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2016/07/01 研究成果
肝臓がんを抑制する新規化合物を同定

分子遺伝学の小松雅明教授、斎藤哲也特任助教らは、肝細胞がんが増殖する仕組みを解明し、その仕組みを打ち消す新規化合物により肝細胞がんの悪性化を抑制することに成功しました。
研究成果は、消化器外科学の若井俊文教授、東京大学創薬機構の岡部隆義教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所の曽我朋義教授らとの共同研究で得られたもので、2016年6月27日(英国時間)のNature Communications誌(IMPACT FACTOR 11.470)に掲載されました。
<<p62/Sqstm1 promotes malignancy of HCV-positive hepatocellular carcinoma through Nrf2-dependent metabolic reprogramming >>
 
研究成果のポイント
1. 肝細胞がんはマロリー小体と呼ばれる構造体をその細胞内に蓄積するが、その機能は不明だった。
2. マロリー小体の主成分であるp62/SQSTM1は転写因子NRF2を活性化し、がん細胞の増殖、抗がん剤耐性に有利な状態へと誘導した。
3. p62/SQSTM1を標的にした新規化合物は、肝細胞がんの増殖を抑制し、抗がん剤の効果を高めた。
4. p62/SQSTM1あるいはNRF2を標的にした薬剤は肝細胞がん治療薬として期待できる。
 
研究の背景
肝細胞がんは肝臓組織から発生する日本人のがん死因3位の悪性腫瘍です。長期の飲酒、B型やC型肝炎ウイルスの持続感染が肝臓に炎症と再生を繰り返し、肝細胞がんを発症すると考えられています。また、最近では飲酒習慣のない脂肪肝からも、がんの発生が報告されています。肝細胞がんは、症状が乏しいため発見された時には進行しているケースが多く、また、再発率も高く、現在でも十分な治療は難しい状態です。
 
研究の概要
肝細胞がん患者のがん細胞において、マロリー小体と呼ばれる構造体が大量に存在することが知られています。今回、この構造体の主成分であるp62/SQSTM1が、肝細胞がんの増殖や抗がん剤耐性に有利な状態へと誘導する仕組みがあること、さらに、その仕組みを打ち消す新規化合物が肝細胞がんの増殖を抑制し、抗がん剤に対する感受性を増加させることを見出しました。
 
研究の成果
今回、小松教授らは、p62/SQSTM1たんぱく質が転写因子NRF2を分解へと導くKEAP1と結合し、恒常的にNRF2を活性化する仕組みがあること、さらに、このNRF2の活性化が肝細胞がんの増殖および抗がん剤耐性を引き起こすことを見出しました(参考図1)。次に、東京大学創薬機構との共同研究によりp62/SQSTM1たんぱく質によるNRF2活性化を防ぐ新規化合物K67を同定しました(参考図1)。K67は、肝細胞がん細胞の増殖を抑制するとともに、既存の抗がん剤の薬効を高めることが確認されました(参考図2)。
 
今後の研究について
現在、臨床応用を目指しK67の薬効を高めるK67誘導体の開発、NRF2自体を標的にした薬剤開発を進めています。これらの薬剤は肝細胞がん治療薬として期待されます。
 

 
研究内容に関する問合せ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 分子遺伝学分野
小松雅明 教授
e-mail:komatsu-ms@med.niigata-u.ac.jp

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