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遅発型

発見するためのポイント

ファブリー病の表現型の分類 遅発型

早期発症古典型症状を発症せず古典型のlate-onset classicとも言うべき非特徴的なファブリー病の症状(腎疾患、心疾患、脳血管疾患)だけ成人期に発症します。そのため診断が困難です。
しかし腎疾患、心疾患が予後に関わるため、早期発見・早期治療が必要です。

男女とも心疾患が最も多く表れます。
心疾患で亡くなった患者の過半数は腎代替医療を受けていました 1)
ファブリー心筋症とファブリー腎症は予後に関わります。

遺伝形式から女性患者(X染色体2本)は男性患者(X染色体1本)よりも多いと考えられ、また遅発型患者は 古典型患者よりも多いことが報告されています2)。これらのことからファブリー病では遅発型の女性患者が最も多く存在すると考えられます。
これまで女性は男性よりも症状が軽いと考えられてきましたが、実際はかなりの割合の女性が男性と同様に重症化しておりそれに応じた診断・治療が必要です。

心疾患

Cardiac disorder

概要

左室肥大、不整脈、心筋梗塞、心筋虚血、動悸、高血圧など。
男女ともに死因の第一位は心疾患です。
原因不明左室肥大患者のスクリーニングでは、男性で0.4%、女性で0.9%の頻度でファブリー病患者が認められました3)


原因

心筋細胞に糖脂質が蓄積し心肥大を引き起こします。また血管内皮細胞、刺激伝導系の細胞に糖脂質が蓄積し洞機能不全症候群や房室ブロックを生じることもある4)と言われています。
しかし心臓の肥大化や線維化がどのようなメカニズムで起こるのか、正確なことはわかっていません。心筋におけるリソソームでのGb3の蓄積は、肥大した心臓の質量のわずか3%を占めるに過ぎず、左室肥大が基質の浸潤の直接的な結果ではないことを示しています4)


鑑別

初期の異常所見として左室肥大が表れます。

原因検索を目的に行われた心筋内膜生検から偶然ファブリー病が発見されることがあります。
光顕像では心筋細胞に空胞変性が認められます。
電顕像では特徴的な封入体(lamella body)が認められます。
※同心円状、多層ミエリン体、ゼブラ様のパターンがあります。拡大すると厚さ2–3nmの濃い線と、厚さ約5nmの透明な層で構成されていることがわかります5,6)

男性の古典型患者は左室肥大と心筋機能の低下、それに続く心筋線維化の進行が特徴です。しかし女性患者では左室肥大が認められなくとも線維化が進行している場合があります7)

腎疾患

Renal disorder

概要

多尿、タンパク尿、進行性の慢性腎不全、透析など。
原因不明の慢性腎臓病で透析を受けている男性の中にファブリー病が潜在していることがあります。
原因不明の腎疾患患者のスクリーニングでは、男性で0.2%、女性で0.3%の頻度でファブリー病患者が認められました3)


原因

遠位尿細管細胞や糸球体上皮細胞(ポドサイト)、血管内皮細胞に糖脂質が蓄積します。もっとも糖脂質が蓄積するのは髄質の遠位直尿細管であるヘンレの太い上行脚(TAL)であり8)、髄質TAL障害が水分喪失・塩類喪失、腎機能障害を引き起こします9)。糸球体障害が糸球体硬化症、腎機能障害を引き起こしますが正確なメカニズムは不明です。


鑑別

初期の異常所見としてタンパク尿が表れます。

原因検索を目的に行われた腎生検から偶然ファブリー病が発見されることがあります。
光顕像では糸球体上皮細胞にレース状(網状)の空胞変性や、尿細管上皮細胞の空胞変性(染色が淡明化する)、尿細管上皮細胞の脱落が認められます。
電顕像では特徴的な封入体(lamella body)が認められます。
※同心円状、多層ミエリン体、ゼブラ様のパターンがあります。拡大すると厚さ2–3nmの濃い線と、厚さ約5nmの透明な層で構成されていることがわかります5,6)

男性古典型ファブリー病患者では、蛋白尿が認められなくても若年期にすでにGb3蓄積が進行しています。腎疾患の臨床徴候がなくても腎生検を行うことが推奨されます。

尿沈渣中のマルベリー細胞(mulberry cell)マルベリー小体(mulberry body)は古典型と遅発型の両方で認められる有用なマーカーです10)。これらはおもにGb3が蓄積した遠位尿細管上皮細胞とみなされ蛋白尿が出る前から検出されます。腎臓内科だけでなく循環器内科や神経内科でも検査を出す意義があります

脳血管疾患

Cerebrovascular disorder

概要

若年性の脳卒中、一過性脳虚血発作、脳底動脈虚血、白質病変など。
若年発症の脳梗塞患者の中にファブリー病が潜在していることがあります。梗塞範囲が狭く自覚症状を伴わないこともあります。


原因

血管内皮細胞や平滑筋細胞に糖脂質が蓄積し、血管内腔が狭窄することで進行性の閉塞を引き起こすと考えられています11)

また肥大型心筋症や若年性心筋梗塞などの合併による心原性脳閉塞症も脳梗塞の原因となります。腎障害による二次性高血圧や糖尿病の合併による動脈硬化も血管障害の増悪因子となります11)


鑑別

MRI、MRA像ではさまざまな程度の梗塞巣、白質病変、脳底動脈の拡張などを認めますが、ファブリー病に特徴的といえる画像所見ではありません。
しかしその中でファブリー病患者の脳底動脈径が脳卒中患者、健常対照者と比較して有意な拡張を示したという報告があります12)

原因不明の若年性脳血管障害患者を対象としたスクリーニングの報告で変異GLAの保有者が高頻度で発見されましたが、変異に関する情報は提供されていませんでした13)。最近、遺伝子型と表現型の関係が明らかになったことで、発見された変異の多くがクラス1(病原性)変異ではなくクラス2(非病原性)変異であったことがわかりました3)。約1万人の解析のうちクラス1(病原性)変異が認められたのは1人でした。若年性の脳血管障害患者はファブリー病のhigh-risk populationではない可能性があります。

問診

診療科ごとに対応する症状が異なります。対応した症状以外にも該当する症状があるかを問診で確かめる必要があります。
また家族歴を調べることが重要です。近親者に同様の症状があれば診断を補強するかもしれません。
ただしde novo変異もあるため、男女ともに家族歴が陰性であっても診断を除外するものではありません。

患者さんから何を聞くか

  • ● ファブリー病を示唆する症状や徴候の有無
  • ● それらの症状が出現した年代や年齢
  • ● 近親者の突然死や早期死亡の有無
  • ● 亡くなっている家族の死因や病歴
問診イメージ

患者さんは診断を受ける過程で心理的ストレスを受けます。ファブリー病の懸念と向き合い自分の答えを出して折り合いをつけるプロセスに寄り添うことが大切だと思います。

参考文献

  1. Waldek S, Patel MR, Banikazemi M, Lemay R, Lee P. Life expectancy and cause of death in males and females with Fabry disease: findings from the Fabry registry. Genet Med. 2009, 11(11):790–796, DOI: 10.1097/GIM.0b013e3181bb05bb.

  2. Chien YH, Lee NC, Chiang SC, Desnick RJ, Hwu WL. Fabry disease: incidence of the common later-onset α-galactosidase A IVS4+919G→A mutation in Taiwanese newborns—superiority of DNA-based to enzyme-based newborn screening for common mutations. Mol Med. 2012, 18(1):780–784, DOI: 10.2119/molmed.2012.00002.

  3. Maruyama H, Taguchi A, Mikame M, Izawa A, Morito N, Izaki K, Seto T, Onishi A, Sugiyama H, Sakai N, Yamabe K, Yokoyama Y, Yamashita S, Satoh H, Toyoda S, Hosojima M, Ito Y, Tazawa R, Ishii S. Plasma globotriaosylsphingosine and α-galactosidase A activity as a combined screening biomarker for Fabry disease in a large Japanese cohort. Curr Issues Mol Biol. 2021, 43(1):389–404, DOI: 10.3390/cimb43010032.

  4. Fernández A, Politei J. Cardiac manifestation of Fabry disease: from hypertrophic cardiomyopathy to early diagnosis and treatment in patients without left ventricular hypertrophy. J inborn errors metab screen. 2016, 4:1–9, DOI: 10.1177/2326409816661352.

  5. Takahashi K, Naito M, Suzuki Y. Lipid storage disease: Part III. Ultrastructural evaluation of cultured fibroblasts in sphingolipidoses. Acta Pathol Jpn. 1987, 37(2):261–272.

  6. Smid BE, van der Tol L, Cecchi F, Elliott PM, Hughes DA, Linthorst GE, Timmermans J, Weidemann F, West ML, Biegstraaten M, Lekanne Deprez RH, Florquin S, Postema PG, Tomberli B, van der Wal AC, van den Bergh Weerman MA, Hollak CE. Uncertain diagnosis of Fabry disease: consensus recommendation on diagnosis in adults with left ventricular hypertrophy and genetic variants of unknown significance. Int J Cardiol. 2014, 177(2):400–408, DOI: 10.1016/j.ijcard.2014.09.001.

  7. Niemann M, Herrmann S, Hu K, Breunig F, Strotmann J, Beer M, Machann W, Voelker W, Ertl G, Wanner C, Weidemann F. Differences in Fabry cardiomyopathy between female and male patients: consequences for diagnostic assessment. JACC Cardiovasc Imaging. 2011, 4(6):592–601, DOI: 10.1016/j.jcmg.2011.01.020.

  8. Vylet’al P, Hůlková H, Zivná M, Berná L, Novák P, Elleder M, Kmoch S. Abnormal expression and processing of uromodulin in Fabry disease reflects tubular cell storage alteration and is reversible by enzyme replacement therapy. J Inherit Metab Dis. 2008, 31(4):508–517, DOI: 10.1007/s10545-008-0900-3.

  9. Maruyama H, Taguchi A, Nishikawa Y, Guili C, Mikame M, Nameta M, Yamaguchi Y, Ueno M, Imai N, Ito Y, Nakagawa T, Narita I, Ishii S. Medullary thick ascending limb impairment in the GlatmTg(CAG-A4GALT) Fabry model mice. FASEB J. 2018, 32(8):4544–4559, DOI: 10.1096/fj.201701374R.

  10. Yano T, Takahashi R, Yamashita T, Nagano N, Ishikawa A, Sakurai A, Maruyama H, Miura T. Detection of urinary mulberry bodies leads to diagnosis of Fabry cardiomyopathy: a simple clue in the urine sediment. Circ Heart Fail. 2017, 10(12):e004538, DOI: 10.1161/CIRCHEARTFAILURE.117.004538.

  11. ファブリー病診断治療ハンドブック 改訂第3版. 2018.

  12. Fellgiebel A, Keller I, Martus P, Ropele S, Yakushev I, Böttcher T, Fazekas F, Rolfs A. Basilar artery diameter is a potential screening tool for Fabry disease in young stroke patients. Cerebrovasc Dis. 2011, 31(3):294–299, DOI: 10.1159/000322558.

  13. Rolfs A, Böttcher T, Zschiesche M, Morris P, Winchester B, Bauer P, Walter U, Mix E, Löhr M, Harzer K, Strauss U, Pahnke J, Grossmann A, Benecke R. Prevalence of Fabry disease in patients with cryptogenic stroke: a prospective study. Lancet. 2005, 366(9499):1794–1796, DOI: 10.1016/S0140-6736(05)67635-0.
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