教授ごあいさつ

2015年1月1日付で、新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野(旧 第三内科)の教授を拝命いたしました寺井崇二です。私は、初代 市田文弘名誉教授、第2代 朝倉均名誉教授、第3代 青柳豊名誉教授の後任として、この職を務めることとなりました。
新潟大学消化器内科は、歴代教授や諸先輩方の尽力により、日本の消化器病分野において大きな足跡を残してきました。その伝統を受け継ぎ、さらに未来に輝く教室へと発展させていきたいと考えています。
消化器内科の進化と展望
近年、内視鏡技術の進歩により、低侵襲の治療技術が発展し、肝臓や胃がんの主な原因であったC型肝炎ウイルスやピロリ菌はコントロールできる時代になりました。今後は、メタボリックシンドロームに関連する癌(バレット腺がん、大腸がん、膵がん、肝がん)や炎症性腸疾患が増加すると考えられています。
これらの疾患に対し、臓器間ネットワークの視点を持ち、先制医療技術の開発、肝硬変や消化管狭窄に対する新たな生体材料や細胞を用いた再生医療、さらに新規抗がん剤や治療法の開発応用が求められています。また超高齢化社会の中で、高度ながん治療を行う上で、がん患者さんが最後までおいしく食事をとれるよう工夫すること、サルコペニア対策としての運動療法の開発も重要です。そのため、腸内環境の評価、制御も含め、消化・吸収・代謝の原点に立ち返った全身を診ていく診療と研究が必要であると考えています。
私たちの研究テーマは、「難治性消化器疾患の診断と治療法の開発」です。病態生理の解明やゲノム科学や細胞生物学を駆使して新たな予防法、診断法、治療法の開発を目指して研究を行っています。我々は、患者さんの病に対しての“なおりたい”気持ちに対し、“治したい”、“未来を変えたい”という思いで、臨床、研究に取り組んでおり、その中でも再生医療は極めて重要なツールの一つです。
私は前任地勤務時代から 肝硬変の線維化改善・再生治療の開発に精力的に取り組んできました。当科で実施した 他家脂肪組織由来間葉系間質細胞を用いた肝硬変症に対する治験(企業治験、医師主導治験)および基礎実験の解析データから、細胞外小胞(エクソソーム)が治療のキープレイヤーになり得ることを見出しました。エクソソームは 肝臓病のみならず、多方面の診療領域でその将来性が期待されています。しかし、現在は適切な品質管理と効果検証を基にした探索的診療の推進が喫緊の課題となっています。
私は、日本再生医療学会の座長として「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス」を取りまとめました。また、国際的にはISCT(International Society for Cell & Gene Therapy)の Exosomes Committee や Gastrointestinal Committee のメンバーとして活動し、細胞外小胞の国際標準化に積極的に関与しています。基礎研究・臨床研究を進めながら、医師主導治験、橋渡し研究にも注力しています。
さらに地元企業とも連携し、内視鏡機器の開発を進めています。その中で、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)や経口内視鏡的筋層切開術(POEM)のトレーニングモデルであるEndoGel™は、発明大賞を受賞していますし、安全に内視鏡的異物除去術を行うためのEndoFlower(エンドフラワー)を商品化しています。さらに介護を念頭にした新たな“簡易トイレ”も開発してきました。
“Sun Ship” 教室の理念

私たちの教室のロゴマークは“Sun Ship”です。これは「すべての消化器臓器を診ること」、そして「消化器臓器間のネットワークを重視すること」を理念としてデザインしました。
新潟大学のスクールカラーである緑色と、その反対色であるエルメスオレンジを使用しています。帆船(Ship)をモチーフ にし、土台部分に、消化器内科の前身の「Ⅲ(第三内科)」の象徴を取り入れています。”Sun Ship” の “Sun” には 「太陽」 と 「第三内科のⅢ」 という意味を込めています。
新潟大学消化器内科は、急性疾患から重症・難治性疾患まで幅広く対応しており、特に急性肝不全や重症急性膵炎に対しては、県内関連施設とのネットワークを構築し、効果的な診療体制を整えています。その中で、当科では全ての消化器臓器を診る、患者さんによりそう共感力のある「総合消化器内科医」の育成を目指し、内科専門医、消化器病専門医、消化器内視鏡専門医、肝臓専門医の資格取得を推奨しています。さらに、次世代医療の再生医療認定の取得も可能です。
私が教授に就任して以来、2025年までの10年間で84人が教室に入局し、73人が学位を取得しました。また、新潟県内で診療部長以上になった教室員は49人、かかりつけ医として独立した先生は41人です。さらに、国立大学教授を2人輩出しました(新潟大学総合診療学、山梨大学消化器内科)。
「守破離」の精神で次世代のリーダー(コーディネーター)を育成する

私は大学時代に柔道を学びましたが、医師としての診療技術の習得には、武道と同じく「守破離」の考え方が重要だと考えています。
- 「守」:消化器内科医としての基礎を学び、全ての消化器疾患を診る総合力を身につける
- 「破」:新潟大学発の次世代治療を開発し、高度な専門性を確保するClinician-Scientistになる
- 「離」:幅広い知識と専門性、柔軟な思考と実行力を備えた次世代リーダー(コーデイネーター)を育成する
国際的な視点を持った多様性は重要であり、この10年間で、7つの異なる海外大学に留学者を送り出し、1名は文部科学省へ派遣しました。彼らは異分野での経験を積み、現在はスタッフとして活躍しています。
当教室、同門会の先生には、豊富な経験を持つ諸先輩の先生方が多くいらっしゃいます。この恵まれた環境のもと、「聞思修」の知恵を得る機会を創出し、国内外から優秀な人材が新潟大学に集う教室を目指していきます。
最後に
私は、医療や研究において「一燈照隅」の精神が大切だと考えています。一人ひとりが自分の持ち場で最善を尽くし、光を灯すことで、やがてその光が広がり、社会全体を照らしていく――この思いを胸に、日々の診療・研究・教育に取り組んでいます。
若い先生方、研修医、学生の皆さん、ぜひ私たちとともに“Sun Ship”に乗り、新しい消化器病学の開拓に船出しましょう。一燈照隅の志を持ち、それぞれの場所で輝きながら、共に未来を切り拓いていきましょう。
引き続きよろしくお願い申し上げます。
2025年4月
新潟大学大学院医歯学総合研究科
消化器内科学分野 教授
寺井 崇二
参考
第23回日本再生医療学会総会 会長(2024年3月)
*細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス
日本再生医療学会ニュース
ガイダンス(日本語版)
ガイダンス(英語版)
肝臓リハビリテーション指針