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2021/07/01 研究成果
指定難病 スティーブンス・ジョンソン症候群 (SJS)/中毒性表皮壊死症 (TEN)の新たな発症メカニズムを解明 −好中球が発症に関わることを解明、今後の新規早期診断法・新規治療法開発の足がかりに−

国立大学法人山梨大学
国立大学法人新潟大学
 
山梨大学医学部附属病院皮膚科学講座の木下真直 助教、小川陽一 講師 (責任著者)、川村龍吉 教授と新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の濱 菜摘 講師、阿部理一郎 教授らの研究グループは、スティーブンス・ジョンソン症候群 (SJS)/中毒性表皮壊死症 (TEN) (以下、SJS/TEN)の新規発症メカニズムを解明しました。SJS/TENは命に関わる重篤な薬剤アレルギーであり、死亡率は約30%と高率です。「好中球が発症に関わる」というこれまで全く想定されていなかった新規メカニズムが解明されたことで、今後の新規早期診断法、また新規治療法の開発が期待されます。
本研究成果は、2021年6月30日 (米国東部標準時間)、アメリカ科学振興協会の発行する雑誌 Science Translational Medicineに公開されました。
 
研究の背景
SJS/TENは市販薬であれ医師から処方された薬剤であれ、薬剤を使用することによって全身の皮膚や粘膜が壊死してしまい、診断・治療が遅れれば死に至る疾患で厚生労働省の定める指定難病です。これまでSJS/TENは原因となる薬剤に特異的な細胞傷害性T細胞注1)の産生する分子によって皮膚や粘膜が傷害されると考えられてきました。一方で、SJS/TENの患者さんでは時に血液中の好中球注2)が減少することから好中球に何らかの異常があるのではないかと考え、SJS/TENの患者さんの血液・皮膚における好中球を観察しました。
 
研究の成果
まずSJS/TENの患者さんの血液中の好中球を、健康な人や命に関わらないタイプの薬剤アレルギーの患者さんの好中球と比較してみると明らかな形態異常が存在することが分かりました (図1 左)。またこの形態異常は好中球のneutrophil extracellular traps (以下、NETs)の形成によるものであることが分かりました (図1 右)。NETsは好中球が細菌などの侵入に際して、自身の細胞内にあるタンパク質を細胞外に放出し、細菌を捕捉・死滅させるための機構です。

SJS/TENの患者さんの皮膚に好中球は存在しないとこれまで信じられてきましたが、実際には発症早期から好中球が侵入することが分かり、以下のようなことが起こっていることが明らかとなりました (図2)。
1. 皮膚に侵入した好中球は、同様に皮膚に侵入した原因薬剤に特異的な細胞傷害性T細胞の産生するlipocalin-2注3)という分子の作用によってNETsを形成する。
2. NETsの中に含まれるLL-37注4)という分子が表皮細胞にformyl peptide receptor 1 (FPR1)という受容体の発現を誘導する。
3. FPR1を発現する表皮細胞は単球が産生するannexin A1という分子の作用によってネクロプトーシス注5)という細胞死に陥る。
4. ネクロプトーシスに陥った表皮細胞はさらにLL-37を産生し、周囲の表皮細胞にFPR1の発現を誘導することで、連続的に表皮細胞死のループが発動する。
このようにこれまでSJS/TENに関わりがないと思われた好中球がSJS/TENの発症・増悪に関与することが明らかとなりました。

今後の展望
SJS/TENの高い死亡率は早期診断の難しさが原因の1つです。今回SJS/TEN発症に関与する新しい分子 (lipocalin-2、LL-37)が発見されたことで、これらを測定しSJS/TENの診断を早期に確定することができるようになる可能性があります。また、lipocalin-2、 LL-37の機能を抑制する薬剤が開発できればSJS/TENの新規治療薬となることが期待されます。
 
用語解説
注1) 細胞傷害性T細胞:本来、ウイルスやガン細胞と戦い体を守る細胞。
注2) 好中球:血液中の細胞の約70%を占め、主に細菌と戦う細胞。
注3) lipocalin-2:好中球や上皮細胞が産生するとされる抗菌作用のあるタンパク質
注4) LL-37:lipocalin-2と同様に、好中球や上皮細胞が産生するとされる抗菌作用のあるタンパク質
注5) ネクロプトーシス:細胞死の1つの形式
 
論文情報
タイトル:Neutrophils initiate and exacerbate Stevens-Johnson syndrome and toxic epidermal necrolysis
好中球はスティーブンス・ジョンソン症候群 (SJS)/中毒性表皮壊死症 (TEN)の発症・増悪に関与する
著者:Manao Kinoshita, Youichi Ogawa (corresponding author), Natsumi Hama, Inkin Ujiie, Akito Hasegawa, Saeko Nakajima, Takashi Nomura, Jun Adachi, Takuya Sato, Schuichi Koizumi, Shinji Shimada, Yasuyuki Fujita, Hayato Takahashi, Yoshiko Mizukawa, Takeshi Tomonaga, Keisuke Nagao, Riichiro Abe, Tatsuyoshi Kawamura
雑誌名:Science Translational Medicine (impact factor: 16.304)
 
 
<研究についての問い合わせ先>
山梨大学医学部附属病院 皮膚科学講座
講師 小川 陽一 (オガワ ヨウイチ)
E-mail:yogawa@yamanashi.ac.jp
 
新潟大学大学院医歯学総合研究科 皮膚科学分野
教授 阿部理一郎 (アベ リイチロウ)
E-mail:aberi@med.niigata-u.ac.jp
 
<広報についての問い合わせ先>
山梨大学総務部総務課広報企画室
E-mail:koho@yamanashi.ac.jp
 
新潟大学広報室
E-mail:pr-office@adm.niigata-u.ac.jp

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