研究について

分子生物学研究グループ

腎分子生物学的研究グループは、後藤眞、金子佳賢を指導教官とし、大学院生の土田雅史、張高正、山口浩毅が所属しています。我々研究グループがカバーする領域は、患者を対象とした疾患原因遺伝子の同定から、疾患モデルマウスや臨床病理と予後との関連に至るまで、あらゆる分野に広がっています。また、土田陽平は2014年10月より米国テネシー州ナッシュビルのVanderbildt大学に研究留学しています。さらに、渡辺博文が2017年7月より米国Virginia大学に研究留学に旅立ちました。

IgA腎症の発症、進展様式に関する研究

IgA腎症は、腎糸球体メサンギウム細胞へのIgAの沈着と、メサンギウム細胞増生、基質増加を病理学的特徴としますが、病的なIgAがどのような機序で産生され、メサンギウム領域に沈着するか、依然として解明されていない点も残っています。そこでIgA腎症研究グループでは、以下の研究テーマに沿って研究を行っています。

1. 家族性IgA腎症の原因遺伝子同定

IgA腎症は孤発例が大部分を占めますが、一部には遺伝性を持った家族内発症のIgA腎症が存在します。後藤眞、土田雅史、山口浩毅らは、家族性IgA腎症を発症した数十家系の遺伝子サンプルを対象に、全ゲノム塩基配列同定を次世代シーケンサーにて行い、同一家系内でIgA腎症を発症した患者にはみられるが、非発症者にはみられない数十個の病因候補遺伝子を同定しました。その一部については現在、同定された遺伝子変異がもたらす機能異常の有無につき、培養細胞に遺伝子導入を行い、機能解析を行っています。

2. IgA腎症患者摘出扁桃のメタゲノム解析による扁桃細菌叢の同定

IgA腎症においては扁桃感染により一時的な増悪を認めたり、IgA腎症の治療としての扁桃摘出術の有効性が報告されたりしていることから、扁桃に存在する細菌叢が、粘膜免疫を介して何らかの免疫学的修飾をもたらし、IgA腎症の発症に結びついていることが推察されています。しかしこれまでは、扁桃に存在する細菌叢の同定は、細菌培養による単離を行わなければならず、しかしながら99%の細菌は単独では培養できないという問題点がありました。そこで、後藤眞、渡辺博文、土田雅史らは、当院耳鼻咽喉科の協力の下、IgA腎症患者の摘出扁桃を用い、細菌に特異的なDNA配列をPCR法にて増幅させ、東京工業大学、国立遺伝学研究所、順天堂大学との共同研究にて、塩基配列を同定するメタゲノム解析を行い、IgA腎症患者扁桃に特異的な細菌叢を同定するべく、解析を行いました。結果はIgA腎症患者の扁桃細菌叢と慢性扁桃炎患者の細菌叢の組成に違いはなく、宿主の免疫応答の違いがIgA腎症の発症に関与しているであろうとの結論に達しました。この結果は渡辺博文を筆頭著者としてNephrology Dialysis Transplantation誌に掲載され、2016年の腎・膠原病内科最優秀論文賞を受賞しました(図1、図2)。

3. 腎糸球体メサンギウム細胞上のIgA受容体の機能解析

メサンギウム細胞上のIgA受容体としては、これまでトランスフェリン受容体などが候補として挙げられていましたが、金子佳賢らは、培養ヒトメサンギウム細胞を用いてIgAとの結合条件を検討し、インテグリンα1/β1およびα2/β1ヘテロダイマーを新たなIgA受容体の候補として同定しました。現在は金子佳賢、張高正らがメサンギウム細胞上のインテグリンα1/β1とα2/β1ヘテロダイマーで機能に違いがあるか否かについて、培養メサンギウム細胞を用いて研究を進めています。

家族性非定型溶血性尿毒症症候群の原因遺伝子同定

幼少時に発症する家族性非定型溶血性尿毒症症候群の家系で、発症者と非発症者の全エクソンの塩基配列を解読し、その中で遺伝形式に合致し、アミノ酸変異をもたらす補体C3の遺伝子異常を、原因遺伝子の候補として同定いたしました。後藤眞、土田雅史、山口浩毅らが遺伝子異常をもつ補体C3の機能解析を進めています。

家族性難治性ネフローゼの原因遺伝子同定

家族発症を認める難治性ネフローゼ症候群患者の家系においても、同様に全エクソンの塩基配列を解読し、原因遺伝子を同定させる研究が、後藤眞らによって進行中です。

図1:IgA腎症 (IgAN) 、成人習慣性扁桃炎(RT)、小児扁桃肥大 (TH)の患者からそれぞれ採取した扁桃を用い、細菌特有の16SリボゾーマルRNAの塩基配列から、扁桃に常在する細菌叢を特定。

図2:Haemophilus spp., Prevotella spp., Porphyromonas spp., Treponema spp.ともに、IgANとTHでは扁桃存在比に有意な違いを認めるものの、RTとの間には存在比に有意な違いは認めない。