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2019/12/25 研究成果
幼少期の米タンパク質摂取が成熟期の肥満を抑制 −幼少期の食事と肥満及び関連する腎臓病の発症との関与について示唆−

新潟大学大学院医歯学総合研究科病態栄養学講座(寄附講座)らの研究グループは、マウスにおいて幼少期の米(胚乳)タンパク質摂取が成熟期の肥満やそれに関連する腎臓病を抑制することを明らかにするとともに、その機序に腸内菌叢が関与することを亀田製菓株式会社との共同研究において見出しました。今後、米(胚乳)タンパク質摂取のヒトにおける適切な摂取時期や摂取量に留まらず、「米」を中心とする和食のさらなる評価向上につながる成果が期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・肥満や2型糖尿病、およびそれらに関連する慢性腎臓病の増加が世界的な問題となっている。
・食事と肥満との関連については多数の報告があり、特に幼少期の食事がその後の肥満や肥満に関連する疾患に影響を及ぼすことが示唆されているが、今回、肥満モデルマウスの幼少期に米(胚乳)タンパク質を摂取させると成熟期の肥満や肥満関連腎症の発症が抑制されることを明らかにした。
・さらに、幼少期の米(胚乳)タンパク質摂取が腸内細菌に影響を与え、内毒素であるリポ多糖の産生を抑制することから、全身性の炎症の抑制を介して肥満または肥満関連腎症の進行を抑制することも明らかにした。
・本研究の一部は、「幼少期投与用の肥満および/または肥満関連腎症予防組成物、幼少期投与用の肥満および/または肥満関連腎症予防薬、食品、並びに肥満および/または肥満関連腎症を予防する方法」として特許を出願済みである(特願2017-061684)。
 
Ⅰ.研究の背景、研究の概要
肥満や2型糖尿病、およびそれらに関連する慢性腎臓病の増加が世界的な問題となっています。食事と肥満との関連については多数の報告があり、特に幼少期の食事がその後の肥満や肥満に関連する疾患の発症に関与する可能性が示唆されていますが、日本人におけるエビデンスは少なく、大きな課題の1つであると考えられていました。
 
「米」はアジア地域の主要な穀物であり、およそ6%程度のタンパク質が含まれています。日本においては肉や魚に次いで3番目、植物性タンパク質としては最も多く、この「米」からタンパク質を摂取していますが、その摂取量は年々減少傾向にあります。そのような状況の中、本研究グループは、これまでにヒトにおける米(胚乳)タンパク質(Rice Endosperm Protein, REP)摂取による脂質代謝改善作用(BMC Nutrition 2016; 2: 25)や、動物モデルにおける糖尿病性腎症の進行抑制作用(Br J Nutr 2016; 116: 1326-1335)を報告してきました。
 
さらに最近、欧州から、若年時の植物性タンパク質の摂取がその後の肥満を抑制するとの報告もありましたが、その詳細は明らかではありませんでした。そこで、新潟大学大学院医歯学総合研究科腎研究センター腎膠原病内科大学院生の樋口裕樹、同センター病態栄養学講座の細島康宏准教授、同センター機能分子医学講座の斎藤亮彦特任教授らのグループは、亀田製菓株式会社との共同研究において、幼少期におけるREPの摂取がその後の肥満および肥満関連腎症への影響を検討しました(図1)。
 
Ⅱ.研究の成果
幼少期(4〜10週齢)に、動物性タンパク質であるカゼイン(Casein, CAS)またはREPを含む通常脂肪食を与え、その後の成熟期(10〜22週齢)にはいずれかのタンパク質を含む高脂肪食を負荷しました。血液検査、尿検査のほか、体重や腸内細菌叢などの評価を行うとともに、腎病理所見を検討しました。また、22週齢時の各測定データを用いて、幼少期と成熟期の摂取タンパク質の違いを解析しました。
 
▽幼少期のREP摂取が成熟期の肥満と腎障害の進行を抑制
 
10週齢時には、CAS摂取群とREP摂取群で体重増加に大きな差は認められませんでしたが、22週齢時には、幼少期・成熟期ともにCASを摂取したマウスの体重が最も高値を示しました。一方、幼少期にREP、成熟期にCASを摂取したマウスでは、成熟期にCASを含む高脂肪食を負荷したにもかかわらず、体重の増加が抑制されていました(図2)。
 
また、幼少期におけるREPの摂取は、CASの摂取と比べて体重や脂肪重量、血糖、総コレステロールなどの増加が抑制されていました(図3)。
 
さらに、高脂肪食負荷による腎障害への影響について検討したところ、幼少期にREPを摂取したマウスでは、CASを摂取したマウスに比べ、尿中アルブミン排泄量などの腎障害所見が抑制されており、幼少期のREP摂取が、成熟期の高脂肪食負荷による腎障害の進行抑制に関与している可能性が示唆されました(図4、5)。
 
▽腸内細菌を変化させ、全身性の炎症を介して肥満を抑制
 
続いて、幼少期のREP摂取が高脂肪食負荷による肥満や肥満関連腎障害の進行を抑制するメカニズムの解明について検討しました。REPの作用が腸内細菌を介したものであると推定し、腸内細菌叢への影響について検討したところ、幼少期のREP摂取が腸内細菌叢の多様性を高めるとともに、大腸菌の占有率を低下させることが示されました(図6)。また、グラム陰性菌である大腸菌のリポ多糖(Lipopolysaccharide, LPS)結合タンパク質(LPS binding protein, LBP)産生が、幼少期の米タンパク質摂取により抑制されていました。さらに、LPSに関連する炎症性サイトカインであるIL-6、TNF-αの産生も同様に、血清、腎、肝のいずれにおいても抑制されていました(図7)。
 
▽腸内細菌叢への影響にペプチドが関与
 
REPがなぜこれらの効果をもたらすのかを検討するために、始めにアミノ酸組成の違いに着目しました。しかし、CASとREPのアミノ酸組成比で構成したアミノ酸混合物を給餌した際には、これまで示したような肥満抑制効果は認められなかったことから、タンパク質のアミノ酸組成の違いではないと考えられました。
 
そこで、REPの有する作用について、そのペプチドの関与について検討しました。CASとREPのペプチド画分を用いて、大腸菌に対する抗菌活性を調べたところ、CASの画分には抗菌活性が認められませんでしたが、REPの画分において、大腸菌に対する抗菌活性が濃度依存的に認められました。これにより、REPによる腸内細菌叢への影響は、REPの消化物であるペプチドの関与が示唆されました(図8)。
 
以上の知見から、マウスにおいて、幼少期のREP摂取が腸内細菌に影響を与え、多様性を高め、大腸菌の占有率を低下させ、内毒素であるLPSの産生を抑制し、慢性的な全身性の炎症の抑制を介した肥満または肥満関連腎症の進行を抑制することが示唆されました(図9)。細島特任准教授、斎藤特任教授らは、既に本研究結果を「幼少期投与用の肥満および/または肥満関連腎症予防組成物、幼少期投与用の肥満および/または肥満関連腎症予防薬、食品、並びに肥満および/または肥満関連腎症を予防する方法」として、特許を出願済みです(特願2017-061684)。
 
Ⅲ.今後の展開
今後、ヒトでの研究を重ねることで、REP摂取のヒトにおける適切な摂取時期や摂取量についても検討したいと考えています。最後に、本件研究結果を基盤として、和食の中心である「米」に関するエビデンスを蓄積し、和食の良さについてのさらなる評価につなげていきたいと考えています。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2019年12月3 日(日本時間)付けのNutrients(IMPACT FACTOR 4.171)のオンライン版に掲載されました。
 
論文タイトル:Rice Endosperm Protein Administration to Juvenile Mice Regulates Gut Microbiota and Suppresses the Development of High-Fat Diet-Induced Obesity and Related Disorders in Adulthood
著 者:Yuki Higuchi, Michihiro Hosojima, Hideyuki Kabasawa, Shoji Kuwahara, Sawako Goto, Koji Toba, Ryohei Kaseda, Takahiro Tanaka, Nobutaka Kitamura, Hayato Takihara, Shujiro Okuda, Masayuki Taniguchi, Hitoshi Arao, Ichiei Narita and Akihiko Saito
 
doi:10.3390/nu11122919
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 腎研究センター
病態栄養学講座 細島康宏(特任准教授)
E-mail:hoso9582@med.niigata-u.ac.jp
 

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