2026/10/23
糖尿病があっても使える?オランザピンの吐き気止めとしての使用条件が変更
抗がん剤治療を受ける患者さんにとって、吐き気や嘔吐はつらい副作用の一つです。その予防や軽減には、複数の吐き気止めを組み合わせて使うことがあります。
オランザピンも、その選択肢の一つです。統合失調症や双極性障害の治療薬として知られていますが、抗がん剤による吐き気・嘔吐を抑える目的でも使用されています。
これまでは、糖尿病のある患者さんや糖尿病の既往歴がある患者さんには、使用目的を問わず投与が禁忌とされていました。2026年8月25日の使用上の注意の改訂により、抗がん剤による吐き気・嘔吐への使用に限って、この禁忌が解除されました。[1]
糖尿病のある方にも、治療の選択肢が広がりました
日本癌治療学会の制吐薬適正使用ガイドラインでは、吐き気・嘔吐を起こすリスクが高い抗がん剤治療に対して、オランザピンを含む4剤併用療法が推奨されています。
しかし、糖尿病のある患者さんでは、禁忌のためにオランザピンを組み合わせることが難しい状況がありました。今回の改訂によって、血糖管理などの条件を満たせば、こうした患者さんにも使用を検討できるようになりました。[1][2]
薬のリスクと使用条件を問い直す研究もあります
オランザピンの糖尿病リスクについては、精神科領域でも再評価する研究が行われています。
2025年には、新潟大学の恩田らが、オランザピンとクロザピンの糖尿病新規発症リスクを比較した系統的レビュー・メタ解析を報告しました。クロザピンも血糖への影響が問題となる薬ですが、日本では糖尿病を理由に一律の禁忌とはされておらず、オランザピンとは使用上の扱いが異なります。[3]
この研究では16件の観察研究を統合し、ハザード比を用いた解析ではオランザピンの糖尿病新規発症リスクがクロザピンより低く、オッズ比を用いた解析では統計学的に明確な差は認められませんでした。[3]
もちろんこの研究だけで、糖尿病患者さんへの安全性を判断することはできませんが、それでも、薬ごとの規制の違いが実際のリスクの違いとどの程度一致しているのかを検討する材料になります。著者らも、より確かなエビデンスを蓄積し、使用上の制限を再評価する必要性を指摘しています。
今回の制吐目的での改訂とこの研究では、対象や使用期間が異なります。しかし、両者を併せて考えると、薬のリスクを評価し直し、治療目的や管理体制に応じて使用条件を検討することの重要性が見えてきます。
禁忌解除後も、血糖管理は欠かせません
オランザピンには、血糖値を著しく上昇させ、命に関わる合併症を引き起こす危険性があります。今回の改訂後も、この警告は続いています。[1]
日本癌治療学会の速報版では、糖尿病またはその既往のある患者さんに使用する場合、血糖コントロールが安定していることを確認し、入院下で管理するとされています。外来で実施できる抗がん剤治療であっても、オランザピンを使用する場合には入院での管理が示されています。[4]
投与前と投与中には毎日複数回の血糖測定を行い、投与終了後も血糖が安定するまで観察を続けます。投与量と期間を必要最小限にし、急な血糖上昇に対応できる体制も必要です。[1][4]
精神科での使用条件は、引き続き異なります
統合失調症や双極性障害の治療を目的とする場合、糖尿病のある患者さんや糖尿病の既往歴がある患者さんへの投与は、引き続き禁忌です。今回の改訂を、すべての使用目的で禁忌が解除されたと受け取ることはできません。[1]
今回の変更は、安全性への注意を保ちながら、これまで使えなかった患者さんにも、特定の条件のもとで治療の選択肢を広げたものです。
薬の使用条件は、新しい研究や臨床経験を踏まえて見直されることがあります。オランザピンについても、リスクを慎重に評価しながら、どのような場面で利益が上回り、安全に使用できるのかを検討することが大切です。
参考情報
- [1] [1] 日医工「オランザピン製剤『使用上の注意』改訂のお知らせ」(2026年8–9月)
- [2] [2] 日本癌治療学会「制吐薬適正使用ガイドライン速報発信のお知らせ」(2026-08-25)
- [3] [3] Onda K, Ichwansyah R, Boku S. “Risk of diabetes mellitus with olanzapine compared to clozapine: A systematic review and meta-analysis.” Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports. 2025;4:e70215.(2025-10-14)
- [4] [4] 日本癌治療学会「制吐目的としてのオランザピン投与時の血糖管理について(制吐薬適正使用ガイドライン速報版)」(2026-08-25)
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療を代替するものではありません。