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2019/05/10 研究成果
大腸癌の転移を引き起こす新たな遺伝子を同定

新潟大学大学院医歯学総合研究科分子細胞病理学分野 近藤英作教授、飯岡英和助教らの研究グループは、胎児の発生に必須の遺伝子であるCrumbs3(Crb3、クラムス3)が、大腸がんの転移を引き起こすことを明らかにしました。今後詳細なメカニズムを解析することで、転移の激しい難治がん・進行がんの新たな治療法が見つかる可能性があります。
 
本研究成果のポイント
・胎児の発達期に働いていることが知られているCrb3タンパク質が、成人の大腸がんの浸潤・転移にも深く関わっていることを分子学的に証明した。
・Crb3は、がん細胞の運動を加速するFGFR(注1)の活性化を通じて転移の引き金を引いていることを明らかにした。
・Crb3の発現を操作することにより、がんの転移を阻止する新たな治療法の糸口が見つかる可能性がある。
 
Ⅰ.研究の背景
がん(悪性新生物)は男女ともに日本人の死因の第1位であり、中でも大腸がんは罹患者数、死亡数で上位を占めます。他の部位のがんと同様に、浸潤・転移(注2)の有無は治療法の選択や患者の予後に大きな影響を与えます。特に、遠隔転移を有する大腸癌患者の5年生存率は20%程度であり(遠隔転移が認められない場合、80%以上)、浸潤・転移が治療を困難にし、予後を悪化させる大きな要因となっていることを浮き彫りにしています。浸潤・転移の激しい難治がん、進行がんに対する手立ては不十分であり、新たな対処法の開発が求められています。
 
Ⅱ.研究の概要
Crb3は、発生生物学的研究から正常な上皮組織(注3)の形態や機能の構築に必須の遺伝子として同定され、実験動物や培養細胞を用いた実験によって、がんの形成に対し抑制的に働くことが報告されていました。本研究ではヒトの大腸癌サンプルを用いて解析することにより、実際のヒトの大腸癌におけるCrb3の機能を解析しました。
 
Ⅲ.研究の成果
Crb3特異的抗体(注4)を作成し、ヒト大腸癌組織切片や大腸癌培養細胞を用いた分子病理学的解析より、Crb3が多くの癌組織に発現することを明らかにしました。特に大腸癌ではCrb3の発現が強い傾向が認められため、大腸癌培養細胞からCrb3-ノックアウト細胞(注5)を作成し、機能解析を行いました。その結果、Crb3が線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)と結合し、活性化することで大腸癌細胞の移動性を高め転移を促進することが判明しました。

Ⅳ.今後の展開
Crb3が転移を促進することはこれまでに知られておらず、詳細なメカニズムの解析を進めることで、転移をターゲットとした新たな診断法や治療法の開発に繋がる可能性があります。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成31年4月29日のInternational Journal of Cancer誌(IMPACT FACTOR 7.36)電子版に掲載されました。
 
論文タイトル:Crumbs3 is a critical factor that regulates invasion and metastasis of colon adenocarcinoma via the specific interaction with FGFR1
著者:Hidekazu Iioka, Ken Saito, Masakiyo Sakaguchi, Taro Tachibana, Keiichi Homma, Eisaku Kondo
 
doi: 10.1002/ijc.32336
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/ijc.32336
 
 
用語説明
注1:FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)
FGF(線維芽細胞増殖因子)という分泌タンパク質により活性化される受容体タンパク質。FGFの結合刺激によって活性化され、細胞の増殖や移動を促進します。
 
注2:浸潤・転移
固形癌(塊のがん)が最初に発生した場所から移動し、周りの組織に入り込んで広がったり(浸潤)、血管やリンパ管に入り込み血液やリンパ液の流れに乗って、体内の別の場所に移動して再び癌を形成(転移)したりする事。
 
注3:上皮組織
体や臓器の表面を覆う細胞層。癌の多くは上皮組織から発生します。
 
注4:抗体
特定の形をした部分に結合するタンパク質。実験ではCrb3タンパク質にのみ結合する抗体を作成して使用しました。
 
注5:ノックアウト
特定の遺伝子を人為的に破壊する事。Crb3遺伝子を破壊し、Crb3タンパク質が存在しない細胞を作成して実験を行いました。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医歯学総合研究科 分子細胞病理学分野
教授 近藤英作
E-mail:ekondo@med.niigata-u.ac.jp
 
助教 飯岡英和
E-mail:hiioka@med.niigata-u.ac.jp

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