新潟大学医学部医学科

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平成30年08月16日

No_88 卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜における遺伝子変異を解明 −子宮内膜症、正常子宮内膜に多くの癌関連遺伝子変異が存在−

新潟大学大学院医歯学総合研究科の榎本隆之教授、吉原弘祐助教、須田一暁特任助教、国立遺伝学研究所の井ノ上逸朗教授、中岡博史助教らの共同研究グループは、卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜の網羅的な遺伝子解析を行い、癌に関連する遺伝子変異がすでに良性腫瘍や正常組織に起きていることを明らかにしました。本研究結果は平成30年8月15日午前1時(日本時間)のCell Press 社の科学雑誌Cell Reportsに掲載されました。
 
【本研究成果のポイント】
・癌関連遺伝子の異常は従来、発癌過程の中で生じると考えられていたが、本研究では良性病変と考えられている卵巣子宮内膜症だけでなく正常の子宮内膜でも癌関連遺伝子変異が高頻度に起こっていることをはじめて明らかにした。
・正常子宮内膜は腺管という最小構造単位から構成されるが、腺管毎に様々な癌関連遺伝子変異を持っていることを明らかにした。
 
Ⅰ.研究の背景
子宮内膜症は生殖年齢女性のおよそ10%程度が罹患する病気であり、本来子宮内に存在するはずの子宮内膜組織が子宮の外に存在し、月経周期に合わせて子宮の外で出血をきたす病気です。これが月経困難症、骨盤痛や不妊症の原因となります。子宮内膜症が発生する理由については、子宮内膜細胞を含む月経血が卵管内を逆流し、腹腔内で生着するという説(月経逆流説)が有力ですが、この仮説が科学的に証明されたわけではありませんでした。
また疫学研究より、子宮内膜症が一部の組織型の卵巣癌(明細胞癌、類内膜癌)の発症に関連することが知られています。これらの卵巣癌は「子宮内膜症関連卵巣癌」と呼ばれ、これまでの研究で癌の原因と考えられる遺伝子の異常(遺伝子変異)が報告されて来ました。しかし、これらの卵巣癌の発生母地とされる卵巣子宮内膜症で、どのような遺伝子の異常が起きているのかについては、まったくわかっておりませんでした。
 
Ⅱ.研究の概要
術前に研究参加の同意を頂き、卵巣子宮内膜症や子宮筋腫などの良性疾患を理由に手術を受けた患者さんから摘出された検体を用いて遺伝子解析を行いました。本研究における大きな特徴として、子宮内膜症は顕微鏡下で確認できる組織であるため、レーザーマイクロダイセクション*1という手法を使い、正確な組織(上皮と呼ばれる組織)採取を行っています。正常子宮内膜についても同様の方法で組織採取を行っています(図1)。採取した組織からDNAを抽出し、その塩基配列を次世代シーケンサー*2で網羅的に読み取り、正常組織(血液)との違いを見ることで、子宮内膜症組織や正常子宮内膜組織で起きている遺伝子変異を観察しています。さらに正常子宮内膜を構成する最小構造単位である腺管を一つ一つ分離して解析を行うことで、正常子宮内膜における遺伝子変異の特徴を明らかにしています。

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Ⅲ.研究の成果
癌の増殖や維持に関係する遺伝子を「癌関連遺伝子」といいます。今回の研究では、良性腫瘍である卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜のいずれにも高頻度で癌関連遺伝子に遺伝子変異が起きていることが明らかとなりました(図2)。特にKRASやPIK3CAなどの発がんに重要な役割を果たすことが知られている癌遺伝子が多くの症例で変異をきたしており、癌遺伝子の変異が子宮内膜症の発生にも深く関わっていることが推察されました。
一方、正常子宮内膜を腺管単位で観察すると、腺管一本ずつに多種多様の遺伝子変異が認められ、子宮内膜という組織は分子生物学的に多様性をもった組織であることが明らかとなりました(図3)。また卵巣子宮内膜症と正常子宮内膜で認められた遺伝子変異の特徴は非常によく似ており、月経血の逆流により子宮内膜症が発生するという月経逆流説を支持する結果となりました(図4)。

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Ⅳ.今後の展開
今回の研究で明らかとなった遺伝子変異は婦人科領域のみならず、人体の多くの癌において発生原因とも考えられているものが含まれています。癌が存在しない良性・正常組織においてどうして癌関連遺伝子に変異が多くみられるのか、正常組織における癌遺伝子の変異の意義を解明していくことが今後の課題の一つです。同時に既存の癌発生メカニズムを見直すことにもつながる可能性があります。子宮内膜は、卵巣からのホルモンの影響で毎月増殖・脱落を繰り返すという人体の中でも極めて個性的な特徴をもつ組織です。こうした月経という現象に対応し、生存に有利な環境を得るために遺伝子変異が獲得されているのかもしれません。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年8月15日午前1時(日本時間)のCell Reports誌 (IMPACT FACTOR 8.282)に掲載されました。
論文タイトル:Clonal expansion and diversification of cancer-associated mutations in endometriosis and normal endometrium
著者:Kazuaki Suda*, Hirofumi Nakaoka*, Kosuke Yoshihara, Tatsuya Ishiguro, Ryo Tamura, Yutaro Mori, Kaoru Yamawaki, Sosuke Adachi, Tomoko Takahashi, Hiroaki Kase, Kenichi Tanaka, Tadashi Yamamoto, Teiichi Motoyama, Ituro Inoue, Takayuki Enomoto
* These authors contributed equally to this work.
doi: 10.1016/j.celrep.2018.07.037
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 産科婦人科学教室
教授 榎本隆之
E-mail:enomoto@med.niigata-u.ac.jp
助教 吉原弘佑
E-mail:yosikou@med.niigata-u.ac.jp
  
新潟大学大学院医歯学総合研究科 家族性・遺伝性腫瘍学講座
特任助教 須田一暁
E-mail:sudakazuaki@med.niigata-u.ac.jp
 
 
注)
*1. レーザーマイクロダイセクション
顕微鏡を観察しながら、組織標本にレーザーを照射して必要な部位を切り取り、回収する方法です。この手法を用いることで、手術で摘出された標本から子宮内膜症病変や正常子宮内膜だけを切り出し、回収することができます。
 
*2. 次世代シークエンサー
遺伝子の塩基配列を高速に調べることができる装置で、ハイスループットシークエンサーとも呼ばれています。次世代シークエンサーを用いることで多数の遺伝子を一度に解析することができるようになりました。
 
*3. 変異アリル頻度
遺伝子変異解析においては、一つの遺伝子座(locus)に位置するアリル(allele)のうち野生型アリルと異なる塩基配列を持つものを変異アリルと呼び、解析対象における変異アリルの割合を変異アリル頻度といいます。

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平成30年07月31日

No_87 医学部と株式会社iPSポータルが連携協定を締結しました

本学医学部と株式会社iPSポータルは、7月23日(月)に、iPS細胞の技術を用いた創薬及び再生医療への応用に関して連携・協力するための協定を締結しました。
 
この協定は、両者が組織的に連携し、治療が困難な病気の原因解明や新しい治療法開発の共同研究を進めることにより、相互の発展と医療及び関連産業の充実による社会への貢献を図ることを目的としたものです。
 
本学医学部は、歴史的・地理的な特徴から質的にも量的にも他に類を見ない独自の医療資産を持ち、この医療資産を核として医療の進歩と地域産業の発展に貢献したいと考えており、一方で株式会社iPSポータルは、iPSテクノロジーの事業化による社会貢献と創薬、再生医療にチャレンジする企業・研究者のサポートを基本理念としています。両者で疾患iPSを活用した事業について検討が進み、このたびの連携協定締結となりました。
 

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締結式で、染矢俊幸医学部長は「豊富な疾患症例を持っている本学の特徴を生かしてオープンイノベーションを通じて医療だけではなく産業技術にも貢献し、研究力を高めていきたい。」と述べ、株式会社iPSポータルの村山昇作代表取締役社長は「初めての大学との連携協定締結であり、豊富な臨床症例を持つ新潟大学との連携により、iPS細胞技術を用いて、現時点で治療法がない難病に対する創薬、再生医療の共同研究推進に貢献していきたい。」として、今後に向けての抱負を語りました。
 
今後は、各疾患群に関する情報を共有し、iPS細胞技術を用いた次世代の診断、治療、病態解明等に関して連携事業を進めていき、社会への貢献を目指します。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医歯学系総務課庶務係
電話:025-227-2003
FAX:025-227-0715

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平成30年07月30日

No_86 簡便な体力テストによる2型糖尿病のリスク評価 −握力や片足バランスの成績が悪いと2型糖尿病リスクは高くなる−

新潟大学大学院医歯学総合研究科の曽根博仁(そね ひろひと)教授および同研究科 生活習慣病予防検査医学講座(新潟県労働衛生医学協会による寄附講座)の加藤公則(かとう きみのり)特任教授らのグループは、東北大学および国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の共同研究グループとともに、新潟ウェルネススタディの一環として、新潟県労働衛生医学協会の健診データをもとに、 20〜92歳の成人を対象とした追跡研究を行い、握力テストおよび閉眼片足立ちテストの成績が2型糖尿病の発症リスクと関連することを明らかにしました。本研究は、筋力やバランス能力を評価することで、従来の全身持久力による評価より比較的簡便に2型糖尿病の高リスク者を把握できる可能性を示しており、2型糖尿病の予防を目的とした体力測定の重要性を示す重要な報告です。この成果は、平成30年7月28日に、Journal of Epidemiology(電子版)に掲載されました。
 
【本研究成果のポイント】
・糖尿病ではない20歳から92歳の成人21,802人を6年間追跡し、体力テスト(握力、垂直跳び、閉眼片足立ち、立位体前屈、全身反応時間、仰臥位足上げ)の成績と2型糖尿病の発症リスクの関連を検討した。
・体重当たりの握力の成績が悪ければ悪いほど、2型糖尿病の発症リスクは高かった。
・閉眼片足立ちの成績が良い群と比較して、成績が悪かった群の2型糖尿病の発症リスクは高い値を示した。
 
Ⅰ.研究の背景
血糖値を下げるホルモン(インスリン)の効きが悪くなる2型糖尿病を予防するためには、日頃の活動量やランニング等の運動を行うことが有効であるとされています。運動によって体力が向上することはよく知られており、運動を長時間続けるために必要な全身持久力が高いことは2型糖尿病の予防に役立つという結果があります。それでは、全身持久力以外の体力はどうでしょうか?全身持久力以外の体力としては、筋力やパワー、筋持久力、柔軟性、バランス能力、反応速度などがあり、どれも継続的な運動によって向上させることができます。これらの体力が高ければ、2型糖尿病にならずに済むのでしょうか?(図1)

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Ⅱ.研究の概要及び成果
今回の研究では、新潟県労働衛生医学協会の協力のもと、体力測定を行った糖尿病ではない健診受診者21,802人(20〜92歳)について、体力項目毎に成績順にそれぞれ4グループに分けて、最大6年間追跡しました。その結果、筋力を測定する握力(図2)およびバランス能力を測定する閉眼片足立ちテスト(図3)の成績が2型糖尿病のリスクに関連することが明らかになりました。例えば、握力の値が体重の8割ぐらいのグループ(例:体重60kgの人で握力の成績が48kgの人)と比較すると、半分ぐらいのグループ(体重60kgの人で握力の成績が30kgの人)の2型糖尿病リスクは56%高い値を示しました。このほか、下半身のパワーを測定する垂直跳びや柔軟性を評価する立位前屈の成績も2型糖尿病のリスクに関連することが明らかになりましたが、この関連は肥満の指標であるbody mass index(体重/身長2,kg/m2)を考慮すると認められなくなりました。したがって、筋力やバランス能力とは異なって、2型糖尿病リスクに対するパワーや柔軟性は、一部、肥満が影響していたことを示す結果となりました。その他の全身反応時間や筋持久力については、2型糖尿病のリスクと関連は認められませんでした。

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Ⅲ.今後の展開
今回の研究では、筋力やバランス能力を評価することで、従来の全身持久力による評価より比較的簡便に2型糖尿病の高リスク者を把握できる可能性が示されました。本研究は6年間の追跡調査だったため、比較的近い将来の2型糖尿病リスクとの関連を明らかにしたと言えます。今後は、長きに渡って筋力やバランス能力が2型糖尿病のリスクと関連するか明らかにするため、長期的な追跡調査を実施する必要があります。また、なぜ、筋力やバランス能力が高ければ2型糖尿病のリスクが低くなるのか、その詳細なメカニズムの解明も望まれます。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年7月28日のJournal of Epidemiology誌(IMPACT FACTOR 2.447)の電子版に掲載されました。
論文タイトル:Physical fitness tests and type 2 diabetes among Japanese: a longitudinal study from the Niigata Wellness Study(体力テストと2型糖尿病:新潟ウェルネススタディによる縦断研究)
著者:門間陽樹(東北大学大学院 医工学研究科、新潟大学大学院 医歯学総合研究科、医薬基盤・健康・栄養研究所)、澤田亨(医薬基盤・健康・栄養研究所)、加藤公則(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 生活習慣病予防検査医学講座)、丸藤祐子(医薬基盤・健康・栄養研究所)、川上諒子(早稲田大学)、宮地元彦(医薬基盤・健康・栄養研究所)、黄聡(浙江大学)、永富良一(東北大学大学院 医工学研究科)、田代稔(新潟県労働衛生医学協会)、石澤正博(新潟大学大学院 医歯学総合研究科)、児玉暁(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 生活習慣病予防検査医学講座)、岩永みどり(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 生活習慣病予防検査医学講座)、藤原和哉(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 健康寿命延伸・生活習慣病予防治療医学講座)、曽根博仁(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科学分野)
 
doi: https://doi.org/10.2188/jea.JE20170280
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
血液・内分泌・代謝内科学分野
教授 曽根博仁
E-mail:sone@med.niigata-u.ac.jp
生活習慣病予防検査医学講座
特任教授 加藤公則
E-mail:kkato48@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年07月17日

No_85 菌状息肉症における新規診断マーカーを同定 −CADM1の有用性−

新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科学分野の阿部理一郎教授らの研究グループは、北海道大学医学研究科皮膚科等との共同研究で、皮膚T細胞リンパ腫である菌状息肉症における新たな診断マーカー(CADM1)を同定しました。CADM1は菌状息肉症の診断において優れた診断マーカーになると同時に、発症メカニズムの解明に寄与するものと期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・近年、Cell adhesion molecule 1(CADM1)が成人T細胞性白血病/リンパ腫において有用な診断マーカーであることが報告されました。
・菌状息肉症の患者さん58例の皮膚組織において免疫組織化学染色を行い、94.8%(55/58例)でCADM1の発現を認めました。また、組織中より選択的に採取した腫瘍細胞でCADM1の遺伝子発現も認めました。
・CADM1はあらゆる病期の菌状息肉症の腫瘍細胞に発現し、特に臨床・病理組織学的に類似することがある良性炎症性皮膚障害との鑑別において有用な指標となります。
 
Ⅰ.研究の背景
菌状息肉症は最も多い皮膚T細胞リンパ腫です。早期病変では臨床的、病理組織学的に非悪性の炎症性皮膚障害との鑑別が困難な場合があります(図1)。近年、非小細胞肺癌の癌抑制遺伝子として同定されたCell adhesion molecule 1(CADM1)という細胞接着分子が、成人T細胞白血病/リンパ腫において有用な診断マーカーとなることが報告されました。菌状息肉症の診断における単一の分子マーカーは過去に報告がなく、今回我々は菌状息肉症におけるCADM1の診断マーカーとしての有用性を検証しました。

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Ⅱ.研究の概要
新潟大学医歯学総合病院皮膚科及び北海道大学病院皮膚科での菌状息肉症の患者さん58例(stage IA 12例、IB 20例、IIA 2例、IIB 15例、IIIA 7例、IVA1 1例、IVA2 1例)より得られた58の皮膚組織を用いてCADM1の免疫組織学染色を行い、その発現を後ろ向きに解析しました。炎症性皮膚障害を有する患者さん50例を対照群としました(慢性苔癬状粃糠疹 11例、扁平苔癬 14例、薬疹 13例、貨幣状湿疹 4例、炎症細胞浸潤を伴う基底細胞癌 8例)。CADM1発現細胞の画像解析及び定量を行い、早期例(stage IA-IIA)と進行期例(stage IIB-IVB)間におけるCADM1発現の有意差を統計学的に解析しました。
また、菌状息肉症の患者さんの皮膚組織より腫瘍細胞を選択的に採取し、CADM1の遺伝子発現を炎症性皮膚障害のものと比較し解析しました。
 
Ⅲ.研究の成果
免疫染色を行った菌状息肉症の患者さん58例中55例(94.8%)の組織切片で、腫瘍細胞におけるCADM1の発現が見られ、対照群との間に統計学的有意差を認めました。また、レーザーマイクロダイセクション法(注1)で患者さんの皮膚組織より選択的に採取された腫瘍細胞で、CADM1の遺伝子発現を確認しました(図2、3)。
菌状息肉症と模倣病態との鑑別における診断マーカーとしての有用性を検証するためのROC(受信者動作特性曲線)解析(注2)では、AUC(曲線下面積)(注3) 0.97、感度94.8%、特異度98.0%と高い診断能を示し、さらに両者を識別するCADM1陽性細胞の割合は5.0%であることがわかりました(図3)。以上より、臨床像と病理組織学的所見が類似する菌状息肉症早期例と炎症性皮膚障害例の鑑別においてCADM1は有用な指標となります。

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Ⅳ.今後の展開
今回の研究結果から、菌状息肉症の腫瘍細胞では病期にかかわらずCADM1が発現していることがわかりました。特に、浸潤細胞が少ない早期の菌状息肉症においてもCADM1陽性細胞の同定は可能であり、菌状息肉症の診断および他の炎症性皮膚障害との鑑別に有益な情報をもたらす可能性があります。
また同時に、菌状息肉症の発症メカニズムの解明に寄与するものと期待されます。
 
(用語解説)
注1)レーザーマイクロダイセクション:顕微鏡下で組織切片を観察しながら切片状の標的とする細胞塊をレーザーによって切り出し、採取、回収することができる研究ツールです。
注2)ROC:Receiver Operating Characteristicの略で、スクリーニング検査などの精度の評価や従来の検査と新しい検査の比較に用いられ、どの範囲でカットオフ値をとるかを示すものです。カットオフポイントをどこにとるかで、ある状態にあるものとないものを区別する検査の能力を視覚的に示すことが可能となります。
注3)AUC:Area Under the Curveの略で、ROC曲線より下の部分の面積のことです。AUCは0から1までの値をとり、値が1に近いほど判別能が高いことを示します。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年6月18日のJournal of the American Academy of Dermatology誌(IMPACT FACTOR 6.898)に掲載されました。
論文タイトル:CADM1 is a diagnostic marker in early-stage mycosis fungoides: Multicenter study of 58 cases
著者:Akihiko Yuki, Satoru Shinkuma, Ryota Hayashi, Hiroki Fujikawa, Taisuke Kato, Erina Homma, Yohei Hamade, Osamu Onodera, Masao Matsuoka, Hiroshi Shimizu, Hiroaki Iwata*, Riichiro Abe*
*: corresponding author
 
doi: 10.1016/j.jaad.2018.06.025
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医学部 皮膚科学分野
阿部理一郎 教授
E-mail:aberi@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年07月11日

No_84 大学院医歯学総合研究科の杉山清佳准教授が資生堂女性研究者サイエンスグラントを受賞しました

大学院医歯学総合研究科神経発達学分野の杉山清佳准教授が、第11回資生堂女性研究者サイエンスグラントを受賞し、7月6日(金)には東京都港区で受賞式が行われました。
 
本グラントは、次世代の指導的役割を担う女性研究者を支援することが科学技術の発展につながるという考えのもと、指導的女性研究者の育成に貢献することを目的としています。昨年までの受賞者約100名のうち半数以上がその後昇進、昇格され、活躍の場をさらに広げました。
対象研究分野は幅広く、自然科学分野全般の研究に従事する女性研究者を対象としており、杉山准教授は応募総数126名の中から10名の受賞者の1人に選ばれました。
 
杉山准教授の研究テーマは「経験による脳の成長メカニズム:こどもの脳の成長に必要な遺伝子とは?」。子どもの心の発達が脳の回路にどのような影響を与えるか、マウスの実験などを通して解明していくとしています。
 

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平成30年07月02日

No_83 GAP-43のリン酸化が神経伸長のマーカーとなる 〜神経の成長と再生のメカニズム解明に道を開く〜

本学大学院医歯学総合研究科の河嵜 麻実特任助教、玉田 篤史研究員(現・関西医科大学准教授)、医歯学総合病院の岡田 正康特任助教と大学院医歯学総合研究科の五十嵐道弘教授らの研究グループは、伸長している神経におけるタンパク質のリン酸化(注1)を網羅的に解析した結果、神経成長関連タンパク質GAP-43(注2)のリン酸化が伸長・再生する神経で特異的に起きることを発見しました。GAP-43のリン酸化は、神経の伸長・再生に対する優れた分子マーカーとなると同時に、その分子メカニズムの解明に寄与するものと期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・伸長している神経でタンパク質のリン酸化を網羅的に解析した。
・最も高頻度にリン酸化されていたのは、神経成長関連タンパク質GAP-43の96番セリン残基であった。
・リン酸化型GAP-43は、「伸びている神経」および「損傷後に再生中の神経」に特異的に認められ、神経伸長・再生の優れた分子マーカーとなることがわかった。
・リン酸化型GAP-43に着目することで神経伸長・再生の研究が進むと期待される。
 
Ⅰ.研究の背景
脳の神経細胞は、発生期に軸索(注3)と呼ばれる突起を伸ばして複雑な神経回路を作ります。また、大人になって脳が損傷を受けた場合でも、ある程度軸索が再生することが知られており、これを制御すれば失われた脳機能を回復できるのではないかと期待されています。伸びている軸索の先端には成長円錐とよばれる構造があり、そこに多数のタンパク質が集まっており、軸索を正しい方向に導くと考えられています。これまでに本研究グループは、成長円錐のタンパク質を網羅的に解析し(プロテオーム解析)、軸索伸長関連タンパク質群を同定しています(PNAS, 2009)。細胞内でタンパク質が秩序立って働く仕組みはシグナル伝達と呼ばれ、これにはタンパク質のリン酸化、という現象が関係することが解っています。そこで本研究では、成長円錐の機能解明を目指して、そこでのタンパク質リン酸化の実体を探ることにしました。
 
Ⅱ.研究の概要
本研究では、まず、成長円錐のリン酸化プロテオーム解析(注4)を行い、約1,200種のタンパク質から総数3万のリン酸化を含むペプチド(タンパク質の断片)を解析し、約4,600のリン酸化部位を同定しました(図1-a,b)。これらリン酸化部位に関するリン酸化酵素(キナーゼ)の認識配列解析を行ったところ、総リン酸化部位の60%以上はMAPキナーゼ(MAPK)群を主体とするプロリン指向性リン酸化酵素の認識配列でした(図1-c)。また最も多く検出されたリン酸化部位は、神経成長関連タンパク質GAP-43の96番セリン(S96)残基でした(図1-b)。種々の生化学的解析から、このリン酸化はMAPK群の一種JNK(注5)で起こり、他の高頻度リン酸化部位についても、JNKの関与が証明されたので、成長円錐でのリン酸化にはJNKが中心的役割を担うことが確定しました(図2)。さらに、S96リン酸化(pS96)を特異的に認識する抗体を作成すると、発生過程に成長している軸索(図3)、及び、損傷後に再生する軸索(図4)を特異的に標識できることが証明でき、再生軸索から直接S96リン酸化を同定する方法も確立しました。

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Ⅲ.研究の成果
成長円錐のリン酸化プロテオーム解析から、軸索の伸長・再生に必要なシグナル伝達の、全体像の理解につながる結果が世界で初めて得られました。JNKはこれまで神経細胞死を司る役割が想定されていましたが、今回の結果は、この酵素が正反対の役割、すなわち軸索の伸長・再生を制御する役割を持つことを明確に証明でき、JNKでリン酸化されて神経成長に関与するタンパク質と、そのリン酸化部位を多数同定できました。また、pS96は軸索の伸長・再生を制御するシグナル伝達で、その抗体はこれらの現象の、有用な分子マーカーであることを確立できました。
 
Ⅳ.今後の展開
本研究成果で、軸索の伸長・再生の制御を担うリン酸化酵素の役割を解明でき、pS96が軸索の伸長・再生マーカーとなることを証明できました。今後は、pS96の軸索伸長での詳細な分子メカニズムや、新たなリン酸化分子マーカーの確立を探索していきます。近未来的にはこれらのリン酸化を標的として制御することにより、創薬や診断マーカーの開発を含めた神経再生医療への貢献をめざします。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年6月29日のiScience誌(本誌は世界的な実験医学のジャーナルである”Cell”の姉妹誌で、学際的分野の重要な論文を速報する目的で本年3月に創刊されたオープンアクセスジャーナル)に掲載されました。
論文タイトル:Growth Cone Phosphoproteomics Reveals that GAP-43 Phosphorylated by JNK Is a Marker of Axon Growth and Regeneration
著者:Asami Kawasaki¹,²,¹º Masayasu Okada¹,²,³,¹º,Atsushi Tamada¹,²,⁴,¹º,¹¹,Shujiro Okuda⁵,Motohiro Nozumi¹,²,Yasuyuki Ito¹,Daiki Kobayashi¹,Tokiwa Yamasaki⁶,¹²,Ryo Yokoyama⁷,Takeshi Shibata⁷,Hiroshi Nishina⁶,Yutaka Yoshida⁸,Yukihiko Fujii³,Kosei Takeuchi¹,²,⁹,and Michihiro Igarashi¹,²,¹³,*
¹Department of Neurochemistry and Molecular Cell Biology, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University, 1-757 Asahimachi, Chuo-ku, Niigata 951-8510, Japan
²Center for Trans-disciplinary Research, Institute for Research Promotion, Niigata University, Chuo-ku, Niigata 951-8510, Japan
³Department of Neurosurgery, Brain Research Institute, Niigata University, Chuo-ku, Niigata 951-8585, Japan
⁴Precursory Research for Embryonic Science and Technology, Japan Science and Technology Agency, Kawaguchi, Saitama 332-0012, Japan
⁵Laboratory of Bioinformatics, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University, Chuo-ku, Niigata 951-8510, Japan
⁶Department of Developmental and Regenerative Biology, Medical Research Institute, Tokyo Medical and Dental University, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8510, Japan
⁷K.K. Sciex Japan, Shinagawa-ku, Tokyo 140-0001, Japan
⁸Center for Coordination of Research, Institute for Research Promotion, Niigata University, Ikarashi, Niigata 951-2181, Japan
⁹Department of Medical Cell Biology, Aichi Medical University, Nagakute, Aichi 480-1195, Japan
¹ºThese authors contributed equally
¹¹Present address: Department of iPS Cell Applied Medicine, Kansai Medical University, Hirakata,Osaka 573-1010, Japan
¹²Present address: Department of Physiology, Keio University School of Medicine, Shinjuku-ku, Tokyo 160-8582, Japan
¹³Lead Contact
*Corresponding author
doi: https://doi.org/10.1016/j.isci.2018.05.019
 
 
用語説明
注1:タンパク質リン酸化
タンパク質の特定のアミノ酸(セリン、スレオニン、チロシン)にATPの末端リン酸基を一つあるいは複数転移する反応。この反応を触媒するのが、タンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)である。ヒトには500種類以上のリン酸化酵素が存在しており、認識配列の違いから、酸性アミノ酸指向性、塩基性アミノ酸指向性、プロリン指向性とそれ以外の4グループに大別される。リン酸化は細胞が刺激の応答を受ける際に起こる化学反応(シグナル伝達)の中で、最も重要な反応である。

注2:GAP-43(Growth-Associated Protein 43-kDa,神経成長関連タンパク質 43)
主に発生途上及び再生中の神経細胞で高発現しているタンパク質で、神経突起の伸長に関わると想定されているが、詳細な機序はまだ解明されていない。

注3:軸索
神経細胞から伸びる突起の一種。細胞体から出るときは一本であるが、途中で枝分かれしながら長く伸びて、最終的に別の細胞に接合する。細胞体で統合した情報を活動電位として次の細胞に伝える働きを持つ。神経細胞では唯一の出力突起であり、その損傷後に再生が出来ない場合には、変性して細胞死が起こる。ヒトの成熟脳・脊髄では軸索の再生が極めて生じにくいことが知られていて、神経損傷や神経疾患が難治性である1つの理由となっている。

注4:リン酸化プロテオーム解析
細胞内の全タンパク質のリン酸化状態を網羅的に解析すること。

注5:JNK(c-Jun N-terminal Kinase)
タンパク質リン酸化酵素の1種で、細胞外からの様々なストレスにより活性化し、細胞死を誘導することが発見当時から知られていた。近年、ストレス応答に加え、発生過程および再生過程の神経軸索の伸長に重要であることが明らかになってきた。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科分子細胞機能学、及び医歯学系神経生化学分野(医学部生化学第二)
河嵜麻実 特任助教
E-mail:akawasaki@med.niigata-u.ac.jp
五十嵐道弘 教授
E-mail:tarokaja@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年06月20日

No_82 ミトコンドリアオートファジーを抑制する新しい制御因子を発見

新潟大学大学院医歯学総合研究科機能制御学分野の古川健太郎特任助教、神吉智丈教授らの研究グループは、東京工業大学生命理工学院の中戸川仁准教授らとの共同研究により、タンパク質脱リン酸化酵素Ppg1が、ミトコンドリアオートファジー(注1)(以下、マイトファジー)を抑制する制御因子として機能していることを発見しました。マイトファジーは、傷害を受けたあるいは余剰に存在するミトコンドリアを分解することで、ミトコンドリアの恒常性を維持する重要な細胞品質管理機構です。本研究は、マイトファジー制御機構の全容解明へ新たな道を拓き、老化やミトコンドリア機能低下が関わる様々な疾患の予防・治療の糸口となる成果です。
 
【本研究成果のポイント】
・マイトファジーレセプターAtg32の脱リン酸化を介してマイトファジーを抑制する脱リン酸化酵素Ppg1を同定した。
・Ppg1またはFar複合体(Ppg1の結合因子として同定)の欠損は、Atg32の恒常的なリン酸化およびマイトファジーの亢進を引き起こした。
・Atg32の151-200の細胞質領域がマイトファジーの抑制に重要であることが明らかとなった。
・タンパク質リン酸化酵素と脱リン酸化酵素(注2)の競合によるマイトファジーの新たな制御機構モデルを提唱した。
 
Ⅰ.研究の背景
ミトコンドリアは、細胞が必要とするエネルギーの大半を産生する細胞内小器官で、生命活動を行う上で非常に重要な役割を果たしています。エネルギー産生の過程で傷ついたミトコンドリアは細胞にとって有害であり、ミトコンドリアのみを標的とするオートファジー(以下、マイトファジー)によって除去される必要があります。マイトファジーの機能が破綻し、細胞内に不良ミトコンドリアが蓄積すると、神経変性疾患(注3)や老化現象などの要因となります。マイトファジーは、ミトコンドリア関連疾患治療の糸口として注目されており、酵母からヒトまで多岐に渡るマイトファジーの分子機構と生理的意義の全容解明は急務となっています。
本研究室では、酵母をマイトファジーのモデル生物として用いて、マイトファジーのレセプター(注4)として機能するAtg32の同定(Kankiら、Dev Cell、2009)を皮切りに、マイトファジーの分子機構の大部分を明らかにしてきました。2013年に、Atg32がカゼインキナーゼ2(以下、CK2)という酵素によってリン酸化されることがマイトファジーの引き金となることを発表しました(Kankiら、EMBO Rep)。しかしながら、CK2は常に活性を持った状態で細胞内に大量に存在するにもかかわらず、Atg32のリン酸化はマイトファジー誘導時のみ起こる現象であることから、通常条件下ではどのようにリン酸化が抑制されているのかは不明のままでした。
 
Ⅱ.研究の概要と成果
Atg32のリン酸化を抑制する因子を探索する方法として、マイトファジーが誘導されると、Atg32がリン酸化依存的にミトコンドリア上にドット状に集積する現象に着目しました。マイトファジーを誘導せずにこのような特徴を示す変異株を探索したところ、脱リン酸化酵素Ppg1が同定されました。Ppg1を欠損させると、CK2依存的にAtg32の恒常的なリン酸化が起こり、その結果としてマイトファジーの亢進が見られました。興味深いことに、Atg32のリン酸化だけではマイトファジーは進行せず、オートファジーのコアとなる部分も同時に活性化されることが重要であることが分かりました。また、マイトファジー以外のオートファジー、例えばペルオキシソームという細胞内小器官を分解するペキソファジーやそのレセプターであるAtg36の制御にはPpg1は関与しないことも分かりました。
Ppg1が属するPP2Aファミリーの脱リン酸化酵素(注5)は、活性調節因子と結合して機能を発揮することが知られています。しかしながら、Atg32の脱リン酸化にはPpg1は既知の活性調節因子を必要としなかったことから、未知の因子が関与すると推測しました。そこで、Ppg1と結合する因子をプロテオーム解析(注6)という手法で探索したところ、Far複合体(Far3、7、8、9、10、11の6タンパク質から成る)が同定されました。Far複合体を欠損させると、Ppg1欠損と同様にAtg32の恒常的なリン酸化とマイトファジーの亢進が見られました。
最後に、マイトファジーの抑制にAtg32タンパク質のどの領域が重要なのかを調べました。Atg32のアミノ酸配列151-200番目の領域を欠損させると、Ppg1欠損とほぼ同様の結果となったことから、Ppg1はこの領域を介してAtg32を脱リン酸化していると推測されました。以上の結果をもとに、図1に示されたマイトファジーの制御機構を提唱しました。
 

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図1 マイトファジーの制御機構モデル
@通常条件下ではPpg1-Far複合体の作用によってAtg32のリン酸化は抑制されている。Aマイトファジーの誘導条件下では、Ppg1-Far複合体よりもCK2が優位に働き、Atg32のリン酸化が起こる。BAtg32のリン酸化およびアダプタータンパク質Atg11依存的にAtg32はミトコンドリア上に集積する。Cオートファジーのコア因子依存的にマイトファジーが進行する。
 
≪用語説明≫
(注1)オートファジー
細胞質成分をオートファゴソームと呼ばれる二重膜で包み込み、液胞あるいはリソソームで分解し、栄養源の再利用や傷ついた細胞小器官(ミトコンドリア、ペルオキシソーム、小胞体など)を排除する酵母からヒトまで備わる重要な生理機能である。オートファジーには、細胞質成分を非選択的に丸ごと分解するバルクオートファジー、細胞小器官や特定の酵素のみを選択的に分解する選択的オートファジーに大きく分類される。本研究では、ミトコンドリアを選択的に分解するマイトファジーに焦点を当てている。
 
(注2)タンパク質リン酸化酵素と脱リン酸化酵素
多くのタンパク質は、特定のアミノ酸(セリン、スレオニン、チロシン)がタンパク質リン酸化酵素によってリン酸化という修飾を受けることによって、その立体構造が変化し、活性の上昇や低下あるいは他のタンパク質との結合や解離などが起こる。リン酸化されたタンパク質は、脱リン酸化酵素によって脱リン酸化される。
 
(注3)神経変性疾患
神経の変性や神経細胞死を伴う病気の総称であり、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などが知られている。近年、パーキンソン病はマイトファジーの異常が原因の一つだと考えられている。
 
(注4)マイトファジーのレセプター
ミトコンドリア上に存在するマイトファジーの目印となるタンパク質。酵母ではAtg32が知られているが、ヒトではPINK1/Parkin依存的なマイトファジーとPINK1/Parkin非依存的なマイトファジーレセプター(Nix、BNIP3、FKBP8、FUNDC1、Bcl2-L-13など)が存在する。
 
(注5)PP2Aファミリーの脱リン酸化酵素
酵母では、Pph21、Pph22、Pph3、Sit4、Ppg1が知られている。Pph21とPph22は、Tpd3、Cdc55、Rts1と結合し、Sit4はSap4、Sap155、Sap185、Sap190と結合することで脱リン酸化酵素としての機能を発揮する。本研究では、Ppg1はFar複合体と協調的に働くことが推測された。
 
(注6)プロテオーム解析
細胞内外のタンパク質を網羅的に解析する方法。本研究では、質量分析装置を用いてPpg1と結合するタンパク質群を同定した。
 
Ⅲ.今後の展開
マイトファジーの誘導条件下において、Ppg1とFar複合体は未解明のシグナルによって不活性化され、Atg32を脱リン酸化することができなくなり、結果的にAtg32はCK2によるリン酸化を受けると推測されます。今後は、このシグナルの正体と詳細な分子機構を明らかにすることでマイトファジーの制御機構の全容解明を目指します。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、新潟大学研究推進機構の吉田豊特任専門職員、東京工業大学生命理工学院の中戸川仁准教授との共同研究で得られたもので、平成30年6月20日午前1時(日本時間)のCell Reports誌(IMPACT FACTOR 8.282)に掲載されました。

論文タイトル:The PP2A-like protein phosphatase Ppg1 and the Far complex cooperatively counteract CK2-mediated phosphorylation of Atg32 to inhibit mitophagy
 
著者:Kentaro Furukawa¹,*, Tomoyuki Fukuda¹, Shun-ichi Yamashita¹, Tetsu Saigusa¹, Yusuke Kurihara¹,⁵, Yutaka Yoshida²,³, Hiromi Kirisako⁴, Hitoshi Nakatogawa⁴, and Tomotake Kanki¹,*
 
1)Department of Cellular Physiology, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata 951-8510, Japan
2)Department of Structural Pathology, Kidney Research Center, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata 951-8510, Japan
3)Institute for Research Promotion, Niigata University, Niigata 950-2181, Japan
4)School of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology, Yokohama 226-8501, Japan
5)Present address: Department of Microbiology and Immunology, Faculty of Medicine, Fukuoka University, Fukuoka 814-0180, Japan
*)Corresponding authors
 
doi: 10.1016/j.celrep.2018.05.064
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 機能制御学分野
神吉智丈(かんきともたけ) 教授
E-mail:kanki@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年06月05日

No_81 遺伝性重度発達障害の原因となる新たな遺伝子の同定

新潟大学大学院医歯学総合研究科分子遺伝学分野の小松雅明教授、石村亮輔助教らは、UFM1システム(注1)と呼ばれる細胞内たんぱく質修飾機構の機能低下が小頭症(注2)や精神運動発達遅延(注3)等を伴う遺伝性の発達障害(注4)を引き起こすことを突き止めました。
この研究成果は、キング・ファイサル専門病院 研究センターのFowzan Alkuraya教授、ケンブリッジ大学のGeoff Woods教授らとの国際共同研究で得られたもので、2018年6月2日(英国時間)のBrain誌(IMPACT FACTOR 10.292)に掲載されました。
<<Biallelic UFM1 and UFC1 mutations expand the essential role of ufmylation in brain development>>
  
【本研究成果のポイント】
1. 小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害の7家系から、原因遺伝子としてUFM1システムに必須なUFM1あるいはUFC1遺伝子の変異を同定した。
2. UFM1あるいはUFC1遺伝子のいずれの変異でもUFM1システムが抑制されることを試験管内で確認した。
3. UFM1あるいはUFC1遺伝子変異を持つ患者由来の細胞において、UFM1により修飾された細胞内たんぱく質の減少を確認した。
 
Ⅰ.研究の背景
重度発達障害をきたす疾患には未だ原因不明のものが多く、その原因遺伝子の同定と病態発症機序の解明が望まれています。
細胞内で生合成されたたんぱく質は、リン酸化、糖鎖付加、脂質付加、メチル化、アセチル化等により修飾され、これら修飾により機能や活性が調節されます。高等生物では遺伝子配列に基づき合成されたたんぱく質が、直接機能を発揮することは少なく、多くは様々な修飾を受けることで機能の多様性が発揮されます。UFM1は細胞内のたんぱく質修飾分子です。UFM1はUBA5酵素により活性化された後、UFC1酵素に移され、最終的に細胞内で生合成されたたんぱく質を修飾し、たんぱく質の機能の変換を担うと考えられています(参考図1)。
ごく最近、小松教授らをはじめ複数のグループにより独立に小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害の原因遺伝子としてUBA5が同定され、UFM1システムの機能異常と重度発達障害発症との関連が注目されています。
 
Ⅱ.研究の概要
多人種、複数の家系において遺伝性重度発達障害の原因遺伝子としてUFM1そしてUFC1を同定するとともに、それらいずれの変異によってもUFM1システムの機能低下が起こることを突き止めました。
 
Ⅲ.研究の成果
今回、小松教授らは、小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害患者を持つスーダンの2家系、サウジアラビアの4家系、そしてスイスの1家系の遺伝子解析により、UFM1システムを構成するUFM1およびUFC1をコードする遺伝子に変異を同定しました。試験管内において、変異UFM1たんぱく質はUBA5酵素による活性化、変異UFC1たんぱく質はUFM1の転移が著しく抑制されていることが判明しました(参考図2)。さらに、患者由来の細胞においてUFM1により修飾された細胞内たんぱく質の減少が確認されました(参考図3)。以前に同定したUBA5遺伝子変異も同様にUFM1システムを抑制することから、これらの研究成果は、UFM1システムの機能低下が小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害を引き起こすことを意味します。
 
Ⅳ.今後の研究について
すでに研究グループは、横浜市立大学大学院医学研究科の松本直道教授(遺伝学)らとの共同研究により遺伝性発達障害患者を持つ日本の家系においてもUFM1システムを構成する遺伝子の変異を同定しています。今後も国内外のUFM1システム関連遺伝子変異を持つ家系の検索、そしてUFM1システムの活性を増加させる薬剤のスクリーニングを行うことで臨床応用を目指しています。
 
 
(用語解説)
(注1)UFM1システム
UFM1と呼ばれる小さなたんぱく質による細胞内たんぱく質の修飾システム(参考図1)。細胞内たんぱく質にUFM1が結合することで機能の変換が起こると考えられている。

(注2)小頭症
先天的な脳の発育不全や出生時における障害等が原因となり、頭蓋が異常に小さい疾患。

(注3)精神運動発達遅延
知的能力と運動能力の発達が共に遅れている状態。

(注4)発達障害
脳機能の障害により、精神面もしくは運動面の発達に問題がある状態。
 

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Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2018年6月2日(英国時間)のBrain誌(IMPACT FACTOR 10.292)に掲載されました。
論文タイトル:
Biallelic UFM1 and UFC1 mutations expand the essential role of ufmylation in brain development
著者:
Michael S Nahorski*, Sateesh Maddirevula*, Ryosuke Ishimura*, Saud Alsahli, Angela Brady, Anaïs Begemann, Tsunehiro Mizushima, Francisco J. Guzmán-Vega, Miki Obata, Yoshinobu Ichimura, Hessa S Alsaif, Shams Anazi, Niema Ibrahim, Firdous Abdulwahab, Mais Hashem, Dorota Monies, Mohamed Abouelhoda, Brian F Meyer, Majid Alfadhel, Wafa Eyaid, Markus Zweier, Katharina Steindl, Anita Rauch, Stefan T. Arold, C Geoffrey Woods**, Masaaki Komatsu**, Fowzan S Alkuraya**
*These authors contributed equally to this work
**Co-corresponding author
doi:10.1093/brain/awy135
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 分子遺伝学分野
教授 小松雅明
E-mail:komatsu-ms@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年04月23日

No_80 鰹だしが抗がん剤の副作用予防に有効であることを明らかにしました −分子標的薬による手足症候群の予防、症状軽減に日本古来の食品が有効であることを証明−

新潟大学大学院医歯学総合研究科の上村顕也 講師、寺井崇二 教授らは、肝臓がんの治療に使用される抗がん剤の副作用である手足症候群(注1)に対して、日本古来の食品である鰹だしが有効であることを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・肝臓がん治療に使用される分子標的薬(注2)は、より長く内服を継続することが大事です。その副作用の中で、手足症候群は非常に発症頻度が高く、生活にも影響を与えるため、内服中止の原因となっています。
・これまで、手足症候群の発症メカニズムは解明されておらず、その予防・軽減効果を有する有効な方法は確立されていませんでした。
・私達の研究で、手足症候群は、抗がん剤によって血管が障害された結果、血流が悪くなって起きる副作用であることを解明しました。
・また、日本古来の食品で、血管拡張効果があることが知られている鰹だしが血管を拡張し、末梢の血流を維持することで、手足症候群の発症予防に有効であることを示しました。
・血管が蛍光で光り、生きた状態で体外から血管の状態を観察できるメダカを用いて、手足症候群の状況を再現するモデルを作ることに成功しました。
・この実験系を使って、鰹だしの有効成分を探したところ、ヒスチジンというアミノ酸が少なくともその一つである可能性が示されました。
 
Ⅰ.研究の背景
進行肝癌に対する分子標的薬であるソラフェニブは、より長く内服を継続することで進行肝細胞癌患者の生命予後延長を期待できることが報告されています。一方で、副作用の制御は最重要課題で、中でも手足症候群は、ソラフェニブを内服する患者さんでは約半数の方に発症することが知られ、内服中断によって予後や生活の質に影響を与えることから対策の確立が急務です。
これまでの検討で、手足症候群発症には、手足の血流が低下することが関与することが示されました。一方で、日本古来の食品である鰹だしには、血管拡張効果があることが報告されております。
そこで、本研究では鰹だしを摂取していただく事により、ソラフェニブ内服中の手足症候群の発症制御、症状軽減効果が得られるか、検討しました。
さらに、鰹だしの成分である、ヒスチジンという血管拡張作用のあるアミノ酸が、ソラフェニブの血管障害を制御するか、血管が蛍光で光るメダカ動物モデルを用いて検証しました。
 
Ⅱ.研究の概要
ソラフェニブを内服するために入院された患者様に、鰹だしを飲用していただき、末梢血流量の変化、手足症候群の発症について経過観察する臨床研究を遂行しました。手足症候群の発症について年齢、性別、肝硬変の有無、病期、投与量、抗腫瘍効果、内服期間、末梢血流量の増減、鰹だしの飲用の有無、の各因子別に検討しました。
メダカモデルを用いた、ヒスチジンの効果の検証では、血管壁がGFPという緑色の蛍光蛋白で光り、血管を可視化できるメダカを対象として、その尾ひれの血管で手足症候群の状況を再現しました。そのメダカをソラフェニブ及びヒスチジンを含有した水槽で飼育し、血管変化を経時的に測定し、ソラフェニブによる血管障害メカニズムとヒスチジンによる予防効果を検討しました。
 
Ⅲ.研究の成果
手足症候群を発症される患者様では、エコー検査で、手足の温度、眼底血流などが低下することが明らかとなりました。一方で、鰹だしを飲用いただいた患者さんでは、血流低下がおこりにくく手足症候群の発症が明らかに少ない結果を得ました(図1)。これらの結果は、日本古来の食品である鰹だしの血管拡張効果によって、手足症候群の発症が抑えられたことを示唆しています。
さらに、メダカを用いた、鰹だしの成分であるヒスチジンの効果の検証でも、メダカ尾ひれの血管が拡張し、ソラフェニブによる血管障害を軽減していることが示唆されました(図2)。

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Ⅳ.今後の展開
本研究では、ソラフェニブによる手足症候群が血流低下によって生じること、鰹だしという日本古来の食品の血管拡張作用によって、その発症が制御できることを明らかにしました。さらにヒスチジンがその有効成分のひとつであることが示唆されました。
今後は、本研究成果に基づいた手足症候群の発症予防を推進するとともに、ヒスチジンのサプリメントによる予防を含めた新たな治療法の開発に役立つと考えます。
今回の成果により、血管が蛍光で光るメダカが、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)に登録され、容易に入手できるようになりました。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年4月17日(日本時間)のCancer Management and Research誌(IMPACT FACTOR 3.851)及び平成30年1月10日(日本時間)のBiochemical and Biophysical Research Communications誌(IMPACT FACTOR 2.466)に掲載されました。
論文タイトル:Effective Prevention of Sorafenib-induced Hand-Foot Syndrome by Dried Bonito Broth
著者:Kenya Kamimura, Yoko Shinagawa, Ryo Goto, Kohei Ogawa, Takeshi Yokoo, Akira Sakamaki, Satoshi Abe, Hiroteru Kamimura, Takeshi Suda, Hiroshi Baba, Takayuki Tanaka, Yoshizu Nozawa, Naoto Koyama, Masaaki Takamura, Hirokazu Kawai, Satoshi Yamagiwa, Yutaka Aoyagi,Shuji Terai.
Cancer Management and Research In Press
論文タイトル:Effect of histidine on sorafenib-induced vascular damage: Analysis using novel medaka fish model.
著者:Yoko Shinagawa-Kobayashi Y, Kenya Kamimura, Ryo Goto, Kohei Ogawa, Ryosuke Inoue, Takeshi Yokoo, Norihiro Sakai, Takuro Nagoya, Akira Sakamaki, Satoshi Abe, Soichi Sugitani, Masahiko Yanagi, Koichi Fujisawa, Yoshizu Nozawa, Naoto Koyama, Hiroshi Nishina, Makoto Furutani-Seiki, Isao Sakaida, Shuji Terai.
Biochem Biophys Res Commun. 496: 556-561.
doi: 10.1016/j.bbrc.2018.01.057 PMID: 29331379.
 
<用語解説>
(注1)手足症候群
種々の抗悪性腫瘍薬の副作用として手や足の皮膚が障害される症状です。手のひらや足の裏が赤くなったり、みずぶくれになったりするため、生活に支障をきたすこともあります。
(注2)分子標的薬
様々な疾患において、治療の標的となる特定の分子の機能を制御することによって治療効果を得るための薬です。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野
教授 寺井崇二
E-mail:terais@med.niigata-u.ac.jp
講師 上村顕也
E-mail:kenya-k@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年04月20日

No_79 除菌治療によるヘリコバクター・ピロリ過敏症発症のメカニズム−細胞外小胞を介した抗原提示の可能性−

新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科阿部理一郎教授および消化器内科寺井崇二教授らの研究グループは、北海道大学医学研究科皮膚科、医薬基盤研究所プロテオームリサーチプロジェクト等との共同研究で、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法に伴う皮疹出現のメカニズムを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・胃の細菌であるヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療により、ヘリコバクター・ピロリ過敏症をきたすことがある。
・ヘリコバクター・ピロリ過敏症により、全身の紅斑を生じる。
・ヘリコバクター・ピロリ過敏症の発症に細胞外小胞が関与することが分かった。
 
Ⅰ.研究の背景
ヘリコバクター・ピロリ菌は胃に感染する細菌であり、胃炎や胃癌の発症に関与します。ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌のために、抗菌薬とプロトンポンプ阻害剤(胃薬)の内服を7日間行います。この除菌療法により、全身の小型の紅斑が出現することがしばしばみられます。これは抗菌薬や胃薬の内服により出現する薬疹よりも高い頻度でみられます。また、除菌療法終了後に皮疹が出現することがあり、薬疹としては経過が典型的ではありません。
そのため、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法により出現する皮疹は薬疹以外のメカニズムでも出現していることが予想されます。
本研究では、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌に関連して皮疹が出現するメカニズムを解析しました。
 
Ⅱ.研究の概要
ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌に関連して皮疹が出現した患者さん、皮疹が出現しなかった患者さんに関して解析を行いました。
 
Ⅲ.研究の成果
ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌に関連して皮疹が出現した患者さんに、血液検査でできる薬疹の原因薬剤特定のための検査である「薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)」(注釈1)を施行しました。除菌治療中に皮疹が出現した患者さんは除菌のための薬剤に対してDLSTが陽性となりましたが、除菌治療を終了した後に皮疹が出現した患者さんではDLSTが陰性となりました。この結果からは、除菌治療終了後に出現する皮疹は、薬疹以外のメカニズムの関与があることが予想されます。そこでピロリ菌過敏症の有無について検討しました。
除菌後に皮疹が出現し、DLSTが陰性だった患者さんの血液からリンパ球を抽出し、ヘリコバクター・ピロリ菌を添加して刺激したところ、IL-2、IL-4、IL-6、IFN-γおよびTNF-αなどの炎症性サイトカインの産生の上昇、ヘリコバクター・ピロリ菌に対して特異的に反応するCD4+T細胞の増加がみられました。健常者や、除菌により皮疹の出現しなかった患者さんのリンパ球ではこれらの炎症性サイトカインの産生の上昇や、ヘリコバクター・ピロリ菌特異的なCD4+T細胞の増加はみられませんでした。この結果は除菌終了後に皮疹が出現した患者さんには、薬剤ではなくヘリコバクター・ピロリ菌自体に対する免疫反応が形成されていることを示唆しています。
次にヘリコバクター・ピロリ菌がどのように抗原として認識されるかを検討しました。我々はエクソソームなどの細胞外小胞の役割に注目しました。細胞外小胞は様々なタンパク質や核酸を含み、体内での情報伝達に重要な役割を担っております。最近の研究で、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染した患者さんの血液中の細胞外小胞に、ヘリコバクター・ピロリ菌を構成する物質が含まれていると報告されております。このヘリコバクター・ピロリ菌のタンパク質を含む細胞外小胞が、ヘリコバクター・ピロリ菌に対する免疫反応を誘発するという仮説を立てました。実際に除菌後に皮疹が出現した患者さんから抽出した細胞外小胞から、ヘリコバクター・ピロリ菌のタンパク質が検出されましたが、皮疹が出現しなかった患者さんの細胞外小胞からは検出されませんでした。除菌後に皮疹が出現した患者さんから抽出した細胞外小胞を血液から抽出したリンパ球に添加して刺激すると、ヘリコバクター・ピロリ菌特異的なCD4+T細胞の増加がみられました。この結果から、除菌に伴い、ピロリ菌の菌体成分が体内に吸収され、さらに細胞外小胞に含まれることにより、ピロリ菌に対する過敏症を発症する機序が考えられた。
 
Ⅳ.今後の展開
本研究の結果から、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌後に出現する皮疹はヘリコバクター・ピロリ菌に対する過敏症であり、この過敏症の形成に細胞外小胞が関与していることが分かりました。
抗菌薬や胃薬は使用される頻度の高い薬剤です。ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療に関連して出現する皮疹は、抗菌薬や胃薬による薬疹と誤診されることが多くありますが、誤った薬疹の診断は患者さんの今後の治療の選択を不必要に狭めてしまうリスクがあります。今回の研究で用いたヘリコバクター・ピロリ菌刺激による特異的CD4+T細胞の検出手法により、誤った薬疹の診断を回避できることが期待されます。
 
用語解説
注釈1)薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)
薬剤によるアレルギー症状のうち,とくに遅発性(W型)アレルギーの機序による薬剤アレルギーに対して,ある特定の薬剤が関与しているか否かを知るための検査です。患者さんの血液細胞に、疑われる薬剤を添加して培養することで、血液細胞の活発(増殖)になるかを測定します。薬剤に対してアレルギーがあれば、血液細胞が増殖するので、それで判定できます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年4月10日のJournal of Allergy and Clinical Immunology誌(IMPACT FACTOR 13.081)のオンライン版に掲載されました。
論文タイトル:Potential role of extracellular vesicle-meditated antigen presentation in Helicobacter pylori hypersensitivity during eradication therapy
著者:Takamasa Ito, Takashi Shiromizu, Shunsuke Ohnishi, Shotaro Suzuki, Katsuhiro Mabe, Akito Hasegawa, Hideyuki Ujiie, Yasuyuki Fujita, Yuichi Sato, Shuji Terai, Mototsugu Kato, Masahiro Asaka, Takeshi Tomonaga, Hiroshi Shimizu,* Riichiro Abe*
*: corresponding author
doi: 10.1016/j.jaci.2018.02.046
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医学部 皮膚科学
教授 阿部理一郎
E-mail:aberi@med.niigata-u.ac.jp

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