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2021/07/26 研究成果
フレイル高齢者は1.9倍肺炎にかかりやすく、1.8倍重症化しやすい 約18万人の65歳以上の高齢者における疫学研究

フレイルとは、加齢や病気による心身の衰えにより要介護になるリスクが高い状態をいいます。新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野の齋藤孔良助教、菖蒲川由郷特任教授の研究グループは、フレイルの65歳以上の高齢者では、フレイル無しの高齢者と比べて約1.9倍肺炎にかかりやすく、また、1.8倍肺炎が重症化しやすい(入院措置になりやすい)ことを明らかにしました。またフレイルの前段階にある高齢者でも、フレイル無しの高齢者と比べて1.3倍肺炎にかかりやすいことがわかりました。
 
【本研究成果のポイント】
・フレイル高齢者は、フレイル無しの高齢者と比較して約1.9倍肺炎にかかりやすく、1.8倍重症化しやすい。
・フレイルの前段階にある高齢者もフレイル無しの高齢者と比較して1.3倍肺炎にかかりやすい。
 
Ⅰ.研究の背景
肺炎は日本を含む世界中で高齢者の死因の上位を占めます。フレイルとは加齢や病気による心身の衰えにより要介護になるリスクが高い状態をいいます。これまでの研究で、寝たきり等要介護状態の高齢者では誤嚥性肺炎が起こりやすいことがわかっています。しかし、要介護状態ではないがフレイルの高齢者が、肺炎になりやすく重症化しやすいのかは不明でした。
 
Ⅱ.研究の概要
フレイル高齢者は肺炎にかかりやすく重症化しやすいのかを調べるため、一般社団法人日本老年学的評価研究機構(JAGES: Japan Gerontological Evaluation Study)が、2016年10月から2017年1月の期間に行った約18万人の要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者の健康と暮らしに関するアンケート調査データを統計解析しました。調査対象者が過去1年間で肺炎にかかったか、また、肺炎かインフルエンザ*にかかった後肺炎で入院したかを調べました。フレイルの判定は、厚生労働省が開発した基本チェックリストにより行いました。フレイル以外で肺炎に関係する可能性のある年齢、性、教育年数、所得、家族構成、婚姻状況、喫煙、肺炎にかかりやすく重症化しやすくなる病気(糖尿病、呼吸器疾患、心疾患、腎臓疾患)、肺炎球菌予防接種等の影響を統計学的な方法で除去しました。
*インフルエンザになると、肺炎にかかりやすくなります。
 
Ⅲ.研究の成果
統計解析の結果、フレイル高齢者は、フレイルではない高齢者と比べて、約1.9倍肺炎にかかりやすい可能性があることが明らかになりました。また、フレイルの前段階にある高齢者もフレイルではない高齢者に比べて1.3倍肺炎にかかりやすいことが分かりました。フレイル高齢者は、フレイルではない高齢者と比べて1.8倍肺炎で入院しやすい可能性があることが明らかになりました(下図)

また、基本チェックリストで口腔機能低下またはうつ状態に該当した高齢者は肺炎にかかりやすく、日常生活動作低下または閉じこもり*に該当する高齢者では、肺炎で入院しやすいことがわかりました。さらに、運動機能低下または低栄養状態に該当する高齢者では肺炎になりやすく、かつ肺炎で入院しやすいことがわかりました。
*「閉じこもり」とは、一日のほとんどを家で過ごし、週に1回も外出しないことです。閉じこもりがちな生活が続くと、筋力や食欲が低下し、認知症やうつなどになりやすくなります。
 
Ⅳ.今後の展開
フレイルを調べることで、高齢者が肺炎にかかりやすいのか、肺炎が重症化しやすいのかがわかる可能性があります。フレイルを予防することが、肺炎予防にもつながる可能性があります。今後は、高齢者で重症化しやすいインフルエンザや新型コロナウイルス感染症にもフレイルが関係しているのか等を明らかにしていく予定です。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2021年4月12日、Scientific reports誌に掲載されました。
論文タイトル:Frailty is associated with susceptibility and severity of pneumonia in older adults (A JAGES multilevel cross-sectional study)
著者:齋藤孔良*、菖蒲川由郷、相田潤、近藤克則 *筆頭著者及び責任著者
doi: 10.1038/s41598-021-86854-3
 
Ⅵ.本研究への支援
本研究は、科学技術振興機構が支援するOPERA(企業、研究所、学界とのオープンイノベーションプラットフォームに関するプログラム助成金番号JPMJOP1831)による援助を受けています。また、この研究は、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業、日本学術振興会科研費、厚生労働科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療開発機構(AMED)長寿科学研究開発事業、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費、公益財団法人長寿科学振興財団、革新的自殺研究推進プログラム、公益財団法人笹川スポーツ財団、公益財団法人健康・体力づくり事業財団、公益財団法人ちば県民保健予防財団、公益財団法人8020推進財団、新見公立大学、公益財団法人明治安田厚生事業団による援助を受けています。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科国際保健学分野
助教 齋藤孔良(さいとう こうすけ)
E-mail:anayoshi@med.niigata-u.ac.jp

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