メガリンは1回膜貫通型の巨大タンパク質で、low-density lipoprotein (LDL)受容体ファミリーに属し、特に腎近位尿細管の管腔側膜に高発現して、糸球体を濾過するタンパク質や薬剤などの再吸収・代謝を司るエンドサイトーシス受容体として機能しています(1)。
腎臓病を引き起こす「入り口」分子メガリンを標的としたトランスレーショナルリサーチ
メガリンは1回膜貫通型の巨大タンパク質で、low-density lipoprotein (LDL)受容体ファミリーに属し、特に腎近位尿細管の管腔側膜に高発現して、糸球体を濾過するタンパク質や薬剤などの再吸収・代謝を司るエンドサイトーシス受容体として機能しています(1)。
私たちは、メガリンが、細胞外領域の切断により、あるいは全長型として、近位尿細管上皮細胞から逸脱し、尿中に排出されることを明らかにしました(2)。前者をアミノ末端側の、後者をカルボキシル末端側のサンドイッチELISAを用いて測定することから、それぞれA-メガリン、C-メガリンと命名しました(2)。C-メガリンは残存機能ネフロンの近位尿細管におけるリソソーム障害(タンパク質代謝負荷)に伴うエクソサイトーシスの亢進によって排出が増加することを明らかにしました(3)。A-メガリンはメガリンの機能負荷に伴うリサイクリングの亢進と細胞膜における切断酵素反応によって、尿中排出が増加することが示唆されています。
2型糖尿病患者における横断的解析において、尿中C-メガリンは正常アルブミン尿期から病期の進行に応じて増加します(2, 3)が、縦断的解析においても、尿中A-メガリンおよびC-メガリンには糖尿病性腎症の進展予測能が示唆されています。また尿中C-メガリンは、IgA腎症の重症度(4)や小児の尿路感染症に伴う腎瘢痕の診断にも有用であるとともに、尿中A-メガリンにはシスプラチン腎症の発症予測能も示唆されています。さらに、糖尿病関連腎症において、尿中A-メガリン、C-メガリンとも、高値例は、その後の腎機能の低下速度が速いことを報告しました(5)。
私たちは肥満・メタボリックシンドローム型糖尿病モデルであるマウス高脂肪食負荷モデルにおいて、メガリンを「入り口」として脂肪酸高含有タンパク質などの病的物質が近位尿細管上皮細胞に取り込まれることが起点となって、尿細管から糸球体障害に至る腎障害が引き起こされることを明らかにしました(6)。したがってそのような病態の予防や治療においては、メガリン機能を適切に抑制する手段が有効であることが示唆されます。
メガリンはアミノ配糖体、バンコマイシン、コリスチン、シスプラチンなどの腎毒性薬剤と結合し、それらを近位尿細管上皮細胞に取り込むことによって急性腎障害の発症に関わることがわかってきました。私たちは、シラスタチン(腎ジヒドロペプチダーゼⅠ阻害薬として、抗菌薬イミペネムの分解を抑制するため、合剤として長年臨床に使用されてきた)が上記の腎毒性薬剤とメガリンの結合に拮抗することにより、腎毒性を軽減することを明らかにしました(7)。
さらに、体外循環療法などに伴う溶血に関連して発症する急性腎障害の発症にもメガリンが関わり、シラスタチンがそれを防止することを明らかにしました( 8)。
横浜市立大学、東京大学との共同研究により、クライオ電子顕微鏡を用いて、メガリンの立体構造を明らかにするとともに、リガンドとの結合様式の解析を行いました(9)。今後、この知見を、新規メガリン拮抗薬の開発に役立てる予定です。
慢性腎臓病や薬剤性腎障害などの急性腎障害において、メガリンが腎障害を引き起こす「入り口」を司る分子であることを明らかにしました。今後、尿中メガリンの動態を診断・モニタリングに用いながら、病態に応じてメガリン拮抗薬あるいはメガリン機能抑制薬を腎臓病の予防・治療に活かす道を開拓したいと考えています。