留学のすすめ STUDY ABROAD

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勝見 亮太
アメリカからの手紙

2018年10月から2年間、アメリカのアーカンソー州リトルロックにあるアーカンソー州立医科大学University of Arkansas for Medical Science(UAMS)に留学しました、勝見亮太と申します。この原稿は留学中の2019年に現地で書いたものです。みなさんも私と一緒に2019年のアメリカへワープして、ぜひ現地生活の様子を感じてください。

拝啓 新潟大学整形外科の皆様へ

日本は残暑厳しい中、ラグビーワールドカップを直前に控え熱気と興奮が高まっているころでしょうか?こちらもまだまだ暑い日が続いておりますが、夜間や朝方は少しずつ過ごしやすくなってきており、秋の到来を感じています。

2018年10月9日、アメリカに旅立つことができました。手続きに時間がかかってしまい、一時留学いくいく詐欺と言われたこともありましたが、なんとかアメリカに来ることができました。そして時が経つのは早いもので、こちらにきて既に1年が経過しようとしております。こちらでのこれまでの経過(アーカンソー州リトルロック、ラボ、研究、生活、私のお世話になっている人たち)を報告しようと思い、この文章を書いています。

私はアーカンソーについて全くの無知でした。おそらく皆さんの中でも知っている人はほとんどいないのではないでしょうか。アーカンソー州はアメリカ南部の州で、アメリカの真ん中より少し右下、北はミズーリ州、南にルイジアナ州、東はテネシー州、西はオクラホマ州とテキサス州に接しています。南部ですがいわゆるDeep Southと呼ばれる州からは外れています。愛称が“The natural state”とあるように森林地帯が多く、温暖湿潤気候という気候帯です。夏はジメジメかつ35℃を超える猛暑日も多く、冬には雪は降らないものの零下になる日も多々あり、夏はとても暑く冬はそこそこ寒いといったあまり好ましくない気候になっています。アメリカでは異常気候が多いとしても知られていて、実際に春頃には激しい雷雨が連日続いたことによって川が氾濫したり、竜巻なんかもちょいちょい起こっています。

Little Rockはアーカンソー州の州都ですが、それほど大きな街ではありません。実際、アメフト、野球、バスケットボールなどのメジャースポーツのチームは一切ありません。街の有名人はなんといってもビル、ヒラリー クリントン夫妻です。最寄の空港はBill and Hillary National Airport 、そのほかにもビル、ヒラリー両氏の名前を冠した建物がいくつもあります。また不名誉なことですが“全米治安の悪い都市ベスト20”の中で堂々の15位にランクインしております。実際UAMSから割りと近いLittle Rockの南側ではほぼ毎日のように何らかの事件が起こっています。ですが個人の喧嘩といった感じで、Mass shootingとかではなく、その地域に近寄らなければあまり問題ありません。私はLittle Rockの西側の治安のよい地域のアパートに住んでおり、家賃は日本より安いにもかかわらず、24時間使えるジムやらプールやらがあり非常に快適です。近所にはアーカンソー川が流れており(一時氾濫)、周辺には景色の綺麗なランニングコースがあります。あまり外食はしていませんが、近所に自分史上最高に美味しいハンバーガーとポテトを提供するチェーン店(David’s Burgerといいます)があるので、食べ過ぎることがないように気をつけています。

私が現在所属しているラボは、UAMSの整形外科に属するバイオメカの研究室になります。UAMSは1879年創立のアーカンソー州立の医科大学で、州で最も多い10000人以上の雇用を抱えています。UAMSの整形外科の教授であるCharles Lowry Barnes先生はadult reconstructionを専門とされていて、人工股・膝関節の手術を現在も数多く執刀しています。私の直属のボスはバイオメカのラボのErin Mannen先生という女性です。諸先生方については後ほど詳しく紹介したいと思います。こちらのラボにはMicro CT、3次元的な動態解析が可能な脊椎・関節力学試験用のロボット、モーションキャプチャー用の装置、また別棟には歩行解析用のラボもあり、バイオメカの研究室はMannen先生を中心に元気よく活動しています。

こちらに来てBarnes先生に命じられた私の研究課題は「EOSを使用した研究をせよ」とのことでした。EOSとは、低線量で下肢の立位アライメントを撮影・解析することが可能な装置です。2014年に施設に導入して以来、人工関節手術前後の下肢のEOS撮影をしていたものの、だれも解析をしてこなかったとのことでした。私は渡米後から現在まで「人工膝関節置換術の術前後の下肢矢状面アライメントの変化が脊椎・骨盤矢状面アライメントに及ぼす影響」という研究テーマで、EOSを用いた研究のreview、EOSの操作の習得、IRBへの研究計画文書の作成、IRB numberの取得、患者さんのデータの解析を行い、まずまず順調なペースで研究は進んでいます。

整形外科の先生達とは週に1回、木曜日の早朝のミーティングで会っています。6時から!です。Barnes先生をボスとしたJoint Guysと呼ばれる下肢関節班のミーティングになります。若手ドクターによるPowerPointを用いた症例のプレゼン中に、senior doctorが若手に質問しまくります。毎回のプレゼンで疾患に関する論文のreviewを若手doctorがしてくれることもありがたく、勉強になります。また時折、手術見学もしています。いつ見に来てもいいと気さくに言ってもらい、人工膝のrevision症例を中心に何例も見に行きました。

生活は整形外科入局後の日本での生活と比較すると、ゆったりとしていて私自身は心身ともに(特に身体が)健康になっている気がします。早寝、早起き、お酒は1日ビール1缶、身体をよく動かしています。やはり英語に習熟したいので、毎週木曜日の夕方にInternational Friendship outreach(IFO)という留学生の支援団体が主催する英会話教室に家族で行っています。ここでたくさんのアメリカをはじめ色々な国の家族と知り合いになることができました。未だに英語を聞くのも話すのも分厚い壁にぶつかっており、若いうちから努力しておけばよかったとよく後悔しますが、新たなチャレンジの楽しさもあります。Around 40の中年ですが帰国後も英語に関してのチャレンジを続けたいと思っています。

この1年間で特に印象に残っていることがいくつかあります。

  1. 車を購入する(シボレーの小さなセダン。)
  2. 車の免許をとる(試験は英語、スペイン語のみ。結構勉強しました。)
  3. 車、追突される(小児外科のドクターに。大変よい方でした。)
  4. 車、フロントガラスを割られる(近所の子供に。容疑を否認され証拠不十分でおとがめなしに。)
  5. 私、縫合してもらう(チャーシュー作成中に受傷。)
  6. 妻、サソリに刺される(アパート自室内にて。)
  7. ORS 2019に望月先生率いる若手整形外科軍団現る!(望月先生、金井先生、富山先生、湊先生、染矢先生、前田先生、大変楽しい時間をありがとうございました!請謁ながらMVPは金井先生に送りたいと思います。)
  8. AAOS 2019, ISB/ASB2019に佐藤卓先生現る!(楽しくかつ色々なお話を聞かせていただき、大変貴重な時間となりました。全てご馳走になってしまいました。ありがとうございました!)

このように列挙すると車に関するトラブルが多いのが分かります。一番驚いたのは⑥、一番どきどきしたのは⑤でしょうか(医師なりたての研修の先生だったため)。⑦、⑧は大変うれしく楽しい時間となりました。

最後に私の周りの人たちについて少し紹介します。

まずはErin Mannen先生です。私よりおそらく若く、とても明るい白人の女性です。非常に精力的でお忙しいかたで、自分の机にいることがほとんどありません。話していると” OK! Cool!” を連発します。バイオメカのラボに属する人たちは週に1~2度は彼女のところに来て進捗を報告、その後の相談、計画をし、ニコニコして去っていきます。私は水曜日の午後にミーティングで進捗を報告しています。老若男女問わずみんなの人気者です。

次にCharles Lowry Barnes先生です。Joint Guysと呼ばれるadult reconstructionチームのボス、UAMS整形外科の主任教授です。手術の際は厳しくあまり言葉を発しませんが、終わると大変気さくです。手術はとても早くかつ慎重に行っています。よくこちらを気にかけてくださり、またEOSに関する研究に関して最も興味を持ってくれている先生です。

Jake Smithという医学生は、Mannen先生が研究の補佐にと紹介してくれました。アーカンソー州立大学の野球部出身で、エースだった男です。整形外科を志しています。非常に精力的な男で、野球の慈善団体を立ち上げ、ニカラグア野球協会とともに野球に関する医療提供(野球教室、検診など)について協議を重ねています。進んだ手術の技術をニカラグアに広めたいとアメリカ国内の有名な先生とコンタクトをとり、また来年の東京オリンピックの際には、4週間日本に滞在してニカラグア代表チームを支援するとともに、日本の野球に関する医療を見学、自分のプロジェクトに参加してくれる医師を見つけたいと言っています。月に1度、やたら甘い何とかパイを持って夕飯を食べにきます。なかなか刺激的な男です。

このように現在のところ、いろいろ緊張したり、ピンチだったりしたこともありましたが、総じてアメリカを大変楽しく感じています。またこちらに来てから自分自身、日本をすこし客観的に見るようになり、今後はより多くの情報を取り入れて色々な角度から物事を見られるようになりたいと強く思うようになりました。研究に関しても、日々の生活に関しても、皆さんからいただいた折角の機会ですので、もがきつつ、楽しんでやっていこうと思います。

敬具

(2021年11月 改編・再掲載)

勝見 亮太

勝見 亮太

役職
佐渡総合病院・医長
専門分野
膝・肩・スポーツ医学
出身大学
弘前大学
卒業年
平成19年(2007年)

※役職・専門分野は再掲載時のものです

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