放射線腫瘍学

研究テーマ

  • 転移性脳腫瘍における定位照射併用時の全脳照射法最適化に関する研究
    転移性脳腫瘍の局所制御、再発予防には定位照射に加え全脳照射の併用が有効である一方、従来の全脳照射では、晩期障害として認知機能低下が問題となる。全脳照射の線量低下など定位照射併用時の最適な全脳照射法について研究を行っている。
  • 脳腫瘍における新評価指標作成に関する国際共同研究
    脳放射線治療後の認知機能評価にはこれまでMini Mental Score Examinationのような簡易検査法が用いられてきたが、より精密な評価法として複数の認知機能検査を組み合わせた日本語版認知機能バッテリーの作成を進めている。
  • 肺定位照射における腫瘍内血流状態が治療経過に与える影響に関する研究
    潅流CTによって腫瘍内の血流状態、つまりは酸素量が推測可能である。肺定位照射前後の潅流CTを解析し、腫瘍内酸素濃度と治療反応性の相関について解析を進めている。
  • 食道癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術+化学放射線療法に関する研究
    表層型食道癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術後、深達度が粘膜下に及んでいる場合には潜在的なリンパ節転移が懸念される。当科ではこのような症例に対して予防的な化学放射線療法を施行し、再発予防の有効性について検証を行っている。
  • 前立腺癌の強度変調放射線治療、小線源治療後の予後・QOLに関する研究
    当科では前立腺癌に対する放射線治療として、外部照射(強度変調放射線治療)、低線量率組織内照射(LDR)、高線量率組織内照射(HDR)を行っている。各治療法における有害事象、治療後の生活の質に与える影響について前向きに調査・研究を行っている。
  • 画像誘導による照射精度向上に関する研究
    当科では前立腺癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)や肺定位照射において、毎回CBCTによる画像誘導を行い照射位置の補正を行うことで高精度な照射を実現している。
    治療時の偏移量のデータを集積・検討し、照射精度向上に向けて解析を進めている。

研究の成果

[研究テーマ] 食道扁平上皮癌に対する低用量持続5FU併用化学放射線治療
当研究は1990年代に酒井邦夫名誉教授らが行った食道扁平上皮癌に対する臨床研究「低用量持続5フルオロウラシル(5FU)併用化学放射線治療(CRT)」(厚生省がん研究助成金)を総括するものである。
当院で2000—2014年に食道扁平上皮癌に対して低用量持続5フルオロウラシル(5FU)併用または5FU+ シスプラチン (CDDP)併用化学放射線治療(CRT)を行われた患者を対象として治療群ごとに治療効果と有害事象を後方視的に比較した。生存期間の比較ではバイアスを低減するために傾向スコア分析を用いた。低用量持続5FU群(9%)では高用量5FU+CDDP群(48%)や低用量持続5FU+CDDP群(44%)に比べてGrade3以上の白血球減少が有意に少なかった(p <0.001)。傾向スコア分析(n=78)では5FU併用CRTと5FU+CDDP併用CRTとで全生存期間が同等であった(HR, 1.06; 95% CI, 0.55-2.05, p = 0.87)。このため、低用量持続5FU併用CRTは食道扁平上皮癌への治療選択肢となりうる可能性が示された。

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[研究テーマ] 食道癌放射線治療における呼吸同期照射や多門照射の研究
食道癌に対する放射線治療では、治療後に大きな有害事象が発生することがある。それを軽減するためには正常組織への照射を減らす必要があり、その手法として呼吸同期照射(Gating)や多門照射などがある。今回、私たちは後方視的に仮想の放射線治療計画を作成し、リスク臓器のDose-Volume Histogram(DVH)を比較し、これらの手法を用いることがDHVの改善にどの程度有用なのかを研究した。
今回の研究では呼吸同期照射では多くのパラメータを軽減できるものの、その程度は軽度であった。多門照射では一部のパラメータは大きく軽減したが、逆に一部のパラメータは増加した。DVHに与える影響は呼吸同期照射よりも多門照射の方が強いことがわかった。(ASTRO 57th Annual Meeting, 2015にて発表予定)

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