研究・業績

研究内容

神経移行術後の神経再生経路の研究

近年、神経交叉移行術が臨床的に優れた成果をあげており、腱移行術にも対抗できる機能再建法として注目されている。
しかしながら、神経交叉移行術は本来、過誤支配による再生として再生神経のマッチングを重視して神経修復成績を向上しようとする立場からは避けるべき神経修復法と考えられてきた事を考えると、神経交叉移行術後にはこれまで知られていなかった神経可塑性が作用していると考えられる。
この仮説を証明するために、 これまでの、当教室の研究で脊髄支配髄節レベルの殆どオーバーラップがないラット筋皮神経と尺骨神経経を用いて、交叉移行術を行い、 adenovirusvectorを用いて神経再生経路全長をトレースし、脊髄レベルもしくはそれより下位で誘発される神経可塑性の存在を証明した。

本研究は神経解剖学、佐藤 昇教授との共同でマウスモデルを用いて筋皮神経と尺骨神経の交叉端々縫合および端側交叉縫合移行術モデルを作製し、
逆行性神経トレーサーをもちいて脊髄から腕神経叢、末梢神経にわたって再生神経経路を 探索し、可塑性発現のレベルとそのメカニズムを検討する。

低侵襲レーザー

  • 血管腫、母斑、刺青等に効果的なレーザー治療の適用範囲を、熱傷等の副作用なく皮膚深層にまで広げるために、本学工学部の新田勇教授が開発され たレーザー走査技術「シュリンクフィッタ」を用いた高機能・低侵襲レーザー治療器の開発とその効果確認、作用機序を研究している。

  • 微細な血管、リンパ管吻合への応用も検討している。

ストレスと創傷治療

難治性潰瘍発症の一因である糖尿病において、病態にストレスによる各種ホルモンが影響し、症状を増幅している可能性が高い。 動物実験では、拘束ストレス 下に血漿のコルチコステロンなど各種ホルモンや、放出因子、IL-6などのサイトカイン、カテコールアミン、血糖値、中性脂肪の上昇を認めている。 臨床では、 糖尿病患者には神経を栄養する血管も障害され、神経因性疼痛も見られるため、抗うつ薬が鎮静目的に投与されている。また、ストレスを心理的にケアすることで 治癒が促進されることが確認されている。  一方、うつ病においてはストレスが血中グルココルチコイドの増加をもたらし脳内の神経細胞死を誘発させ、ひいては 神経回路網の破壊を進行させる病態が推察されている。 脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor : BDNF)は、神経細胞の発達・生存に大きな 役割をになっているが、抗うつ薬投与によりBDNF産生が増加すること、神経細胞への分化が促進されることが判明し、 抗うつ薬とBDNF、そして神経回路網の修復・ 形成促進の相互の関連が示唆されている。 このようにストレスと組織障害、抗ストレス薬と組織再生との関連は深く、創傷治癒に影響しているとの着想に基づき、 「ストレスは創傷治癒を遷延させ、抗ストレス薬は治癒を促進させ得る」との 仮説を立て、真偽を立証することを目的に基礎的な動物実験を進めている。 難治性皮膚潰瘍患者の多くは抑うつ状態にあり、抗ストレス薬として抗うつ薬は抑うつ状態のみ ならず潰瘍をも改善させ得る可能性について、マウスモデルで検証することを目標としている。

業績