頭頸部領域の放射線治療で照射野内に歯科用合金が存在する場合に、近接する口腔粘膜に重篤な粘膜炎が発生することがある。これは合金からの後方散乱線による粘膜線量の増加が原因と考えられている。しかし、市販の放射線治療計画装置では後方散乱線による線量増加を評価することは難しい。我々は一般的な歯科用合金(金銀パラジウム合金)を使用し、平行平板型電離箱線量計(NACP-02, IBA Dosimetry)およびガフクロミックフィルム(GAFCHROMIC EBT3、Ashland ISP Advanced Materials)を用いた測定実験、およびモンテカルロ計算(PHITS)によって後方散乱線による線量増加を評価した。その結果、合金表面での線量増加率は33-44%であり、金属表面から3-5 mmの距離で後方散乱線の影響はほぼなくなることが分かった。この結果を基に、合金からの後方散乱線による粘膜線量増加を防ぐための最適なデンタルデバイスの設計を提示することができた。なお、本研究は新潟大学大学院顎顔面放射線学分野、新潟大学大学院保健学研究科との共同研究である。
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図1:後方散乱線による線量増加を測定するための実験のセットアップ。タフウォーターファントム(京都科学)の中に1立方センチメートルの合金を埋め込み、その上に平行平板型電離箱線量計またはガフクロミックフィルムを置き測定を行った。
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図2:モンテカルロ計算(PHITS)の計算結果の一例。放射線治療装置のターゲットやコリメータをモンテカルロ計算コードの中で再現し線量計算を行った。
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図3:合金からの距離(横軸)によって後方散乱線による線量増加率(縦軸)がどのように変化するかを示した図。赤色の線は平行平板型電離箱線量計による測定結果、青色の線はガフクロミックフィルムによる測定結果、緑色の線はモンテカルロ計算の結果をそれぞれ示している。
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