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2018/07/17 研究成果
菌状息肉症における新規診断マーカーを同定 −CADM1の有用性−

新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の阿部理一郎教授らの研究グループは、北海道大学医学研究科皮膚科等との共同研究で、皮膚T細胞リンパ腫である菌状息肉症における新たな診断マーカー(CADM1)を同定しました。CADM1は菌状息肉症の診断において優れた診断マーカーになると同時に、発症メカニズムの解明に寄与するものと期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・近年、Cell adhesion molecule 1(CADM1)が成人T細胞性白血病/リンパ腫において有用な診断マーカーであることが報告されました。
・菌状息肉症の患者さん58例の皮膚組織において免疫組織化学染色を行い、94.8%(55/58例)でCADM1の発現を認めました。また、組織中より選択的に採取した腫瘍細胞でCADM1の遺伝子発現も認めました。
・CADM1はあらゆる病期の菌状息肉症の腫瘍細胞に発現し、特に臨床・病理組織学的に類似することがある良性炎症性皮膚障害との鑑別において有用な指標となります。
 
Ⅰ.研究の背景
菌状息肉症は最も多い皮膚T細胞リンパ腫です。早期病変では臨床的、病理組織学的に非悪性の炎症性皮膚障害との鑑別が困難な場合があります(図1)。近年、非小細胞肺癌の癌抑制遺伝子として同定されたCell adhesion molecule 1(CADM1)という細胞接着分子が、成人T細胞白血病/リンパ腫において有用な診断マーカーとなることが報告されました。菌状息肉症の診断における単一の分子マーカーは過去に報告がなく、今回我々は菌状息肉症におけるCADM1の診断マーカーとしての有用性を検証しました。

Ⅱ.研究の概要
新潟大学医歯学総合病院皮膚科及び北海道大学病院皮膚科での菌状息肉症の患者さん58例(stage IA 12例、IB 20例、IIA 2例、IIB 15例、IIIA 7例、IVA1 1例、IVA2 1例)より得られた58の皮膚組織を用いてCADM1の免疫組織学染色を行い、その発現を後ろ向きに解析しました。炎症性皮膚障害を有する患者さん50例を対照群としました(慢性苔癬状粃糠疹 11例、扁平苔癬 14例、薬疹 13例、貨幣状湿疹 4例、炎症細胞浸潤を伴う基底細胞癌 8例)。CADM1発現細胞の画像解析及び定量を行い、早期例(stage IA-IIA)と進行期例(stage IIB-IVB)間におけるCADM1発現の有意差を統計学的に解析しました。
また、菌状息肉症の患者さんの皮膚組織より腫瘍細胞を選択的に採取し、CADM1の遺伝子発現を炎症性皮膚障害のものと比較し解析しました。
 
Ⅲ.研究の成果
免疫染色を行った菌状息肉症の患者さん58例中55例(94.8%)の組織切片で、腫瘍細胞におけるCADM1の発現が見られ、対照群との間に統計学的有意差を認めました。また、レーザーマイクロダイセクション法(注1)で患者さんの皮膚組織より選択的に採取された腫瘍細胞で、CADM1の遺伝子発現を確認しました(図2、3)。
菌状息肉症と模倣病態との鑑別における診断マーカーとしての有用性を検証するためのROC(受信者動作特性曲線)解析(注2)では、AUC(曲線下面積)(注3) 0.97、感度94.8%、特異度98.0%と高い診断能を示し、さらに両者を識別するCADM1陽性細胞の割合は5.0%であることがわかりました(図3)。以上より、臨床像と病理組織学的所見が類似する菌状息肉症早期例と炎症性皮膚障害例の鑑別においてCADM1は有用な指標となります。

Ⅳ.今後の展開
今回の研究結果から、菌状息肉症の腫瘍細胞では病期にかかわらずCADM1が発現していることがわかりました。特に、浸潤細胞が少ない早期の菌状息肉症においてもCADM1陽性細胞の同定は可能であり、菌状息肉症の診断および他の炎症性皮膚障害との鑑別に有益な情報をもたらす可能性があります。
また同時に、菌状息肉症の発症メカニズムの解明に寄与するものと期待されます。
 
(用語解説)
注1)レーザーマイクロダイセクション:顕微鏡下で組織切片を観察しながら切片状の標的とする細胞塊をレーザーによって切り出し、採取、回収することができる研究ツールです。
注2)ROC:Receiver Operating Characteristicの略で、スクリーニング検査などの精度の評価や従来の検査と新しい検査の比較に用いられ、どの範囲でカットオフ値をとるかを示すものです。カットオフポイントをどこにとるかで、ある状態にあるものとないものを区別する検査の能力を視覚的に示すことが可能となります。
注3)AUC:Area Under the Curveの略で、ROC曲線より下の部分の面積のことです。AUCは0から1までの値をとり、値が1に近いほど判別能が高いことを示します。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年6月18日のJournal of the American Academy of Dermatology誌(IMPACT FACTOR 6.898)に掲載されました。
論文タイトル:CADM1 is a diagnostic marker in early-stage mycosis fungoides: Multicenter study of 58 cases
著者:Akihiko Yuki, Satoru Shinkuma, Ryota Hayashi, Hiroki Fujikawa, Taisuke Kato, Erina Homma, Yohei Hamade, Osamu Onodera, Masao Matsuoka, Hiroshi Shimizu, Hiroaki Iwata*, Riichiro Abe*
*: corresponding author
 
doi: 10.1016/j.jaad.2018.06.025
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医学部 皮膚科学分野
阿部理一郎 教授
E-mail:aberi@med.niigata-u.ac.jp

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