インフルエンザ | Influenza virus

 インフルエンザはオルソミキソウイルスに属するマイナス一本鎖のRNAウイルスで、急性呼吸器感染を引き起こします。インフルエンザウイルスは核蛋白の血清型からA,B,C型に分けられます。A型インフルエンザは、表面抗原のヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)蛋白の種類により、さらに亜型に分けられています。インフルエンザは人獣共通感染症ですが、通常人間に感染するのはA/H1N1, A/H3N2とB型です。A型インフルエンザは周期的にパンデミック(世界大流行)を起こすことが知られており、20世紀以降、ヒトは4回の世界流行を経験しました。1918年のスペインかぜ(A/H1N1)、1957年のアジアかぜ(A/H2N2)、1968年の香港かぜ(A/H3N2)、そして2009年の北米の豚に由来するA/H1N1インフルエンザ(A/H1N1pdm09)がパンデミックを起こしたことはまだ記憶に新しいと思います。

インフルエンザ1

 インフルエンザは温帯では冬に流行りますが、熱帯ではいつ流行るのかわかっていない場合が多いです。最近、熱帯・亜熱帯で雨期にインフルエンザが流行りやすいことが分かってきました。当教室では、過去にベトナム、ミャンマーでインフルエンザの疫学調査を行い、雨期に流行ることを明らかにしました。

 インフルエンザは抗原変異を繰り返すために一生のうちで何回もインフルエンザに感染します。インフルエンザの大きな謎の1つは、どこで新しい株が生まれるかということです。最近の研究では新しい株はアジアで発生して世界中に広がることが多いと考えられています。当教室では、日本のインフルエンザと世界各地のインフルエンザの遺伝子を比較し、どのような経路でインフルエンザが伝播しているのか解明に取り組んでいます。

インフルエンザ2

 近年、インフルエンザ感染症に対して抗ウイルス薬で治療が可能となりました。日本で保険適応されているのはM2阻害剤のアマンタジンと、ノイラミニダーゼ阻害剤のオセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、ラニナミビルです。M2阻害剤はA型インフルエンザにのみ有効ですが、ノイラミニダーゼ阻害剤はA型、B型インフルエンザ双方に有効です。症状がでてから48時間以内に治療を開始すれば、有熱期間が1-2日短縮されます。抗インフルエンザ薬は治療後に耐性が出現することが知られています。M2阻害剤では治療後の約1/3に、ノイラミニダーゼ阻害剤のオセルタミビルではA/H1N1の約1割に耐性が出現します。一般的に耐性株は伝播力が弱いとされており、これまで耐性株が流行することはないと考えられてきました。しかし、2005年にアジアを中心にアマンタジン耐性A型が大流行し、2007年にはヨーロッパに端を発したオセルタミビル耐性A/H1N1株が世界中で流行しました。幸い、2009年にパンデミックを起こしたA/H1N1pdm09は散発的な耐性株の報告があるものの、大規模な流行はまだありません。

 当教室では、インフルエンザの分子疫学と薬剤耐性に焦点をあてて研究を行っています。これまで日本のみならずミャンマー、ベトナム、レバノン、極東ロシアなどでインフルエンザの調査を行ってきました。ミャンマーでは世界的に珍しいザナミビルとアマンタジンの二重耐性A/H3N2を検出し英文誌に報告しました。(Dapat et al., EID 2010)

 新潟大学ではインフルエンザの検出だけでなく海外のインフルエンザ研究室の技術支援も積極的に行っています。これまでベトナム、ミャンマーでは国立研究所のインフルエンザ・ラボの支援と整備を行い、これらの研究室がWHOのナショナル・インフルエンザ・センターに認定されるために大きく貢献をしました。

インフルエンザ3