新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野-旧内科学第三講座-

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学生・研修医の皆様へ

消化管グループ

炎症性腸疾患研究グループ

Helicobacter pyloriとC型肝炎ウイルスの発見は、消化器分野における20世紀末の二つの画期的な出来事といえます。 前者は慢性胃炎・消化性潰瘍・胃癌をもたらす細菌で、後者は慢性肝炎・肝硬変・肝癌などの原因ウイルスであることが解明され、これらの難病に対する根本的治療、すなわち抗生剤による除菌とインターフェロンによるウイルス排除が可能となりました。
かつての国民病であった結核が有効な抗生剤治療の開発により克服されたのと同じように、今後数十年の間に現在消化器病の大半を占めるこれらの疾患患者数は大幅に減少し、消化器病における疾病構造の変化が生じるものと予想されています。

一方、潰瘍性大腸炎・クローン病に代表される炎症性腸疾患はいまだ原因不明の慢性難治性の腸疾患です。
従来は欧米に多く、日本には少ないとされてきましたが、近年わが国においても増加の一途をたどっています。
しかもこの疾患は若年・青年に好発し、人生の最良の時期に入退院を余儀なくされるため、患者の生活の質は著しく損なわれます。さらに労働可能年齢層における社会活動の生産性をも著しく損ねることから、炎症性腸疾患は21世紀の新たな国民病と目されています。
したがって、炎症性腸疾患の病因を解明し根本治療を早急に確立することが、われわれ消化器病専門医・研究者に求められている最重要課題です。

これまでの炎症性腸疾患治療の基本戦略は炎症細胞の活性化阻止および炎症メディエーターの制御が中心となってきました。
一方、腸管上皮には恒常性維持と障害修復機構が備わっており、これらの機構を促進させることで炎症性腸疾患の新たな治療法開発を目指した研究が行われきました。
腸管上皮細胞は腸管上皮陰窩底部に存在する腸管上皮幹細胞が増殖し、上皮を構成するPaneth細胞、神経内分泌細胞、杯細胞、吸収上皮細胞に分化することで維持されています。上皮細胞増殖因子EGFや表皮細胞増殖因子KGFなどの増殖因子がこの腸管上皮幹細胞に働き分化が促進されることが示されました。
実際、左側型潰瘍性大腸炎に対しEGF注腸療法が有効であることが報告されました。わが国では肝細胞増殖因子HGFを用いた炎症性腸疾患に対する再生医療の試みがなされましたが、臨床応用に際して慢性炎症状態の腸管に増殖因子を加えることで発癌につながる懸念があることから、計画は滞っています。
また、骨髄由来腸管上皮細胞が実際に存在することが骨髄移植後GVHD患者で証明されたことより、骨髄由来幹細胞および末梢血幹細胞を用いた新しい治療法の開発研究が行われていますが、臨床応用には時間がかかりそうです。

炎症性腸疾患、特にクローン病を見た場合、QOLを損ない手術を余儀なくさせる病態として注目すべきものに消化管の線維化による狭窄症があります。創傷治癒の正常な反応として組織の線維化は生じますが、この線維化が不十分であれば瘻孔形成に繋がり、この線維化が過剰に生じた場合線維性狭窄となります。したがって、適切な組織線維化をもたらす薬剤の開発は今後の新規治療法開発のための重要な目標となります。
炎症性腸疾患をトータルに治癒させていくために、従来の炎症性腸疾患治療法の目標であった炎症制御に加え、障害腸管の組織修復・再生、および適切な腸管組織創傷治癒をもたらす線維化の制御の三つの戦略で、今後新薬開発の研究が進んでいくものと考えられます。われわれ炎症性腸疾患研究グループは、ステリック再生医科学研究所と共同で、以上の治療戦略に基づいた新薬開発の研究を行っており、できるだけ早く炎症性腸疾患に苦しんでいる患者様へ研究成果を還元できることを希望として努力しています。

炎症性腸疾患は原因不明であり現在根本的な治療法は存在しません。しかし、最近の粘膜免疫、分子生物学の進歩は目覚しく、特にわが国において世界をリードする研究成果が多数得られています。特にこの10年間で見られた基礎分野の研究の成果は遺伝子レベルでの病態解明に大きな進歩をもたらし、この基礎分野での成果をもとに臨床面では生物製剤による治療が病気の自然史まで変える可能性を示しています。これからの10年で炎症性腸疾患に対する研究がさらに進展し、同疾患の病因が解明され画期的な根本治療が確立されることを願っています。

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