壬子会学術奨励賞
- 目的:
新潟大学医学部皮膚科学教室同門会(壬子会)会員の学術活動及び診療活動を奨励助成し、皮膚科学教室同門会の発展に寄与する事を目的とする。 - 対象者:
医学研究ならびに医療に従事する正会員とする。 - 選考:
研究業績、学内外における学術活動などを参考として学術奨励賞選考委員会において選考を行い、役員会で承認、決定する。
平成28年度 第1回壬子会学術奨励賞受賞者

重原 庸哉(新潟大学)
(論文名)
Mutations in SDR9C7 gene encoding an enzyme for vitamin A metabolism underlie autosomal recessive congenital ichthyosis.
(雑誌名)
Human Molecular Genetics (Impact Factor 5.340)
(要 旨)
常染色体劣性先天性魚鱗癬(Autosomal recessive congenital ichthyosis:以下ARCI)のレバノン人の家系について連鎖解析及びエクソーム解析による詳細なゲノム解析を施行し、ARCIの新規の疾患原因遺伝子としてSDR9C7遺伝子を同定しました。SDR9C7蛋白はretinalをretinolに変換する働きがあることが過去に報告されており、表皮の分化過程におけるビタミンA代謝の重要性が強く示唆されました。この研究成果は分子遺伝学において国際的な一流誌であるHuman Molecular Geneticsに掲載されました。
安齊 理(長岡赤十字病院)
レジデント1年目に3報の英語論文を執筆し、精力的に臨床研修を行いました。BRAF阻害剤により重症のざ瘡様発疹が生じた症例の報告を行いました(J Dermatol. e15-16, 2017)。また、疱疹状天疱瘡の症例ではデスモコリン3に対する自己抗体によって発症したことを明らかにしました(J Dermatol. e104-105, 2017)。さらに、遺伝性対側性色素異常症の症例の遺伝子解析を行い、ADAR遺伝子に新規の変異を同定しました(Clin Exp Dermatol. 933-934, 2016)。疱疹状天疱瘡および遺伝性対側性色素異常症の論文では症例発表のみならず実験も行っており、レジデント1年目から優れた実績をあげました。
平成29年度 第2回壬子会学術奨励賞受賞者

林 良太(新潟大学)
全身性多毛症患者の遺伝子解析を行い、染色体17q24領域のcopy number variationにより発症していることを明らかにしました(J Dermatol Sci. 63-65, 2017)。また、インフルエンザワクチン後に生じた好酸球性血管性浮腫の1例を報告しました。(Eur J Dermatol. 554-555, 2017)。その他、他施設の患者の遺伝子解析を行い、論文報告の共著者となりました。(Clin Exp Dermatol. 313-315, 2017, J Eur Acad Dermatol Venereol. e111-112, 2017, J Dermatol. e184-185, 2017, J Eur Acad Dermatol Venereol.e142-e144, 2017, J Dermatol. 376-378, 2018)
結城 明彦(新潟大学)
原発不明悪性黒色腫の心臓転移に対して抗PD-1抗体(Nivolumab)を投与継続中に赤芽球癆を発症した症例を報告し、免疫チェックポイント阻害薬の未知なる有害事象の一つである可能性を示しました(Melanoma Res. 635-637, 2017)。また、植皮術を施行された266例を対象とした後ろ向き解析を行い、タイオーバー施行群・未施行群間での生着率、治癒期間、創感染率、血腫形成率に関し比較検討しました。タイオーバーの要否や有用性につき再考するとともに、従来の固定法に比しより簡便な植皮片固定法を示しました(J Dermatol. 1317-1319, 2017)。
平成30年度 第3回壬子会学術奨励賞受賞者

結城 明彦(新潟大学)
菌状息肉症(Mycosis fungoides; MF)の早期例は、臨床および病理組織学的に非悪性の炎症性皮膚障害(Inflammatory skin disorders; ISDs)との鑑別が困難な場合があります。今回我々は、MF 58例とISDs 50例の皮膚組織を用いてCell adhesion molecule 1 (CADM1)の発現に関する免疫組織化学的解析を行いました。MF群の94.8%(55/58例)でCADM1の発現を認め、対照群であるISDsとの間に統計学的有意差を認めました(P < 0.0001)。また、Laser microdissectionによりMFの組織切片から選択的に採取された腫瘍細胞においてCADM1の遺伝子発現を確認しました。浸潤細胞の少ない早期のMFにおいてもCADM1陽性細胞の同定は可能であり、MFの診断およびISDsとの鑑別に有用である可能性が考えられました。(J Am Acad Dermatol. 2018)
河合 亨(新潟大学)
無汗性外胚葉低形成不全症の遺伝子解析を行い、TP63遺伝子のエクソン14番目のcoding DNAの1748番目の1塩基Aが塩基Tに置換している新規の変異を認めた1例を報告しました(J Dermatol Sci 90(3): 360-363, 2018)。また、遺伝子解析を行いエクソン21のcoding DNAの2485番目から2486番目の2塩基AAが欠失している新規の変異を認めたWerner症候群に急性汎発性発疹性膿胞症(AGEP)を併発した1例を報告しました(Eur J Dermatol, 28(4):553-554, 2018)。
令和元年度 第4回壬子会学術奨励賞受賞者

濱 菜摘(新潟大学)
Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症は発病後の早急な治療が必要にも関わらず、未だ十分な病態解明はされておらず、早期診断が困難な重症薬疹です。診断の助けになるバイオマーカーはこれまで特異的なものはあまりありませんでしたが、今回薬疹患者さんの血液中のタンパク質の質量分析をすることにより、galectin-7が重症な薬疹の患者さんで統計的有意差をもって高いことが判明しました。Galectin-7は他の水疱症やウイルス疾患による中毒疹での上昇はみられず、ステロイド治療後の低下が見られ、良い診断マーカーになりうることを明らかにしました。(J Allergy Clin Immunol Pract.7(8):2894-2897, 2019)
土田 裕子(新潟大学)
水疱性類天疱瘡のステロイド内服加療中に水疱性類天疱瘡再発と全身性膿疱性乾癬が同時に合併した1例を報告しました。IL36RNとCARD14遺伝子の変異の検索を行いましたが、変異は同定されませんでした。水疱性類天疱瘡と全身性膿疱性乾癬の合併症例は全て日本からの報告であり、自己免疫性水疱症と全身性膿疱性乾癬の合併症例のほとんども日本人であることから、自己免疫性水疱症と全身性膿疱性乾癬の合併症例ではIL36RNやCARD14以外の全身性膿疱性乾癬を引き起こす未知の遺伝子変異の存在が示唆されると考えました(Int J Dermatol. 2019 Mar;58(3):e66-e67.)。
令和2年度 第5回壬子会学術奨励賞受賞者

長谷川 瑛人(新潟大学)
Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症は稀ではありますが、致死率の高い重篤な薬疹です。そのため重症薬疹は早期に診断し、適切な治療を開始することが求められます。今回我々は、重症薬疹患者の血清中のRIP3濃度が、健常者や通常型薬疹患者の血清と比較して有意に上昇していることを解明しました。また、臓器障害や粘膜症状が高度な症例においてはよりRIP3濃度が高値であることを確認しました。血清RIP3の測定が、重症薬疹の早期診断や重症度判定に有用であると考えられました。(J Allergy Clin Immunol Pract. 8(5): 1768-71, 2020)
木村 春奈(新潟大学)
免疫不全のない小児に生じたcutaneous botryomycosisの症例を報告すると共に、複数の既報を検討することで、免疫不全を伴わない患者における本疾患の初期症状についてまとめました。(J Dermatol. 47(5): 542-545, 2020)。また、好中球性筋炎を合併したSweet病の患者さんが横紋筋融解症をきたした症例を報告しました(J Dermatol. 47(11): e415-e417, 2020)。そして、免疫チェックポイント阻害薬であるpembrolizumabにより顕在化したStevens-Johnson症候群の症例を報告しました。こちらは症例報告だけでなく、実験も施行し、免疫染色を用いて表皮角化細胞の細胞死における病理学的特徴を検討しました。典型的なStevens-Johnson症候群ではアポトーシスとネクロポトーシスが混在していますが、自験例では大部分の細胞死がアポトーシスの形態を呈していました。細胞死は表皮基底側に優位に認められ、表皮真皮境界部にはCD8陽性リンパ球が浸潤していました。Pembrolizumabにより原因薬に対する免疫反応が増強され、さらに表皮細胞の免疫寛容が破綻し、重症薬疹が生じたと考察しました(J Eur Acad Dermatol Venereol. 2020)。
令和3年度 第6回壬子会学術奨励賞受賞者

藤本 篤(新潟大学)
Stevens-Johnson症候群/中毒性表皮壊死症の早期症状である紅斑は、頻度の高い軽症の薬疹(通常薬疹)の紅斑に酷似します。このため初期段階の皮疹から両者を鑑別することは非常に難しいのが現状です。今回我々はAI技術の一つであるディープニューラルネットワークを応用することで、両者の紅斑のデジタル写真から本疾患を判別する早期診断法を開発しました。本検査法が実用化されれば、皮膚病変デジタル写真から致死率の高い重症薬疹を早期に鑑別できるようになる可能性があります。 (J Allergy Clin Immunol Pract. 2021 [Online ahead of print])
佐々木 仁(新潟大学)
臓器移植患者においてシクロスポリンを長期内服することで脂腺増殖症が多発し、移植患者のQOLが著しく低下することをAJTで皮膚科医の立場から報告した(Am J Transplant. 21(1):428-430, 2021)。次いで、炎症性腸疾患と鑑別が必要であった赤痢アメーバ感染症による臀部の巨大皮膚潰瘍をきたした症例を報告した(J Dermatol. 48(4):e198-e200, 2021)。また、下眼瞼皮膚癌切除後の全層欠損に対しては、後葉再建が必要とされるが、高齢患者の増加に伴い、全麻を要する高侵襲手術が困難な症例も多く、全層切除を要した下眼瞼皮膚癌5例に対して後葉再建を省略し、皮弁による前葉再建のみ行った。結果、術後障害は軽微であり、長年の眼球支持力を必要としない高齢者や、合併症などで手術侵襲を少なくしたい患者には、後葉再建の省略が可能と考えられた(JAAD Case Rep. 13: 8–10, 2021)。そして、新潟県立がんセンター新潟病院皮膚科において、院内コンサルテーションを後ろ向きに分析することで、一般的な総合病院と比較して薬剤性皮膚障害、皮膚腫瘍の診察依頼が多く、皮膚転移・浸潤管理は全体に占める依頼割合は低いものの平均介入日数は長期に及び、皮膚科に求められるeffortが大きいことを報告した(J Dermatol. 48(7):1098-1100, 2021)。