新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野-旧内科学第三講座-

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シンシナティ留学記 (5)

 2020年の夏に渡米し、早いものでまもなく2年が経とうとしています。コロナによる制約の中で始まった留学生活でしたが、現在ではその影響もほぼなくなり、研究も最終段階に入ってきています。前半にアメリカでの生活・行事、後半に研究について少し記載いたします。

アメリカでの生活・行事

 私の研究は、iPS細胞を用いたオルガノイド(3次元ミニ臓器)の培養実験のため、基本的には週末も含めてほぼ毎日研究室へ行きます。休みが取れた週末には、家族でいろいろなところへ出かけ、日本ではなかなか味わえない体験をたくさんしました。この2年間でアメリカのサイズ感にもすっかり慣れ、長距離ドライブの移動はそれほど苦ではなくなりました。渡米したばかりの頃は、南隣のケンタッキー州のルイビル(車で片道およそ2時間かかります)まで行く際も1泊していましたが、今では、クリーブランド(片道4時間)まで日帰りで、MLB観戦に行くこともあります(先日は、大谷選手の応援に行ってきました)。

 昨年の夏休みには、1週間かけて車でグランドサークルを1周(約3000kmの移動)して来ました。ザイオン国立公園、アンテロープキャニオン (写真1左)、モニュメントバレー(写真1中央)、グランドキャニオンなどの雄大な大自然を堪能しました。また、昨年末はまとまった冬休みが取れましたので、シンシナティから車で、アメリカ最南端のフロリダ州キーウェストまでドライブしました(写真1右)。途中、アトランタ、オーランド、マイアミ等のいくつもの都市に寄りながら、10日間でトータル50時間、総走行距離5000km以上の移動でした。日本で言うと、札幌市から鹿児島市までの往復くらいの距離にあたります。絶景を走り抜ける海沿いのドライブでは、開放的な気分を味わえましたが、さすがに、この長旅はかなり疲れました。


Fig.1
左:アンテロープキャニオン (ナバホ族の土地にある砂岩に囲まれた細長い渓谷で、波打つような地形と岩の隙間から差し込む太陽光で知られています)中央:モニュメントバレー (映画Forrest Gumpのロケ地、撮影ポイント)右:キーウェスト (アメリカ合衆国本土の最南端)

 先程、MLB観戦について記載しましたが、ご存じの方も多いかと思いますが、アメリカには4大メジャースポーツ(NFL,MLB,NBA,NHL)があり、シンシナティにはNFL(ベンガルズ)とMLB(レッズ)があります。また、アメリカではサッカーもとても人気があり(サッカーも含めてアメリカ5大スポーツと表現することもあります)、FCシンシナティには、元日本代表の久保裕也選手も所属しています。また、サッカーは子供たちの習い事としても特に人気が高いようで、周りにもサッカークラブに入られているお子さんが多い印象です。私も若い頃にサッカーをしておりましたので、友人に誘っていただき、週末に時々ですが、近くのグラウンドでアメリカ人や韓国人に混ざって汗を流しております。広いグラウンドで体を動かすのは10年ぶりくらいで、とてもすがすがしい気持ちになる一方で、1週間くらい筋肉痛と関節痛がとれず、体力の衰えを痛感します。

 その他、シンシナティの大きなスポーツイベントとして、8月にウェスタン&サザン・オープンというテニス大会があります。ウェスタン&サザン・オープンは、全米オープンの前哨戦として位置づけられる大会で、例年、世界ランキング上位の有名な選手が(錦織圭選手や大坂なおみ選手などの日本人も含め)参加します。チケットも大都市で行われる大会に比べると簡単に格安で手に入り、しかも間近で選手たちの練習を観ることができます。また、夏は日も長いこともあり、夜11時過ぎまで試合が行われているので、仕事終わりに観に行くこともできます。大会は9日間に渡って行われますが、昨夏は家族や留学仲間と全部で4日間テニス観戦に行き、大坂なおみ選手のプレーを間近で観ることができました。(写真2左)

 そして、数あるスポーツの中でも、この1年間で最も盛り上がったイベントは、シンシナティ・ベンガルズの33年ぶりのスーパーボウル(NFLの優勝決定戦)出場でした。スーパーボウルの日が近づくに連れて、ベンガルズTシャツを着た人々が研究室や街中に増え、街をあげての盛り上がりを感じました。私達もユニホームを購入して、アパートのオフィスのゲームルームを貸し切り観戦しました。惜しくもスーパーボウル制覇とはなりませんでしたが、皆で楽しく応援して盛り上がることができました。(写真2右)


写真2 左:ウェスタン&サザン・オープン (大坂なおみ選手の練習風景)右:スーパーボウル観戦

研究について

 基礎研究の大変さを改めて感じた2年間でした。渡米から少なくとも半年は、週末や年末年始も休むことなく細胞培養を継続しましたが、なかなか腸管オルガノイドが思うように育たず、実験もわからないことばかりで悩むことも多く、出口の見えない暗闇を彷徨っているような不安を常に感じていました。ただ、その間に基本的な実験手法を習得し、他の研究室にも顔を出して、iPS細胞からマクロファージを直接分化させる方法を習ったり、間葉系細胞を入れ替える手技を習ったりと、目の前の自分ができることを可能な範囲で頑張り、研究がうまく回り始めることを願い準備を進めました。また、空いている時間を使って、渡米直前まで行っていた臨床研究のデータをまとめたり、症例報告をしたりと、少しでも時間を有意義に使うことを心掛けました。そして、渡米からおよそ1年が経過した頃からようやく、少しずついい結果が出始めてゴールが明確になり、現在急ピッチで実験を進めています。具合的な研究内容については、まだ途中ですので、最終的にお伝えできればと考えておりますが、周りの方々の大きなサポートのおかげで、今年の1月にはこれまでの中間成果のまとめをCrohn’s & Colitis Congress(米国炎症性腸疾患学会)で発表し、日本炎症性腸疾患学会よりTravel Awardをいただくことができました。また、申請していた米国の奨学金の獲得には残念ながら至らず、研究計画の詰めの甘さと海外での奨学金の獲得の難しさを感じました。しかし、幸い日本の奨学金を追加で獲得でき、James先生の御厚意もあり、今年の1月からは、Wells研究室のResearch Fellowのポジションをいただくことができました。周囲の方々のサポートに深く感謝し、これを糧に引き続き頑張りたいと思います。

 また、留学にあたりましてJames Wells先生に御紹介頂きました、武部貴則先生や武部LabのMD、PhDの方々とのお食事会にお誘いいただく機会もあり、普段お聞きすることのできない楽しいお話を伺うことができてとても有難く感じております。

 改めまして、寺井先生はじめ医局の先生方、武部先生、James先生、そして周りで支えてくださる皆様に深く感謝申し上げます。そして、少しでもご恩に報いることができるように、残りの研究生活を頑張りたいと思います。

冨永顕太郎  (2022年5月1日 記)

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