パレコウイルスとは

パレコウイルスA(PeV-A: Parechovirus-A) は、ピコルナウイルス科に分類され、現在19の遺伝子型が知られています。その中でも2004年に日本から初めて報告されたパレコウイルスA3は、新生児や早期乳児(主に生後3か月未満)に敗血症や脳髄膜炎を起こします。年長児では、手足口病やヘルパンギーナの原因にもなります。手足口病やヘルパンギーナといえば夏風邪として有名ですが、その主な原因ウイルスはエンテロウイルスです。パレコウイルスは、エンテロウイルスに似た症状ですが異なるウイルス、と言えます。

 

パレコウイルスA3感染症による敗血症の典型的な症状としては、急な高熱でぐったりして、脈が速く(頻脈)、全身の皮膚色が網目状に悪くなり(網状チアノーゼ)、おなかがパンパンになります(腹部膨満)。時には臍が突出します(写真1枚目)。身体に発疹が出て、手のひらや足が赤くなることもあります(写真2枚目)。

脳白質障害による重大な神経学的後遺症、更には突然死を含めた致死例も報告されています。パレコウイルスA3の認知度が上がるにつれ、日本各地や世界各国から報告が増加し、小児領域の新興感染症として最も注目を集めているウイルスの1つです。

 

感染経路には2通りあります。
・便から排泄されたウイルスが手に付いて身体の中に入る
・鼻汁や咳、唾液などの飛沫に含まれたウイルスが身体の中に入る
年長児や大人では、症状がなくても感染してウイルスを排泄することがあります。
赤ちゃんやその兄姉のおむつ交換やトイレのおしり拭きを手伝った後、大人も含めてトイレ後、食事の前、唾液などで手が汚れた場合などでは、石鹸を使ってよく手を洗うことが感染予防に大事です。アルコール手指消毒剤も有効です。

 

国内では2-3年ごと、欧州では2年ごとに流行することが知られており、夏季から秋季に集中します。しかし、パレコウイルスA感染症の診断には血清・髄液を用いたリアルタイムPCR (polymerase chain reaction)法が一般的ですが、市販の検査や外注検査は存在せず、パレコウイルスA3感染症を疑ってもリアルタイムPCR法を実施できる施設は限られています。さらに、それぞれの施設で作られたPCR検査(in-house PCR)によって実施されているのが現状です。そのため、これまでのパレコウイルスA3感染症の報告は、検査可能な地域を中心に症例報告や小規模の流行の報告しかありませんでした。

 

海外では、本疾患の重要性から国レベルのサーベイランスデータが米国や英国から報告され始めています。国内では国立感染症研究所からパレコウイルスA3の検出数が公開されていますが、これは基幹定点病院からの届け出を基に作成されています。新生児・早期乳児のPeV-A3感染症は重症化しやすいため、重症小児を診療する医療機関に集中する傾向があり、基幹定点病院のデータのみでは必ずしもパレコウイルスA3感染症の疫学の実態を反映しているとは限りません。また、地方衛生研究所のデータが集約されて公開されるまで一定の時間を要しています。パレコウイルスA3感染症は流行しない年には検出数はほぼゼロのため、疫学情報は診断と適切な管理のためにパレコウイルスA3感染症では特に重要です。 

 

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