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古典型

発見するためのポイント

ファブリー病の表現型の分類 古典型

早期発症古典型症状
Early-onset classic manifestations

幼年期から前期思春期に発症します。
成人してからの発症の場合は別の原因が考えられます。

ファブリー病に特徴的な症状

必ずしも全員にすべての症状が現れるとは限りません。
しかしこれらの特徴は診断の手がかりになります。
以下の3つの症状の有無をしっかり調べることで発見率が上がります
またこれらの症状を有しかつ他の原因がない場合にはファブリー病以外の診断はないものと考えてよいと思います。

肢端感覚異常

Acroparesthesia

概要

幼年期から前期思春期に発症する四肢の神経障害性疼痛です。
灼熱感・針で刺すような痛みと言われています。
特に夏場や入浴時など急激な温度の変化に誘発されます。
多くは年齢が上がるにつれて疼痛の頻度が低下します。


原因

毛細血管閉塞、小神経線維損傷、自律神経障害に起因すると考えられています。特に疼痛は感覚神経小径線維障害、発汗障害は自律神経小径線維障害に関連します。
また初期の段階では、温熱刺激の障害は主に温熱知覚(C線維)よりも寒冷知覚(Aδ線維)に関与しており、このことは小径の有髄Aδ線維がGb3による障害に対してより脆弱であることを示唆しています1)


鑑別

従来の神経伝導速度検査(末梢神経を電気刺激して誘発される筋反応あるいは神経活動電位から末梢神経の機能を調べる)では大径有髄線維のみを評価しているため、腎不全を伴わない限りファブリー病では通常正常です1)小径線維障害の検出と鑑別診断が必要です
また脳血管障害後に発症した神経症状が、早期発症古典型症状と誤解される場合があります。発症時期を確認することが大切です

群発性被角血管腫

Clustered angiokeratoma

概要

下腹部や腰部、陰嚢部、手足に現れる赤い斑点状の小丘疹です。直径1–5mmの赤~暗青色の非鈍色(ガラス板で圧迫しても退色しない)の病変として現れます2)


原因

表皮直下の血管へのGb3蓄積による血管拡張・増殖とそれを被う表皮の過角化であると考えられます。患者組織の光顕像では真皮毛細血管の拡張が認められ、電顕像では真皮血管内皮細胞のリソソーム内に特徴的な封入体(lamella body)が確認されています2)


鑑別

被角血管腫は健常者には単発性病変が、他の代謝性疾患にはびまん性病変が存在することがあるため、被角血管腫の検出は必ずしもファブリー病の診断を意味するものではありません3)。また代謝性疾患との関連性のないびまん性の被角血管腫も報告されています3)ファブリー病で出現する被角血管腫は群発性であり孤発性被角血管腫は除外されます

渦巻き状角膜混濁

Cornea verticillata

概要

灰白色の渦巻き状角膜混濁として観察されます。
細隙灯顕微鏡検査によってのみ観察可能なため眼科医でなければ発見できません
多くの場合両側性です。
視力障害を引き起こすことはほとんどないと言われています。


原因

角膜上皮細胞の基底膜に糖脂質が沈着することで生じます4)


鑑別

渦巻き状角膜混濁を誘発することが証明されている薬剤があります(アミオダロン、クロロキンなど)3,5)。これらの薬剤は両親媒性薬物であり、細胞膜を通過して血液や組織液中を移動することができます。薬剤がリン脂質と結合し、リソソーム中のリン脂質分解酵素では分解できない複合体を形成し、細胞内にリン脂質を過剰に蓄積します。
薬剤服用歴を確認する必要があります

ファブリー病に特徴的でない症状

必ずしも全員に症状が現れるとは限りません。
ファブリー病に特徴的な上記の3つの症状ほどではありませんが診断の手がかりになります。

低汗・無汗症

Hypohidrosis
Anhidrosis

概要

高温あるいは多湿の環境下にいても発汗が少ないあるいは見られない状態です。


原因

小神経線維損傷、自律神経障害に起因すると考えられています1)


鑑別

透析導入すると汗腺が萎縮して汗が出にくくなるため、腎症状を示す遅発型患者を古典型と誤診することがあります。
遅発型では発症しないため、発症年齢を確認することが大事です。

後期発症古典型症状
Late-onset classic manifestations

ファブリー病に非特徴的ですが予後に関わる症状です。
これらを診てすぐにファブリー病が思い浮かぶことはまれでしょう。早期発症古典型症状からファブリー病が疑われたときに心疾患、腎疾患、脳血管疾患を検索することになります。

男女とも心疾患が最も多く表れます。
心疾患で亡くなった患者の過半数は腎代替医療を受けていました6)
ファブリー心筋症とファブリー腎症は予後に関わります。

心疾患

Cardiac disorder

概要

左室肥大、不整脈、心筋梗塞、心筋虚血、動悸、高血圧など。
男女ともに死因の第一位は心疾患です。
原因不明左室肥大患者のスクリーニングでは、
男性で0.4%、女性で0.9%の頻度でファブリー病患者が認められました7)


原因

心筋細胞に糖脂質が蓄積し心肥大を引き起こします。また血管内皮細胞、刺激伝導系の細胞に糖脂質が蓄積し洞機能不全症候群や房室ブロックを生じることもある8)と言われています。
しかし心臓の肥大化や線維化がどのようなメカニズムで起こるのか、正確なことはわかっていません。心筋におけるリソソームでのGb3の蓄積は、肥大した心臓の質量のわずか3%を占めるに過ぎず、左室肥大が基質の浸潤の直接的な結果ではないことを示しています8)


鑑別

初期の異常所見として左室肥大が表れます。

原因検索を目的に行われた心筋内膜生検から偶然ファブリー病が発見されることがあります。光顕像では心筋細胞に空胞変性が認められます。
電顕像では特徴的な封入体(lamella body)が認められます。
※同心円状、多層ミエリン体、ゼブラ様のパターンがあります。拡大すると厚さ2–3nmの濃い線と、厚さ約5nmの透明な層で構成されていることがわかります9,10)

男性の古典型患者は左室肥大と心筋機能の低下、それに続く心筋線維化の進行が特徴です。しかし女性患者では左室肥大が認められなくとも線維化が進行している場合があります11)

腎疾患

Renal disorder

概要

多尿、タンパク尿、進行性の慢性腎不全、透析など。
原因不明の慢性腎臓病で透析を受けている男性の中にファブリー病が潜在していることがあります。
原因不明の腎疾患患者のスクリーニングでは、男性で0.2%、女性で0.3%の頻度でファブリー病患者が認められました7)


原因

遠位尿細管細胞や糸球体上皮細胞(ポドサイト)、血管内皮細胞に糖脂質が蓄積します。もっとも糖脂質が蓄積するのは髄質の遠位直尿細管であるヘンレの太い上行脚(TAL)であり12)、髄質TAL障害が水分喪失・塩類喪失、腎機能障害を引き起こします13)。糸球体障害が糸球体硬化症、腎機能障害を引き起こしますが正確なメカニズムは不明です。


鑑別

初期の異常所見としてタンパク尿が表れます。

原因検索を目的に行われた腎生検から偶然ファブリー病が発見されることがあります。
光顕像では糸球体上皮細胞にレース状(網状)の空胞変性や、尿細管上皮細胞の空胞変性(染色が淡明化する)、尿細管上皮細胞の脱落が認められます。
電顕像では特徴的な封入体(lamella body)が認められます。
※同心円状、多層ミエリン体、ゼブラ様のパターンがあります。拡大すると厚さ2–3nmの濃い線と、厚さ約5nmの透明な層で構成されていることがわかります9,10)

男性古典型ファブリー病患者では、蛋白尿が認められなくても若年期にすでにGb3蓄積が進行しています。腎疾患の臨床徴候がなくても腎生検を行うことが推奨されます。

尿沈渣中のマルベリー細胞(mulberry cell)マルベリー小体(mulberry body)は古典型と遅発型の両方で認められる有用なマーカーです14)。これらはおもにGb3が蓄積した遠位尿細管上皮細胞とみなされ蛋白尿が出る前から検出されます。腎臓内科だけでなく循環器内科や神経内科でも検査を出す意義があります

脳血管疾患

Cerebrovascular disorder

概要

若年性の脳卒中、一過性脳虚血発作、脳底動脈虚血、白質病変など。
若年発症の脳梗塞患者の中にファブリー病が潜在していることがあります。梗塞範囲が狭く自覚症状を伴わないこともあります。


原因

血管内皮細胞や平滑筋細胞に糖脂質が蓄積し、血管内腔が狭窄することで進行性の閉塞を引き起こすと考えられています15)

また肥大型心筋症や若年性心筋梗塞などの合併による心原性脳閉塞症も脳梗塞の原因となります。腎障害による二次性高血圧や糖尿病の合併による動脈硬化も血管障害の増悪因子となります15)


鑑別

MRI、MRA像ではさまざまな程度の梗塞巣、白質病変、脳底動脈の拡張などを認めますが、ファブリー病に特徴的といえる画像所見ではありません。
しかしその中でファブリー病患者の脳底動脈径が脳卒中患者、健常対照者と比較して有意な拡張を示したという報告があります16)

原因不明の若年性脳血管障害患者を対象としたスクリーニングの報告で変異GLAの保有者が高頻度で発見されましたが、変異に関する情報は提供されていませんでした17)。最近、遺伝子型と表現型の関係が明らかになったことで、発見された変異の多くがクラス1(病原性)変異ではなくクラス2(非病原性)変異であったことがわかりました7)。約1万人の解析のうちクラス1(病原性)変異が認められたのは1人でした。若年性の脳血管障害患者はファブリー病のhigh-risk populationではない可能性があります。

問診

診療科ごとに対応する症状が異なります。対応した症状以外にも該当する症状があるかを問診で確かめる必要があります。特に早期発症古典型症状を見逃さないことです。
また家族歴を調べることが重要です。近親者に同様の症状があれば診断を補強するかもしれません。
ただしde novo変異もあるため、男女ともに家族歴が陰性であっても診断を除外するものではありません。

患者さんから何を聞くか

  • ● ファブリー病を示唆する症状や徴候の有無
  • ● それらの症状が出現した年代や年齢
  • ● 近親者の突然死や早期死亡の有無
  • ● 亡くなっている家族の死因や病歴
問診イメージ

患者さんは診断を受ける過程で心理的ストレスを受けます。ファブリー病の懸念と向き合い自分の答えを出して折り合いをつけるプロセスに寄り添うことが大切だと思います。

参考文献

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