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2020/11/27 研究成果
35年間の観察研究から国指定難病の“原発性胆汁性胆管炎”の病態と予後の変遷を明らかに

新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の寺井崇二教授と高村昌昭准教授らは、関連施設とともに、原発性胆汁性胆管炎(Primary biliary cholangitis: PBC)*の長期(1982年から2016年まで)観察研究を行い、その結果を報告しました。最近の症例は早期に発見され予後良好な軽症例が多く、男性症例・女性高齢診断症例が増加しており、35年間の長期観察で病態が変化してきたことが分かりました。
消化器内科学分野(教室)では、その前身の新潟大学医学部第三内科の初代教授である 故 市田文弘名誉教授が1967年に赴任した時より本疾患に注目し、その後の歴代教授、教室、関連施設をあげて早期診断・治療を行ってきたことが今回の結果につながったものと考えられます。教室の伝統を踏まえた、教室全体の成果です。
 
*原発性胆汁性胆管炎(Primary biliary cholangitis: PBC)
厚生労働省の難病指定にされており、肝臓の小さな胆管が免疫異常により障害を受ける疾患です。早期では胆汁の流れが少し滞る軽度の胆管炎をきたす程度ですが、進行し多くの小さな胆管が破壊され、胆汁の流れが一層悪くなると肝硬変さらには肝不全に至ることもあります。
 
【本治験のポイント】
・近年の原発性胆汁性胆管炎は、以前に比べ女性において高齢で診断される症例が増加している。
・近年の原発性胆汁性胆管炎は、男性症例が増加している。
・消化器内科学分野では本疾患を早くから注目してきたことから、軽症例で診断が確定し予後が改善している。
 
Ⅰ.背景
PBCは、早期より黄疸を呈し肝不全に至る症例もあり、早期に診断し適切な治療を受けることが重要です。消化器内科学分野では 故 市田名誉教授が、国内でPBCの疾患概念の認識が普及し始めた1968年に、黄疸が見られる進行したPBC症例を報告しました。一方最近では、症状もなく健診等で胆管障害の目安となるアルカリフォスファターゼ(ALP)が高値を示したことが発見の契機となることも多く、早期に診断し適切な治療を行うことで予後良好な症例が増えています。本疾患の病態や予後に関して、多数例の長期にわたる観察研究はほとんど行われておらず、本研究が国内ではじめての報告になります。
 
Ⅱ.研究の概要
本研究では、消化器内科学分野および21の関連施設で集積され長期追跡調査を行ってきたPBC症例508例を用いました。診断された時期を1999年以前、2000-2009年、2010年以降と3つの年代別に分け、年齢、性別、血液検査所見、治療薬投与状況や反応性、生命予後等の様々な因子を解析しました。
 
Ⅲ.研究の成果
表1に示すように、最近では男性例が有意に増加しており、女性例は高齢で診断される例が有意に増加していました。本研究の対象症例は、無症状の時点で診断された例が1999年以前の診断例でも83.5%多く、胆管障害の目安となるALP値や黄疸の目安となる総ビリルビン値も低い軽症例が多いことが分かりました。また組織学的検査が行われた症例では、軽症例が90%を越えていることが分かりました。

Ⅳ.今後の展開
今後もPBC長期追跡調査を継続し、本疾患に対してさらなる病態解明を行い、難病に苦しんでいる患者様の救命に貢献したいと考えています。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2020年10月30日、Hepatology Research誌にオンライン掲載されました。
論文タイトル:Changes in disease characteristics of primary biliary cholangitis: an observational retrospective study from 1982 to 2016
著者:Masaaki Takamura, Yasunobu Matsuda, Naruhiro Kimura, Masafumi Takatsuna, Toru Setsu, Atsunori Tsuchiya, Akihiko Osaki, Nobuo Waguri, Masahiko Yanagi, Toru Takahashi, Soichi Sugitani, Yuka Kobayashi, Akira Yoshikawa, Toru Ishikawa, Toshiaki Yoshida, Toshiaki Watanabe, Hitoshi Bannai, Tomoyuki Kubota, Kazuhiro Funakoshi, Hiroto Wakabayashi, So Kurita, Norio Ogata, Masashi Watanabe, Yuhsaku Mita, Shigeki Mori, Motoya Sugiyama, Toru Miyajima, Sumio Takahashi, Shuichi Sato, Kisei Ishizuka, Hironobu Ohta, Yutaka Aoyagi, Shuji Terai, and the Niigata PBC study group
doi: 10.1111/hepr.13586.
 
 
消化器内科学分野におけるPBC研究・診療の歴史をまとめたものです。
・新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野ホームページ
「新潟大学第三内科におけるPBC研究の歴史をめぐって」
https://www.med.niigata-u.ac.jp/in3/50th/pbc.html
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野
准教授 高村 昌昭(たかむら まさあき)
E-mail:atmc@med.niigata-u.ac.jp

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