研究について

慢性腎臓病病態研究グループ

 名付けて実践的・実験的慢性腎臓病/尿毒症研究: Practical, experimental chronic kidney disease/ uremic toxin research (PRECURE)はCKD、透析療法、それに関連する全身疾患について臨床研究、基礎研究を展開しています。その領域は多岐にわたり、メンバー各人が興味と使命をもって独自の研究を進めます。チームはそれらをゆるやかに連携し支えあいますがこのようなオールラウンドな様は新潟の特徴といえます。

I. 慢性腎臓病病態全般

 慢性腎臓病の臨床には様々な未解決の問題が残されています。私たちは日本透析医学会統計調査、DOPPS、MBD-5D、特定健診、独自コホートなど様々な機会を用いて臨床データを解析し、その疑問に答える努力を続けています。今までに、日常健康習慣は複合的に慢性腎臓病発生予防に寄与していること、男性では低尿酸血症が腎機能障害のリスクになること、透析患者の死因として感染症や出血性脳血管疾患が重要であること、ワルファリンの使用には有益であるポテンシャルもあること、日本の透析患者の年齢調整死亡率の経年変化などを明らかにしました。

II. 尿毒症病態研究

 腎機能の低下に伴って出現する様々の病態を「尿毒症」と呼びます。その病態は多岐にわたりその病因も単一ではありません。私たちは腎機能の低下に伴って体内に蓄積し有害な生理活性作用を示す尿毒症物質に着目して基礎・臨床研究を進めています。

1)尿毒症病態における動脈硬化促進メカニズムの解明

 慢性腎臓病患者では動脈硬化が進展し、心血管病の発症が深刻です。動脈硬化進展の主な原因であるマクロファージの泡沫細胞化に尿毒症物質が直接的に関連していると考えます。この仮説を証明するためにマクロファージあるいはHDLコレステロールと尿毒症物質の関連をin vitro実験で調査し成果を挙げています。

2)尿毒症病態における骨粗鬆症病態発症進展メカニズムの解明

 慢性腎臓病患者では骨の弾性力学特性が劣化し骨折イベントが著増します。私たちはこれまで透析患者は一般人口と比較して大腿骨近位部骨折の頻度が高いこと、レニン-アンギオテンシン系阻害薬の使用は透析患者の骨折による入院頻度の減少と関連したことを臨床研究で報告しました。臨床研究で明らかになった現象のメカニズムを解明するため尿毒症物質やレニン-アンギオテンシン系が骨の材質特性に与える影響について基礎研究を行っています。

3)透析アミロイドーシスの病態解析

 透析アミロイドーシスは長期透析患者に特異的な尿毒症病態で、新潟大学で病因が発見された研究領域です。私たちはその発見者の下條文武名誉教授の指導を受けながら、アミロイド組織の網羅的蛋白解析や前駆蛋白であるβ2-ミクログロブリンの生理活性分析を続けています。

III. 新規血液浄化システムの開発

1)尿毒症物質を効率的に除去する血液浄化療法システムの開発

 一般に蛋白に結合した物質は既存の血液浄化システムで十分に除去できません。ところが尿毒症物質の一部は体内で蛋白に結合しながら循環しており、これが尿毒症の発症に大きく寄与することが明らかになってきました。私たちは、この通常は除去できない蛋白結合尿毒症物質を十分に除去できるポテンシャルを持った新規血液浄化療法システムを産学協同で開発しています。

2)水と電力を用いない簡易血液浄化システムの開発

 災害時の慢性透析患者の透析支援、および急性腎障害発症時の血液浄化療法の提供は時に困難となります。私たちは救助が到着するまでの1日~2日の時間を稼ぐことを念頭に、水と電力を用いない簡易血液浄化システムを開発しています。

3)カテーテルの血管壁へばりつき現象の解析と対策確立

 急性血液浄化やアクセス不全の際に大静脈に挿入されるカテーテルは、しばしばセッション中に脱血不良に陥ります。この原因はカテーテルの血管壁へばりつき現象であると考えられていますが、その詳細は不明です。私たちはex vivo体循環モデルを開発し、このモデルを用いてカテーテル不良の原因と対策を検討しています。

IV. 最後に

 PRECUREは慢性腎臓病、透析療法など日常診療で感じた疑問に答え、それが次の診療の進歩につながることを信じて基礎・臨床研究を続けています。チーム全体でサポートしますので一緒に研究するメンバーを歓迎します。

リサーチミーティングのひとコマ