2015年春活動報告① ミャンマープロジェクト報告  3月3日~3月7日(その3)


2015
36() 晴れ

 サン・ピュア病院(Sanpya Hospital)はヤンゴン市内にある市立病院である。UM2Yadanar教授はここの呼吸器科の勤務医でもある。この日は、彼女に連れられて、サン・ピュア病院の小児科部へ見学に行くことになっている。

 

ヤンゴン市内には私立病院も多くあるが、医療費が非常に高く、一部の富裕層しかそのサービスを受けることができない。

 サン・ピュア病院にはあらゆる階層の患者が集まるが、医療施設が充実しておらず、ニーズに合わせた医療サービスの提供が行われているとは言えない状況である。

 

 ミャンマーでは、治療の開始が遅れることが多い。医療費が高いことと、疾病に対する認識が甘いことに原因がありそうだ。少し体調が悪いぐらいなら放っておけばそのうち良くなるという考え方のため、大きな病気が隠れていても早期発見ができないケースが多い。

肺癌はステージがかなり進行してから外来にかかることが日常であり、また、結核のような感染症もその拡がりを抑えるのが難しい。

公衆衛生の概念も発展途上にある。生活環境を整えるということが、ヤンゴンのような大きな都市でも未発達で、やはり感染症の封じ込めにはかなりの時間を有することが予見される。結核がメジャーな感染症疾患であることがその証拠であろう。

 発展途上国で面白いのは、代謝異常疾患に罹患している人口が多いことである。ミャンマーもその例にもれず、糖尿病(Ⅱ型)を患っている率が非常に高いそうだ。贅沢病といわれていた糖尿病が貧しい国でも問題になっているのは実に皮肉だ。

 

 最悪なのは、結核と糖尿病を同時に患っている場合で、治療に際して困難を極めることが多く、Yadanar教授も頭を抱えている状況だ。

 

 しかし、このような状況だからこそ学術的な知見を見出すチャンスも多い。疾患の原因となる病原微生物がどのように進化していくのか、医療の発展に公衆衛生がどれだけの貢献をもたらすのか、気温や湿度などの環境条件が疾患に及ぼす影響はいかほどのものなのか。これまで先進国が見落としがちになっていた課題をあらためて前向きに観察することができる。そこで得られるエビデンスは、未来の医療への礎となっていくだろう。

 

 サン・ピュア病院の呼吸器科へ最初に訪問した。

 ナースステーションでは、看護師が忙しそうに仕事をしている。看護師の育成機関が少なく、人手が足りないことも大きな問題となっているそうだ。

 

 

                   

       ▲サン・ピュア病院への支援も内藤先生は長年携わっている

 

 ナースステーションの前には、酸素ボンベが大量に置かれていた。

   ◂大量の酸素ボンベ

 ミャンマーにおける大きな課題の一つに、安定した電力供給があげられる。

 いつ停電が発生するか分からない状況では、電力を必要とする最新式の酸素供給装置が適さない。酸素ボンベから酸素供給をして、患者を維持するとのことだ。1日当たりの消費は約10本。管理できる患者数や疾病の範囲に限界を生じてしまうのも無理はない。

 

 病棟はオープンスペースだ。空調も窓やファンを使って調節している。

 患者には家族が付き添っているが、やはり不安の色が見受けられる。当然のことだが笑顔もなければ、余裕も感じられない。屋外の日差しが強く明るい分、病室内を一層暗く感じる。

   

     ▲病棟の様子     ▲気管支鏡検査室

 

 呼吸器科から小児科へと見学を移った。

        ◂患者と家族であふれかえる病棟

 

途中、病棟の廊下と階段は、患者と家族であふれかえっていた。

 CTなどの設備もみかけたが、やはり実際に利用できる患者は限られているそうだ。

        ◂影像室の様子

 小児科では部長と面談することができた。

       

      ▲小柄な女性だが、力強さを感じさせるCho Cho Win先生

 

 彼女が直接、小児科病棟を案内してくれることとなった。

 

 新生児ユニットでは、スタッフたちが忙しく対応している。

 病院スタッフの努力の結果を反映しているのは、周産期・新生児期の生存数が毎年、前年の1.2倍ずつ増加していることだろう。

   

 

 ひとしきりの見学の後、部長室へと案内された。

 ここでも、齋藤教授からミャンマーでのプロジェクトについての説明が行われた。Win先生からは「ミャンマーでは確立されたエビデンスが非常に少ない。現状のままでは医療の発展には結びつかない。ぜひともプロジェクトに協力させて欲しい。」とのコメントをもらった。

 明日の医療を見据えて、現場のスタッフたちが一生懸命である。

 

 

 
 ▲病院のデータについての説明 ▲小児科部長室にて

 

 昼食後は、時間が取れたので、再びNHLへ訪問した。

 ウイルス学部門へ行き、これからの調査研究についての話を少しだけする必要があった。

 

  ▲ウイルス学研究棟前にて   ▲NHL正面玄関前にて

 

 ミャンマー側も感染症に対するサーベイランス研究の重要性を重々に承知している。

 インフルエンザについてのサーベイランスを継続していくように協力し合うことを再認識し合った。

 

 今回の訪緬により、J-GRIDプロジェクト始動に向けての第一歩が踏み出せたのは間違いないだろう。しかし。今後のプロジェクト進行についての問題点や難点も多く浮き彫りにされた。ミャンマー側の言葉を借りるとしたら、「仏の導きに従う」といったところだろうか。

 

 プロジェクト始動の4月までは、もうすぐそこである。


 (文責:新潟大学 国際保健学 日比野亮信)

ミャンマープロジェクト活動記録TOPへ戻る
ホームへ戻る