、治療のバリエーションを広げています。
  • 高頻度仙骨磁気刺激を用いた神経調節など当科独自の新しい治療法も行っております。
  • 化学療法目的の中心静脈カテーテルや必要な患者さんや術後長期にわたり静脈栄養が必要な患者さんには、感染症のリスクの低い長期留置用中心静脈カテーテルデバイスや末梢留置型中心静脈カテーテルデバイスを超音波ガイド下に安全な留置を心がけております。
泌尿生殖器カンファレンス

先天性十二指腸閉鎖症に対する手術

右上腹部横切開法(従来法)
臍上縁切開法(現在法)

小児外科は、成人外科疾患と異なり先天性の原因で発生する病気を扱っています。
一般の方にはなじみがない場合が多く、いろいろ悩まれる前に一度当科を受診戴ければと思います。専門的知識で対応させて戴きます。これから大きな未来を背負っているこども達の役に立ちたいと考え、小児外科医として頑張っております。