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2018/12/05 研究成果
免疫に重要なリンパ節の発達に関わる新たなストローマ細胞とその独特な性質を発見

新潟大学大学院医歯学総合研究科 免疫・医動物学分野の片貝智哉教授らの研究グループは、免疫応答に重要な臓器であるリンパ節の構造や働きを支えているストローマ細胞に、これまで知られていなかった新たな種類と機能があることを発見しました。これにより、リンパ節全体で少なくとも6種類のストローマ細胞が存在することになります。また、多様なストローマ細胞の発達には、細胞内の転写因子NF-κBが重要であることも判明しました。これらの細胞に関する理解が進んだことで、免疫応答の仕組みをより深く理解し、さまざまな疾患の治療法開発に向けた基礎になると期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・リンパ節の深皮質辺縁領域に独特な性質を示す新規のストローマ細胞を発見
・髄質領域のストローマ細胞も異なる種類であり、リンパ節には少なくとも6種類のストローマ細胞が存在する
・多様なストローマ細胞の出現・発達には、転写因子NF-κBの活性化が必要
 
Ⅰ.研究の背景
身体に侵入した環境由来の異物や病原体、体内で生じた癌などは、通常は免疫系に感知されて排除されます。私たちの健康は、このような免疫の複雑な仕組みが正常に働くことにより保たれています。リンパ節は、免疫系が異物などを効率良く見つけ出し、応答を起こすための拠点となる重要な臓器です。からだの各所に合計500個以上のリンパ節があるといわれており、リンパ球をはじめとしたさまざまな免疫細胞が集中しています。リンパ節では免疫細胞による監視が日夜続けられていますが、それらが働くために適した構造と環境が必要であると考えられます。最近、リンパ節などの免疫器官で網目構造をつくるストローマ細胞と呼ばれる支持細胞が、「縁の下の力持ち」として免疫細胞が活躍するための舞台を整えていることが分かってきました。また、ストローマ細胞にはさまざまなタイプがあり、リンパ節内の場所ごとに異なる区画をつくりだし、それぞれの役割が異なっていることも明らかになっています。しかし、これらの細胞の具体的な性質や機能、種類などについては不明な点が多く、それを明らかにするための基礎研究が求められていました。
 
Ⅱ.研究の概要
リンパ節の構造とストローマ細胞の関連を調べる目的で、2光子顕微鏡や共焦点顕微鏡などの高性能顕微鏡システムと先端的な観察手法を用いてマウスのリンパ節を詳細に調べました。特に、異なる種類のストローマ細胞がそれぞれ違った蛍光タンパク質(GFP:緑色蛍光タンパク質など)を作り出すように遺伝子操作をおこなったマウスを比較して、リンパ節内の細胞の分布や形態などをこれまでにない精度で観察し、解析を行いました。また、深皮質辺縁領域や髄質領域など、ストローマ細胞の性質がよく分かっていない部位についても解析を進めました。
一方、免疫系の構築に必要な細胞内の転写制御因子NF-κBが、リンパ節を含む免疫器官の発達にも重要な役割を担うことは知られていましたが、多様なストローマ細胞の出現やその発達に関わるかどうかについての厳密な検証はされていませんでした。そこで、ストローマ細胞でNF-κBの働きが阻害されるように操作したマウスの免疫器官を詳しく調べることで、この問題の解決を目指しました。
 
Ⅲ.研究の成果
ストローマ細胞が蛍光タンパク質を発現するマウスのリンパ節を詳しく観察した結果、これまであまり知られていなかった深皮質辺縁領域という部位にリンパ球の一種であるB細胞が集積し、そこに独特なストローマ細胞が存在することを発見しました。このストローマ細胞はB細胞を引き寄せる因子(ケモカイン)を産生し、他の領域のストローマ細胞とは明らかに性質が異なっていたことから、深皮質辺縁細網細胞(DRC)と名付けました。また、髄質領域に存在するストローマ細胞もこれとは異なる種類の細胞であることが明らかになり、マウスのリンパ節には少なくとも6種類のストローマ細胞が存在することが分かりました。ひとつの臓器にこれほど多様な間質細胞が存在することは大変特殊であり、免疫細胞の活動や免疫応答を細かく調節するために必要であると考えられます。
また、免疫器官において多様なストローマ細胞が生み出され、発達するメカニズムはほとんど分かっていませんでしたが、ストローマ細胞で転写因子NF-κBの活性化を阻害するとリンパ節の構造に異常が見られ、すでに知られていたストローマ細胞の発達が抑えられることが明らかになりました。したがって、NF-κBの働きがストローマ細胞の正常な分化や発達に不可欠であるといえます。
これらの成果により、これまでよく分かっていなかったリンパ節のストローマ細胞についての理解が大きく進みました。
 

<参考図>

Ⅳ.今後の展開
リンパ節の構造とストローマ細胞の関係がより明確になったことから、今後は感染症やアレルギー性疾患、自己免疫疾患、癌などのさまざまな疾患においてこれらがどのように変化し、病態と関連するのかを調べていく必要があります。多様なストローマ細胞がリンパ節の各部分で異なる働きを持つことから、それぞれを人為的にコントロールする方法が見つかれば免疫応答を細かく制御することができるようになり、複雑な病気の治療に活かせるかもしれません。また、それぞれのストローマ細胞がどのように出現するのかに関しては、NF-κBの機能を中心にさらに具体的なメカニズムを明らかにする必要があります。これは、さまざまな慢性炎症性疾患にみられる異所性リンパ組織形成や線維症、組織リモデリングなどの複雑な生体反応の理解につながる可能性があります。リンパ節のストローマ細胞を詳しく調べることが、免疫系の仕組みをより深く理解し、さまざまな疾患の治療法を開発するための基盤をつくることにつながります。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年10月2日のFrontiers in Immunology誌(IMPACT FACTOR 5.511)および平成30年12月15日のThe Journal of Immunology誌(IMPACT FACTOR 4.539)電子版に掲載されました。
 
論文タイトル:A distinct subset of fibroblastic stromal cells constitutes the cortex-medulla boundary subcompartment of the lymph node.
著者:Takeuchi A, Ozawa M, Kanda Y, Kozai M, Ohigashi I, Kurosawa Y, Rahman MA, Kawamura T, Shichida Y, Umemoto E, Miyasaka M, Ludewig B, Takahama Y, Nagasawa T, Katakai T.
Frontiers in Immunology 9:2196 2018.
doi: 10.3389/fimmu.2018.02196
URL: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2018.02196/full
 
論文タイトル:Essential Role of Canonical NF-κB Activity in the Development of Stromal Cell Subsets in Secondary Lymphoid Organs.
著者:Bogdanova D, Takeuchi A, Ozawa M, Kanda Y, Rahman MA, Ludewig B, Kinashi T, Katakai T.
The Journal of Immunology 201:3580 2018.
doi: 10.4049/jimmunol.1800539
URL: http://www.jimmunol.org/content/201/12/3580
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
免疫・医動物学分野  教授 片貝智哉
E-mail:katakai@med.niigata-u.ac.jp
URL:https://www.med.niigata-u.ac.jp/zoo/welcome.html

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