2014年8月 JICA短期派遣 in Myanmar(その2)
8月14日〜8月16日 第1回GISコース
MIDCPのGISコースは次々と建設されているホテルの一つであるMan Myanmarホテルで行われた。ホテルはがらんとして宿泊者もまばらに感じたが、ASEANの時期は、予約が取れないほどだったという。
写真 がらんとしたMan Myanmarホテルのロビー
コースはJICAとミャンマー保健省の共催で行われた。HIV/AIDS制御分野のM&E部門実務統括責任者であるミン・ユー・アウンが率いるミャンマー全土の各州・地域の保健担当者やUNAIDSの担当者、計18名が参加して3日間にわたり密度の濃いコースとなった。
奇遇にもミン・ユー・アウンは2011-2012年にUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の公衆衛生学部に留学しており、その間、GISのコースも二つ履修したという。奇遇というのは私自身、UCLAではないが、カリフォルニアにGISの技術習得のために留学していた経緯がある。しかも、UCLAでGISを教えているYoh Kawano氏とは、内藤先生とアイソトープ総合センターに関係するメンバーが一緒になって南相馬市の放射線線量測定と地図化のプロジェクトで共同研究を進めている。内藤先生が退官後のライフワークと決められたミャンマー支援と南相馬・福島支援がUCLAを軸にこんなところでつながっていたと感じた。
写真 GISコースの会場にて。右から筆者、野崎先生、ミン・ユー・アウン
ミン・ユー・アウンはGISの基礎的知識があるため、第1日目の午前に行ったレクチャーを逐一ミャンマー語に翻訳してくれた。地方の保健担当者は全員が医師で、英語ができないわけではないが、普段はミャンマーの地域保健を担うために実務は全て現地語である。このため、ミン・ユー・アウンは気を回してくれ、要所でミャンマー語への翻訳を担当してくれた。
レクチャーは第1日目の午前のみで、その後は実際のGISソフトを用いての実習を主体にコースを進めた。使ったソフトは2つあり、一つはHealthMapperというWHOが開発した保健・公衆衛生に特化したソフトであり、もう一つはGISの世界ではスタンダードといわれているArcGIS(ESRI社)である。
HealthMapperをコースで使用するまでには一苦労あった。HealthMapperを使用して講習をしてほしいというのは現場からの要望であったが、私自身、HealthMapperを使ったことがなかった。新潟大学ではArcGISのサイトライセンスが導入されており、教員学生全て使用することができる恵まれた環境にある。このため、他のソフトを使う必要に迫られることがなかった。しかし、今回はコースを主催しなくてはならないので、HealthMapperを勉強するよい機会だと思っていた。
ところが、準備する段階になって、問題が噴出した。ソフトをWHOのサイトからダウンロードしようとするが、WHOのサイトではすでにダウンロードできなくなっていた。さらに、他のサイトからダウンロードするが、今度はソフトが動かない。困ったと思い、野崎先生に相談した。幸運なことにMIDCPのマラリアチームがすでにHealthMapperを使用しているらしく、ソフトのプログラムをCD-ROMに保存して送って下さった。ようやく野崎先生から送ってもらったHealthMapperのプログラムをインストールして準備を始めたが、ソフトは立ち上がるものの、途中でうまく動作しなくなる場面があることがわかった。他のPCにインストールしようとすると、今度は送ってもらったCD-ROMのデータを使ってインストールができなくなっていた。そんなことがあるものかと驚いたが、様々なPCでトライしたが結果は変わらなかった。最終的に、和田先生が同じくマラリアチームから送ってもらったHealthMapperのプログラムをドロップボックスで共有して下さった。プログラムは100MB以上あり、アップロードするのに相当な時間を要してしまったそうである。
このような紆余曲折があり、ようやくインストールできたHealthMapperを使ってテキストを作成した。できるだけ簡単に地図作成ができるように基本の説明に多くを割いた。
コースではソフトを実際に使用して実習を進める形式としたため、進み方に個人差があったり、説明を読み飛ばしてあらぬ方向に行ってしまうなど、トラブルは続出したが、JICA現地スタッフの臨機応変の対応のおかげもあり、最終的にはHealthMapperを使って簡単な地図を作成するレベルにまで到達できた。
もう一つのGISソフトとして、ArcGISを紹介した。ArcGISは米国ESRI社が開発したGISのスタンダードともいえるソフトであるが、値段が高いのが難点で、講習のために購入できるような価格ではない。しかし、ArcGISが使えれば、かなりの応用がきくため、ぜひ実際に使ってもらいたいと思っていた。ESRI
JAPANの教育機関担当者に、コースの参加者人数分、一時的なライセンスの発行をお願いした。ありがたいことに、英語の評価版ライセンスを人数分発行してもらうことができ、コースでも使用できることになった。HealthMapperに慣れた受講者にとってArcGISは自由度が高い分難しいと感じたようで、躓く人も多かった。しかし、中には問題なく使いこなせる受講者もおり、ArcGISを紹介した意味があったと感じた。
最後にはWeb-GISの活用例も紹介し、3日間に及ぶコースは終了した。修了セレモニーでは修了証をもらって皆、嬉しそうだった。
写真 修了証を授与
GISのコースは日本で開催するときでも、ソフトやパソコンの準備で手こずることが多い。ましてやミャンマーでGISの実習コースができるのか、と、最初は不安だったが、JICAの実行力と現地スタッフの優秀さがそんな心配を払拭してくれた。
ミン・ユー・アウンは、National AIDS Projectのデータ管理にHealthMapperを使えないか、という相談のためにコースの翌週、UNAIDSの職員とともにヤンゴンのMIDCP事務所までやってきた。ぜひともミャンマーのHIV対策のためにGISツールを役立ててもらえればと願っている。
ネピドーから再びヤンゴンへ
第1回目のGISコースを終えて、飛行機でヤンゴンへ戻る予定であったが、航空会社の都合で飛行機がキャンセルになり、陸路でヤンゴンへ戻ることになった。雨季は危険という300km約5時間の道のりである。野崎先生はすでに別の用件のため、前日には空路ヤンゴンへ戻っていた。私と和田先生は土曜日の午後、雨が降ったり止んだりする中をヤンゴンへ向けて出発した。和田先生の海外経験の話や日本の公衆衛生の未来を語り合ううちにあっという間に時間は過ぎた。ヤンゴンに近づくと、雨季の豪雨で洪水になったエリアを通った。
写真 道は川のような洪水になっていた
中には、楽しそうに泳いでいるこども達もいて、洪水で深刻な被害があるはずなのに、なぜか楽しそうな姿が印象的だった。都会や先進国の価値観がそのまま通じない。人の幸せは何で決まるのか、考えてしまうような場面だった。ミャンマーの懐の深さ、奥深さはこんなところにもあるのだろうか、と感心した。
8月17日 久々の休日
ミャンマーに降り立ってからちょうど1週間。久々の休日は行ったことのないシェダゴンパゴダやダウンタウンを歩き回った。
タクシーに乗って、ヤンゴン川のほとりまで足を伸ばした。タクシーは乗る前に行き先を告げて値段交渉する。ミャンマー人ではないとすぐに分かるので、だいたい2〜3倍の値段をふっかけてくる。それでも4〜5km行くのに5000チャット(500円)程度。それを4000チャットに値切ったり、いや、4500だと言われたり・・・。50円、100円の話なのだが、現地の物価を考えると、大きな額なのだと思う。
昨年9月のミャンマー訪問では、ヤンゴンには数日の滞在で、ネピドーとマンダレー(ピン・ウー・ルゥイン)への訪問もあり、パゴダはネピドーのパゴダしか知らなかった。シェダゴンパゴダは想像と全く違った。いったい、何体の仏像があるのか、数え切れないほどだった。ミャンマー人の心の拠り所がここにはあるのだと思った。