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2020/04/01 研究成果
肺MAC症病原菌の薬剤標的候補を同定

肺MAC症に代表される非結核性抗酸菌症(注1)は本邦で急増している呼吸器感染症ですが、既存の薬が効きにくく難治性です。新潟大学大学院医歯学総合研究科細菌学分野の立石善隆准教授、松本壮吉教授、藤田医科大学医学部微生物講座・感染症科の港雄介講師、ミネソタ大学微生物学分野のAnthony D. Baughn准教授らの研究グループは、肺MAC症の病原体である非結核性抗酸菌の薬剤標的候補を、トランスポゾン(注2)シーケンシング(TnSeq)により、全ゲノム規模で同定することに成功しました。本成果は、肺MAC症に対する創薬において重要な情報源になることが期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・肺MAC症病原菌に対して、トランスポゾンシーケンシング(TnSeq)により、生存必須遺伝子を全ゲノム規模で同定しました。
・同定した生存必須遺伝子群は、肺MAC症に対する薬剤標的となるため、創薬における重要な情報源となります。
 
Ⅰ.研究の背景
肺MAC症に代表される非結核性抗酸菌症は、本邦で急増している呼吸器感染症ですが、既存の薬を併用しても効果が低く難治性です。したがって、その病原体である非結核性抗酸菌に対する新しい薬の開発が切望されています。新しい薬を開発するためには、病原体である非結核性抗酸菌の生存に必須な遺伝子(生存必須遺伝子)を同定することが重要となります。
 
Ⅱ.研究の概要
今回、主要な非結核性抗酸菌であるMycobacterium intracellulare(マイコバクテリウム・イントラセルラーエ)に対して、トランスポゾン(動く遺伝子)による変異株ライブラリーの作成と次世代シーケンサーによる全ゲノムシーケンシングを組み合わせたトランスポゾンシーケンシング(TnSeq)を行い、全ゲノム規模で生存必須遺伝子の同定を行いました。

Ⅲ.研究の成果
Mycobacterium intracellulare(マイコバクテリウム・イントラセルラーエ)の全遺伝子5,126のうち、506の遺伝子が生存必須遺伝子であること、そして、低酸素条件下でのバイオフィルム形成には175の遺伝子が必須であることが分かりました。これらの結果に対して、化合物や阻害薬を使った細菌学的実験を行い、遺伝子の必須性を確認しました。

Ⅳ.今後の展開
今回同定した生存必須遺伝子群は、非結核性抗酸菌の薬剤標的となるため、肺MAC症に対する新しい治療薬の開発において重要な情報源となります。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2020年3月25日、Scientific Reports誌に掲載されました。
論文タイトル:Genome-wide identification of essential genes in Mycobacterium intracellulare by transposon sequencing - Implication for metabolic remodeling
著者:Yoshitaka Tateishi, Yusuke Minato, Anthony D. Baughn, Hiroaki Ohnishi, Akihito Nishiyama, Yuriko Ozeki, Sohkichi Matsumoto
doi: 10.1038/s41598-020-62287-2(https://www.nature.com/articles/s41598-020-62287-2
本研究は、文部科学省基盤研究(C)「バイオフィルム形成因子の全ゲノム探索を足掛かりとした肺MAC症の難治化機序の解明」およびAMED「非結核性 抗酸菌症の発生動向の把握及び病原体ゲノム・臨床情報に基づいた予防・診断・治療 法に関する研究」により支援を得て実施しました。
 
【用語解説】
(注1)非結核性抗酸菌症
結核菌(結核の病原体)ないしはライ菌(ハンセン病の病原体)を除いた抗酸菌(マイコバクテリア)によって引き起こされる感染症。マイコバクテリウム・アビウムとマイコバクテリウム・イントラセルラーエは、肺MAC症の原因菌として、非結核性抗酸菌症の約7−8割を占めている。肺MAC症は、中高年の女性に急増しており、既存の抗結核薬を含めた多剤併用投薬を行うが、難治性で慢性化することも多い。
 
(注2)トランスポゾン
菌体内においてゲノム上の位置を動くことのできるDNA配列(動く遺伝子)。トランスポゾンを持つファージやプラスミドを使えば、菌体外から菌体内にトランスポゾンを導入することができる。トランスポゾンはゲノムDNA上の無作為な個所に挿入される。トランスポゾンが挿入された遺伝子は機能を失うため、トランスポゾンを導入された菌は変異株となる。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
細菌学分野
准教授 立石 善隆
E-mail:y-tateishi@med.niigata-u.ac.jp

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