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2021/09/27 研究成果
AIによる重症薬疹の早期画像診断 −スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症の新規非侵襲的画像診断法を開発−

新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の藤本篤特任講師、阿部理一郎教授、同大学工学部電子情報通信プログラムの村松正吾教授らの研究グループは、東北大学、大阪大学、筑波大学との共同研究で、ディープニューラルネットワーク(注1)を応用したAIによるスティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症の早期画像診断法を開発しました。本検査法によって皮膚病変部のデジタル写真から致死率の高い重症薬疹を早期に診断できるようになる可能性があります。
 
【本研究成果のポイント】
・スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症は薬剤投与後に生じ、時に生命を脅かす非常に稀な薬疹で、厚生労働省の定める指定難病です。
・この病気の初期の皮膚症状は、頻度の高い軽症の薬疹(=通常薬疹)と非常によく似ています。このため、見た目から区別することは難しく、早期に診断することが難しいとされていました。
・今回我々はAI技術の一つであるディープニューラルネットワークを応用することで、皮膚病変のデジタル写真からこの病気を早期に診断する方法を開発しました。
 
Ⅰ.研究の背景
指定難病であるスティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症は、主に薬剤によって起こる非常に稀な重症皮膚疾患です。全身の皮膚や粘膜が壊死して時に生命を脅かし、死亡率は約30%と高率です。発症早期に診断して治療を開始することが重要ですが、初期の皮膚症状は、軽症の薬疹(=通常薬疹)と非常によく似ているため、見た目のみから区別することは難しく、早期に診断することが難しいとされていました。
そこで本研究グループは、画像識別において時に人間を凌駕する性能を発揮することで注目されているAI技術であるディープニューラルネットワークを応用し、本疾患の皮膚病変デジタル写真から早期に診断するための早期画像診断法を開発しました。
 
Ⅱ.研究の概要
まず、スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症患者さん29名と通常薬疹患者さん94名の皮膚状態を記録したデジタル写真から、早期の皮膚病変と考えられる紅斑(注2)部のみをトリミングして抽出しました。得られた紅斑画像26,661枚を使用してディープニューラルネットワーク(DNN: Deep Neural Network)をトレーニングしました(図1)。 完成したDNNに対してテスト用画像で性能検証を行って診断精度を算出しました。この診断精度を皮膚科学会認定専門医10名、皮膚科専攻医24名の診断精度と比較して検証しました。

Ⅲ.研究の成果
スティーブンス・ジョンソン症候群の紅斑画像を入力した際のディープニューラルネットワークの感度は平均で84.6%を達成しました。これは、皮膚科専門医と皮膚科専攻医の感度(それぞれ31.3%、27.8%)を大きく上回る結果でした(図2A)。 また陰性適中率でも、ディープニューラルネットワークは94.6%と非常に高く、専門医68.1%、専攻医67.4%と比較して有意に高い性能を示しました(図2B)。
さらにROC解析(注3)でのAUC(注4)においてディープニューラルネットワークは0.873と高い判別性能を示しました(図2C)。

Ⅳ.今後の展開
今回開発した診断プログラムをアプリケーション化してさらに画像データの収集を行い診断性能の向上を目指します。また同時に前向き検証を継続し、実臨床での診断精度を評価したいと考えています。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2021年9月18日、Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice誌(IMPACT FACTOR 8.86)に掲載されました。
論文タイトル:Deep neural network for early image diagnosis of Stevens-Johnson syndrome/toxic epidermal necrolysis
著者:Atsushi Fujimoto* Yuki Iwai, Takashi Ishikawa, Satoru Shinkuma, Kosuke Shido, Kenshi Yamasaki, Yasuhiro Fujisawa, Manabu Fujimoto, Shogo Muramatsu* and Riichiro Abe* *: corresponding author
doi:10.1016/j.jaip.2021.09.014
 
Ⅵ.謝辞
本研究は、AMED課題番号JP18lk1010029h0001の支援を受けて行われました。
 
 
【用語解説】
(注1)ディープニューラルネットワーク:ニューラルネットワークを多層に結合して学習能力を高めた機械学習の一手法。近年のAIの発展を支える技術的基盤。
(注2)紅斑:赤みのある発疹。早期のスティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症の他、通常薬疹など多くの皮膚疾患でみられる。
(注3)ROC解析:Receiver Operating Characteristic(受信者動作特性)解析。診断検査の有用性を検討する手法。スクリーニング検査等の精度の評価や従来の検査と新しい検査の比較に用いられる。
(注4)AUC:Area Under the Curve(曲線下面積)。ROC曲線曲線より下の部分の面積。AUC値が1に近いほど判別性能が高い。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医歯学総合研究科 皮膚科学分野
教授 阿部理一郎(あべ りいちろう)
E-mail:aberi@med.niigata-u.ac.jp

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