聴覚よろずの会

超高齢化社会を迎える我が国において、今後、医療に対するニーズが複雑化していくことは疑う余地がありません。同時に、多様化していく社会活動や日常生活を支援するためのシステムやインフラも、より緊急性をもって充実させていくことが、各領域において求められています。これらの潮流に対応していくには、各学問分野の垣根を取り払って、自由に且つ気楽に議論を重ねていくことで、異分野融合を進め、新しい学術・産業領域を創成・発展させていく必要があります。『聴覚よろずの会』は、“聴こえ”に関する様々な題材を取り上げ、ここ新潟の地を中心に、多彩な分野の方々が、ざっくばらんに交流できるプラットフォームを提供することを目的とします。本会は、2010年に発足し、毎年一度の発表会と懇親会を開催しています。

わたしたちは、四六時中、何らかの音を聴いて生活しています。音の究極的な結晶である「ことば」のやりとりは聴覚を介して成立しますから、この感覚は不可欠です。ヒトを含めた動物では、聴覚は「音の波」という物理的な振動の伝達から始まります。そして、音は、耳を介して巧みに電気的な信号に変換されて脳へ伝えられます。 その途中には、スピーカーの膜が振るえたり、てこの原理が使われていたり、フーリエ変換器があったり、木琴が演奏されたり、動きを電気に変えるピエゾ素子が活躍したりします。電池やコンデンサーもあります。 高性能のナノマシーンは沢山あって、イオンを運んだり、タンパク質を生成・分解したりしています。また、不思議な液体も耳には詰まっていて、重要な機能を担っています。 これらの要素の働きにより、耳は音によって発生する1ナノメートル以下の振動を敏感に感知することができます。 上記のキーワードからもお分かりのように、耳および聴覚は、極めて特殊化した臓器・生命現象であると同時に、工学・化学の粋を集めた精密機械であり、それが作り出した芸術品なのです。

異分野融合には、お互いの領域を理解するための一種の「共通言語」が必要ですが、聴覚は、上記に示したとおり、この共通言語が多い学問領域です。 今では重症の難聴患者さまへの確立した治療法となった人工内耳には、工学技術が大きく貢献し、最も成功した人工臓器と位置づけられています。 これは、聴覚領域における医科学・生物学・工学との間に、強い共通性があることを物語っています。ということは、逆に医科学や生物学の概念を知覚工業・産業の諸分野に応用できる可能性が十分にあるということになります。 新しい医療聴覚デバイスのみならず、近未来の社会に利用可能な高性能の音や圧力のセンサーも、極めて効率的な動物の音認識機構を参考に創製できるかもしれません。 また、聴覚は、感情・意識・心理などの要素とも密接に関係している点も見逃せません。 このようにとても興味深い聴覚を題材に、医科学・生物学と工学・化学、そして人文学の間、大学と企業の間のみならず、企業と企業の間の交流が盛り上がり、共同で研究や開発が進めば、この上ない喜びです。

本会では特定の達成目標は設定しません。お互いに軽い気持ちで話しているうちに、何か新しいアイデアが浮かぶ、という場面を大事にしたいからです。 懇親会で雑談するだけ、名刺交換するだけでも結構ですので、楽しんで頂けたら幸いです。若い研究者・医師の方々、学生さん、そして企業の方は特にウエルカムです。「気楽に、気長に」がモットーの本会に、今後ともご参加・ご協力をよろしくお願いいたします。 ご興味・ご質問のある方は、分子生理学分野の「聴覚よろずの会事務局(nkawamuraアットマークmed.niigata-u.ac.jp、電話番号025-227-2073)」までお問い合わせください。 

アーカイブ

第10回 聴覚よろずの会 ~耳科の検査・診断機器 パートII~

第九回 聴覚よろずの会 ~耳科の検査・診断機器 パートI~

第八回 聴覚よろずの会 ~補聴器・人工中耳~

第七回 聴覚よろずの会 ~きこえとことばのリハビリテーション~

第六回 聴覚よろずの会 ~数理計算を駆使した内耳機能の理解~

第五回 聴覚よろずの会 ~人工内耳の現状と未来~

第四回 聴覚よろずの会 ~分析化学~

第三回 聴覚よろずの会 ~聴覚を測る!~

第二回 聴覚よろずの会 ~音とスピーカー~

第一回 聴覚よろずの会