新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野-旧内科学第三講座-

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留学だより

ロンドン留学記(5)

 前回の留学記から早いもので9ヶ月、ついにロンドン留学も最終日を迎えました(明日フライトです)。日本に帰れることを喜びつつ、空になったフラットで2年間の出来事を思い出し少し物寂しさも感じています。前回の留学記からこれまでの様子を中心に、留学生活を振り返ってみたいと思います。

~Research under lockdown~

 春先のイギリスにおけるCOVID19の流行は悲惨でした。それでも夏が近づき、温かくなるにつれて徐々に状況は改善し、段階的にlockdownも緩和されていきました。7月から8月にかけは国内外への旅行も可能となったため、8月にはイングランドのBathにでかけ、Birminghamの木村家と合流し、イギリスの短い夏を楽しむことができました(Fig 1)。
 この時期、基礎研究を行っている同僚たちはほぼ通常通りに働いていたと思います。しかしながら私は臨床研究を行っていたため、lockdown緩和後も研究の再開には高いハードルが待っていました。留学中のメインの仕事と考えていた臨床研究では患者・ボランティアとの接触が避けられないため、徹底した感染対策が求められました。大量の書類作成の煩雑さに加えて、倫理委員会がCOVID関連の研究にマンパワーを全振りしており、遅々として進まない手続きに苛立ちを感じる毎日でした。何度も倫理委員会とやりとりする中で、イギリスの倫理委員会の仕組み・手続きについて、いつの間にかWingateのfellow中で一番詳しくなっていました。
 夏が過ぎ、ようやく準備が整った頃にはまた状況が悪化、2nd lockdownが起こったため、結局予定していた仕事は再開できないまま現在に至ります。New variantの出現もあり、冬場の状況は初回のロックダウンを上回る酷い状況でした。12月半ばには研究室でクラスターが発生し、研究室は年明けまで閉鎖、私も濃厚接触者となったため、自主隔離を余儀なくされました。期せずして、人生最長の冬休みを過ごすことになりました。幸い、私を含め家族全員発症することなく、元気に年末年始を過ごすことができました。イギリスでは世界に先駆けてワクチン接種が開始されましたが、高齢者、frontline workerが優先のため、残念ながら在英中にワクチン接種は受けられませんでした。
 どうしても暗い話題になってしまいがちですが、生産性のある仕事もいくつか行うことができました。リモート下での臨床研究を行ったり、イギリスの大規模コホートを用いたデータ解析などにも携わらせていただいたりと、この状況下のなかで最大限できることはやったかなと思います。リモートワークとデータ解析であれば、イギリスに留まる必要があったのかという声もあろうかと思いますが、こちらに留まって地道に煩わしい仕事を続けた結果振っていただいた仕事だと思うので、個人的には留まって正解だったのではないかと考えています。これらの研究は現在進行形ですが、できるだけ早く形にして皆さんにご紹介できればと思います。

~blessing in disguise~

 私が所属していたWingate Instituteには様々なバックグラウンドを持った研究者達が集まっています。出身も多様で、パキスタン、インド、フィンランド、アルゼンチン、中国etcと純粋なイギリス人を探すのが難しいくらいです。新潟から出たことのないドメスティックな私にとって、非常に刺激的な環境でした。言葉の壁は常に感じるところではありましたが、同僚達はあまり気にせず(手加減なしに)、接してくれていたように思います。
 残念ながら同僚達と食事に行くこともできず、直接会うことすら難しい時もありましたが、逆にそんな状況だからこそ、Prof Azizや同僚のfellow達とは強い信頼関係を築けたのではないかと思っています(私は勝手に戦友だと思っています)。最後のミーティングではProf Azizに暖かい言葉をかけていただき、同僚からは素敵なプレゼントをいただきました。皆コロナ禍が落ち着いたら日本に旅行したいな、と言ってくれていたのが嬉しかったです(Fig 2)。

~Appreciation~

 lockdown期間中は、平均すると週3-4日程度は自宅で仕事をこなしていました。狭いフラットで小さな子供2人(6歳と3歳)を抱えての仕事はなかなか大変だと思います。我が家では妻が子供達を上手くコントロールし、日中仕事に集中できる環境を作ってくれていました。また長女の学校が閉鎖されている間、home schoolingの補助が必要になりましたが、これもほぼ妻が役割を担ってくれました。大変ストレスのかかる状況で、最大限仕事に集中させてもらい、頭が上がりません。妻のサポートなしには研究継続は不可能だったと思います。家族全員が無事健康で帰国の途につけそうなので、安堵しています。

 コロナ禍が始まってからの1年間、初年度が霞んでしまうくらい様々なことが起こりました。昨年3月から現在まで計3回のlockdownを経験し、目まぐるしく変わる状況に翻弄され、その都度落ち込み、立て直し、失敗し、順調とは言い難い留学生活でしたが、それでも徐々に適応し、自分にできることはやり切ったと思います。研究を行う上で、今より厳しい状況はそうそうないと思う(そう思いたい)ので、この2年間の経験を基に帰国後も仕事に励みたいと思います。

 最後になりますが、留学に際してご支援いただいた寺井教授、医局の皆様に心より感謝申し上げます。4月からまた皆様と働けることを楽しみにしています。

高橋一也 記

同門会の皆様へ