新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野-旧内科学第三講座-

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Sun Ship通信

広汎食道表在癌に対するESD手技の工夫と狭窄予防対策

済生会川口総合病院 消化器内科
橋本 哲

はじめに

 近年、ESDの技術の向上に伴い、広汎な食道表在癌に対するESDを行う機会が増加しています。しかし、広汎病変のESDでは術後狭窄が問題となり、長期間の内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilation ; EBD)が必要な症例もあり、患者の生活の質を著しく低下させます1)。この度、Sun Ship通信で投稿の機会をいただきましたので、広汎食道表在癌に対するESD手技の工夫、狭窄予防対策について概説いたします。

広汎ESDに対する手技の工夫2)

1. 亜全周切除 (3/4周以上) (図1)

 通常白色光観察に加え、NBIおよび最終的にはヨード染色を行い、病変周囲のマーキングを施行します。この際、非腫瘍粘膜が少しでも残せるようマーキングが離れすぎないように注意します。通常のESD同様に病変周囲の切開、深切りを行い、口側より剥離を行います。病変が水没する部位では、出血すると止血に難渋する場合もあり、慎重に剥離を行い、明らかに太い血管があれば剥離前に凝固処置を行うようにします。糸付クリップによるカウンタートラクションを行うことで、病変が固定され粘膜下層の剥離が容易となります3)
図1

2. 全周切除 (図3)

 全周切除症例では、まず肛門側と口側の全周切開と深切りを行います。その後、口側より粘膜下層トンネルを2-3本作成し、トンネル間の残存粘膜下層を最後に剥離します(図2)。
図2
 このトンネル法は、剥離した粘膜をスコープで押し上げることで良好なトラクションを得ることができますが、トンネル内での出血は視野を妨げることもあり慎重に剥離を行います。残存粘膜下層の剥離は、前述の糸付クリップを複数本使用することで十分な視野の確保が可能となります。
図3

ESD後狭窄予防対策

1. 当科における狭窄予防対策

 当科では周在性が亜全周以上の症例に対するESD後の狭窄予防対策として、2008年1月にtriamcinolone acetonide (TA, ケナコルト-AR)局注法を開発しました。TAは白色懸濁液で、少ない投与量で組織滞留時間が長くなるよう工夫されている製剤です。筆者らは食道亜全周後ESD後の狭窄予防におけるTA局注法の有用性を初めて報告しました4)。当科におけるTA局注法の手技と治療成績を提示します。

① 対象症例数と周在性の定義
 2003年~2010年まで当科でESDを施行した食道表在型扁平上皮癌336例(380病変)のうち、周在性が亜全周以上の41例を対象としました(全周は除外)。亜全周は、切除面の周在性が3/4周以上と定義しました。

② TA局注の方法
 局注群は21例、非局注群は20例。局注群は、ESD後3日以内にTA局注を開始し(ESD直後は施行しない)、2週間以内に計3回TA局注を施行しました。局注液はTA原液を使用し、局注針は太さ25G、長さ4mmのデバイス(トップ社製)を使用しました。肛門側より満遍なく切除面に対し、原液であれば0.2mlずつ局注しました。TAは切除面積に合わせて、合計50-100mg使用しました。その際、局注針は固有筋層を刺さないよう残存する粘膜下層に浅く刺入し、TAの膨隆形成を確認しながらゆっくりと注入しました(図4)。
図4

③ 狭窄の定義と治療
 汎用スコープGIF-Q260J(オリンパス社製)が不通過時か、嚥下障害の評価としてdysphagia scoreを用い、同スコアが2点以上(半流動食が飲み込めない)の場合、ESD後狭窄と定義しました。狭窄出現時にEBDを開始し、C.R.E.バルーン(CRETM Fixed Wire Balloon Dilators, Boston Scientific社製)にて、最大15mmまで拡張し、狭窄が解除するまで適時繰り返し行いました。

④ 治療成績
 局注群、非局注群では性別、年齢、周在性、局在、平均長軸径、深達度など臨床病理学的諸因子に有意な相違を認めませんでした。局注群は非局注群に比べ、有意に狭窄出現率および平均EBD回数の低下を認めました(図5)。また、局注に伴う出血、血腫、遅発性穿孔など偶発症は認められませんでした。
図5

2. 狭窄予防対策のまとめ

 ESD後の狭窄予防法は、ステロイドを使用する方法、シートを切除面に貼付する方法、その他など多岐にわたり、研究・開発が行われています。ステロイドは炎症細胞や線維芽細胞の活動性を低下させ、線維化を抑制する作用があります。ステロイドの使用方法は、大きく局注法と内服法があります。

① ステロイド局注法 (Triamcinolone acetonide)
 局注方法: 筆者ら5)は局注回数2回、Hanaokaら6)は1回の報告。ESD直後の局注が重要。長所:簡便、短時間で処置が可能。短所:術者の手技の技量に差が出る。遅発穿孔の報告もあり、局注針は深く筋層に刺さないようにする

② ステロイド内服法 (PSL)
 Yamaguchiら7)は、亜全周以上のESD切除例に対し、ESD3日後よりprednisolone 30mg/日の内服を開始し、減量しながら8週間投与を行い、狭窄予防効果があることを報告。長所:簡便、術者や症例による手技の技術的な差が生じにくい。短所:PSL副作用の考慮。高齢者や他の併存疾患をもつ患者の場合、糖尿病の悪化や易感染性など重篤な副作用をもたらすこともある8)

③ シート貼付法
 ポリグリコール酸シートのESD切除面への貼付(やや技術を要する)9) 口腔粘膜の培養シートの開発(臨床応用への課題)10)

さいごに

 食道狭窄予防治療は全周切除例などをはじめ、まだまだ課題が残っています。当科でもハイドロゲルを用いたステロイド徐放化シートの開発を行ってきました11)。今後も新しい薬剤、医療材料の開発を目指し、再生医療分野で貢献できればと考えております。

参考文献

  • Katada C, Muto M, Manabe T et al: Esophageal stenosis after endoscopic mucosal resection of superficial esophageal lesions. Gastrointest Endosc. 57(2):165-9, 2003
  • 橋本哲, 水野研一, 寺井崇二ほか 【食道表在癌の診断と内視鏡治療】 広汎ESDの適応と狭窄対策. 消化器内視鏡 30(2): 211-16, 2018
  • Oyama T. Counter traction makes endoscopic submucosal dissection easier. Clin Endosc. 45(4):375-8, 2012
  • Hashimoto S, Kobayashi M, Takeuchi M et al: The efficacy of endoscopic triamcinolone injection for the prevention of esophageal stricture after endoscopic submucosal dissection. Gastrointest Endosc. 74(6):1389-93, 2011
  • Hashimoto S, Mizuno K, Terai S et al: Evaluating the effect of injecting triamcinolone acetonide in two sessions for preventing esophageal stricture after endoscopic submucosal dissection. Endosc Int Open. 7:E1-E7, 2019
  • Hanaoka N, Ishihara R, Takeuchi Y et al: Intralesional steroid injection to prevent stricture after endoscopic submucosal dissection for esophageal cancer: a controlled prospective study. Endoscopy. 44(11):1007-11, 2012
  • Yamaguchi N, Isomoto H, Nakayama T et al: Usefulness of oral prednisolone in the treatment of esophageal stricture after endoscopic submucosal dissection for superficial esophageal squamous cell carcinoma. Gastrointest Endosc. 73(6):1115-21, 2011
  • Ishida T, Morita Y, Hoshi N et al: Disseminated nocardiosis during systemic steroid therapy for the prevention of esophageal stricture after endoscopic submucosal dissection. Digestive endoscopy: official journal of the Japan Gastroenterological Endoscopy Society. 27(3):388-91, 2015
  • Sakaguchi Y, Tsuji Y, Ono S et al: Polyglycolic acid sheets with fibrin glue can prevent esophageal stricture after endoscopic submucosal dissection. Endoscopy. 47(4):336-40, 2015
  • Ohki T, Yamato M, Ota M et al: Prevention of esophageal stricture after endoscopic submucosal dissection using tissue-engineered cell sheets. Gastroenterology. 143(3):582-8, 2012
  • Nakajima N, Hashimoto S, Terai S et al: Efficacy of gelatin hydrogels incorporating triamcinolone acetonide for prevention of fibrosis in a mouse model. Regenerative Therapy. 11: 41-46, 2019
    掲載した図1-5は文献2、4より引用、改変しております。

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