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2022/05/10 研究成果
HPVワクチン接種9年後の感染予防効果を確認 −NIIGATA study:日本初の長期有効性に関する報告−

新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野の黒澤めぐみ医師(大学院生)、榎本隆之特任教授、関根正幸准教授らの研究グループは、高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)注1の感染に対してHPVワクチン注2がどの程度長期の予防効果を示すかを検討し、接種から約9年経過した25歳の時点でHPV16/18型の感染者を認めておらず、長期の予防効果が実証されたことを報告しました。同ワクチンの長期的な有効性を明らかにした日本の研究は初めてです。
研究の詳細はCancer Sci.2022 Apr;113(4):1435-1440. doi:10.1111/cas.15282(IF:6.716)に発表されました。
 
【本研究成果のポイント】
・HPVワクチン接種を受けた女性は、約9年経過後の25歳時点でもHPV16/18型の感染を認めず、有意な感染予防効果が持続していた。
・さらにHPV31/45/52型の感染率も、ワクチン非接種群に比べてワクチン接種群では有意に低く、クロスプロテクション効果注3も持続していた。
・積極的勧奨が中止されていたHPVワクチンであるが、12〜16歳で公費接種を受けた女性が長期的な効果を享受できていることを示した社会的インパクトの高い知見である。
 
Ⅰ.研究の背景
日本でHPVワクチン接種の公費助成が開始された2010年時点で接種対象年齢であった女性は、現在20歳代の半ばを迎えている。その時期にあたる23〜26歳は、性的活動性が最も高まり、高リスク型HPV感染率がピークに達する時期であることを、本研究グループは新潟での先行研究で明らかにしています(図1:Sci Rep. 2021 Feb 3;11(1):2898)。
加えて本研究グループは、HPVワクチンの接種を受けた20-22歳の女性において、HPV16/18型感染に対する高い有効性と、HPV31/45/52型に対するクロスプロテクション効果注3が認められることを報告していました(J Infect Dis. 2019 Jan 9;219(3):382-390)。しかし、25歳以降の女性における長期的な有効性に関する日本からの報告はありませんでした。そこで本研究グループは、HPVワクチン接種から約9年が経過した25歳時点における長期の感染予防効果を検証しました。

Ⅱ.研究の概要
解析対象は、1993〜94年に出生し、2019年4月〜20年3月に新潟市内で子宮頸がん検診とHPV検査を受けた25〜26歳の女性429例で、HPVワクチン接種歴と性的活動性(初回性交年齢、性交経験人数)は質問票を用いて調査し、接種歴については自治体の接種記録も確認しました。対象のうち150例(35.0%)にHPVワクチンの接種歴があり(ワクチン接種群)、279例(65.0%)は接種歴がありませんでした(ワクチン非接種群)。HPVワクチン接種からHPV検査までの平均期間は102.7カ月(8.6年)、中央値は103カ月(範囲92〜109カ月)で、ワクチン接種群と非接種群で初回性交年齢および過去の性交経験人数に有意差はありませんでした。
 
ワクチン接種群とワクチン非接種群におけるHPV感染率を比較した結果では、高リスク型HPVのうち2価ワクチンが標的とする16/18型の感染率は、ワクチン非接種群の5.4%に対してワクチン接種群では0%と有意に低く(P=0.0018)、ワクチンの有効率は100%であることが示されました。また、HPV31/45/52型の感染率も、ワクチン非接種群の10.0%に対してワクチン接種群では3.3%と有意に低く(P=0.013)、有効率は69.0%とクロスプロテクション効果も持続していることが示されました(図2)。

Ⅲ.研究の成果
ワクチン積極的勧奨の中止以降に接種機会を逃した世代は現在20歳代となり、性的活動性が最も高まる年齢に到達しています。研究グループは、実臨床データを用いて、ワクチン接種から9年が経過した25〜26歳の日本人女性において、HPV感染に対する2価ワクチンの長期の有効性を日本で初めて実証しました。25歳時点でもワクチンによるHPV感染に対する持続予防効果が確認されたことは、ワクチンを接種した女性に対しての朗報になります。
 
Ⅳ.今後の展開
本研究グループの研究成果をもとに、厚生労働省は2022年4月より12-16歳女子に対するHPVワクチン接種の積極的勧奨を再開しました。まだHPVワクチンの接種を受けていない女性に対しては、このような科学的根拠をもとに、ワクチンの効果を強くアピールしていく必要があります。また、HPVワクチンの接種を受けた女性に対しては、「ワクチンのHPV感染予防効果は25歳になると消失するわけではないが、ワクチンを接種した女性でも子宮頸がん検診は必ず受ける必要がある」というメッセージを伝えていくことが必要です。
今後NIIGATA studyでは、25歳時点での子宮頸部前癌病変の発症予防に対する有効性と、30歳時点でのさらなる長期効果の解析を継続し、国民の皆様への発信を続けていく予定です。
 
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2022年4月8日、Cancer Science誌に掲載されました。
論文タイトル:Long-term effectiveness of HPV vaccination against HPV infection in young Japanese women: Real-world data
Cancer Sci.2022 Apr;113(4):1435-1440. doi: 10.1111/cas.15282
著者:Kurosawa M, Sekine M, Yamaguchi M, Kudo R, Hanley SJB, Hara M, Adachi S, Ueda Y, Miyagi E, Ikeda S, Yagi A, Enomoto T.
 
Ⅵ.謝辞
本研究は、AMED: 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(JP15ck0106103)の支援を受けて行われました。
 
 
【用語解説】
(注1)HPV(ヒトパピローマウイルス):パピローマウイルス科に属するウイルスで、200種以上のタイプが同定されている。ウイルスの発がんに関与する能力により高リスク型と低リスク型に分類されている。高リスク型HPVは子宮頸がんの他に肛門がん、口腔咽頭がん、外陰がん、膣がん及び陰茎がんの原因となる。代表的な高リスク型にはHPV16/18/31/33/35/39/45/51/52/56/58/59/68型があり、中でもHPV16/18型で全世界の子宮頸がんの約70%を占めている。また、低リスク型に分類されるHPV6/11型は尖圭コンジローマ(肛門性器のイボ)の原因となる。
 
(注2)HPVワクチン:現在日本の公費接種(12-16歳女子が対象)で受けられるワクチンは、2価ワクチン(2009年10月承認)、4価ワクチン(2011年6月承認)が認可されている。両者共に高リスク型のHPV16/18型を標的としており、4価ワクチンはそれに加えて低リスク型のHPV6/11型も標的としている。さらに、高リスク型のHPV16/18/31/33/45/52/58型と低リスク型のHPV6/11型を標的とする9価ワクチン(2020 年 7 月承認)も希望者は接種を受けることができるが、公費接種可能なワクチンには含まれていない。
 
(注3)クロスプロテクション効果:ワクチンが、標的としたウイルス株とは異なるウイルスにも感染予防効果を発揮すること。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学分野
准教授 関根 正幸(せきね まさゆき)
E-mail:masa@med.niigata-u.ac.jp

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