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2018/04/13 研究成果
潜在する希少疾患ファブリー病患者の診断 −血中lyso-Gb3 の有用性−

新潟大学大学院医歯学総合研究科腎医学医療センターの丸山弘樹特任教授らの研究グループは、血中グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)の測定がファブリー病患者の発見に有用であることを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・古典型、遅発型のいずれのファブリー病患者においても血中lyso-Gb3が高値を示しました。
・血中lyso-Gb3検査は、従来の検査では診断がむずかしい女性患者、遅発型患者の発見にも有用でした。
・血中lyso-Gb3検査は確定診断のための遺伝子解析の必要性を決めるのに有用な指標になります。
 
Ⅰ.研究の背景
ファブリー病は希少疾患であり、厚生労働省によって原因究明・治療法等の研究が強く推進さている難治性疾患克服研究事業の対象疾患の一つです。早期治療が重要ですが、診断が困難で治療開始までに長期間を有することが課題となっています。
ファブリー病は、細胞のライソゾーム内に存在する加水分解酵素であるα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)の遺伝子の変異による遺伝性疾患です。この酵素の働きが低下するので、糖脂質グロボトリアオシルセラミド(注釈1)を分解できません。糖脂質が全身の臓器の細胞に蓄積します。ファブリー病の病型は2つあります。古典型では早期症状(四肢先端の異常感覚・疼痛、群発性被角血管腫、渦巻き状角膜混濁、低汗・無汗症)(注釈2)が小児期から認められ、その後腎臓障害、心臓障害、脳血管障害といった予後に関わる症状が表れます。一方、遅発型(注釈3)には早期症状がなく、ファブリー病に特徴的な症状が認められないことから診断されにくいとされています。
診断にはα-Gal A活性が用いられます。男性患者では、α-Gal A活性が低下するので有用ですが、女性患者では、多くの場合α-Gal A活性が正常範囲内にあるので診断には使えません。また、古典型と比べて、特徴的な早期症状を欠く遅発型の診断はむずかしいです。確定診断には、α-Gal Aの遺伝子を解析します。症状からファブリー病を疑って、α-Gal A活性の低下を確認した上で遺伝子を解析しても、結果的にファブリー病でない人にも遺伝子解析をしてしまうことが多いのです。本研究グループは、ストレスの掛かる遺伝子解析を受ける候補者を絞り込むことができる検査を開発したいと考えていました。2008年、すでに古典型ファブリー病と診断されている患者を対象とした研究で、古典型ファブリー病では血中の糖脂質グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)(注釈4)が高値になることが報告されました。
 
Ⅱ.研究の概要
本研究は、産学共同、多施設研究です。国内169の医療機関(腎臓内科、循環器内科、神経内科、小児科)から登録のあったファブリー病を疑う症状を有する2,360名(男性1,324名)に一次スクリーニングとして血中lyso-Gb3濃度とα-Gal A活性を測定しました。いずれかに異常値が認められた患者のうち同意が得られた場合に二次スクリーニングα-Gal Aの遺伝子を解析しました。
 
Ⅲ.研究の成果 (図1、2)
血中lyso-Gb3が高値(≥ 2.0 ng/ml)でかつα-Gal A活性が低値(≤ 4.0 nmol/h/ml)を示した男性8名のうち遺伝子解析を受けた7名がファブリー病(古典型2名、遅発型5名)と診断されました。女性15名が血中lyso-Gb3が高値を示しました。このうち7名はα-Gal A活性が低値を示して、遺伝子解析を受けた5名がファブリー病(古典型4名、遅発型1名)と診断されました。残りの8名はα-Gal A活性が正常範囲内にあり、遺伝子解析を受けた4名のうち1名には古典型ファブリー病の変異、1名には非病原性変異、2名には意義不明の変異が認められました。
血中lyso-Gb3が正常でα-Gal A活性が低値の男性11名のうち遺伝子解析を受けた4名は非病原性変異と診断されました。血中lyso-Gb3が正常でα-Gal A活性が低値の女性6名のうち遺伝子解析を受けた2名は非病原性変異と診断されました。
今回発見されたファブリー病患者はいずれも血中lyso-Gb3が高値を示しました。血中lyso-Gb3の測定から、診断がむずかしい女性患者および遅発型患者を発見することができました。血中lyso-Gb3は、古典型、遅発型のファブリー病患者の診断に有用な一次スクリーニングになる可能性があります。

Ⅳ.今後の展開
今回の研究成果から、血中lyso-Gb3による診断方法を用いることで、潜在するファブリー病患者の早期発見が容易になり、早期治療が可能になることが期待されます。
 
用語解説
(注釈1)グロボトリアオシルセラミド
グロボトリアオシルセラミドは、α-Gal Aが分解する基質であり、ファブリー病で蓄積する代表的な糖脂質です。ファブリー病患者の血中グロボトリアオシルセラミド値は、ファブリー病でない対照者の血中グロボトリアオシルセラミド値と区別できないことがあります。そのため、血中グロボトリアオシルセラミド値はファブリー病の診断には用いられません。
 
(注釈2)古典型ファブリー病の早期症状
小児期から生じて、古典型ファブリー病に認められる症状であり、診断の端緒になることがあります。
四肢先端の異常感覚・疼痛は、発熱、運動、暑さで誘発されて、増悪することが特徴です。一般的な鎮痛薬が効きません。群発性被角血管腫は、点状の赤色の皮疹です。体幹の皮膚に好発します。細隙灯顕微鏡検査で灰白色の渦巻き状角膜混濁として観察されます。以上の3つは古典型ファブリー病に特徴的な症状です。
古典型ファブリー病に特徴的ではありませんが、低汗・無汗症が認められます。これは、高温あるいは多湿の環境下にいても発汗が少ないあるいは見られない状態です。
 
(注釈3)遅発型ファブリー病
古典型ファブリー病と異なり、早期症状が認められないので、遅発型ファブリー病を疑う端緒が病理所見であることが多いです。例えば、タンパク尿の原因検索で行った腎臓の病理検査(腎生検)あるいは肥大型心筋症の原因検索で行った心臓の病理検査(心内膜心筋生検)でファブリー病に特徴的な病理所見が認められて、初めて気づかれることがあります。しかし、侵襲的な病理検査を受けていないタンパク尿あるいは肥大型心筋症の患者は多いと思います。ですから、病理検査を受けなくてもファブリー病を疑う所見が得られる非侵襲性検査として血中lyso-Gb3が期待されます。
 
(注釈4)グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)
Lyso-Gb3はα-Gal A活性を阻害する物質です。Lyso-Gb3はα-Gal Aが分解する基質でもあります。血中lyso-Gb3値は血中グロボトリアオシルセラミド値の約1000分の1ですが、ファブリー病患者の血中lyso-Gb3値は、ファブリー病でない対照者の血中lyso-Gb3値よりも高いことが多く、診断の指標として期待されています。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年3月15日のGenetics in Medicine誌(IMPACT FACTOR 8.229)online版に掲載されました。
論文タイトル:Effectiveness of plasma lyso-Gb3 as a biomarker for selecting high-risk patients with Fabry disease from multispecialty clinics for genetic analysis
著者:Hiroki Maruyama*, Kaori Miyata, Mariko Mikame, Atsumi Taguchi, Chu Guili, Masaru Shimura, Kei Murayama, Takeshi Inoue, Saori Yamamoto, Koichiro Sugimura, Koichi Tamita, Toshihiro Kawasaki, Jun Kajihara, Akifumi Onishi, Hitoshi Sugiyama, Teiko Sakai, Ichijiro Murata, Takamasa Oda, Shigeru Toyoda, Kenichiro Hanawa, Takeo Fujimura, Shigehisa Ura, Mimiko Matsumura, Hideki Takano, Satoshi Yamashita, Gaku Matsukura, Ryushi Tazawa, Tsuyoshi Shiga, Mio Ebato, Hiroshi Satoh, and Satoshi Ishii.
*: corresponding author
doi: 10.1038/gim.2018.31
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医歯学総合研究科 腎医学医療センター
特任教授 丸山弘樹
E-mail:hirokim@med.niigata-u.ac.jp

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