疾患と治療について

対象疾患

胃癌

かつては日本人でもっとも多かったがんです。上部消化管内視鏡、胃透視、造影CT、大腸検査にて臨床病期を決定し、化学療法の適応を判断します。使用する薬剤はTS-1内服に加えてシスプラチン、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセルなどの点滴があります。化学療法のみで原発巣が制御困難な場合には、消化器内科で内視鏡的バルーン拡張術やステント挿入をしていただいたり、消化器外科に姑息的手術をお願いすることがあります。また出血量の多い場合には、放射線科で腫瘍血管の塞栓術を施行していただくこともあります。また転移臓器が肝に限定される場合には、リザーバーを用いた抗がん剤の肝動脈内注入を行う場合もあります。更に最近では、HER2陽性胃癌に対しハーセプチンが保険対応となりました。

大腸癌

上・下部消化管内視鏡、大腸透視、造影CT、PET-CTにて臨床病期を決定し、外科的手術のみで治癒が望めない場合には化学療法の適応となります。原発巣の狭窄や出血の症状が強い場合、原発巣を外科的に切除していただき、残存腫瘍に対して化学療法を行います。

使う薬剤はオキサリプラチン、イリノテカン、レボホリナート、5-FUで、これらを組み合わせたFOLFOX6、もしくはFOLFIRIというレジメンで2週間おきに治療を行います。46時間投与という薬剤もあるため、埋め込み式中心静脈カテーテル(CVポート)を使用し、インフューザーポンプをつけて帰宅していただき、少量ずつ長時間かけて薬剤を投与することもあります。また、患者様の生活状況に併せて持続投与する薬剤の代わりにゼローダやTS-1内服を選択することも可能です。加えて、ベバシズマブやセツキシマブ、パニツムマブといった分子標的薬剤が大腸がんに保険適応となっていますので、投与可能な患者様には治療の選択肢が増えることになります。

肺癌

肺癌は、がんの死亡原因の第1位です。肺癌と診断された方の、半数以上は進行期で手術の適応がありませんので、がん薬物療法や放射線治療が行われます。肺癌に対しては、多くの薬剤が使用されており、状態に応じて2剤を組み合わせて使うことが基本となります。また、分子標的薬の開発が進んでおり、ある特定の遺伝子異常を持つ方に効果を発揮します。骨や脳に転移することも多く、放射線治療や緩和治療を行うこともあります。

膵癌、胆道癌

かつては抗がん剤のもっとも効きにくい癌腫の一つでしたが、ゲムシタビンという薬剤が使えるようになってから少しずつ奏効率が上昇しつつあります。現在はこれに内服薬のTS-1を併用すると更に効果が期待できるという論文もありますが、患者様の全身状態によってはそれぞれを単独で使用していきます。痛みの強い場合には、治療初期から積極的に各種鎮痛薬を使用し、できる限り苦痛なく治療を行えるよう努めながら、必要に応じて麻酔科に疼痛管理をしていただきます。また黄疸を伴う場合は、消化器内科に依頼して経皮経肝胆道ドレナージや内視鏡的胆道ドレナージを行い、黄疸をとってから治療を行うこともあります。

食道癌

飲酒や喫煙が危険因子となる疾患です。耳鼻咽喉科領域のがんと合併することもあります。上部消化管内視鏡、食道透視、造影CT(必要に応じ造影MRIを追加します)、大腸検査、PET-CTまたは骨シンチグラムを施行した上で臨床病期を決定し、(1)内視鏡治療、(2)外科的切除、(3)放射線化学療法のどれを行うかを決定します。

化学放射線療法を行う場合は放射線科に紹介し、入院の上で5-FU持続静注と放射線感受性を高めるシスプラチンの2つの抗がん剤の投与と平行して週5日間の放射線照射を行います。終了後は病期に応じて放射線科の定期診察の他に当科外来または関連病院にて化学療法を継続していきます。この際には病状に応じてドセタキセルやネダプラチンの点滴、UFT内服などを行っていきます。晩期合併症として胸水、心のう液貯留を来す場合もあり注意しながら経過観察していきます。狭窄症状が強く食餌指導だけでは改善しない場合、あるいは食道が気管支や肺と瘻孔形成(トンネルができた状態となり唾液や食物が肺に入り咳や発熱がみられます)した場合には、消化器内科にお願いして内視鏡的バルーン拡張術や食道ステント挿入を施行していただき、症状の緩和をはかります。

乳癌

日本人女性では乳癌に罹患する人の数が増加しております。一方で分子標的薬の発見などにより、比較的生存期間の長いがんの一種となってきております。当科では主に手術不能、再発乳癌の患者様、または術後補助療法が必要な患者様の化学療法を行うことになります。使用する抗がん剤は、シクロホスファミド、アドリアマイシン、タキサン系の抗がん剤で、分子標的薬であるハーセプチン、ベバシズマブなどを併用することもあります。

原発不明癌

転移性腫瘍で発見され、内視鏡検査、耳鼻咽喉科・泌尿器科・婦人科的検査、CT、MRI、PET-CT、シンチグラムなどの各種画像診断を行ってもどこに元々のがんがあるかわからないものを原発不明癌といいます。抗がん剤の組み合わせはどの臓器の癌なのかによって大体決まっていますが、臓器が特定できない場合でもち治療法はあります。身体のどのあたりに転移が集中しているかと、リンパ節などの転移先からの組織検査の情報により、もっとも可能性の高い癌腫に準じて化学療法を行います。この場合も、施行可能と判断されれば外来化学療法に移行して通院で治療を継続します。