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2021/05/25 研究成果
大腸癌の遺伝子変異を予測する人工知能を開発

新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器・一般外科学分野の若井俊文教授、島田能史講師、同大学医学部メディカルAIセンターの奥田修二郎教授らの研究グループは、大腸癌の病理標本スライドを深層学習することによって、大腸癌の遺伝子変異を予測する人工知能を開発しました。この人工知能は、癌の遺伝子解析にまつわるコスト問題を解決し、大腸癌の個別化治療を推進する上で極めて重要です。本研究成果はSpringer社の科学雑誌「Journal of Gastroenterology」に掲載されました。
なお、本研究の一部は、デンカ株式会社との共同研究で行われました。
 
【本研究成果のポイント】
・大腸癌の病理標本スライドを「人間の目」で観察すると、遺伝子変異の量が非常に多い癌であるTumor mutational burden-high(TMB-H)(※1)では、特徴的な病理組織像(腫瘍内リンパ球浸潤)が認められました。
・大腸癌の病理標本スライドを深層学習することによって、TMB-Hを予測する「人工知能」を開発しました。
・今回開発した「人工知能」は、大腸癌TMB-Hの予測精度において、「人間の目」と同等かそれ以上であると考えられました。
 
Ⅰ.研究の背景
近年、固形癌の薬物療法は、個々の遺伝子変異のパターン(遺伝子変異プロファイル)に基づいて行われるようになっています。Tumor mutational burden-high(TMB-H)は、大腸癌を含む各種の固形癌で認められる遺伝子変異プロファイルの一つであり、TMB-Hの癌細胞の中には極端に多くの遺伝子変異が蓄積しています。TMB-Hでは、腫瘍特異抗原(ネオアンチゲン)の発現が高く、T細胞の認識を受けやすくなることから、免疫チェックポイント阻害剤の効果が高いと考えられています。一方で、TMB-Hを同定するためには、次世代シークエンサーを用いた遺伝子変異解析が必要であるため、解析コストが高いことが問題となっていました。大腸癌のTMB-Hを予測する人工知能を開発することは、癌の遺伝子解析にまつわるコスト問題を解決し、大腸癌の個別化治療を推進する上で極めて重要です。
 
Ⅱ.研究の概要
本研究グループは、大腸癌手術を受けた方より研究参加の同意を頂いて本研究を行いました。本研究は、次の3つのステップから成ります。第1に、「人間の目」で大腸癌の病理標本スライドを観察し、TMB-Hの病理学的特徴を明らかにしました。第2に、大腸癌の病理標本スライドを用いて深層学習を行い、TMB-Hを予測する「人工知能」を開発しました。最後に、大腸癌TMB-Hの予測精度に関して、「人間の目」と「人工知能」を比較しました。

Ⅲ.研究の成果
(1)大腸癌の病理標本スライドを「人間の目」で観察すると、TMB-Hでは特徴的な病理組織像(腫瘍内リンパ球浸潤)が認められました。
(2)大腸癌の病理標本スライドからTMB-Hを予測する「人工知能」を開発しました。
(3)「人間の目」と「人工知能」の大腸癌TMB-Hの予測精度(Area under the curve)は0.910と0.934でした。
これらのことから、今回開発した「人工知能」は、大腸癌TMB-Hの予測精度において、「人間の目」と同等かそれ以上であると考えられました。
 
Ⅳ.今後の展開
今回開発した大腸癌TMB-Hを予測する人工知能の精度を高め、さらに他の癌腫のTMB-Hを予測する汎用型の人工知能の開発を目指したいと考えています。また、今回開発した人工知能が実際の免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を予測できるかどうかについて、評価したいと考えています。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2021年4月28日、Journal of Gastroenterology誌に掲載されました。
論文タイトル:Histopathological characteristics and artificial intelligence for predicting tumor mutational burden-high colorectal cancer.
著者:Shimada Y, Okuda S, Watanabe Y, Tajima Y, Nagahashi M, Ichikawa H, Nakano M, Sakata J, Takii Y, Kawasaki T, Homma KI, Kamori T, Oki E, Ling Y, Takeuchi S, Wakai T.
doi: 10.1007/s00535-021-01789-w
 
用語解説
(※1)Tumor mutational burden:
癌に生じた遺伝子変異のおおよその量を表します。また、Tumor mutational burden-high(TMB-H)は遺伝子変異の量が非常に多い癌を表し、Tumor mutational burden-low(TMB-L)は遺伝子変異の量が中等度から少量の癌を表します。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学
大学院医歯学総合研究科 消化器・一般外科学分野
教授 若井 俊文(わかい としふみ)
E-mail:wakait@med.niigata-u.ac.jp
 
医学部 メディカルAIセンター
教授 奥田 修二郎(おくだ しゅうじろう)
E-mail:okd@med.niigata-u.ac.jp
 
大学院医歯学総合研究科 消化器・一般外科学分野
講師 島田 能史(しまだ よしふみ)
E-mail:shimaday@med.niigata-u.ac.jp

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