新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野-旧内科学第三講座-

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留学だより

ハーバード留学記 6 森 祐介 先生

2017年1月23日

 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
 早いもので帰国まであと4ヶ月強となりました。寂しいような、日本の生活が恋しいような、複雑な心境にあります。とはいえ、まずは5月に無事に卒業する必要があるのですが。

 本日は現在在学中のハーバードメディカルスクール・生命倫理学修士課程について書きたいと思います。
ハーバードメディカルスクールは1782年にマサチューセッツ州ケンブリッジ市に設立された医科大学院(現ボストン市ロングウッドエリア)で、医学研究において全米トップのスクールの一つとして最先端の生命科学研究を実践するとともに、12の関連病院と連携して幅広い医学分野の実務家を輩出しています。日本の医学部からもポスドクとして留学する方が多くいらっしゃいますので、お知り合いが在籍されていた方も多いのではないでしょうか。
 私が在籍する生命倫理学修士課程は、ハーバードメディカルスクールの倫理部門に由来する2015年に設置された比較的新しいプログラムで、医学分野に携わる、またはこれから携わろうとする、主にミッドキャリアを対象に、生命に関する倫理学の基礎を習得させるとともに、科学の進展に伴って生ずる新しい課題に対処できる能力を育成することを目的としています。標準終了年限はフルタイムで1年間、パートタイムで2年間、規模は1学年でフルタイム学生が約20人、パートタイム学生が約10人です。バックグラウンドで分けると医師、弁護士が最も多く、看護師、ソーシャルワーカーと続きます。他にはピューリッツァー賞受賞暦もあるウォールストリートジャーナルの記者や国境なき医師団の政策顧問、これから医学部進学を目指す人と、ケネディスクール同様多様性に富んでいますが、全員が「ヘルスケア」という共通関心事項を持っていることが大きな違いです。
 課程は秋、春の2学期から構成されており、卒業には計36単位の取得が求められ、うち16単位を必修科目が、12単位を選択必修科目が占めます。必修科目には、”Capstone Project”と呼ばれる修士論文研究に準ずる科目が含まれ、関連病院や政府機関との共同プロジェクトを行い、論文を執筆、シンポジウムでポスター発表を行います。
 私は、8月〜12月の秋学期には、道徳哲学、医療倫理、研究倫理、最先端科学の生命倫理、ヘルスケア政策に関する講義等計5科目を履修し、また、Capstone Projectとして、William M. Lenschハーバード大学幹細胞・再生医学研究分野エグゼクティブディレクターの下で、ハーバード大学及びジョスリン糖尿病センターが中心になって進めるiPS細胞由来膵β細胞を利用したI型糖尿病治療の開発を事例に、幹細胞の臨床応用時の倫理的課題に関する研究を開始しました。「道徳哲学」の授業では、アリストテレス(前384年〜前322)の「徳」の概念から、イマヌエル・カント(1724~1804)の「義務論」、ジョン・スチュアート・ミル(1806〜1873)の「功利主義」等、基本的な理論を学びつつ、それらの医学分野への応用について考察を行いました。「研究倫理」では、製薬会社における基礎研究から医薬品の製造・販売に至るまでのプロセス毎に存在する倫理的課題について議論し、「臨床倫理」では、終末医療や救急医療を舞台に患者・家族の選択権、医療資源の分配、死の定義、医療事故への対処等についてケーススタディを通して学びました。「最先端科学の生命倫理」では人工知能や遺伝子編集等、最先端の科学の医療応用やそれに伴う課題がメインテーマとなりました。授業は私には理解困難な哲学的な議論も多く、また相変わらず英語(特に聞き取り)には苦慮していますが、馴染みのあるライフサイエンス分野ということもあってか全ての科目でA/A-のグレードをいただくことができました。
 またこの間、日本の幹細胞研究についてボストン大学で学部生向けに講義をしたり、ハーバード幹細胞研究所で講演をしたりする機会にも恵まれました。日本にいるときにしばしば(今でも時折)、「アメリカではiPS細胞の再生医療への応用への関心は非常に低い」だとか、「日本だけがiPS細胞研究に投資している」との批判めいた意見を耳にすることがありましたが、私の印象ではそのようなことは全くなく、ハーバード幹細胞研究所ではまさに現在進行形で治験参加者のリクルートが進められていますし、講演でも日本の事例から学びたいという意見が多く上がりました。ボストン大学の学生の一人からは、iPS細胞やES細胞の臨床応用について一緒に調査研究をしたいとの希望をもらい、現在リサーチアシスタントとしてトランプ新政権含む各政権の幹細胞研究に対する姿勢についての情報収集及び記事執筆を担当してもらっているところです。論文か記事になればまたこの留学記でご報告できればと思っています。

HMS Master of Bioethicsの同級生と(2016年8月 Harvard Medical School) ※Photo Credit: CAITLIN CUNNINGHAM PHOTOGRAPHY
研究打ち合わせ前Part1(2016年10月 Harvard Stem Cell Institute)
研究打ち合わせ前Part2(2016年10月 Joslin Diabetes Center)
幹細胞研究と生命倫理に関する講義(2016年10月 Boston University)
大統領選開票中継の様子(2016年11月 Harvard Kennedy School)
ニューイングランドの美しい紅葉(2016年11月 Mount Auburn Cemetery
在ボストン日本国総領事館主催・天皇誕生日レセプションでマサチューセッツ州議事堂へ(2016年12月 Massachusetts State House)
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