医学物理学

研究テーマ

  • 前立腺癌強度変調放射線治療における体内金マーカーを基準とした画像誘導放射線治療の有用性
    前立腺癌強度変調放射線治療における患者照合において、骨合わせに比してCBCTを用いた組織内合わせがマージン縮小の観点から有用であることが証明された。我々は更なる照射精度向上を目的として、組織内合わせと体内金マーカー照合の比較検討を進めている。
  • 頭頸部放射線治療における歯科用合金からの後方散乱線による線量増加の評価に関する研究
    頭頸部領域の放射線治療で照射野内に歯科用合金が存在する場合に、近接する口腔粘膜に重篤な粘膜炎が発生することがある。これは合金からの後方散乱線による粘膜線量の増加が原因と考えられている。我々は一般的な歯科用合金を使用し、平行平板型電離箱線量計およびガフクロミックフィルムを用いた測定実験、およびモンテカルロ計算(PHITS)によって後方散乱線による線量増加を評価し研究を進めている。
  • 複数の脳定位放射線治療用患者固定具を用いた固定精度評価
    脳定位放射線治療(SRT)では1 mm以内の固定精度が要求される。一方で、固定精度が高いほど固定具装着時の患者の快適性が低いことが懸念される。複数の脳SRT用患者固定具に対して、固定精度(安定性)および快適性の観点から最適な固定具を定量的に評価した(ICRR 2015)。
  • 拡張不確かさ解析を用いたセットアップマージン評価モデルの開発
    近年普及している少分割照射に対して、現行のセットアップマージン(SM)評価モデルは本来適応できない。拡張不確かさの概念を導入することにより、照射回数を考慮したSM評価が可能であることを理論的に導き、現在、新たなSM評価モデルの開発を進めている。
  • IMRT線量検証法の改良に関する研究
    IMRT線量検証で使用される「ガンマ解析」の手法は広く用いられているが、検証結果を「パス率」という単一の数値に集約するために有用な情報を取りこぼしている可能性がある。我々は線量検証におけるいわゆる「故障モード(failure mode)」を解析する事ができるような、「ガンマ解析」の代替となる手法の開発を進めている。

研究の成果

[研究テーマ] 頭頸部放射線治療における歯科用合金の後方散乱線評価
頭頸部領域の放射線治療で照射野内に歯科用合金が存在する場合に、近接する口腔粘膜に重篤な粘膜炎が発生することがある。これは合金からの後方散乱線による粘膜線量の増加が原因と考えられている。しかし、市販の放射線治療計画装置では後方散乱線による線量増加を評価することは難しい。我々は一般的な歯科用合金(金銀パラジウム合金)を使用し、平行平板型電離箱線量計(NACP-02, IBA Dosimetry)およびガフクロミックフィルム(GAFCHROMIC EBT3、Ashland ISP Advanced Materials)を用いた測定実験、およびモンテカルロ計算(PHITS)によって後方散乱線による線量増加を評価した。その結果、合金表面での線量増加率は33-44%であり、金属表面から3-5 mmの距離で後方散乱線の影響はほぼなくなることが分かった。この結果を基に、合金からの後方散乱線による粘膜線量増加を防ぐための最適なデンタルデバイスの設計を提示することができた。なお、本研究は新潟大学大学院顎顔面放射線学分野、新潟大学大学院保健学研究科との共同研究である。

図1図1:後方散乱線による線量増加を測定するための実験のセットアップ。タフウォーターファントム(京都科学)の中に1立方センチメートルの合金を埋め込み、その上に平行平板型電離箱線量計またはガフクロミックフィルムを置き測定を行った。

図2図2:モンテカルロ計算(PHITS)の計算結果の一例。放射線治療装置のターゲットやコリメータをモンテカルロ計算コードの中で再現し線量計算を行った。

図3図3:合金からの距離(横軸)によって後方散乱線による線量増加率(縦軸)がどのように変化するかを示した図。赤色の線は平行平板型電離箱線量計による測定結果、青色の線はガフクロミックフィルムによる測定結果、緑色の線はモンテカルロ計算の結果をそれぞれ示している。