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2022/07/11 研究成果
日本人高齢者におけるコーヒー、緑茶、カフェインと認知症リスクの関連

コーヒー、緑茶、カフェインは認知症の潜在的な予防因子と言われていますが、基礎となる科学的なエビデンスは不十分です。今回、新潟大学大学院医歯学総合研究科環境予防医学分野の中村和利教授らの研究グループは中高年のコーヒー、緑茶、カフェインの摂取量と認知症リスクとの関連を縦断的に調べました。コーヒーはポピュラーな飲料であり、糖尿病をはじめとした生活習慣病予防の効果に関するエビデンスが蓄積されてきています。そのような状況において、本研究グループの日本人(村上地区、村上コホート研究参加者)を対象としたコーヒーの認知症予防効果を示す研究結果は公衆衛生学的に意義深く、健康寿命延伸に資する成果であると考えます。
 
【本研究成果のポイント】
・コーヒー高摂取と認知症低リスクの強固なエビデンスを得た
・カフェイン高摂取と認知症低リスクの強固なエビデンスを得た
・緑茶摂取と認知症リスクの関連については明確でなかった
 
Ⅰ.研究の背景
村上コホート研究参加者(N=14,364, 40〜74歳)のうち、初回調査ですでに要介護認定を受けていた人とアンケートデータの不備を除いた13,757人を解析対象としました。
コーヒー、緑茶、カフェインの摂取量(コーヒー、緑茶、その他より算出)は自記式質問票の食事・嗜好品項目から算出しました。摂取量等の妥当性については他の論文で報告済みです(Yokoyama et al. J Epidemiol 2016)。8年間の追跡における認知症の新規発生情報を要介護認定のデータベースより得て、認知症高齢者の日常生活自立度のIIa以上を認知症(要介護認知症)ありと判断しました。得られた摂取量を5グループに分け、摂取量最小のグループを基準として他の群のリスクを相対値(ハザード比, HR)として算出しました。ハザード比の算出にあたり、性、年齢、婚姻状況、教育歴、職業、BMI、身体活動量、エネルギー摂取量、喫煙・飲酒習慣の影響を統計学的に調整しました。
 
Ⅱ.研究の概要
コーヒー摂取量と要介護認知症の発生
コーヒー摂取量が多いほど認知症の発生率は低下し(傾向P値=0.0029)、摂取最大の一日3カップ以上摂取のグループの発生率は飲まないグループ)の0.53倍でした(図1)。この関連性は、いずれの年代でも見られましたが、性別では女性より男性で顕著でした。
 
緑茶摂取量と要介護認知症の発生
緑茶摂取量が多いほど認知症の発生率は小さくなる傾向は見られましたが、統計学的に確かな低下ではありませんでした(傾向P値=0.0029)(図2)。
 
カフェイン摂取量と要介護認知症の発生
カフェイン摂取量が多いほど認知症の発生率は低下し(傾向P値=0.0004)、摂取最大のグループ(中央値449mg/日)の発生率は最小のグループ(中央値58mg/日)の0.65倍と、関連性はコーヒーの場合と同様でした。

Ⅲ.研究の考察
今回の縦断研究によって、コーヒーに認知症予防効果のあることが強く示唆されました。特に、一日3カップ以上の摂取では認知症リスクが約半分になりました。コーヒー認知症予防効果にはカフェインが関わっているかもしれません。カフェインには動物実験で記憶や認知機能を改善する効果が見られ、アルツハイマー病の原因物質と見なされているアミロイドβの産生抑制・除去促進効果、抗酸化作用、神経保護作用などが報告されています。カフェイン以外にもポリフェノールなどが認知症予防にとって好ましい影響を与えている可能性があります。コーヒーの好ましい効果に性差が見られましたが、そのメカニズムは十分解明されていないので、今後さらなる研究が必要です。
緑茶も認知予防の効果が期待されていますが、今回の研究では明確ではありませんでした。今後さらに観察を続けその効果を注視していく必要があります。
今回の研究は観察研究であり、介入試験ではありません。よって、他の要因がコーヒーと認知症の関連に影響を与えているかもしれません。例えば、コーヒー摂取に関連する要因、たとえば、性格やコーヒー好きに特有の行動に関連した未知のリスク要因が真の予防要因であるかもしれません。また、認知症で最も頻度の高いアルツハイマー病は認知症の症状の出るかなり前から脳にアミロイドβが蓄積し始めていると考えられ、認知症患者はアミロイドβの蓄積により本研究初回調査の時点ですでに嗜好が変わっていた(コーヒーを飲まなくなっていた)という可能性も否定できません。より長期の観察を続けることで、このような限界を克服する必要があります。
 
Ⅳ.研究成果の公表
本研究成果は、2021年12月Journal of the American Geriatrics Society誌(IF 7.538)に掲載されました。
論文タイトル:Association of coffee, green tea, and caffeine with the risk of dementia in older Japanese people
 
著者:Nana Matsushita , Yuta Nakanishi, Yumi Watanabe, Kaori Kitamura, Keiko Kabasawa , Akemi Takahashi , Toshiko Saito , Ryosaku Kobayashi, Ribeka Takachi, Rieko Oshiki, Shoichiro Tsugane , Masayuki Iki , Ayako Sasaki, Osamu Yamazaki, Kei Watanabe , Kazutoshi Nakamura
doi: 10.1111/jgs.17407
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
環境予防医学分野
教授 中村 和利(なかむら かずとし)
E-mail:kazun@med.niigata-u.ac.jp

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